新たな地域活性化支援の「ふるさと納税」最前線/地域活性機構 リレーコラム
亀和田 俊明
2018/09/14 (金) - 08:00

年々拡大する「ふるさと納税」ですが、今までは地域の特産品や高額の返礼品などに注目が集まっていましたが、最近では返礼品に家庭用電力が加わるという動きや、今回の「北海道胆振東部地震」のような災害の際にこの制度を活用するほか、起業家や移住交流などの支援をするための新しい取り組みも生まれています。「ふるさと納税」の現状と課題から今後の地域活性化について考えてみたいと思います。

10年目迎え17年度「ふるさと納税」受入額3,653億円

地域活性化を支援するという趣旨で始まった「ふるさと納税」は、2008年度から導入されました。今では高額の返礼品が当たり前のようになっていますが、当初は返礼品がありませんでした。2013年ごろから自治体が寄付のお礼として地域の特産品を送るようになり、それが評判となって徐々に広がりを見せていきました。最近では地場産品ばかりではなく、商品券や家電など換金性や資産性の高いものが返礼品として選ばれ、寄付する人たちの人気を集めています。

■ふるさと納税

ふるさとやお世話になった、応援したい都道府県や市区町村に「寄付」ができる制度。自分が選んだ自治体に寄付を行った場合、寄付額のうち2000円を越える部分について、所得税や住民税から原則として全額が控除されます。寄付金の「使い道」を指定できるほか、寄付した人には多くの自治体で地域の特産品などお礼の品を送るのが一般的になっています。

「ふるさと納税」の導入から10年目を迎えましたが、2015年度から件数並びに受入額が大幅に増えており、2017年度は前年度比28,4%増の3,653億円を超えています。急増の背景には、1年間に控除される上限額が2015年から倍に引き上げられ、寄付先が5自治体以内なら控除のための確定申告の手続きも必要なくなる「ワンストップ特例制度」が始まったのに伴い、返礼品が多く取り揃えられ、利用者にとって魅力がある上に使いやすくなったことが大きいでしょう。

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資料:総務省ホームページ資料より筆者作成

利用が拡大するなか、返礼品競争が過熱していますが、一方で横浜市(56.3億円)や名古屋市(32.5億円)、東京の世田谷区(31億円)、大阪市(29.2億円)など大都市圏の一部自治体における税の流出といった問題も生じています(※カッコ内減収額)。総務省では、2017年春に「返礼品は寄付額の3割以下」、「地場産品とする」と各自治体に要請し、2018年春にも同様の通知を出してはいるものの、依然として一部の自治体では従っていないのが現状です。

2017年から総務省が出している通知に強制力がないという事情もありますが、総務省が公表した実態調査では、9月1日時点で「返礼割合が3割を超える返礼品」を送っている自治体は全体の13.8%にあたる246市町村で、このうち全体の10%を占める174市町村は返礼品を見直す意向がないか、見直しの時期が未定のままでした。なお、「地場産品以外の返礼品」を送っている自治体は少なくとも190市町村あります。

このような状況を受けて政府は、返礼品競争に歯止めをかけるため、通知を受け入れない自治体を「ふるさと納税」制度の対象外とすることを検討し、対象外の自治体に寄付した場合は所得税や住民税が控除されない仕組みに変えるといいます。7月には通知に沿わない大阪府泉佐野市など12市町名を初めて公表し、今後、制度の抜本的な見直しを検討していますが、早ければ2019年の通常国会に地方税法改正案を提出し、4月からの施行を目指すとしています。

4月から起業家支援&移住交流促進の新制度スタート

さて、返礼品について見直しが進むなか、それぞれの地域において経済を再生させ、「人」「もの」「仕事」の好循環を生み出していくために、インターネットを通じて不特定多数の人から資金を集めるクラウドファンディング型の「ふるさと納税」を活用した新制度「ふるさと起業家支援プロジェクト」と「ふるさと移住交流促進プロジェクト」が立ち上げられ、4月からスタートしました。

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「ふるさと起業家支援プロジェクト」の仕組み(資料:総務省ホームページより)

「ふるさと起業家支援プロジェクト」は、地域資源を活用して地域課題の解決に資する事業を立ち上げる起業家に対し、事業に共感する方から「ふるさと納税」による支援を募り、それを財源に補助する金額を超えない範囲で自治体が上乗せ補助できる仕組みです。この上乗せ補助分については、国が特別交付税措置を講じる予定となっています。寄付者には、進捗を報告するほか、高額にならない範囲の試供品などが提供されたり、事業所見学へ招待したりします。

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「ふるさと移住交流促進プロジェクト」の仕組み(資料:総務省ホームページより)

もう一つの「ふるさと移住交流促進プロジェクト」は、過疎地域をはじめとした著しい高齢化や人口が減少する地方都市で、移住促進のために自治体が推進する住宅等の整備や新規就業者のための環境整備について、「ふるさと納税」を通じた応援を募るとともに、寄付者をはじめとする移住希望者に対して将来行われる具体的な移住・定住対策の取り組みに対して、国が自治体へ特別交付税措置等により支援するものです。

昨今の過剰な返礼品ブームで、地域や自治体、或いは施策・事業などに共感し、応援する目的で行う寄付が、本来の目的を失いかけた状況にあるといえます。「起業家」と「移住交流促進」支援という地域振興や産業振興、そして、まちづくりなどにもつながる2018年度から始まった新しい二つのプロジェクトを通じて、返礼品志向ではない、より地域の活性化に寄与したものになることが望まれます。

豪雨や地震など災害時にも「ふるさと納税」活用へ

こうしたなか、今までにない返礼品を用意した自治体もあります。太陽光発電だけでなく、電力小売りに乗り出すなど自治体の再生可能エネルギーの取り組みは各地で行われていますが、経済効果などは未だ地域に還元されたとはいえません。群馬県中之条町は2013年に自治体主導の「中之条電力」を設立し、2017年3月には「ふるさと納税」の返礼品に家庭用電力を加え、再生可能エネルギーによるまちづくりに支援を呼び掛けています。

総務省のホームページでは、「ふるさと納税」の使い道や成果を明確化する取り組みや寄付者との継続的なつながりを持つ取り組みを全国に広げていくために、「教育・子育て」「まちづくり・スポーツ」「文化・歴史」「福祉」「地域・産業振興」「観光・交流」「環境」「安全・復興」の各分野で各地の好事例を紹介しています。その中には、以下の表のように「災害」に関連した事例もあります。

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資料:総務省ホームページ資料より筆者作成

活用事例だけでなく、「ふるさと納税」の災害に関連したものとして、7月の「西日本豪雨」で被災した自治体に送られた「ふるさと納税」の寄付受付に伴う事務作業を他の自治体が引き受ける支援も生まれています。これは、被災自治体の事務負担を軽くして被災者への対応や復旧に注力してもらうのが狙いです。2015年9月に豪雨の被害に遭った経験から茨城県境町が始めたもので、既に20自治体に広がっているといいます。

被災した自治体に代わって事務を代行する「代理受付」の取り組みには、「ふるさと納税」の情報を扱うサイト「ふるさとチョイス」を運営するトラストバンクが関わっているといいます。同社は前述の総務省の新制度「ふるさと起業家支援プロジェクト」の専用サイトも立ち上げており、これは、寄付金の使い道を明確にして「ふるさと納税」をクラウドファンディングのように募る「ガバメントクラウドファンディング」を活用したものです。

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「ふるさとチョイス」運営のトラストバンクは北海道支援の寄付申し込みフォーム開設

また、トラストバンクでは今回の「北海道胆振東部地震」支援のために「ふるさと納税」の制度を活用して寄付金を集めることができる災害時緊急寄付申し込みフォームを開設していますが、埼玉県深谷市が代理自治体としてフォームを立ち上げ、今後、自治体の要請を受け次第、随時フォームを開設していくといいます。同社では、2104年に有事の際に「ふるさと納税」を活用して寄付を募る仕組みを立ち上げており、「熊本地震」では約18億円を集めました。

地域の活性化や課題解決へ返礼品より施策・事業を重視

さらに、地域の課題解決に取り組むNPOの活動を支援する動きも広がっています。インターネットで資金を募る「クラウドファンディング」の手法を取り入れたもので、トラストバンクの「ふるさとチョイス」にも数多くのNPOによるプロジェクトが掲載されており、年々件数は増えているといいます。NPOにとっては「ふるさと納税」が活動資金を得る新たな手段になっています。

「ふるさと納税」を巡っては、返礼品の問題だけでなく、高所得であるほど特例控除の上限が大きくなり、減収額が増えるため、中・高所得者層が得をするという不公平性も指摘されるほか、寄付を集めるのが地方の一部自治体だけに限られるために自治体間に格差が広がっている、都市部で入るべき税金が入らなくなり、大幅な減収になる大都市圏の自治体も出てきているなどいくつかの重要な課題を抱えているのも事実です。

目先の寄付金獲得に必死になり、家電製品など地場産業と関係ない品を送り、換金されるケースも多く、そうした返礼品競争は本末転倒ともいえるものです。当初は返礼品もなく、寄付金の使い道から選び、返礼品が送られるようになってからも地域の地場産品を送ることで、寄付者など全国の人に地域や特産品を知ってもらう発信の手段、場でもあり、地域の活性化を支援することにつながってきました。

これからは、豪華な返礼品ブームも収束に向かうでしょうし、地域の活性化や課題解決へ寄付金の使い道、自治体ばかりでなく地元企業、地域住民などによる施策や事業がより注目されますし、寄付者と地域の継続的なつながりを持つ取り組みが重要となります。そして、台風や洪水、地震など大規模な災害が多い日本においては、被災支援をするために「ふるさと納税」を今まで以上に活用することが求められているのではないでしょうか。

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