内外のファン取り込むアニメツーリズムで地域活性へ/地域活性機構リレーコラム
亀和田 俊明
2019/05/16 (木) - 17:00

近年、アニメや漫画などが「クールジャパン」の主要コンテンツとしてアジアをはじめ欧米など世界中で注目されるとともに、多くのファンを獲得しています。日本人ばかりでなく、これら海外のファンもアニメの舞台となった地域を多数訪れ、大きな経済効果を生み出しています。今回は、観光資源や観光振興として期待される「アニメツーリズム」の現状と課題から今後の地域の活性化について考えてみたいと思います。

アニメや漫画の舞台となった地域を訪れる「聖地巡礼」

デジタルコンテンツ協会がまとめた2017年のコンテンツ産業の市場規模は12兆4,859億円(前年比1.4%増)だったといいます。一方で、アニメの業界団体である日本動画協会によれば2017年のアニメ産業の市場規模は国内が3年連続で減少し1兆1,579億円、逆に海外は年々増加して9,948億円、トータルでも5年連続増の2兆1,527億円(前年比8%増)になったほか、アニメ制作の規模(狭義)も2,444億円で過去最高を記録しています。

さて、アニメは国内ばかりか海外でも人気が高いコンテンツですが、共感したアニメや漫画、映画の舞台となった地域や場所、建物、施設などの「聖地」を訪れる体験旅行「聖地巡礼」は1990年代前後から既に日本人ファンの間では行われていたといいますが、2000年代に入り、日本人のみならず、訪日外国人旅行者が加わって各地を訪れる巡礼者が急増し、当地でのグッズ購入などさまざまな消費促進につながり、地域への経済波及効果も大きいものがあります。

■アニメツーリズム

アニメ作品の舞台や作品・クリエイターにゆかりのある地域(=アニメ聖地)を巡る旅行のことで、アニメファンの間では、「聖地巡礼」とも呼ばれているものです。アニメをきっかけに地域を訪れたファンが、地域の食や文化、人に触れる中で、地域そのもののファンになるという事例も多数報告されています。

こうしたアニメを活用した観光客誘致などに取り組むため2016年にKADOKAWAや日本航空などにより「アニメツーリズム協会」が設立されています。2017年には国内外のアニメファンのウェブ投票などを参考に全国88ヵ所の「訪れてみたい日本の聖地」が選定されましたが、同協会は聖地をオフィシャル化することで、さらに「アニメの聖地」をつなぐ広域周遊観光ルートを官民連携で推進したり、観光資源の掘り起こしや訪日客のエリア送客を促進したい意向です。

また、観光庁は2016年度より特定の観光資源を活用して地方誘客を図ることを目的とした「テーマ別観光による地方誘客事業」に取り組んでおり、2017年度に「アニメツーリズム」も選定されています。複数地域のネットワーク形成と課題や成功事例を共有することによる効果的な観光振興等を支援していますが、2018年5月には、継続している選定に加えて新たに4件を選定し、今後、以下の表にある17件を支援して効果的な観光振興を推進するといいます。

(資料:観光庁資料より筆者作成)

訪日外国人旅行者が3,000万人を突破するなか、2018年の観光庁の「訪日外国人消費動向調査」によれば、旅行者の訪日前後の関心の変化について、「映画・アニメ縁の地を訪問」の項目で、「今回実施したこと」として挙げたのは4.6%、「次回実施したいこと」は9.2%でした。また、「今回実施した人のうち満足した人」の割合は92.5%と高い数字でした。2018年の実績数で換算すれば、約149万人が聖地を訪れたことになります。

2020年には海外から年400万人のアニメファン誘客へ

一説には全国で5千件もあるといわれるアニメの「聖地」も東京、神奈川、千葉、埼玉、群馬など首都圏で半数以上を占めていますが、前述のアニメツーリズム協会の「訪れてみたい日本の聖地」では、88作品の135拠点が選定されました。今後、これらの人気アニメゆかりの地を観光資源として活用したり、情報提供の環境を整えるなど国内のファンばかりでなく、東京オリパラが開かれる2020年には海外から年400万人のアニメファンの誘客を目指すといいます。

アニメツーリズム協会には「1番札所」の情報拠点も設置(東京都千代田区)

「聖地巡礼」で大きな観光効果を収めた代表例といえば、「らき☆すた」と「ガールズ&パンツァー」が挙げられます。前者は埼玉県久喜市を舞台に女子高生の日常をメインに描いたアニメで、2007年に放送を開始しました。後者は2012年から放送されましたが、乙女のたしなみとして戦車を使った架空の武道「戦車道」を学ぶ女子高生を描いた作品には、町役場の協力によってリアルに描かれた茨城県大洗町の街並みや施設が登場しています。

放送中も話題となっていましたが、終了後も2本の「聖地巡礼」の巡礼者は増え続け、作中に登場する鷲宮神社の初詣には、2008年に前年の約9万人の3倍を超える約30万人、2009年には約42万人が参拝し、10年以上が経過しても40万台後半を維持しています。一方、大洗町では、毎年11月に開催される「大洗あんこう祭」の際には地元商店街でコスプレやガルパン痛車の展示、声優などによるトークショーも行われ、2018年には13万人が来場しています。

(資料:筆者作成)

また、最近では2016年公開の大ヒット作品「君の名は。」や「この世界の片隅に」が注目されています。前者は歴代4位の興行収入250億円超えですが、東京や長野などさまざまな舞台のなかで飛騨地方の人気が特に高いものがあり、2016年に約100万人だった飛騨市の観光客は、若い女性を中心に巡礼地ブームが起きたこともあり、翌2017年には、約113万人(12.4%増)になったといいます。多くの巡礼者が訪れる聖地では、リピーターが支えているとみられます。

訪日外国人旅行者に人気が高い高山市の街並み(岐阜県高山市)

ブームで終わらせないには住民の理解、ファンとの連携

アニメツーリズムが抱える主な課題としては、これまでの「聖地」への集客から、地域資源への誘客や地域における消費へつなげることが望まれているほか、「聖地」と周辺観光地や自治体、地域産業、インフルエンサーなどとの広い連携が求められています。実際に岐阜県の飛騨エリア(飛騨市・高山市・下呂市・白川村)では、東京とも連携しつつ、アニメ拠点を核とし、伝統文化やデザイン、食、先端作業等の地域内の拠点間の連携が図られています。

今後、さらにアニメツーリズムを推進する上で、対外的な発信力を高めていくためには、地域一体となったブランディングを強化することが必要です。地域の魅力を再発見してもらうことで、リピーターの獲得や現地での消費につなげていくには、特にアニメファンの地域への訪問を促進する情報発信がより求められています。地域の活性化や経済効果も見込まれるので、より密に地域の自治体と連携を深めながら施策を行うことが重要です。

また、ヒットアニメの聖地となった自治体や住民は、観光効果の持続を目指してファンとの連携を深めていくべきではないでしょうか。アニメツーリズムは、訪日外国人旅行者だけではなく、日本人ファンへの対応も重要で、ブームで終わらせることのないようにしなければなりません。地元の食材や神社仏閣、祭り、自然などさまざまな地域資源とうまく組み合わせたり、地域の魅力の一つとして継続的な取り組みを行う必要があるでしょう。

最近では訪日外国人旅行者の増加とともに問題となっているのがマナーです。京都などを筆頭に「観光公害」と呼ばれるようなさまざまなトラブルが生じ、日本人旅行者が敬遠して足を遠ざけるような事態にある観光地も増えています。住む地域が脚光を浴びて嬉しい反面、迷惑に感じる生活者が多いのも事実です。今後、「聖地巡礼」を観光の振興や地域の振興につなげていくためにも地域住民への丁寧な説明や理解が欠かせないといえます。

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