【地方転職・起業の先駆者】最先端技術で、地域から世界へ
月刊事業構想 別冊「ポスト平成の働き方」/監修 (株)日本人材機構
月刊事業構想 編集部
2019/02/06 (水) - 08:00

医療、バイオサイエンス、次世代マテリアルなどの先端テクノロジー分野で、地域に本社を置き、日本中そして世界に市場を広げる企業が多数存在する。これらの企業は高度人材を惹きつけ、地域の活性化にも貢献している。
※TOP写真:海砂などから微生物等を採取し化合物を抽出

海洋に眠る創薬シーズを探索

沖縄県うるま市に本社を置くオーピーバイオファクトリーは、日本で唯一の民間海洋生物資源研究開発会社だ。
2006年創業、海洋生物資源をサンプリングして膨大なライブラリーを構築、企業の求めるシーズ(化合物)を探索・供給するビジネスで成長している。

金本昭彦代表取締役は鹿児島大学大学院でクラゲやサンゴの生態を研究し、修了後は兵庫県内の海洋調査会社に入社、環境アセスメントに関する業務に携わる。自身で海に潜り、海洋生物をサンプリング・調査することもあり、その経験から「海洋生物を活用した新ビジネスに取り組みたい」と考え始めたという。

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「陸上の生物資源を集める企業は存在しましたが、海洋生物を対象にした企業は世界でもほとんど例はなく、日本では皆無。一部の大学が海洋生物資源のライブラリー化を進めていましたが、企業の研究開発ニーズに柔軟かつスピード感を持って対応するには大学では限界がありました。そこに起業チャンスを感じました」
 
日本は領海および排他的経済水域の面積で世界第6位の海洋国。世界の海に生息する既知種(微生物を含む)23万種のうち約15%が日本の海域に生息する。なかでも亜熱帯域に属する沖縄県は、海洋生物資源の宝庫で、未探索の生物・微生物が多いことは明らかだった。
 
当時、金本氏は沖縄の海洋調査会社・海洋プランニングに勤務しており、社長の後押しもあって起業準備に入る。ちょうど沖縄県がバイオベンチャーの誘致・創業支援を行っており、金本氏はビジネスモデルを提案し、創業補助金の採択を受けた。
 
現在、微生物や微細藻類で2万種、マクロ生物抽出物を含めると3万種のライブラリーを構築している。企業の目的や希望に応じて、ライブラリーの抽出物をスクリーニングし、医薬品の候補物質を選定する受託研究・共同研究を収益源としている。社員22人のうち7人はドクター、製薬会社出身者は5人とエース級の人材が揃う。「海とお客さまの間を繋ぐことが我々の使命。創薬や化粧品開発の上流から下流までに対応するサービスを提供できるよう、体制を整えていきます」と金本氏。沖縄の豊かな海への着目から生まれた独創的企業は、さらなる飛躍の時を迎えようとしている。

世界初の「超聴診器」

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熊本県水俣市の医療系スタートアップAMIは、「超聴診器」の開発で注目されている。胸に当てて心音や心電を分析し、わずか数秒で大動脈弁狭窄症(心臓の大動脈弁が硬化し、血液が流れにくくなる病気で、日本に100万人もの潜在患者がいると言われている)の兆候を診断できる装置だ。2017年10月にNEDOの研究開発型ベンチャー支援事業に採択されており、18年7月からは臨床試験がスタート、3年後の医療機器認証取得を目指している。
 
小川晋平代表は熊本県出身の循環器内科医。京都大学大学院医学研究科に研究生として在籍していた2015年11月にAMIを起業。その後、郷里の熊本に本社を移転し、現在は鹿児島県内の病院に週2日勤務しつつ、AMIを経営している。

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熊本地震での医療ボランティア経験がきっかけとなり、超聴診器を使った遠隔医療サービスも構想している。「熊本地震では、ネット環境がある状態で人々は避難所生活を送りました。こうした環境ならば、超聴診器のデータ通信機能を活かして、専門医が遠隔からリアルタイムで診断できます。もちろん過疎地や離島での平時の遠隔医療にも役立てられるはずです」と小川氏。今年度からAMIは地元自治体と連携し、特定健康診査(いわゆるメタボ健診)での遠隔医療の実証プロジェクトを始める。地域=課題先進地であり、東京の企業よりもいち早く課題に気づき、ビジネス化できるのだ。
 
小川氏1人でスタートしたAMIは今では8人体制になり、回路工学や超音波工学、音声解析、AI・データ分析のエンジニアが活躍する。「Facebookなどで簡単に人と人が繋がれる時代。地方だからといって人材獲得が難しいという感覚はないですね」
と言う。

山形発のNEXTユニコーン

山形県鶴岡市に、日本のNEXTユニコーン企業として注目を集める企業がある。人工クモ糸繊維をはじめとする新世代タンパク質素材の事業化を目的に、2007年に創業したスパイバーだ。同社はトヨタ紡織やゴールドウインなど名だたる企業が出資し、資本金は224億円(資本余剰金等を含む)に達する。人工クモ糸繊維を使った自動車用素材や、アパレル向け高機能素材などを開発している。

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関山和秀代表は、慶應義塾大学に在学中、バイオテクノロジーの世界的権威である冨田勝教授と出会い、2年次から慶應義塾大学先端生命科学研究所がある鶴岡市に移住。クモ糸人工合成の研究成果をもとに、博士課程在学中に起業した。
 
社員は180人以上、平均年齢は35歳。世界を変える新素材を夢に見て、化学や遺伝子工学の技術者たちが続々と鶴岡に集まってきている。「価値のあることをやっていれば、場所はどこでも関係ない。それが鶴岡だろうと、シリコンバレーだろうと」と関山氏は言い、こう続ける。「鶴岡市は小さく、決して財政が豊かな都市ではありません。にもかかわらず、県と市が折半して、先端生命科学研究所に億単位の資金投入を続けてくれた。中長期的なビジョンを持ち、リスクを取って僕たちを支えてくれる地元の期待に応えたい。その想いに変わりはありません」

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尖った技術や社会を変える事業があれば、どんな地域でも優秀な人材は集まる。3社の事例は、その事実を雄弁に物語っている。

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