「地方創生」の意味と条件について考える・第3弾/地域活性機構 リレーコラム
尾羽沢 信一
2018/04/20 (金) - 08:00

前回、地域の問題を考えるときに、将来世代への地域価値の継承や共生、共存の考え方が重要ではないかという問題提起をしました。昨年、地域活性学会の全国大会を島根県浜田市で開催した際に交通不便な開催地にもかかわらず、大会史上最多の参加者数で、地域活性化研究者や実践者が課題先進地に大きな関心を持っていることが改めて分かりました。

これからの地域問題の中核となる「課題先進地」

今回は、「課題先進地」問題について論じてみます。日本の地方の代表的な課題は次のようなものです。

1)長期間にわたる大幅な人口減少
2)超高齢化
3)中核産業の衰退あるいは不在
4)魅力的な雇用の場の不足
5)一部地域でしか進まないUIターンの流れ

何度か取り上げた徳島県神山町、島根県の海士町は地域資源の見直しや、物語づくり、長期にわたる不退転の意思などによって、光が当たり、若者たちが集まってくる場となりました。
神山町は人口5500人、海士町は人口2400人です。これら地域のリーダーたちはこのくらいの規模がジャストサイズと考えているようです。神山町の地方創生戦略を見ても、長期的に減り幅をできる限り抑え、3000人台まででとどまればよいだろうと見ています。
日本全体の人口が減り続けますし、一部大都市圏への集中はこれからも続くでしょうから、私もそのようなビジョンが極めてまともだと思います。

複雑な課題を抱える中規模の「課題先進地」

では、人口数万人程度で同じような構造問題を抱えている地域は、どのような進路を取ればよいでしょうか。問題の構造をつかんでいただくために、少しチャートを使います。
下記は、この50年間の人口変化率で、極端に増えた地域と減った地域を比較したものです。
こんなことは皆さん先刻ご承知かもしれませんが、島根県、浜田市はかなり厳しいということが一目で分かると思います。

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もう一つ、地域の活性化や創成を考えるときに、どのくらいの人口規模の市町村のマネジメントを考えるかということが極めて重要となります。雇用の場を創出し、若い世代に魅力ある空間を創出していくにしても、人口2500人の海士町と58000人の浜田市ではおのずから戦略が違ってこざるを得ないということです。
海士町や神山町を視察する自治体の方や地域づくりに専門家は多いのですが、それをわが地域に適用しようとしたときに、どのようにアレンジすべきか、根の部分や気付きのレベルでは分かっても戦略や政策レベルではかなり大きな発想転換と大きな仕掛けが必要となってくるでしょう。
三大都市圏以外の人口規模2万人から8万人の自治体は609地域、人口の総計は2千6百万人です。このような類型の地域が活路を見出すことができるかどうかが、これからの地域政策の一つのポイントとなりそうです。

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「選択と集中」の重要性

この2年間に4度浜田市を訪問し、久保田章市市長はじめ地域企業の最先端で日々戦うリーダーの方々とお話ししました。そこでいくつか私なりに見えてきたことをお伝えします。

1)地域の置かれた状況を他者の視線で冷静・客観的に分析する。
2)産業も含めた地域の伝統・歴史に新たな新たな息吹を与える。
3)政策・戦略として整理しつつ、できることから即座に実行に移していく。
4)地域住民や取引先、他者に愛着を持ってもらう。
5)地域ディグニティーを確立する。

例えば、久保田市長は高校卒業後、長期の首都圏勤務などを経て浜田市にUターンしてきました。「かつてと比べてずいぶん寂しくなってしまったなあ」というのが偽らざる実感だったそうです。
そこで何からやるべきか、市役所の職員たちとも語り合いながら、戦略を練り、実行しています。その際のポイントが、「選択と集中」だそうです。
浜田が浜田らしさを発揮できて、関係者が誇りをもって将来に継承していくべきものは何か、その一つの答えが一次産業の強化ということです。
例えば、浜田港は日本でも有数の水揚げを誇る漁港でしたが、長期低落傾向に歯止めがかかりませんでした。担い手の減少や漁船の老朽化、ブランドとしての認知度がなかなか浸透しないなどがネックでした。
そこで、まず行政として、漁船の補修の支援を行い、それと同時に「どんちっち」という浜田産の魚(のどぐろ、アジ、カレイ)のブランド力強化に取り組み始めます。
もちろんすぐに成果が出るものではないのですが、長期低落傾向にあった漁獲量に歯止めがかかったと同時に、水揚げ金額が反転上昇し始めたのが分かると思います。

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久保田市長は、地元水産高校の卒業生などの若い担い手が、漁業に入職してくれるようになったことを、一つの確かな手ごたえとして喜んでいました。
もちろん地域の一次産業全体を底上げし、そこで食べていける人たちを増やしていくには道のりは長いと思います。しかし、生まれ育った地域で暮らし続けられる喜びを感じることのできる人を少しずつでも増やしていくことが地域活性の根幹と考えていますので、私も浜田市の様々な取り組みをこれからも支援していきたいと思います。
地域ディグニティーということでは、伝統芸能である石見神楽の子どもたちへの継承もしっかりと行われていますし、地域の伝統産業である石州瓦の担い手である企業からも驚くべきイノベーションが起こっています。

特に驚いたのは、(有)亀谷窯業の亀谷典生社長の思考力、発想力、行動力でした。製薬会社のMRから亀谷窯業の跡継ぎに転じた亀谷さんは、最初からよそ者の視点で、伝統にのみ胡坐をかいていては、縮小し続ける瓦産業で生き残っていけないと気付き、次々に改革を実行し始めます。
瓦製作というコア技術の本質とは何かを考え抜き、別の用途、今まで縁のなかったユーザーにどうすればその良さを届けることを考え、食器やタイルなど全くの異分野に挑戦します。

お話していて驚いたのは、常に科学的に考え、新たな発想を得たらすぐに行動に移す実行力とその素早さです。
その成果の一つが、ザ・リッツ・カールトン東京の壁面タイルへの採用です。

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亀谷窯業の瓦が採用されたザ・リッツ・カールトン東京 (亀谷窯業ホームページより引用)

これをきっかけに、それまでいくら製品の技術特性を説明しても分からなかった潜在顧客が、それだったらうちも使ってみたいということになってきたとのことです。

久保田市長も亀谷社長も、共通しているのはクールヘッドとウォームハート、それに加えて思いついたら即実行というところでしょう。
私も浜田に行きお会いするたびに教わることが多いですし、抱えている課題が大きく深いので、何とか私のようなものでも力になれないだろうかと思っています。

特に都会で、日々ビジネス課題と向き合っている方は飛びこんでみる価値のある地域と思います。

>>>こちらもあわせてご覧ください。
「地方創生」の意味と条件について考える/第1弾
「地方創生」の意味と条件について考える/第2弾

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