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自転車を活用したまちづくりと地域活性化(後編)/地域活性機構 リレーコラム
亀和田 俊明
2018/12/28 (金) - 08:00

「公共交通の機能補完」「観光戦略の推進」や「地域活性化」などを目的に年々、「シェアサイクル」を導入する都市が増え、2018年3月現在では132都市を数えています。後編では地域住民や観光客などの移動手段としての自転車の活用の実態を地方都市の事例なども交え、「シェアサイクル」とまちづくりの現状や地域活性化から考えてみたいと思います。

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自転車を活用したまちづくりと地域活性化(前編)/地域活性機構 リレーコラム

3市で中国の会社撤退も各地に広がる「シェアサイクル」

ここにきて事業者が撤退する都市も現れています。大津市で4月から事業をスタートした中国のシェアサイクル大手「ofo」は、市内66ヵ所に自転車約400台を配置し、月平均2千人の利用があったといいますが、僅か半年での撤退でした。同社は和歌山市や北九州市とも提携し、参入していましたが、同様に撤退しました。いずれも詳細が不明なものの、「経営方針の問題」という一方的な通告で、10月末にサービスを終了しています。

和歌山市などは市長の肝いり事業で、市民の交通利便性向上だけでなく、観光振興や環境問題にも対応した新しいプロジェクトとして期待されていただけに、あまりにも早い決断と言わざるを得ません。前編でも触れた中国での運営会社の参入による過当競争が背景にあるのかもしれませんが、地域に根付いてきていたという話もあるだけに、地域活性化の視点からも新しい事業者による事業継続が期待されています。

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(資料:各事業者資料より筆者作成)

一方で順調に稼働している地方都市の例が岡山市の「ももちゃり」。会員数が累計約9万人で運用開始以来、全料金プランで新規登録者の増加が継続しており、1日平均約1,500回の利用、回転率は3.85で全国トップクラスを誇っていますが、平日の通勤、通学時間に利用が集中し、日中は比較的利用が少ないという課題も。鉄道と「ももちゃり」を組み合わせた二次交通としての利用が多く、“移動のしやすいまち”としてイメージアップに貢献しているといいます。

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“移動のしやすいまち”としてイメージアップに貢献する「ももちゃり」(岡山市)

中心市街地活性化などに寄与する自転車市民共同利用システム

わが国において初めて「シェアサイクル」を本格的に導入したのが、コンパクトシティを推進している富山市でした。「環境モデル都市」として「公共交通を軸としたコンパクトなまちづくり」によるCO2排出量の大幅な削減を目指し、 2010年3月に中心市街地における自転車市民共同利用システム「アヴィレ」を導入しました。現在、市内電車環状線の沿線などの歩道上23ヵ所に専用自転車を置いたステーションが設置されています。

富山市では自動車だけに頼らないライフスタイルへの転換を目指し、中心市街地にIT技術を駆使した自転車シェアリングを導入し、特定エリアの多地点に約300m間隔でステーションを配置することで、交通網としての利便性を高めることにより、近距離の自動車利用の抑制及び公共交通の利用を促し、二酸化炭素の排出量の削減を図るとともに、中心市街地の活性化や回遊性の強化を図ることを目的としています。

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中心市街地の歩道上などステーションにターミナルや自転車を設置(富山市)

「自転車市民共同利用システム」の導入によって、これまで以上に中心市街地での移動が便利になり、中心市街地の活性化にもつながっているほか、近距離を移動する際に自動車を利用する人が減少することで、CO2の排出量の削減にも寄与しているといいます。また、富山ライトレールや富山地方鉄道の交通系ICカードと連携しているため利便性を高めています。

北陸新幹線の開業を契機として観光やビジネス目的での1日パス利用が顕著に伸びているほか、通勤、通学など市民の日常の移動手段としても定着してきており、延べ利用回数は年々増加(2017年度は初年度比で約1.8倍の6万8,283回)しています。広告収入を主な原資としたPPP(公民連携)による民設民営の事業形態ですが、今後の増設については、適地の有無や事業採算性、市側の費用もあることから、事業者の意向も踏まえつつ、検討していくこととしています。

目標を上回る利用増も自転車更新など運営経費が課題

さて、石川県金沢市では2010年の61日間に渡る社会実験の実施を経て、2012年3月に北陸新幹線の開業を見据え、「市民や来街者の利便性・回遊性の向上」や「まちなかの賑わい創出」、「環境に優しいまちづくり(クルマからの転換」を目的として公共レンタサイクル「まちのり」が導入されました。現在、市が事業全体を総括して民間会社の運営により、無人ポートが21ヵ所、有人窓口(駅前の事務局)が1ヵ所で、155台の普通自転車が稼働しています。

利用促進事業としては、鉄道などの公共交通との連携ツアー、まちなかサイクリングツアー、にし茶屋街など商店街と連携したクーポン券の発行、サッカーJ2ツエーゲン金沢とのコラボによる企画、カーフリーデーイベントへの出展などのさまざまな施策が実施されているほか、まちのりポートが公衆無線LAN基地として活用されており、こうした効果も表われて利用実績も増え、2018年8月には累計利用回数が100万回を達成しています。

観光客増に伴い、当初の10万回/年を大幅に越える179,260回(2017年度)の利用に達しました。市民利用は約1割と思ったより少ないものの、多くは来街者で観光目的での利用が9割にのぼっており、「来街者のまちなかの回遊性」には寄与しているといえます。一方で、利用回数の大幅増による自転車の消耗が激しく、2年での自転車更新、質の高いサービスを維持するためのサポートスタッフなどが必要で運営経費が増加するという課題も見えてきたといいます。

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来街者の二次交通としてまちなかの回遊性向上に寄与する「まちのり」(金沢市)

また、機器類の老朽化や料金体系、市民利用の伸び悩み、さらに明確に便益を数値化することが難しいなどの課題も挙げられていますが、金沢市では、機器類の耐用年数も経過することや現在の運営事業者との協定期間が2019年度末で満了するに際し、昨年度より外部の有識者を交えた「まちのりのあり方検討委員会」が設置され、より利便性の高い、持続可能な事業としての新たな「まちのり」を目指すとしています。

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(資料:金沢市資料より筆者作成)

持続可能なシェアサイクル事業発展へ連携体制の構築

「シェアサイクル」の本格導入都市は増加傾向にありますが、実施上の最も大きな課題は「事業の採算性」の確保です。国土交通省のアンケート調査に答えた導入都市の約6割が事業採算性を課題として認識しています。サービスに係る人件費や自転車及び機器類の劣化などによる支出に対し、収入不足という現状から利用促進と運営の継続性の確保を図るために効率的な運営方法や料金設定、事業外収入の増加策などの対応も必要になるでしょう。

さらに他自治体との貸出・返却システムの共同化の検討なども挙げられます。必ずしも収益性が高い事業ではないので、民間事業者の場合に前述の中国企業のように撤退してしまう危険性もありえなくはないので、導入都市と事業者との連携体制の構築が必要な上に、国からのさまざまな支援が望まれます。『公共性』のある「シェアサイクル」として持続可能性を保つためには、より明確なビジョンや最適な事業スキームの構築が求められてくるでしょう。

日常利用や観光利用などまちの活性化に寄与する移動手段として、持続可能な「シェアサイクル」事業の発展が望まれています。

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