宮城発!みんなが輝ける「高齢者×障がい者」の共生型施設
愛さんさんグループ 代表取締役 小尾勝吉さん
GLOCAL MISSION Times 編集部
2018/05/30 (水) - 08:00

2017年2月、宮城県石巻市にオープンした「愛さんさんビレッジ」。高齢者福祉施設であると同時に、障がいや難病がある人がトレーニングを積んで共に働く「障がい者就労支援」の拠点でもある。日本初の「共生型施設」の代表を務めるのは、神奈川県出身の若手起業家・小尾勝吉さん。石巻市で起業した経緯と、そのビジョンを聞いた。

後悔のない最期を迎えてもらうための共生型施設

―まずは御社で行っている「共生型施設」の事業内容について教えてください。

高齢者の方と障がい者の方が、1つ屋根の下で共に生活をしていくというのが、私たちの取り組みです。課題は2つあって、まず、障がいや難病があって働くに働けない方が、長期間、自分らしく、そして経済的にもきちんとした基盤を持ちながら働ける環境を作りたい。そして、これは自分自身の原体験があって思うところなのですが、高齢者の方が最期に安らかな旅立ちができる社会を作っていきたい。この2つを同時に実現する施設として、「愛さんさんビレッジ」を立ち上げました。

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―ご自身の“原体験”とは?

2009年に女手一つで私を育ててくれた最愛の母を亡くしました。要介護状態になって、苦しんで苦しんで、薄暗い病院のベッドの上でいつも震えながら、最期は腸閉塞を患って口から物を食べられなくなって亡くなっていった。そういう母親を見て「自分ができることはもっと他になかったのか」という気持ちになりました。ただ母は、「自分の人生に悔いはない」って言って亡くなったんです。人生の終わりに悔いがないと言えるのは、本当にすごいな、と思って…。人間は必ず亡くなるものですが、せめて安らかに眠りにつくにはどうしたらいいのか、と考えていたのが原体験としてあります。

―共生型施設の立ち上げには、どのような課題がありましたか?

まず大前提として、「共生型施設」には前例がなく、我々の取り組みもきちんと確立されたものとして出来上がっているわけではないので、まだ試行錯誤の段階です。従来の介護施設では、高齢者の方に歩いて頂くよりもそっとしておく、おむつを着けっぱなしにしておく方が、リスクが少ないと考えているところが多い。でも我々の施設では、リハビリをたくさんして、自分でトイレに行けるようになって、最期の最後に自分の叶えたい夢を叶えられる場所を作りたいと思っているんです。そうすると、やることがたくさんあって、ただでさえ3K(きつい・汚い・危険)といわれる介護職の業務負荷がさらに増えます。だからこそチームワークを強化し、やりがいを持って働ける環境を整備する必要があるわけです。そこが大きな課題ですね。

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―障がい者の方も働いておられるのでしょうか。

はい。現在、グループ全体で26人が働いています。高齢者福祉事業と障がい者福祉事業を同時に行うとなると、どうしても“縦割り”になってしまいますが、我々は「共生型」なので、互いに相乗効果を出していこうと考えています。具体的には、本来は介護職がするお掃除・お洗濯・お食事といった業務を障がいがある方に担っていただくことで、介護職の方は利用者さんたちのケアなどにもっと時間を費やせるようになる。ここの連携がうまくいかないと、全部縦割りで完結してしまい、我々の「共生型」というコンセプトが崩れていってしまいます。ただ、最初はどうしても負荷がかかり、そこまで気が回らなくなってしまうところが難しいところですね。

かかわる人すべてが輝ける「愛さんさん」を目指して

―小尾さんご自身は神奈川県のご出身。なぜこの地で事業を始めようと考えられたのでしょうか。

東日本大震災の後、石巻市や同じく宮城県の塩釜市でボランティアをしたのがきっかけです。実は「愛さんさん」自体の創業地は、高齢者は多いけれど、ボランティアは少なかった塩釜なんです。

―地縁のない場所で創業するにあたって、難しさはありましたか?

あまり感じませんでした。ただ、これは石巻や塩釜に限らずですが、やはり地元の方との関係を作っていくには時間が必要です。

―印象的な「愛さんさん」という社名の由来は?

ここへやってきたのはそもそも「傷ついた被災地に何かをしたい」という思いからです。そこで、自分が持っている愛情をみなさんにさんさんと注ぎたい、という気持ちを込めています。また、「I sun sun」、つまり「太陽のように輝く」という意味もある。私はもともと、仮設住宅にいる方や障がいがある人たち、働くに働けない人たちの「働く場所」をつくりたいと思っていました。それが、心の復興の第一歩になるからです。人から必要とされていると感じられますし、人から必要とされることで、その人自身の生きがいを見出せます。そういう意味でも、ここにいるすべての人たちが「輝ける場所」をつくりたいと考えています。

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生まれた環境によって、人生が制限されることのない仕組みを

―会社として「誰もが生まれ育った環境によって人生が制限されることなく、努力によって物心両面の豊かな人生を切り拓ける社会の実現に貢献する」というビジョンを掲げられていますが、その思いについてお聞かせください。

現実として、生まれ育った環境によって人生を制限されてしまう、自分で可能性に蓋をしてしまうことは少なくありません。事業を通じ、そんな社会を少しでも変えていけたらと考えています。ここで働く障がいがある方や難病の方が、一生懸命おじいちゃん・おばあちゃんたちのお世話をして、励まされ、逆におじいちゃん・おばあちゃんもその姿を見て頑張れる。そんなビジョンをみんなで成し遂げていきたいですね。

―言葉の端々に愛情の深さを感じます。そうしたお考えの背景には、ご自身のご家族の影響もあるのでしょうか?

そうですね。それは大きいと思います。私の場合は、両親が不仲だったこともあり、家族愛というものを感じられる時間が少なかった。ただ、自分と弟を育て上げてくれた母には感謝していますし、自分が不幸だったとは思いません。そして、後悔なく逝った母のことを考えると、「自分の人生は、世の困っている人たちのために使いたい」と思えるんです。

―「愛さんさんビレッジ」のオープンから1年が経ちましたが、これからの目標は?

我々が掲げる理念の一つに「私たちは、家族愛の輪を広げ、希望あふれる社会づくりに貢献します」というものがあります。「家族愛を広げると、希望あふれる社会になる」というのは一見飛躍しているようにも思えるけれど、社会の最小単位は「家族」で、その長はご両親。この長が最も多くの時間を費やしているのは「仕事」です。やりがいを持って生き生きとご両親が働いていれば、家庭も円満になり、子どもも希望を描けるはず。つまり、まずは会社自体が働くお父さん・お母さんたちの自己成長の場となり、共に働く仲間を幸せにできる場所にならないといけない。その上で、先ほどの「誰もが生まれた環境によって、人生が制限されることなく」 の仕組みを創りたいと考えています。

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―小尾さんは「ありがとう」という言葉を非常に大切にされているようですね。

はい。「ありがとう」と言葉で伝えること、さらには感謝を行動で示すことが大切だと考えています。ただし、「ありがとう」と言われたくてやるのは本質ではありません。ガンジーも言っていましたが「尽くして求めず、尽くされて忘れず」の精神ですね。「してあげたのに」と見返りを求める奉仕は、愛ではない。そこは気を付けなければいけないですね。

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愛さんさんグループ 代表取締役

小尾 勝吉(おび かつよし)さん

1978年生まれ。神奈川県出身。東日本大震災のボランティアをきっかけに、宮城県に移住。同塩釜市で「愛さんさん宅食」を創業。財団法人KIBOW投資ファンド第1号案件としての出資や、東北大学大学院イノベーションプロデューサー塾にてベストイノベーション賞のの受賞を経て、2017年2月、同じく震災ボランティアで移住した加藤 淳さんと共に、高齢者の自立支援、障がい者就労支援の拠点となる日本初の共生型複合施設「愛さんさんビレッジ」を石巻市にオープンした。

宮城県石巻市にある高齢者福祉と障がい者福祉を掛け合わせた共生型施設「愛さんさんビレッジ」。代表の小尾勝吉さんの“右腕”として事業を支えるのは、同じく神奈川から移住した加藤淳さんだ。現場を取り仕切る加藤さんに、事業に出会ったきっかけ、今後の目標について語ってもらった。

“よそもん”が石巻で掲げた日本初の「共生型施設」

―代表の小尾さんと加藤さんは元々お知り合いだったのですか?

知り合ったのは2年前です。当時、僕は石巻市の別の法人で障がい者福祉事業サービスに携わっていました。その縁で、石巻市役所でプレゼンテーションをする機会があり、被災地で障がい者の方がおかれている現状などについてお話させていただいたんです。つい、持ち時間をオーバーして熱く語ってしまったのですが、そこで同じくプレゼンターだった小尾さんが、「ぜひ一緒にやりたい」と。よくよく聞いてみたら、彼は僕と同じく神奈川から宅食事業を起業する目的でやって来た。僕は東日本大震災の後に何かできることがないかと石巻に足を運び、福祉の仕事に従事するようになったので、入り方は少し違いますが、復興支援として共に何かできないかということで、2人でビレッジ構想を練りました。

―高齢福祉と障がい者福祉の“共生型施設”は、日本国内でも珍しい取り組みですね。

そうですね。前例がないということで、県の許認可を取るのもなかなかハードでした。ただ、“日本初”という付加価値をつけることによって、全国の人に僕たちの取り組みを知ってほしいという思いが小尾さんにはあったようです。僕たちは石巻の外から来た「よそもん」。でも、よそもんが来ることによって、その土地に希望を与えられるような事業を発信できたら、それこそものすごいエネルギーになるんじゃないかと。8ヵ月間の準備期間を経て、2017年2月にオープンしました。

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移住のきっかけは復興支援ボランティアでの出会い

―加藤さんは、何がきっかけで被災地への復興支援ボランティアを始めたのですか?

東日本大震災の時、テレビで津波や福島第一原発の水素爆発の映像が流れているのを見て、それから2週間全く仕事が手に付かなくなってしまった。というのも、信じられないような現実が起こっているにもかかわらず、何事もなかったように日々を過ごしている人が周囲に多く見られ、それが怖くなってしまったんです。僕は幼稚園教諭を経て、当時は神奈川の法人で障がい者支援をしていたのですが、そのことを当時の施設長に相談したら、「支援物資は法人で用意するから、とにかく現地に行ってこい」と言ってくれて。東北には縁もゆかりもありませんでしたが、その時、たまたま個人ボランティアを受け入れていた石巻に入ったんです。

―現地ではどんなボランティアに従事されたのでしょうか。

障がい者の方が避難所でどうやって過ごしているかを調査するのが僕のミッションでした。それで、障がい者施設を1件ずつ訪ねていたら、たまたま現地法人の理事長さんと出会った。それからお付き合いが始まり、1年間は神奈川と石巻を往復しながら仕事をしていましたが、「正式に雇いたい」とのお話を受けて移住を決めました。

―そこから石巻の法人に勤めた後、小尾さんに誘われて最終的に「愛さんさんビレッジ」に入社したわけですね。

実は何度かお断りしたんです。でも、2~3ヵ月毎日のように顔を合わせ、お互いの夢や事業構想を語り合ううちに、自分を必要としてくれている小尾さんの想いに応えたいと。小尾さんと僕は、障がいがある方たちの可能性というところで、ものすごく考え方が似ていたんです。それまでの自分はレールの上に乗ったような生き方、仕事の仕方をしていたんですが、彼と出会って大きく視点が変わりました。

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福祉事業と障がい者事業のクロスオーバーを目指して

―「愛さんさんビレッジ」で取り組まれている仕事の内容について教えてください。

メインの事業は障害を持った方々を介護員として育成する介護人財育成事業。加えて、「自立支援介護」で、高齢者の方に向けたリハビリ型施設、宅食事業など6つの事業を行っています。僕たちのミッションは、これらの事業が横断的なかかわりをする施設にすること。組織というと“縦割り”になりがちですが、「愛さんさんビレッジ」では、全ての事業が多角的に交わる“円”のような組織を目指しています。具体的には月に1回、各部門長たちが集まって会議を開き、今の自分たちが他の部門に対して貢献できることを具体的に挙げ、どうしたら実現できるかをみんなで考えています。

―加藤さんはファシリテーターのような存在なのでしょうか。

そうですね。ただ、僕のミッションはもう1つあります。「愛さんさんビレッジ」には障がいや難病がある人を介護人材として育成する事業があり、僕は講師として、彼らを2年間で地域の介護施設に即戦力として送り出す責務があるんです。そのためには、失敗することも含めて、じっくりと経験を積める研修場所が必要。だから、「愛さんさんビレッジ」にデイサービスや有料老人ホームをつくりました。今は介護人材が不足しているといわれていますが、障がい者の実習生が入ることでマンパワー不足も補えるし、普通は介護員がやる食事の準備や洗濯、掃除などを障がい者が担うことで、介護員は利用者に注視できるようになる。

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ーこれまでにない取り組みですね。

そうですね。職員がいて、高齢者や子ども、障がい者が利用者となる「富山型デイサービス」という共生型はありますが、高齢者の食環境と住環境を障がい者がお世話する、というのは今までにない形だと思います。これまで軽度の障がいを持った方を何百人と面接しているんですが、ほぼ全員が「人の役に立ちたい」「ありがとうと言われる仕事に就きたい」と言うんです。そんな思いと、介護の人材不足という現在のわが国の社会問題をマッチングさせただけなのですが、これまでは不思議となかった組み合わせのようですね。

―「所長」という立場で大切にされているモットーはありますか。

自分の仕事を決めつけない、現場を知らずに物を言わない、などでしょうか。先々月も夜勤に10回くらい入るなど、現場の仕事を大切にしています。スタッフからは「どれだけ現場くんねん」みたいに思われているかもしれないけど(笑)。でも、そこまでやって、初めて夜勤の現場の苦労を知ることができる。そこを体感せずにいくら会議をやったって、何が大変なのか分かるはずありませんから。また、常日頃、各部門長たちの良き相談相手になりたいと考えています。「愛さんさんビレッジ」で展開している6事業、それぞれ規定する法律が違うんです。だから日々勉強して、それぞれの部門長と同じレベルで、気軽に相談に乗れるようにしています。

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不便だからこそやりがいはある

―地方の働き方は、首都圏とは違いますか?

そうですね、やっぱり首都圏と比べて、行政の動きは遅い。ただ、“付き合いがい”はありますね。どうやったらこの人たちの理解を得られるか、考え抜くところにやりがいを感じます。また、この圏域は支援団体同士のつながりも強く、そのネットワークを通じて自分たちの社会貢献の在り方やアプローチの仕方を考えられる。信頼できる仲間も多く、それは首都圏にはない強みといえるかもしれません。

―地域で働く、ビジネスを展開するポイントは?

土地柄にもよるでしょうが、我々はどうしても“よそもん”。入り込むまでがものすごく大変で、本当の意味でその土地に貢献するような何かを無性でやり続けることが大切だと思います。僕も最初の5年間は、毎週日曜日に農家さんに赴いて、田植えから収穫まで一緒にやりながら農業を教えていただきました。そういうことの繰り返し。でも1回受け入れてもらえれば、毎日「飯食いに来いや」などと迎え入れてくれるようになりました。

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保育領域を巻き込んだ本当の“ビレッジ化”を目指して

ー「愛さんさんビレッジ」がオープンして1年、課題は見えてきましたか?

たくさんあります。たとえば、有料老人ホームの形態では生活保護枠の方をなかなか受け入れられない。だから生活保護受給者のためのアパートを建てて、そこで自活訓練をしながら施設に通ってもらうとか。また、今回の津波でシングルマザーになった方たちが暮らせる寮を用意し、うちで働けるような仕組みを作るといったことも考えています。他にも、被災地ならではの社会問題がごろごろ転がっているんです。もちろん、具体的に取り組む事業については取捨選択をしなければなりませんが、眠っているニーズを掘り出して一歩前に進めることで本当の“ビレッジ”化につながると思います。

―これからの加藤様ご自身のビジョンを教えて下さい。

個人としてのビジョンは、ここに自分が必要ないくらいの状態をつくること。地元の高齢者を元気にしたい、障がい者を一般就労させたい、という思いをこの地に植え付けて、自分がいなくなっても取り組みが続けられるようにすることです。事業のビジョンとしては、僕のもともとの専門は子どもなので、そこを交えた総合福祉を展開したいと考えています。

―もともと幼稚園に従事していらっしゃった加藤さんだからこそのビジョンですね。

そうですね。高齢者の方は、小さな子どもの面倒を見るだけで生きがいを感じられる。子どももその場にいると、大きな安心感のなかで成長することができる。さらに、それで安心して子どもを預けて、ここで働けるシングルマザーの方がいたりすると、すごく良い循環が生まれるんじゃないかなと思います。

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共に創りあげませんか?日本初共生施設 「愛さんさんビレッジ」家族愛プランナー募集

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愛さんさんビレッジ 所長

加藤 淳(かとう あつし)さん

1975年生まれ、神奈川県出身。イギリスで育ち、小学生の頃からベビーシッターのバイトをするように。20代で幼稚園教諭となり、神奈川県の幼稚園教諭を経て、障がい者福祉施設に勤務。2011 年東日本大震災をきっかけに石巻市でボランティアを始め、2012年同市に移住し、障がい者福祉法人に勤務。2016年に愛さんさんグループに転職し、2017年、愛さんさんビレッジをオープン。現在は同ビレッジ施設長、福祉人財養成学院の講師を務めている。

愛さんさんビレッジ株式会社

「誰もが生まれた環境に左右されることなく、物心共に豊かな人生を実現する仕組みを創る」というビジョンを掲げ、2017年2月、宮城県石巻市にリハビリ特化型老人ホームと障がい者就労支援事業の “共生型”複合施設「愛さんさんビレッジ」をオープン。デイサービスや訪問介護、障がい者の就労支援事業などを展開する。

[事業概要]
・有料老人ホーム事業
・リハビリ特化型デイサービス
・(予防)訪問介護
・居宅介護(介護保険申請相談等)
・高齢者向け宅食サービス事業
・障がい者就労継続支援A型事業
・障がい者就労継続移行支援事業
・「福祉人財養成学院」の運営

住所
宮城県石巻市大街道南4-6-20
従業員数
70人(パート、アルバイトを含む)
企業HP
http://aisansan.info/

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