地域再生の「成功事例」を正しく参考にできる人、失敗する人
木下 斉
2018/11/17 (土) - 08:00

事例は「結果」に過ぎない

成功事例集などが多く配られることがありますが、掲載されたものを実践している当事者がみるといろいろと物足りなく感じものがあります。それは完成品の説明で、なぜそのような形に結果としてなったのか、という記述は全くなされていないからです。

これは仕方ないのですが、完成品ではなく、「どうやって作ったのか」というプロセスについては当事者しか分からない、そして伝えられないものであったりします。さらに難しいのは、それは毎日の積み重ねの上に成立するものでもあるので、当事者も数年たつと忘れてしまうことさえあるのです。

ものづくりの現場でいっても、大人気の完成品をみて「こういうものをパクれば良い」といっても、本当に正確にパクれる人はほとんどいません。実際には分解し、それぞれの部品がどういうところから調達していて、どう独自の技術を駆使しているか、そしてそれらを作るための生産設備を保有しているか、何よりなぜそういう結論に至っているのか、という製作者の意図、といったような複数の因果を見極めなくてはなりません。でなければ劣化コピー商品はできたとしても、正確にパクる、もしくはそれを上回るものを作ることはできないわけです。

ある問題の答えをみたとしても、解き方を理解していなければ、別の同種の問題に正しい回答はできません。学生時代に誰しも経験したことだと思いますが、これと同じです。2×8=16、という答えは掛け算という法則を理解しているからわかるわけで、16という答えを暗記しても、3×9という問いには答えられません。27と書くべきところに、16と書いてしまうのが、今の成功事例を誤って参考にする人たちの行動パターンです。つまりは解き方を自分で学んでいないから、同種の問題が出てきても、変数が変わったときに自分で別の答えを導けないのです。

しかしながら、ものづくりと違って、まちづくりなどの分野はもっと単純だと思われているのか、成功事例をそのままパクろうとする人が多くいます。成功事例を誤って解釈し、予算をつけてパクリを地元でやり、盛大に失敗してしまいます。解き方ではなく、答えそのものを質問し、それをメモってパクろうとしている人が必ず聞く、3つの質問があります。

(1) スキームばかりを質問する

典型的な駄目な人は、今行われている建物、もしくは事業スキームそのものを真似ようとします。「なぜこの場所で、こういう建物になったのか」とか、「どうしてそういう事業スキームになったのか」という話ではなく、同じようなスキームのまま進めれば成功すると思い込んでいるのです。

だからすぐに、まちづくり会社と地元の自治体、はたまた各種協会との関係でやっているのか、といったようなスキーム図を作りたがります。そんなものはどんどん変わっていくものだし、それは何の答えでもありません。違う地域にいけば、その地域の状況に合わせて、考えなくてはならないわけです。なのに、成功している地域のスキームを真似れば成功すると勘違いしている人たちがいますが、それは大きな間違いです。他の地域では、取り組む主体の条件も変わるため、スキームは結果として変化しないと失敗の原因になるのです。

その考える指針として、過去の成果を出しているものが、どうして、どういった判断でその構造になったのか、を知らなくてはならないのです。

(2) 仕様ばかりを質問する

建物の大きさ、初期投資の規模、道路の幅、といったような仕様ばかりを質問する人たちがいますが、これもまた無意味です。それを聞いても、全ては前提条件によって規定されていて、特に民間資金で取り組む場合には、投資家、金融機関の成約条件によってそれらは細かく修正され、結果として最後に結実するのが仕様です。

重要なのは結果としての仕様ではなく、なぜそのような仕様へと落ち着いたのか、というプロセスと、その判断の背景にある合理性です。そこを理解せずして、変数の異なる地域で参考にすることは全くもってできません。

(3) 活用している制度を質問する

制度を活用して補助金や交付金を活用すれば成功すると思っている人も多くいます。どういう制度を活用したんですか、どうやって申請したんですか、申請書には何を書いたんですか…と。これもまたその時々、なぜそれを使うことにしたのか。はたまた、あえて使わないという判断をしたのか、という背景を理解しないと、違う地域では全く役に立ちません。

ちゃんとした人は、これらのポイントを真似るとすれば、結果ではなく、ちゃんとしたストーリー、プロセスを地元で再現しようとします。そして実際には現場でやってみないとわからないので、現場に飛び込んでOJTで学びを得ようとする人もいます。

例えば、岩手県紫波町には全国各地からOJTで様々な公民連携事業開発を学ぶ人達が訪れています。現在、新たな公民連携型の公営住宅建て替えプロジェクトが進む大阪府大東市のまちづくり会社である、株式会社コーミンの代表を務める入江智子さんも、なんと子供を連れて、約10ヶ月紫波町に移り住んでいました。そこでオガールセンターというオガールエリア最後の民間事業棟の開発プロジェクトに深く関わりながら、公民連携プロフェッショナルスクール(現・都市経営プロフェッショナルスクール)に通い、民間主導型公民連携の実務を経験し、地元に戻り実践を開始しています。

このように、必要な時間をかける、必要な議論を行う、必要な交渉を行う、といった具合に、ちゃんと先行する地域を参考にするためには、必要なプロセスを学び、再現するしかありません。一見すれば、結果を真似るだけであれば考えることも少なく、短期間に進められると思いますが、それでは失敗するのです。

本当の成功事例などは存在しない

さらに過酷なのは、テストと違うのは答えだけでなく、解き方自体も常に変化していってしまうことです。事業は常に浮き沈みがあります。ある時良かった解き方に基づく事業が、数年すれば色あせたりもします。時代が変化し、競争相手も次々と出てくる現代においてそれは仕方がないし、社会の進歩でもあります。

だから本当の普遍的な成功なんてなく、その時々の解き方を自分なりに身につけるためには、小さくとも、地味でも、凡庸であっても、実践を続ける必要があります。派手なことを好み、他の成功事例をもとにした開発などをするのではない、積み上げこそ大切であるということを忘れてはいけません。

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