深?市における「城中村」の活性化。急拡大都市に残る密集エリアと再開発の共存の道
木下 斉
2019/01/25 (金) - 08:00

急速な都市発展が生んだ、都市の中の村「城中村」

日本でも高度経済成長、雲梯成長によって開発が急激に進んだにもかかわらず、置き去りになっている密集エリアは各地に存在しています。私が高校時代から取り組む商店街というのも、そういう意味では土地の高度利用しているエリアというよりは、個人や小規模企業が不動産を持ち、その中で中小零細企業が様々な商売をしているという意味では、再開発ビルとは異なる非計画的な要素が多分にして存在しています。

実は急激な経済発展を遂げた中国の大都市部においても、低利用の土地がいくつも都市内に存在し、中低層の建物が非計画的に立ち並ぶエリアが存在しています。それらは「城中村」と呼ばれています。中国では土地所有に関する法律が都市と農村とで異なり、都市は政府所有の土地となっているものの、農村は農民たちの個人ないし組合保有が認められています。急激な都市拡大でかつて農村だったエリアが開発されたビルで囲まれるような状況となり、土地の中に土地所有が村の組合のまま残るという意味も含めて「城中村」と呼ばれるといいます。

今回は日本の首都大学東京の博士課程で学ぶ傍ら、中国での都市計画や地域活性化の取り組みに関わる金さんが中心となって深セン市をアテンドし、様々な状況を教えてくれました。日本における都市評価の変化とも符号するので、ぜひ紹介したいと思います。

世界最速で発展した1300万人都市における、城中村の再評価

深?市といえば、中国改革開放政策の特区であり、世界最大のエレクトロニクス系のハードウェアをつくり、「世界の工場」となったことで有名です。開発一辺倒かと思っていましたが、今回招聘して頂いたフォーラムのテーマは「城中村の再評価」といったものでした。なぜ私に連絡がきたのかと最初は不思議に思ったのですが、現地NGOの若手のトップの方が私の台湾翻訳本を読んでくれたのがきっかけでした。日本での商店街での取り組みと共に、そのような低利用エリアが独自に稼ぎ、独自の価値を保持しつづけるためにどのような取り組みをしているのか。それについて言及してほしいということで、声をかえてくれたのでした。

当然、深?市は急発展した1000万人超の大都市だけあり、中心部には高層ビルが立ち並び、年末にはLEDでビル全体を彩るなど派手な演出もなされていました。

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しかし、そこから少し車で移動すると、様々なところに城中村が存在し、そちらには中国各地から出てきた飲食店やら物販店、生活者の方々がいることがわかります。日本では調べてもなかなか詳しい情報が出てこないので、行くまではもっと衰退したエリアかと思っていたら、深?市に点在する城中村はそれぞれ大変活気に溢れたところで驚きました。小さな店がビルの1Fに立ち並び、ところによっては屋台なども点在していました。

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当然ながら未だに深?市に流入する人口が多いため、常に城中村には開発圧力がかかってきました。従来の都市計画においては厄介なエリアという扱いだったといいます。低利用なエリアを再開発して高度利用するという大きな方針でこれまではきていたものの、一方でディベロッパーや行政なども都市空間の過度な均質化への問題意識も出てきて、これらの城中村も効果的に残し、都市の余白、余地として機能させるべきではないかという声も出てきて、近年議論が進んでいるというわけです。対談させて頂いた深?市の都市政策に関する委員なども務める張宇星教授も城中村を前向きに捉えていくことを訴えていました。

私も日本においても路地裏などの非計画的な多様性が再評価され、再開発ビルよりも魅力を持って若い世代に共有されるようになってきている現状をお話しました。新宿副都心よりもゴールデン街が面白いと言われたり、大阪でも梅北よりも裏なんばといったように各地で開発され損ねたようなエリアのほうが猥雑で多様な店舗が集積し、計画的には実現されない独特な魅力が評価を受けることも出てきています。他国でもウォーカブルゾーンが再評価されて不動産価値も高まり、チェーン店よりは地元店舗での消費スタイルが好まれるような潮流も拡大しています。

そういう意味では、世界的に均質的な計画都市やビル開発といった高度利用ばかりではなく、多様なエリアをいかに都市内に共存させるか、という視点に重点を置くことに関心を持つ人達が世界中で増加していることを物語っています。

拠点開発やゲーム開発を通じてエリアの魅力を発信するNGO

フォーラムの主催団体の一つでもあり、城中村や、深?発展の源流となった蛇口エリアなどの城中村の活性化事業を展開する、ソーシャル・エンタープライズ「TAS」の取り組みも特徴的です。中国各地から集まる人々が混在しているため、あまり地域の文化歴史に興味のない人たちなども増えていることを変えようと、地元企業などと共にエリアの魅力を知るためのゲーム開発を行ったりしています。ゲームと言ってもオンラインのものではなく、いわゆるカードゲームと実際の都市の場所を符号する形でのラリー形式のイベントを開催しています。

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さらに城中村にある広場に面する形で、TASは活動拠点を置いています。城中村は中小ビルが立ち並んでいるため、各部屋も狭く、共有部がありません。さらに計画的に公園なども配置されていないので、事後的に広場を作ったりするそうですが、そうすると周辺からパワーの有り余った子どもたちが遊びにきます。平日の夜でもわいわいと元気です。

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このようなエリアにも魅力的な飲食店があるわけですが、それらの人気投票をしたりしているそうです。人気ナンバーワンのかき氷屋さんであったり、小さな紹興酒を量り売りするお店など多様な商業集積は、ショッピングモールでは味わえない楽しさがあります。

若い世代がみる「ローカル」の連携

今回のフォーラムで際立ったのは若い世代の参加が中心であったことです。テーマ的にはかなりマニアックだなと思ったのですが、当日は周辺都市も含めて300名以上の人たちが集まり、ネット中継は20万人が同時視聴したとのことでした。都市研究を専門にする人から、ディベロッパーに務める人、若い学生さんたちを含めて10?30代の参加者の多さに驚きました。実際のこの企画自体を主催して回しているのもまさにその世代です。

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急速に国際情勢が難しくなっていく時代ではありますが、日本の地方においても多数の若者たちが新たな時代に即したプロジェクトを始めています。そして、先立って連携を始めた台湾も同様です。そういう意味では、各国の「ローカル」の新たな価値と向き合う若者たちが連携する時代が動き出しています。大きな一つの方向だけでなく、多様なエリアがそれぞれ考え動き、互いに連携することで生み出される新たな知見が、次の時代にとっては大きな価値になっていくでしょう。

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今年3月には中国、台湾の仲間を連れて東京以西における我々や、我々の仲間が取り組む地方創生プロジェクトを案内して回り、その模様をまとめて各国で発信すると共に、具体的連携につなげようと思っています。

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