【地方転職・起業の先駆者】インタウンデザイナーの役割
月刊事業構想 編集部
2019/02/12 (火) - 08:00

デザインやクリエイティブは課題解決の手段であり、地域にも欠かせないものだ。いま、デザイナーが地域に移住し、地域企業や自治体とデザインプロジェクトを推進するケースが増えている。先駆者の取り組みから見える、インタウンデザイナーの可能性とは。

中小企業の「町医者」
産地の魅力をデザインで高める

「現在、デザイン事務所の約半数は東京・大阪に集中していますが、地域には『インタウンデザイナー』が必要とされています。漁師のまち、観光のまち、農業のまちなどデザイナーが活躍できる場は様々だし、求められる役割も地域によって違うでしょう。大切なのは専門性や自己表現よりもユーティリティ。教科書はないし、カメレオンのように自ら変化することが重要だと思います」

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新山直広 合同会社TSUGI代表

そう話すのは、眼鏡のまちとして有名な福井県鯖江市で、「産地特化型のデザイン事務所」として活躍するTSUGI(合同会社ツギ)の新山直広代表。新山氏を筆頭に、メンバーは大半が移住者だ。鯖江は眼鏡以外にも漆器、和紙、箪笥、打刃物、焼物といった伝統的産業が半径10kmに点在する稀有なまちであり、同社は地元企業のデザインワークやブランディングのほか、産業観光イベントの企画・運営、自社製品開発などに取り組み、産地に新風を吹き込んでいる。
 
TSUGIが掲げるビジョンは「創造的な産地をつくる」。作れば売れる時代は終わり、産地にはブランドとクリエイティブが求められる。しかし企業や職人が単独でブランドをつくることは困難だ。産地に革新を生むために、TSUGIは「つくる」「支える」「売る」という3つの事業を行っている。 

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TSUGIは鯖江を拠点に企業ブランディングや商品開発、産業観光、自社商品開発などあらゆる事業を展開

一般的なデザイン事務所との違いは、自社ブランドを持つこと、すなわち「つくる」という機能だ。「自分たちでブランドづくりを実践し、ノウハウをためて地域に還元することが狙いです」
 
現在は眼鏡工場から出る端材活用がきっかけで生まれたアクセサリーブランド「Sur」、角物木地を使ったお弁当箱ブランド「Bento_to」など展開する。

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「支える」はいわゆるクライアントワーク。地元企業のコンサルから商品開発、デザイン制作などを幅広く手がける。代理店経由ではなく会社と直接繋がり、社長と膝を突き合わせて課題発見段階から取り組むという。
 
「町医者のような役割ですね。人材や仕事を獲得するためにも、中小企業にこそブランドが必要です。鯖江には金子眼鏡店や、下請けから木製デザイン雑貨に業態を変えたHacoaなど、ブランディングで成功した企業は多くあります。それらに続く企業を支援していきたい」
 
もうひとつの事業である「売る」は、イベントなどを通じた産地や製品の発信。現在力を入れているのが、産業観光イベント「RENEW」。期間中は鯖江市の工房・企業が開放され、職人の仕事を間近で見たり、体験することが可能になる。
 
「他にもやりたいことは沢山あります。鯖江をモノづくりの仕事に就きたい若者が最初に思い浮かべるまちにして、移住者や後継者を増やしたい。素敵な宿泊施設をつくりたいし、観光案内所兼ショップもつくりたい。すべてが上手く行っているわけではないし、成長痛もありますが、確かな手応えは感じています。僕は鯖江に骨を埋めるつもりです」

デザインとは課題発見と解決
市民の中に入り、アイデアを生む

新山氏と同じく、「地域デザイナーは医師に似ている」と話すのが、愛媛県に本社を置くビンデザインオフィスの山内敏功代表だ。愛媛県を中心に、シティブランディングや企業のビジュアル・アイデンティティ制作、地域活性化プロジェクトなどを数多く成功に導いてきたデザイナーである。

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山内敏功 ビンデザインオフィス代表取締役

「東京などから有名デザイナーを招けば良いものはできるかもしれませんが、それは瞬間的な効果にすぎません。それよりも地元の人達が自分達で続けていける力を身につければ、それは着実に地域の力として蓄積されていきます。ここに、デザインによる地域活性化の本質があるのです」と山内氏。
 
かつて東京で大手食品メーカーの商品パッケージなどを手がけ、デザイナーとして流行の最前線で活躍。30歳にして地元・愛媛県にUターンし、ビンデザインオフィスを立ち上げた。

山内氏のデザインアプローチは、今ある問題を発見するためのワークショップ、現状を深く理解するためのフィールドワーク、発見した問題から解決方法やアイデアを創出するプロトタイピングを経て、最終的なデザインを決定する、という手法である。
 
ポイントは、徹底的に市民を巻き込み、アイデアを吸い上げること。「どれだけ優秀なデザイナーであっても、たった1人の知識や創造力なんて、たかが知れています。僕が意識しているのは、かつての近江商人に由来する『三方よし』という言葉。デザイナーとクライアントの二者ではなくて、それを利用する人(市民や地元企業)も交えて三者でワークショップをしながら問題を発見し、ともに解決していこうという姿勢です。我々デザイナーの役割は、ファシリテーターとしてアイデア創出に繋がるような場やヒントを提供することです」

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「遊子の台所プロジェクト」では、市民ワークショップから移動販売やヒット商品などのアイデアを創出 

愛媛県伊予市の新シンボルマーク策定を中心としたブランディングデザイン、市民のアイデアをもとにヒット商品を生んだ「遊子の台所プロジェクト」、愛媛県内子町の「道の駅からり」のプロデュースなど、地域×クリエイティブで多数の実績がある。また、言葉とメッセージに着目した松山市のイベント「ことばのちから」(2000年~)の立ち上げにも、山内氏はプロデューサー(初代実行委員会委員長)として大きく関わった。

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言葉とメッセージに着目した松山市の「ことばのちから」(2000年~) 

多くの地域企業や自治体と向き合ってきた山内氏は言う。「デザインが必要とされる場には、何かしら問題がある。その問題を対話から見つけ出し、解決することがデザイン本来の役割です」

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