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ローカルキャリアをひもとくと、「未来の働き方」が見えてきた
「ローカルキャリア白書」出版記念イベントレポート
鳥羽山 康一郎
2019/06/10 (月) - 08:00

多様な働き方に対応する機運の高まりと共に、地域に関わる働き方、すなわちローカルキャリアという言葉が注目されている。そのような働き方を選択するきっかけや得られる経験とは何か、ローカルキャリアを育む地域の要件とは何かを、インタビューやアンケートによって分析した「ローカルキャリア白書」がリリースされた。その出版記念イベントの模様をお届けしよう。

多彩な地域、年齢、クラスターが集合した夜

ローカルキャリア白書を出版したのは、一般社団法人 地域・人材共創機構。東日本大震災の被災地復興に外からの人材が不可欠との意識から始まったチャレンジを経て、地域における人づくりがキャリア形成につながるという思いを推進するために発足した団体だ。自治体や中間支援組織を連携させて、都市部で働く個人や企業と地域社会との接点を提供している。「ローカルキャリア」とはこうして地域に関わりながら働くこと。これらが現代社会でどのような意味を持っているのか、どんな価値観に支えられているのか、そこから得られるものは何かなどを、実践者へのインタビュー調査と、東京と地方都市で働く人たちへのアンケート調査を用いて浮き彫りにしたのがこの白書だ。
出版記念イベントは2019年5月21日(火)、東京・虎ノ門の日本財団ビルで行われた。午後6時30分開始。チケットは既に完売している。70人を超える出席者は、社会人がおよそ8割、学生がおよそ2割。社会人の中には実際にローカルキャリアを実践している人や、地方自治体職員も。年齢層は幅広く、女性の割合も多い。熱意はあるが決して熱過ぎず、現状分析をきちんと行えているタイプの人々が多いと感じた。
オープニングスピーチは同機構の共同代表である石井重成氏。「なぜ今ローカルキャリアか」について、そして白書を制作した背景には東京にいては気付きにくい日本の課題が地方では当たり前にあること、それらの現在位置を明らかにする目的があることを語った。そして、島根県雲南市で他地域連携や企業チャレンジの生態系づくりに関わる宇野由里絵氏が総合MCとして進行していく。

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主催者である一般社団法人 地域・人材共創機構の共同代表石井重成氏

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総合の進行を務めた宇野由里絵氏

第一部:白書を「20分で読み解く」

イベントは三部から構成され、第一部は相模女子大准教授の依田真美氏による「20分で読み解くローカルキャリア白書」。ローカルキャリアのそもそもの定義は、ローカルは地方とイコールではなく、地域と関わりながら働き生きることであるとする。
実践者インタビューは24名を対象に行い、ローカルキャリアへのそれぞれ道のりを明らかにした。「実践する経緯やきっかけ・助けになったことや障壁・必要なスキル・メリットやデメリット・原風景や原体験など、9つの設問に答えてもらう形で進められた。得られた発見は、その過程には「揺籃期」が存在するということだ。何かのイベントに行ったからというだけではなく、幼少期や学生時代の体験から、地域で働きたいという意識を持っていた人もいる。依田氏は「ローカルキャリアは突然始まるものではない」と言う。
また、東京と地方で働く人たちへのアンケートは、働きがい・通勤環境・収入・地域との関わりなどのジャンルから質問を投げかけた。調査対象は東京の他、岩手県釜石市・長野県塩尻市・岐阜県の一部・石川県七尾市・島根県雲南市のビジネスパーソン。白書にはおよそ700のサンプルを分析した結果が掲載されている。
調査と執筆を実施した当事者として依田氏は、地域に関わりたい個人、地域との連携や協働を志向する企業、移住促進や人材育成を推進する自治体や中間支援団体にとって示唆に富む内容であると結んだ。

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相模女子大准教授 依田真美氏

第二部:都市から見た地方の可能性

第二部は、「都市部企業から見た地方の可能性」がテーマ。横田アソシエイツの横田浩一氏とWork Design Labの石川貴志氏が、都市部の企業で働く人の視線で地方の可能性を語った。横田氏は、白書のためのアンケート調査で「働きがいがあるか」の項目は都市部も地方もそれほど差がなかったことに注目し、「同じ働きがいであれば地方がいい」と導き出す。なぜなら、「周囲の役に立っている」意識では地方が高いがこれは働きがいとの相関関係が高く、働きがいがあると考える人は周りにより影響を与えていることになるからだ。働くことに際し「Will=何をしたいか、Can=何ができるか、Should=何をすべきか」は重要な要素だ。地方ではこれらがよりはっきり見えてくるという。モデレーターを務めたパソナ東北創生勤務で岩手県釜石市在住の戸塚絵梨子氏も、「それらの解像度が上がり、はっきりする」と付け加えた。
また企業に勤務しながら地域と関わる複業を持つパラレルワーカー石川氏はそれに関連して、地方と関わることで意識が変容すると言う。地方では自分一人でできないことによく直面するが、人の力を借りられる機会もまた多い。人のおかげをもって前に進む。逆に言うと「巻き込み力」を強化できる。企業外でこの力を蓄えれば、社に戻ったときにマネージメント力が高まっているのを感じるというのだ。地方出張も多いが、家族旅行もそれと抱き合わせにできる。「地方企業を手伝うと家族旅行が返ってくる」と笑わせた。
質疑応答の中で「地方転職に都落ち感はないのか」という質問に、横田氏は「地方こそ日本の社会課題を解決する最前線。しっかりと機軸を持てば、選択肢は地方」。石川氏は「地方はインプットとアウトプットのスピードが速い。このバランスのよさは都市部にはないこと」と答える。その人にとってどちらが「都」か、あらかじめ決め付けるべきではないということだ。

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横田アソシエイツ代表の横田浩一氏

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Work Design Labの石川貴志氏

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モデレーターを務めた戸塚絵梨子氏

第三部:未来の働き方が見える

第三部は、編集家の柴牟田伸子氏が、岡山県西粟倉村で国産針葉樹による家具づくりで注目を浴びている大島正幸氏に話を聞く形式で進行した。西粟倉村は、その地で起業する会社が非常に多いことで知られる。著名な家具工房で家具づくりをしていた大島氏が、西粟倉村で「ようび」を起業したのは2009年。たった一人で針葉樹の家具をつくり始め、それが評価され、今では15人の社員を擁する。ものづくりディレクター、ものづくりのマネジメント、信州大学ローカルイノベーター講師、執筆などもこなすようになり、まさにローカルキャリアの第一人者と言えよう。しかし起業した当初は、村からの理解はなかなか得られなかったという。今までの村にとっては異物のような存在だった。認めてもらうためには、村におカネを回すことが第一。それには5年かかった。6年目、多額の設備投資をして事業拡大を図った矢先、火事で工場が全焼。失意の大島氏を助けたのが、村の人たちだった。「地方では、個でなく全体の幸せを目指す」と氏は語る。
大島氏の成功を見て、全国の起業家がここで起業を目指すようになった。その数、10年間で500社。しかし2019年5月時点で残っているのは23社に過ぎない。必要スキルがなく、何をしたいかのビジョンが描けていなければ成功はおろか残ることもできない。「Will Can Should」をはっきりさせることがここでも重要なのである。
また、起業にはその地域の「本気度」も大きなファクターとなる。保守的なエリアであれば、いかに対等な立場になれるかの方法論を探る必要もある。マッチングがうまくいけば地域が人とカネを用意してくれるなど動きは速い。成功体験をシェアしながら地域も変えていくことができる。起業にあたって高いソーシャル度が必要なのは、こうした結果と結び付いて社会貢献を実現できるからであると、大島氏は語った。

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編集家の柴牟田伸子氏

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ようびの大島正幸氏

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モデレーターのNPO法人ハナラボ角めぐみ氏

大きな分岐点に立ち、どの道を選ぶか

イベント参加者の立場や関心はさまざまであったが、白書のPotential in Local Careerという節に登場する「“ふるさと”はつくれる(=自分の居場所や役割を感じられる場所を“ふるさと”と呼ぶのであれば、それは、自らつくることができる)」という言葉を想起させる内容であったように思う。特にIターンの場合は、今まで関係のなかった土地への愛着をどう持つかが重要だ。その地域での友人をつくり、ネットワークを広げる。シビックプライドを育て、今までにないユニークな取り組みを提案する。規模は小さいがそれが大きなやりがいとなるのが、地域でチャレンジするということだ。
ローカルを意識するきっかけは、誰もが必ず持つ。そこでチャレンジに踏み切るかどうかは、自分がどう成長したいと思っているかによる。そのきっかけがいつどんな形で訪れるのか、看過しないための参考書がこの白書と言えよう。移住・定住を伴わなくても、ローカルキャリアを形成することだってできる。そういった多くのヒントや気付きが、60ページの白書には満載されている。ひもとくことで、見えてくるものは多い。

ローカルキャリア白書は、下記のリンクから購入が可能。B5版カラー60ページ
https://careerfor.stores.jp/

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一般社団法人 地域・人材共創機構 https://careerfor.net/

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軽食や飲み物を楽しみながら耳を傾け、周囲の人々とネットワークを広げた夜

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