森のオフィス式・アイデア創出 IGNITE!Vol.6レポート
花岡 美和
2018/07/17 (火) - 11:30

コワーキングスペース「富士見 森のオフィス」(長野県諏訪郡富士見町)が主催する~好奇心と創造力に火をつける、八ヶ岳のクリエイティブコミュニティ~IGNITE!(イグナイト)は、多ジャンルの有志がチームを組み、興味を持ったテーマからアイデアを元にプロトタイプを作り、実際のサービスを創り上げていく1年間のワークショップです。
全12回を4つのステージに分け、折り返しとなる6回目はセカンドステージの総まとめ。「アイデア創出」の集大成として、本気のプレゼンとチームビルディングが行われました。

サードステージに向けた予習「プロトタイピングとは?」

前半は自分の企画の実行に向けて参加者に本気でプレゼンをして、後半はポスターセッションの形式でワイガヤしながら仲間を募集するという流れ。ここである程度プロジェクトを組んで、次回からサードステージの「プロトタイピング」に入ります。それに先駆けて、まずはIGNITE!主催者の津田賀央さんから「プロトタイピングとは?」についてお話がありました。

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プロトタイピングとは試作品、模型、原型などの総称のこと。何を作るかによってプロトタイプは変わってきます。サービスならペーパープロトタイピング(紙などを使った二次元の試作品)。プロダクトであれば商品モックアップ(原寸大の模型)。イベントの場合はいきなり大規模で開催するよりも、トライアルイベントとしてまずは小規模で試してみる方法があります。

プロトタイピングする上で覚えておきたいのは「MVP」。Minimum Viable Productの略で、最小単位の実行可能な機能が備わった製品のことです。この商品は本当に有効か? 面白いか? 見込み客にとって必要なものか? こうした商品の価値を見極めるために最低限必要な価値を盛り込んで試作品を作り、まずはミニマムなところで一度ユーザーに試してもらいます。

MVP作りは次の4段階に分かれます。
1. 利用者にとって価値の高い機能を選ぶ
2. 利用者の体験の流れを描く
3. 描いたものを実際に作ってみる
4. 検証

また、利用者にとって価値の高い機能を洗い出すために次の3つを考えます。
・USER(もっとも優先する利用者)
・VALUE(利用者にとっての価値)
・FEATURE(その価値を実現するための機能)

腰に付けるタイプの「登山用携帯ゴミ箱」というアイデアを例にしてみます。
・USER:登山者
・VALUE:行動食の袋をサッと捨てられる
・FEATURE:片手でワンタッチで開け閉めできるフタ

このように、ユーザーにとって価値あるものと、その価値に紐づいた機能が結び付いていくと、「片手でワンタッチで開け閉めできるフタから試してみよう」となり、そこからプロトタイピングしていきます。
次に、それを使う一連の体験を「まず腰につけて→パッと開け閉めして→またしまって→そのあと忘れる」といったフローチャートのように描き、実際に試作します。そのあと、見込み客や周りの人、登山者などに試作品を試してもらってフィードバックをもらい、それをプロトタイプに反映させてブラッシュアップさせていくわけです。

アイデアをカタチにする本気のプレゼン

さて、いよいよ本気のプレゼンです。エントリーは9つ。各自、持ち時間5分で思いの丈をぶつけました。

1.Amazon Echo Spotを活用した地域コミュニティの再構築(近藤さん、山田さん)

地域コミュニティの衰退にフォーカスしたお二人からは、地方に昔からある“ゆうせん”の仕組みをスマートスピーカーで最新向けにブラッシュアップさせ、地域コミュニティを再構築させようというサービスの提案です。

最大の特徴は、スピーカーに話しかけるだけなので老若男女問わず誰でも使えること。例えば高齢者が「病院まで乗せていってくれませんか?」とスピーカーに話しかけ、それを聞いた手の空いている人がクルマを出してくれたら、そこにはゆるやかなつながりが生まれ、「高齢者の移動」という地域課題の解決にもなります。

さらには、人工総計や有料放送電話の会費などを加味して、ビジネスモデルとしての展開まで試算した本格的なプレゼンに、参加者から思わず「ほぉ~」という称賛の声が漏れました。

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2.しおりやさん こどもがつくる価値をクルクル回す仕組みをつくりたい(鉢谷さん)

鉢谷さんのお子さんは手描きのしおりを作っています。お絵描きが好きなだけあって出来栄えはなかなかのもの。そのしおりを自分だけで楽しんでいるのはもったいないということで、お子さんのしおりをいかすアイデア募集のプレゼンとなりました。

子どもの純粋な創作意欲に大人や地域が感動して、価値を交換したり循環させたりする仕組みができないだろうか。その実現にもっとも重要なのは「ストーリー作り」だと鉢谷さんは考えています。

プレゼンのあと津田さんから、誰かにとっての価値を別のものと交換する例として、昔懐かしい「肩たたき券」の話が出ました。その人にとっての価値や感動を、しおりにのせて循環させたり交換したりすると、面白いストーリーが作れそうです。

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「記録」が勝手にとれてどこでも見れるもの(竹内さん)

前回のIGNITE!で同じテーブルだった人が、「家庭菜園の野菜がいつの間にか巨大になっている」「いつの間にか草ボーボー」と残念がっていたことにヒントを得たアイデアです。

自分でも写真に記録して実験してみると、確かに庭は草ボーボーになっていくけれど、毎日見ていたあじさいにつぼみが付いて花が咲いたりもする。一日ではわからない小さな変化も、連続させて見ると面白いことに気づいたそうです。

ただ、毎朝同じ位置から写真を撮るのはけっこう大変なこと。そこで考えたのは、スマホとクラウドを活用した、勝手に「記録」が取れてどこでも見られる仕組みです。これなら家庭菜園の野菜の食べ頃を逃さないし、草ボーボーを未然に防げる。しかも植物の様子を記録していけば、情報の見える化によってちょっとした驚きの体験も提供できそうです。技術面での人材はもちろん、体験をデザインする人を募集中です。

INBOUND FOR EVERYONE (小柳さん)

八ヶ岳エリアの風景が大好きだという小柳さんは、「外国人観光客を八ヶ岳エリアに呼びたい!」と参加者に呼びかけました。しかも単なるインバウンドではなく、地元住民や地域に密着したコンテンツを作って旅行社に売り込みたいそうです。

外国人観光客に喜んでもらえて、八ヶ岳エリアで提供できることならコンテンツは何でもいい。交流、体験、美容、癒し、食、アクティビティ、とにかく誰でも関われるビジネスモデルにしていけば、色々な人が関わることで地域が活性化して雇用も生まれる。だから「INBOUND FOR EVERYONE」。

津田さんからは、「色々なコンテンツを掘り起こして別の解釈をしていくだけで、海外にとっても魅力あるコンテンツになります。その翻訳に色々な知恵を働かせてみるといいですね」とのアドバイスがありました。

思い出の木の活用(眞野さん)

思い出の木だからこそ、切ったあとでも楽しいことに変えられないか。そんな発想から生まれたアイデアです。例えば思い出の木でベンチを作り、そのベンチを生活の中で実際に使う。そんな暮らしは素敵に違いありません。

木工の過程で出る破材も、電子備品という異素材と組み合わせることで新しい何かを生み出せるかもしれない。モノとコトがあればお金が生まれる可能性もある。モノ・コト・カネが循環すれば、そこでまた新しい思い出が生まれる。1本の木から始まる好循環に色々な可能性を感じるプレゼンでした。

IGNITE!の直前まで木工をしていたという津田さんからも、「モノさえあれば何でも作れる。人によっては不要なものでも、何らかの形でいかしてくれる人がいれば、その想いをコミュニティに還元して新しいものが生まれる可能性は大いにある」という感想が述べられました。

ドローンを使った通学路の見守り(小林さん)

富士見町の小学校でドローンによる見守りをすでに実践してみたという小林さん。試験飛行からわかったことは意外にもネーミング問題でした。自律飛行は簡単にできるけれど、そもそも「ドローン」という名前に悪役感があって親しみがわきにくい。キャラクターのようなかわいいネーミングにしてドローンに対する敷居を下げたいとのことです。

運用例として、犯罪の危険地域(ホットポイントパトロール)を自律飛行で見守るアイデアや、PTAのお母さんたちでも簡単に操作できるレンタルドローンを検討中とのこと。試験飛行までしてほとんどできあがっている状態なので、あとは背中を押してくれる人、一緒に広めてくれる人を募集中です。

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(左上)普段はエンジニアの竹内さんは、物を作るだけではなく、ネットワークで繋げたりしてサービス化したいと考えてIGNITE!に参加しているそうです(右上)求める人材として「運のいい人」をあげた小柳さん。会場が大いに沸きました(左下)思い出の木の活用を提案した眞野さん(右下)小林さん。ドローンによる見守りの実験の様子は地元のテレビニュースに取り上げられて話題になりました

「働くってなに?」を考える十代のワイガヤ(花岡さん)

自身がIGNITE!に参加して、自分とは違う感覚の人たちでワイガヤすると色々なアイデアが出てくることを実感したという花岡さん。十代にワイガヤの場を提供して、仲間とのコラボレーションから新しい発想や考えが生まれてくることを体験してほしいと思ったそうです。

ワイガヤのテーマは「働くってなに?」。学校や親から「将来」を聞かれ始める15歳だけで集まって、同じ歳だけど自分とは違う感覚に触れながら、「働くってなんだろう?」という答えのない問いを自分たちで考えていく。十代のワイガヤが、「何かに興味を持つ」ということに興味を持つきっかけになればと考えているそうです。

シェフと地域をつなげるレストラン(石井さん、勝さん)

お二人は東京からのIGNITE!参加者。今回は来場できなかったので、松井さんが代理でプレゼンすることになりました。

企画の背景には四つの仮説があります。都会のレストランで働く若手シェフは学ぶ場が少なく伸び悩んでいる。地方地域には外食する場所が少ない。生産者は自分が作った野菜をもっと知ってほしい。一般の人は生産者やシェフの調理法を知りたい。これらの仮説をもとにしたアイデアが、八ヶ岳エリアでシェフとみんなで作る一日限りの“結(ゆい)”レストランです。

「結」とは、労働力を交換しあって作業を相互に手伝うこと。都会の若手シェフに場所を提供して、地元の人をはじめとした様々な繋がりの人たちが、お金ではなく労働力の交換でレストランを開く。レストランがきっかけで宿泊や食材の購入につながれば、その繰り返しでサスティナブルな関係ができあがるのではないかと考えているそうです。まずは八ヶ岳エリアで動ける現地担当者を募集中です。

遠隔レンタル農地(平出さん)

農地を借りて野菜を作るレンタル農地のデメリットは、通える場所でないと利用してもらえないこと。その課題をクリアできそうなアイデアが遠隔レンタル農地です。WEBカメラを使ってアプリ上から畑の状態を監視できるシステムで、必要に応じて畑に来てもらったり、現地の農家に代行してもらったりします。

もうひとつのアイデアは、ビニールハウスに温度と湿度を計測するセンサーを付け、ユーザーが決めた設定になると通知してくれるシステムです。

ふたつのアイデアに共通しているのはデジタルとアナログの融合であること。これは平出さんが一番大事にしていることでもあります。
「農業を普通の会社にしたい。そのためには誰にでもできるようにする必要がある」。今回は動画での参加でしたが、画面から平出さんの熱い思いが十分に伝わってきました。

IGNITE!がきっかけで二拠点を始めました!

プレゼンのあとはポスターセッション形式のワイガヤがスタート。発表者は壁に貼られた自分のパワーポイントの前に立ち、興味を持ってくれた人に詳しい説明をしていきます。異なる業種の人から意見をもらって新しいアイデアが生まれるのがIGNITE!の良いところ。みんな会場を自由に移動しながらチームビルディングが始まりました。

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「Amazon Echo Spotを活用した地域コミュニティの再構築」をプレゼンした近藤さんにお話を伺いました。

近藤さんはもともと関東在住ですが、八ヶ岳の景観が好きなので、その周辺に住むか仕事で関わるかしたいと思い、リサーチを兼ねて「ときどきナガノ」という企画に参加した際に森のオフィスを知ったそうです。

IGNITE!に参加した理由は、富士見町への移住か二拠点生活をするにあたって地域の人と接点がもてそうだと思ったこと。IGNITE!で富士見町の地域課題を知り、自分のスキルや経験をいかして地域に貢献できないかと考えた結果が今回のプレゼンでした。共同でプレゼンした山田さんともIGNITE!で知り合い、アイデアの方向が似ていることもあってチームを組むことになったそうです。

「今回のプレゼンの本気度は10点満点の何点でしょうか」という質問に、「私がどれだけ本気で望んだかという観点ですと10点です。本気プレゼンなので本気で望みました。自己採点は7点くらいです」と答えてくれた近藤さん。なんと、プレゼンの当日に関東と富士見町の二拠点生活がスタートしました。
10点満点の本気プレゼンは、異業種メンバーと本メンバーで、半年くらいをめどにスモールスタートさせたいそうです。

大学生とバブル世代が自然とつながるIGNITE!の空気感

ポスターセッションのさなか、大学1年生の堀越さんと「十代のワイガヤ」をプレゼンした花岡さんが熱心に話し込んでいる姿がありました。堀越さんから花岡さんに、「15歳という年齢を17歳にしてみたらどうでしょう」という提案があったようです。

「今は高校2年生の三学期を“ゼロ学期”と呼び、ゼロ学期から進路や将来の準備を始めます。15歳で将来といわれてもまだピンとこないけれど、ゼロ学期の17歳なら働く価値を考えるタイミングとしてちょうど良いと思います」

花岡さんはバブル世代。30歳の年齢差を越えてアイデアを交換し合えるのもIGNITE!ならではの空気感ゆえでしょう。十代の気持ちがわかるファシリテーターを探している花岡さんは、さっそく堀越さんと連絡先の交換をしていました。

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■次回IGNITE! Vol.7は7月27日(金)に開催!

7月から9月はサードステージの「プロトタイピング」。プロトタイプを作ってお互いの成果を発表することがサードステージのゴールイメージです。IGNITE!でプロジェクトを進めていない人も、アイデアをカタチにしていくプロセスをのぞいてみませんか?

IGNITE! vol.7の参加申し込み締め切りは7月20日(金)。
 

▼過去に開催された「IGNITE」各回のレポートはこちら
・好奇心と想像力に火をつける、八ヶ岳のクリエイティブコミュニティ IGNITE! Vol.1レポート
・心を起動させるビジョンライティングとは?/体験づくりにおけるプロトタイピングの大切さ IGNITE vol.2レポート
・プロジェクトピンチを乗り越えるために必要なものは何? IGNITE vol.3レポート
・農業・地域福祉・富士見町の課題を考える IGNITE! Vol.4レポート
・アイデア創出 IGNITE! Vol.5レポート

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