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台湾における再生事業最前線2019/その1:経営難の遊園地再生プロジェクト
木下 斉
2019/10/04 (金) - 08:00

先日台湾をぐるっと反時計回りで一周してきました。地方創生元年を掲げている台湾ですが、もともと台湾各地では、日本にとっても参考になるような地域における再生モデルとなる取り組みが多数存在しています。今回から、そんな台湾で視察してきた大変興味深い事例を、連載にて紹介していきたいと思います。

台湾を取り巻く地域再生事業

台湾において驚くのは、戦後の日本統治時代の施設が多様に残っていることです。今回も実際に台湾各地を回りましたが、実に古い施設が残り、活用されています。
しかし台湾においては2007年からいわゆる“クリエイティブ都市戦略”を採用し、国内の古い国有財産を積極的に民間に貸し出すなどの事業を開始します。各地で設定されている「文化創意産業園区」は、古い施設をリノベーションし、様々な活用がなされて人気スポットとなっています。特に台北市の華山1914文創園区は元日本酒工場、松山文創園区は元タバコ工場をリノベーションした拠点として、大変有名です。松山文創園区には、古い施設だけでなく、PFI事業で開発された新築施設が併設され、先日日本橋に出店した「誠品生活」が出店し、ホテルも開業しています。

戦後開発された名建築でさえ破壊して再開発が行われたり、はたまた歴史的建造物を保全し町並みを守ったとしても、何も活用されずに終わってしまう日本とは大きく違います。

また台湾を回って気付かされるのは、戦後経済人の年齢が日本よりも若かったり、同族系企業も多く散在していることです。こういったまだまだ若く、財力のあるオーナーファミリーたちが基金(日本でいうところの財団)を続々と開設し、様々な社会活動や地域再生事業に資金を拠出しているのも非常に特徴的です。

今回はそのようなオーナーファミリーによる再生事業をご紹介します。

衰退した遊園地をグランピング施設として再生、勤美學 CMP Village

なかなか土地勘がない方も多いと思いますので、googlemapをご覧いただければと思います。台北から台中に移動する途中の小高い山にその施設はあります。

https://goo.gl/maps/TrVSzvJfkQguZCxZ9

もともとこのエリアは、1990年に「香格里拉楽園」という遊園地として開業しました。
その後経営難に陥り、2012年に台北・台中で鉄工業などの企業グループを形成している勤美グループが経営を引き継ぎ、再生事業に乗り出します。遊園地を遊園地として再生するのではなく、このエリアの持つ自然環境を踏まえ、新たな文化的要素を加えたグランピングサイトとして再生の道のりを作るべく挑戦が始まりました。

実際に行ってみると、山一つをそのまま遊園地にしたような設計になっているのですが、入り口にはもともとの遊園地施設などがあり、決して人気があるとは思えない様相です。
このような廃墟のような場所が再生しているのかと、と少し訝しい気持ちになっていると、村長と呼ばれるガイド役のスタッフの方が来られ、グランピングサイトへと案内してくれました。

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ここは、台湾における原住民文化から、中華圏から入ってきた客家など、様々な文化のミックスを前提として、文化芸術の要素を積極的に取り込んでいます。グランピングサイトの中核には大きな竹のアートが置かれており、これが夜になると幻想的な情景を作り出します。アーティストと共に、スタッフが一ヶ月以上かけて完成させた力作だといいます。ここはもともと遊園地の西洋庭園があった場所とのことですが、今はがらりと変わっていることが伺えます。

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私が訪れた9月もまだまだ台湾は暑いわけですが、グランピングのテント内はすべて空調が効いているため涼しく過ごせる設計になっており、すぐ近くにはシャワーブースやトイレがありましたが、とても清潔に管理されていました。また、この第一期のグランピングサイトの人気を受けて、より深い自然環境を生かしたツリーハウスなどを配置した第二期のグランピングサイトをオープンしています。

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さらにいちばん奥には森林浴を楽しむウォーキングルートがあったり、ブライダルや劇などを行えるスペースが設けられていたりと、多様な過ごし方が叶う環境が作られています。各所に日本人建築家を登用しているのにも驚かされます。

地域再生における大きな2つのポイント

勤美學の取り組みにおいて高く評価されるべきは、2つあります。

1点目は、何より市場にいち早く参入し、安売りをしていないこと。台湾でもグランピング市場においての先駆者であり、価格を安く設定しなかったことは、地方プロジェクトでは極めて大切なことですが、一方で難しいことでもあります。日本では、まずは先行者が他にいるかどうかを配慮し、さらに補助金事業などにしてしまい、多くの人に気軽に来てもらおうなどといって安売りにしがちです。しかし、この施設は民間主導でいち早く市場に参入し、かつしっかりとした価格設定を作り出しました。これは、後続する台湾全土の自然を活用したグランピングサイトの価格設定にも良い影響を与えます。先駆者が価格設定を安くしてしまったら、そういう安価な市場になってしまうからです。9月現在でも年末まで予約が埋まっているとのことですが、土日などの休日には、一人2〜3万円の宿泊費を取るそうで、家族で1テントに泊まれば10万円を超える価格帯になります。

2点目は、プログラムのストーリーがしっかりしていて、そこにアートや建築、料理などの品質の高いものを取り入れていることです。単にテントに泊まって終わりではなく、ベースには台湾の歴史、文化といったコンテクストがあり、案内人である村長が様々な説明をしながら、当日一緒に泊まる初対面のメンバー同志のコミュニケーションを促進させるというグルーワークプログラムを細かく作っています。
まず園に入る時には好きな被り物を取り、入り口に設けられた輪っかをくぐっていきます。これは、異世界への入り口という演出とのこと。夜になると宿泊者たちによるアートを使った寸劇を共演するなど、非日常空間を共に旅するという非常に凝った演出が展開されます。さらに、自然観察などの、季節に応じた様々なプログラムも用意されているそうです。

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いたるところにあるアートや高品質な建築が異空間を見事に表現し、さらにシェフが腕を振るう地元ならではの料理が提供され、宿泊客はとても満足できます。すぐ近くにある売店にはシャンパーニュもしっかり揃っており、顧客層のニーズに合わせているのがわかります。

日本においても地方企業経営者などがこのようなプロジェクトに挑戦することは多様に可能でしょう。しかしながら、都市部を超える独自のカルチャーを作り出すというのは容易ではなく、さらに誰よりも早く新市場に参入し、しかも高価格帯でサービスを打ち出すことも難しい中、それを見事にやり遂げています。

単に自然を打ち出すとなれば、台湾のどこも同じようなケースになってしまうところを、勤美學の取り組みにおいては、歴史や文化、芸術、さらに演出されるストーリーが地方事業における付加価値の厳選になっており、都市部のそれとはまた異なる文化創造産業として、地方の成熟を感じます。

さらにこの場所は、経営問題を抱えていた地方遊園地であるわけですから、より深く考えさせられます。日本国内でも、第三セクターや地方インフラ企業が開発して倒産した遊園地などが多数あり、未だ問題を抱えています。地方における事業再生などの要は、経営力を持った地元資本企業であるということを改めて考えさせられる取り組みと言えるでしょう。

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