地方移住というとその課題には「仕事(収入)」や「住居」、「交通が不便」などが挙げられますが、「医療機関が少ない」という課題も常に上位にランクされます。離島や過疎地域などならいざ知らず、現在の日本に医療機関が少ない場所などあるのでしょうか? 多少の不便があっても、バスや車で通うことはできないのでしょうか? 今回は移住に関わる地方の医療事情について考えていきます。
意外に多い日本の無医地区
厚生労働省が2016年に発表した「平成 26 年度無医地区等調査及び無歯科医地区等調査の結果 」によれば、日本の無医地区は637地区、無医地区人口(無医地区に居住している住民の数)は124,122人となっています。前回調査(2009年)に比べて減少しているとはしていますが、それでも無医地区は意外に多いのです。
※無医地区:当該地区の中心的な場所を起点として、おおむね半径4kmの区域内に50人以上が居住している地区であって、かつ容易に医療機関を利用することができない地区
この発表では都道府県別にワーストランキングを発表していますが、その上位は北海道(89地区)、広島県(54地区)、高知県(38地区)、大分県(38地区)、愛知県(23地区)などとなっています。面積の広さから考えると北海道の上位は理解できますが、広島県や愛知県は県内に大きな市町村も多く、無医地区の上位に両県があることは意外に感じるのではないでしょうか。日本には地域によって、まだ歴然とした医療格差があるのです。
医師の多い都道府県は?
それでは逆に、医師の多い都道府県はどこなのでしょうか?厚生労働省が2019年に発表した「医師・歯科医師・薬剤師統計の概況 」から、人口10万人あたりの医師数をランクすると以下のようになります。※統計年度は2018年
1. 徳島県(329.5人)
2. 京都府(323.3人)
3. 高知県(316.9人)
4. 岡山県(308.2人)
5. 東京都(307.5人)
参考までに最下位は埼玉県の169.8人で、全国平均の246.8人を大きく下回っています。ランキングにはさまざまな事情が影響していると思われますが、比較的西日本は医師の数が多い傾向にあるようです。
移住を考えた場合、わざわざ無医地区を選ぶことはないと思いますが、逆に医者数も多ければ良いというわけではありません。それぞれが抱える事情によっては、病院の診療科を考える必要があるのです。
子育て世代は小児科の数に要注意
小さいお子さんをお持ちの世代であれば、子どもが夜中によく熱を出すのを経験されていると思います。子どもはさまざまな病気(おたふく風邪や水ぼうそうなど)にかかることによって免疫を身につけ、成長していきます。これが成長の過程で必要なことだとわかってはいても、夜中に高熱を出したりすればやはり放っておくわけにはいきません。小さいお子さんと一緒に地方移住するのであれば、小児科の数と自宅からの場所を必ず確認しておきましょう。
前出の「医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」では、小児科医の数も調査されています。以下は、人口10万人あたりの小児科医の数をランキングしたものです。
1. 鳥取県(181.7人)
2. 東京都(155.1人)
3. 京都府(143.8人)
4. 高知県(134.2人)
5. 徳島県(132.5人)
最下位は茨城県の83.4人で、全国平均は112.4人となっています。また同様に産科医の数も調査されているので、ご紹介しておきましょう。
1. 鳥取県(64.0人)
2. 和歌山県(62.9人)
3. 長崎県(61.9人)
4. 徳島県(59.8人)
5. 島根県(54.8人)
産科医の最下位は埼玉県の30.3人で、全国平均は44.6人となっています。このように見ていくと、上位と下位では2倍程度の開きがあります。移住に際して、医師の数と病院の位置を確認しておくのはとても重要なことだとわかります。
セカンドライフには大問題! 歯科医の少ない地区
では定年後のセカンドライフなどを地方で過ごす場合などは、どのような事に気をつけるべきなのでしょうか?老後の暮らしに一般的な診療科が必要なことは言うまでもありませんが、意外と盲点なのは歯科です。年齢を重ねると歯茎の治療や入れ歯などが必要になることが多く、歯は自然治癒しないので必ず通院が必要になるのです。同じ調査で歯科医の多い都道府県を調べてみると、以下のようになります。
1. 東京都(115.9人)
2. 徳島県(107.6人)
3. 福岡県(103.5人)
4. 岡山県(90.9人)
5. 広島県(89.6人)
※人口10万人あたりの歯科医数
また同じ調査で、無歯科医地区の数をランキングすると以下のようになります。
※無歯科医地区:歯科医療機関のない地域で、当該地区の中心的な場所を起点として、おおむね半径4kmの区域内に50人以上が居住している地区であって、かつ容易に歯科医療機関を利用することができない地区
1. 北海道(84地区)
2. 広島県(60地区)
3. 大分県(49地区)
4. 高知県(47地区)
5. 岡山県(43地区)
ここで注目したいのが、歯科医数で全国5位となっている広島県が、無歯科医地区で2位になっている点です。これは同じ県内でも医療機関の数に地域的な偏りがあるということを示しており、地方移住の場合には自分の居住する地域内の医療機関をしっかりと確認する必要があるということを表しています。
まとめ
住んでいる場所に関係なく、豊かな人生を歩むためには何より健康が大切です。もちろん仕事や住居も大切ですが、長く住むということを考えればその地域の医療事情も無視することはできません。たとえば透析のように特殊な医療設備を必要とする場合や、専門性の高い持病を持っている場合はなおさら真剣に移住について考える必要があるでしょう。移住に際して一番大切なことは、念入りな下調べです。自分の健康状態をよく理解し、焦らずに調査を進めてから移住するようにしましょう。
<参考>
地方と都市の医療格差はどれくらいある?医師が多い都道府県ランキング
https://ijyu-sien.com/p/medical-ranking/
【ほどいなかへ移住】遠隔連携医療で変わる?程よい田舎の、医療の今と未来
https://ometsu.net/better-countryside-12/