ダンボールの製造・開発・企画に取り組む富山県のパッケージメーカー「サクラパックス」では、梱包用材としてのダンボールに留まらず新たな事業企画が創造されるよう、社員に対して創造力活性のための活動や講師を招いてのワークショップの開催などにも積極的に取り組んでいる。創業71年の老舗企業が新たな挑戦をし続けるために必要な社内環境とは?三代目の橋本淳社長に伺った。
「自分で考える力」を育むことが生産性の向上につながる
―社長に就任されてから、会社の基盤・理念づくりに尽力されたとのお話ですが、どのような取り組みをされてこられたのでしょうか。
まずは、社員みんながもっと自分で考える癖をつけて発言できるような場所をつくりたかったので「環境整備活動」を始めました。清掃をテーマにそれぞれ6カ月間のテーマを出してもらうのですが、その際に話し合いをしてもらって、互いに意見出しをさせるんです。多くの人は清掃は幼少のころから行っており、仕事での力や肩書に関係なく、誰もが平等に取り組めるものです。仕事に対してはなかなか意見が言えない人でも、テーマが清掃だと、意見が言えたりする。また、力の強い人の意見ばかりにならないように、ポストイットを使ってみんなに意見を出してもらうようにしました。そうしたトレーニングを繰り返していくと、仕事の場でも、みんな少しずつ、考えて意見を発せられるようになるんです。私は会社の基盤づくりに6年かけて取り組んできましたが、ありがたいことにこの活動を通じて、自分で考えられる人たちが増えてきて、仕事についても真剣に考えられる人が増えた。その結果、生産性の向上や原価低減という具体的な成果も表れてきました。
―考える力が身につくことで、なぜ生産性が高まるのでしょうか。
メーカーさんのなかには、機械を少し変えただけで、一挙に生産性が変わるというものもあるかと思いますが、ダンボールの印刷機は、数年で大きな進化を遂げるものではありません。だから、機械を操る“人”が成長しないと生産性は良くならない。そのためにも、まずはこういった環境整備活動を通じて、パート・正社員に関わらず、自分で考える癖をつけてもらうようにしています。それが次のステップに繋がっていく。
―次のステップとは?
生産・品質管理などを進める時に「PDCAサイクル」という手法が取られますが、うちでは「スケジュールを立てる(S)」「行動する(A)」「改善する(K)」、そして「もう一度スケジューリングし直す(R)」「さらにもう一度アクションを起こす(A)」という一連の流れを「SAKURA経営モデル」と名付けて、一週間単位で回しています。たとえば、富山の工場では、まずは半年間の営業の方針を立て、それを基に期間内の達成の根拠や数値目標を作り、それに対する課題や戦略を洗い出して、そのうえで担当者を決めて、行動計画に落とし込む。個々人もこれを基に活動計画を立てるようになり、そのなかには生産性の向上につながる“改善活動”がたくさん見られます。
この取り組みを始めて3年になりますが、かなり効果を出しています。
?社員の「考える力」を育むため、他に取り組まれていることはありますか?
考えること、すなわち“想像力”を養うために、社員向けのワークショップを行いました。その講師としてお呼びしたのが、ダンボール作家の島津冬樹さん。使い終わったダンボールを加工し財布を作る活動で、自身のブランド「Carton」を立ち上げたアーティストです。彼が手掛けるのは、チープな再利用品でもなく、いわゆるエコ活動でもなく、歴とした“作品”。「不要なものから大切なものへ」というリユースの枠を超えた概念と、私の“想い”が重なったのです。
ダンボール作家 島津 冬樹さん
?その“想い”とは?
「100年続く企業に」というサクラパックスの企業理念とも繋がるのですが、私は「アップサイクル」を提唱していきたいと考えています。「アップサイクル」とは、持続可能なものづくりの新たな方法論のひとつで、従来のリサイクルではなく、元の製品の特徴を活かしてより良いものに作り変えることで、付加価値を高めようとする考え方。島津さんの取り組みはまさにこの「アップサイクル」そのものであり、強く共感したのです。
※ サクラパックスは、島津さんの活動を追ったドキュメンタリー映画「FROM ALL CORNERS」のスポンサー企業も務めています。[「FROM ALL CORNERS」特設サイト]
?ワークショップの具体的な内容についてもお聞かせください。
まずは島津さんに、ダンボールの魅力について語ってもらう。そこで、自分たちの扱う製品の価値について再認識してもらいます。そして、社員それぞれが持ち寄ったお気に入りのダンボールを使って、島津さんの指導のもと、名刺入れを作ります。ダンボールはとても強い二重構造(ダブルフルート)でできているため、たとえ使い終わったものでも、そのままでは折るのが難しいのです。そこで、名刺入れ作りのステップとして、ダンボールの内側に霧吹きで水を吹きかけて、しばらくしたら一枚剥がすという行程があるのですが、サクラパックスのダンボールはなかなか剥がれないんです。つまり、それだけ丈夫なつくりになっているということ。社員は自社商品に誇りを持っていますから、とても盛り上がるんです。「考える力」を育むことを目的としたワークショップですが、プラスαの効果も生み出してくれていますね。
社員向けワークショップの様子
社員の意識を変えた明確な行動計画
―社員お一人おひとりが、先ほど述べられた「SAKURA経営モデル」に則って業務を進められているんですね。
そうですね。私は目標数値をノルマとして達成しろとは一度も言ったことがなくて、代わりに“行動計画”を必ずやれと言っています。行動計画はやれば必ず結果になるし、結果にならないのは活動していないから。行動しないと結果にならない、そのことを忘れて、結果ばかりを求めるとおかしくなってしまう。行動をしっかり明確化し、それを実行してチェックすることを繰り返してやっていけば、おのずと結果が伴うものだと考えています。
行動の繰り返しの成果の結果が売上・収益になるのです。
―社員の意識は変わりましたか?
とんでもなく変わりましたね。やらなければならない行動が明確にする、そしてそれを1週間という短いスパンで回す。それに加えて、評価制度を明確にして、結果は給与にどう反映されるのか分かりやすくなりました。さらに、結果がどうなったらどういう賞与になるかも全部決めてあって、そこもやりがいには繋がっているんだと思います。
ダンボールって、所詮はダンボールです。品質は大事ですが、企業の優位性はそこまでありません。だからこそ、底力をつけるしかありません。そのためにも、新規の事業もやり続けること、働く環境の改善活動を大事にしていきたい。考える力をつけた人たちが、仕事でどんな改善をして生産性の向上をはかるかが大事になりますが、それを社員一人ひとりが考えていける組織にしていきたいと思っています。
“底力”を強くし、挑戦を恐れず、100年続く企業に
―最後に、会社としての今後のビジョン、またご自身の目標を教えていただけますか。
今まで基盤を6年かけて作ってきたので、これからは、物流、パッケージ、紙を一つテーマに置きながら、事業拡大を進めていきたいと考えています。ただし、たとえ経済状況が悪くなってもしっかりと生き残るためにも、生産性向上を含めて“底力”は強くしていきたい。そのためにも、収益性と併せて、人の教育、お客さんの気持ち、そして、世の中の笑顔を作ることも考えながらやり続け、トライできる時にはトライしていきたいと思っています。
うちの会社は今年71周年で、私が76歳になる時に100周年を迎えます。ですから、私個人の目標としては、社長かどうかは別として、最低限自分もそこまではしっかり頑張って、この会社を永続させるのが最大の目標です。100周年という、永続の1つのシンボルを迎えるまでは、頑張りたいですね。
サクラパックス株式会社 代表取締役社長
橋本 淳(はしもと あつし)さん
1971年富山県富山市出身。法政大学卒業後、一般企業に就職。その後、2年間のアメリカ留学を経て、サクラパックスに入社。2008年社長に就任。経営理念や事業の基盤づくりなどに取り組む。趣味は旅行・スキー。
サクラパックス株式会社
「ハートのリレーで笑顔を創り、世界の和をつなぐ」を理念とし、ダンボールの一貫生産、包装・流通に関連する幅広いニーズに応えるトータルパッケージメーカーとして、富山県を拠点に展開。熊本地震の被災地支援のために制作した「熊本城 組み建て募金」など、流通資材の新たなブランド価値の創出にも取り組んでいる。
- 住所
- 富山県富山市高木3000番地
- 設立
- 1945年5月20日
- 従業員数
- 350人
- 資本金
- 9600万円
- 事業概要
- ・規格ダンボール、オーダーダンボールや商品パッケージの企画設計・製造
・オリジナルのダンボール製品の製造・販売
・プラスチックダンボールを使った通い箱や保管箱、パソコン機器の保管用BOXなどの企画設計・製造
・各種包装資材の企画設計・製造・販売
・パレット洗浄サービス