副業解禁近づく…知っておくべきリスクとは
浅賀 桃子
2018/03/02 (金) - 07:00

会社員にとって気になる「副業」解禁。厚生労働省は2018年1月31日、モデル就業規則を改定し、副業容認へと大きく動くこととなりました。ただし、副業に対して慎重な姿勢を崩さない企業も少なくありません。近づく副業解禁時代に向け、我々が知っておくべきリスクについて考えます。

モデル就業規則の改定

中小企業庁委託事業「平成26(2014)年度兼業・副業に係る取組実態調査」によると、副業・兼業を認めていないと回答した企業の割合は85.3%に上ります。法的な規制があるわけではないなか、これだけ多くの企業が副業・兼業(以下「副業」)を認めていない理由の一つとして、厚生労働省作成のモデル就業規則の存在がありました。

モデル就業規則内には、これまで労働者の遵守事項として以下の規定が含まれていました。
「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」(同規則第11条第6号)
このひな形を参考に自社の就業規則を作成している企業が多いことから、原則として副業が禁止になっていたというわけです。

2017年3月、政府の働き方改革実現会議によって「働き方改革実行計画」が決定されました。その計画内で副業・兼業の普及促進のためのガイドラインやモデル就業規則の策定を行うこととなりました。この決定を受け、2018年1月31日に改定されたモデル就業規則では先述の文言が削除されたうえ、新たに「副業・兼業」の規定が設けられました。

当該規定においては、第67条にて
「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる」(1項) 「労働者は、前項の業務に従事するにあたっては、事前に、会社に所定の届出を行うものとする」(2項)
と追記されました。すなわち、労働者の事前の申出があれば、勤務時間外の副業が原則容認(解禁)と、これまでから180度転換されることになりました。

劇的に増えない「副業容認」企業、その理由は

経団連の榊原会長が2017年12月の記者会見で「経団連としては、(副業について)旗を振って推進する立場ではない。プラスの面もあるが、依然として課題も多く、個社が判断することになる」と述べ、会員企業に推奨することはしないとの考えを明らかにしています。

このように、副業容認に慎重姿勢を示す立場の方があげる理由をいくつかみていきましょう。

<企業側の理由>
・副業先が本業と類似している業種の場合、利益相反になる
・情報漏洩の可能性がある
・本業先の業務がおろそかになる懸念
・副業先への人材流出

<労働者側の理由>
・体力がもたず、本業での業務に支障が出る
・ほかの業務で活かせるスキルがない
・副業に充てる時間的な余裕がない
・許可制だが、周りに副業しているモデルケースがないので考えづらい

上記が代表的なところかと思われます。
今回改定されたモデル就業規則における副業新設規定においても、原則副業容認ながら以下のケースでは会社側が「副業を禁止または制限することができる」とされています。
・労務提供上の支障がある場合
・企業秘密が漏洩する場合
・会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
・競業により、企業の利益を害する場合

副業見切り解禁にならないよう認識しておくべきリスク

裁判例でも「(本業での)労働時間外の時間をどのように利用するかは、(上述のケースを除き)基本的に労働者の自由である」との判断が下されていることから、これまで一律副業禁止にしている企業に関しては、原則副業を認める方向へと舵を切ることは免れないでしょう。
ただ、モデル就業規則が改定されたからと、副業「見切り解禁」になってしまう恐れも否定できません。一番問題になりうるのは、労働時間の合算に伴う時間外労働と、労災保険が発生した際の給付額の算出に関する点です。

本業のA社で8時間働き、その後(同じ日)に副業のB社で2時間働くCさんの例で考えてみましょう。
現行、異なる会社で業務する場合でも労働時間は合算されることになっています。つまり、B社での2時間の勤務は8時間超の「時間外労働」となり、割増賃金が発生することになります。ただ、実際のところB社が本業A社での勤務時間を正しく把握できていないケースも多いでしょう。また把握していたとしても、B社からすれば割増賃金を払うことに抵抗感を覚えるかもしれません。

また、これらの問題が仮にクリアになったとしても、結果として長時間労働になってしまえば働き方改革に逆行することになり、本末転倒ともいえるでしょう。また、副業先での労働も含め長時間労働が引き金になりうつ病をはじめとする精神障害を発症した場合の労災保険の適用問題もあります。A社かB社か、どちらが原因で精神障害を発症したのかという判断をするのは非常に難儀です。

働き方改革は労働者の自由な働き方を促進する意味合いもあります。企業・労働者双方にリスクが残ったまま「副業見切り解禁」にならないよう調整していく必要があるでしょう。

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