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「地方で働く」を実現するには/地域活性機構 リレーコラム
尾羽沢 信一
2018/06/29 (金) - 08:00

これまで、「地域活性」「地方創生」の本質論について論じてきました。今回からは、では具体的にこの問題にコミットするにはどうしたらよいのかについて考えてみます。いつまでも抽象論と理念論を繰り返しているとお叱りを受けそうですので。これまでとは違った切り口と少し具体的な方法論を書きます。地方で働くことを真剣に考え始めている方のヒントになれば幸いです。

東京と地方の所得格差を乗り越えるには

まず、現実に東京と地方、ここでは私が関わってきたあるいはこれから関わろうとしているプロジェクトに関係する、島根県と長野県を比較してみます。
厚生労働省の「平成29年賃金構造基本統計調査」の都道府県別集計データからこの3地域の年収を比較すると下記のような現状です。

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最も極端なケースを考えてみましょう。仮に東京の平均的企業に勤務する方が島根県の小企業に転職したとします。この場合は、年収616万が342万に減ります。激減ですね。
いかに地方が家賃や生活コストが安いからといっても、あるいはコミュニティの共助システムが手厚いからといってもこの数字を比較すると、尻込みをする方が多いのではないでしょうか。
しかし、この比較自体は事前情報として重要ではありますが、だから地方に転身しようとしても無理、ということにはならないと思います。

このメディアを読んでいる方、また私のコラムを目にとめてくださっている方の中には単純に都会の企業勤務→地方の企業勤務と考えるのではなく、まったく違った働き方をしたいと思っている方が少なからずいらっしゃると思います。

「働き方を変える」ことの意味 -ローカル・イノベーションの担い手に-

私は政府の主導する「働き方改革」の話をしているのではありません。もし地方に転じて今後の人生を考えるのであれば、そこでは、単なる転職ではあまり意味がなく、次のようなことを考える必要があると思っています。

①地方企業に転職するケースでは、転職先の企業風土、仕事のしくみや組織を改革し、競争力向上、生産性改革、仕事のやりがいを創造するエンジンとなる。
②地域で複数の組織と関係を持ち、多業・副業・複業の実践者となる。
③自らのスキルと経験を棚卸しし、地域での創業に挑戦する。

「雇われる人」から「グローバリゼーション」の意味を考え、地域におけるイノベーションの担い手となれる人に変われない限り、収入面のダウンだけでなく、人的ネットワーク拡大も個人としての幸福感にも近づけないでしょう。

今こそ思考のための一時停止が必要

すでに読んだ方もいらっしゃると思いますが、『フラット化する世界』(2005年)で知られるトーマス・フリードマンは新著『遅刻してくれてありがとう』において、その後現在までの十数年の社会の変化のすさまじいスピードに、今こそ思考のための一時停止が必要ではないかと述べています。グローバリゼーション(フリードマンによれば、個人や企業がグローバルに競争し、結びつき、交易し、共同作業をする能力)が20世紀的な文脈とはまったく意味を変えつつ爆発的に広がっている現在、これまでの「並みの仕事」は激減、たえず自分を創りなおし、学習し、新たなルール作りに参画し続けなければならないとも述べています。

フリードマンは、『フラット化する世界』出版直後の2007年前後に登場した全く新たな意匠のいくつかの製品やサービスが、その後のビジネスや生活を激変させてしまったと述べています。
 iPhone、続いてAndroidなどのスマートフォン
 kindleの登場による電子書籍革命
 Airbnb、Skype、Facebook

また、同著の中で、米国のソーシャル・ベンチャー「Opportunity@work」のバイロン・オーガストの次の言葉を引用しています。

「現在の知識・人間経済では人的資本-才能、スキル、ノウハウ、共感、創造力-が資産になるでしょう。・・・人的資本への投資を基本にする経済モデルに集中すれば、活力のある経済と排他的でない社会を生み出す可能性があります。」

私もほぼ同感ですが、この考えは日本の地方にも当てはまるでしょう。雇用のパイを拡大するのではなく、スキルや創造力を持った人間を生み出すことが先決だと思います。
そしてそれは、転職先の会社員の一人として「並みの仕事」をすることではなく、新たな学びを通じて、自分を再構築しつつ地域企業の課題や地域での仕事の創造にコミットできる人こそが求められているということになるでしょう。

高度に洗練され、知的な機械が存在する時代に、人間の仕事の中での「心」の重要性がより増していくはずです。もう一度フリードマンの言葉を引きつつ、これから地方に転じて生きようとする方に向けて、一部を私なりの言葉を補って、身に着けていただきたい能力を整理します。

①優位なよそ者と対峙した時に、屈辱に苦しむことなく適応する能力
②多様性を受け入れる能力
③未来と自分たちの問題に、当事者として責任を引き受ける能力
④中央と地方の適切なバランスを保つ能力
⑤加速の時代に対して、起業家精神にあふれ、ハイブリッドで、異説を受け入れ、独善的にならない態度で臨む能力

地域における実践プロジェクトを近々にスタートへ

自分にはそこまでの能力も覚悟もないという方は多いかもしれません。そんなチャンスもないと思うかもしれません。
しかし、私はそのような方々にこそ、地域でのネクストステージを踏み出していただくお手伝いをしたいと思っています。
理念や抽象論でなく、実際のプロジェクトを近々にスタートさせます。現在、関係機関と準備を進めています。
都会の中核人材から地方に転ずる意思のある方を募集し、地域の大学での新たな学びをしながら、地方の中小企業の改革、延いては地方創生の担い手となっていっていただきたい。

ただ、これを進めようとする過程では多くの困難があることも分かっています。東京の大企業で幹部職をしていた方が、そのキャリアを持ってそのまま地方の中小企業で改革をしようとしても、多くの抵抗があるでしょう。地方には地方のやり方があるのですから、転職先で孤立することもあるかもしれません。
これまでうまくいかなかった事例は人材マッチングに主眼があり、前後のフォローアップが弱かったところがあります。
そこで今回は、関係組織が連携し、フルサポート体制を構築しつつ、人財側、受け入れ企業側の本気度を見つつ、地域に入る前の体系的な事前教育、大学での定期的なゼミナールの実施、地域経営者や幹部との意見交換、現地で働き始めた人財が日々直面する課題の共有化をし、これら社会人ゼミ生+大学教員+企業改革のプロたちが皆で知恵を出し合って解決していきます。

問題の根が派遣先企業の社風や古参社員の抵抗にある場合は、我々もその会社に出向いて解決の方法を話し合います。また、参加される方は地域に転居しますから、コミュニティとの問題もあるでしょう。それらすべての問題をプロジェクト関係者全員で常時共有しながら、最善の手法を提示していきます。
参画してくれた企業が「100年続く企業、100年後に最も地域社会から必要とされる企業」になっていただきたいというのが私たちの夢です。

7月には詳細を発表できると思います。関心を持たれたら、ぜひ始めの一歩を踏み出してみてください。

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