地方でこそ活かせる“根拠と想いやり”をもった経営提案
株式会社CBE-A 千葉 亮氏
荒木 三香
2018/09/06 (木) - 08:00

日本IBMにて、最年少で役員になった東京育ちのコンサルタントが、奥様の地元・山形に惚れこみ、移住・独立。山形ならではの魅力と、見えてきた地域の経営課題、そしていままでのキャリアとスキルを活かした、千葉亮氏ならではの「仕事」の捉え方、生き方についてお話を伺いました。

天才的な経営コンサルタントの意外な転身?!

2016年8月、奥様の地元である山形の魅力にとりつかれ、東京から移住・独立起業したのは、今からわずか1年半前。
システム開発会社TISで、数百億円規模のプロジェクトリーダーを担い、その後、IBCS、日本IBMで業務改革コンサルティングを5年間行い、数億~数十億円規模の先進的な業務改革をリードし、異例のスピードで役員(アカウントコンサルタント)に就任。更に、ソニー生命保険会社にて、事業戦略策定、業務改革、経営管理の仕組み化に3年半携わった経歴をもつ、天才的経営コンサルタントの千葉氏。
このキャリアを聞くだけで、IT業界、コンサルタント業界の方は、その能力の高さを容易に想像できることでしょう。

そんな千葉氏が、いままでの名だたる企業でのポジションを捨て、なぜ東北・山形へ移住したのでしょうか。

どこにもない「食の総合力」と、リゾート地 “山形”

初めて千葉氏のセミナーに参加し、その稀有なプレゼン能力と人柄、そして長くIT業界にいた方とは思えないほど、物腰の柔らかいコミュニケーション能力に脱帽したのは、今年2018年2月。セミナー冒頭で「山形は本当に食べ物が美味しく食べ過ぎて、最近スーツが入らないんです(笑)」と挨拶された千葉氏ですが、筆者が山形に移住した当初感じた山形の印象、魅力の捉え方とは、まるで違う感覚でした。

―― 山形に大変魅力を感じていらっしゃるようですが、それは別の地方へ移住しても、同じように感じたと思いますか?

いや、なかったでしょうね。こんなところはありません。
数多くのフルーツの産地・生産量、お米の種類、日本酒・ワインの酒蔵の数、肉の等級、地物野菜など、こんなにあらゆる食材やお酒が豊富で、美味しいところはないでしょう! 他県では、どこかが突出していることはあっても、これほど多くのものが突出しているところは少ないと思います。山形には「食の総合力」があるんですよ。
しかも、いつでもすぐにキャンプ場やスキー場へ行けて、500円でもおつりがくる天然温泉があちこちにある。ロードバイクとスキーを趣味とする私には、山形はもうリゾート地ですよ!(笑) たしかに寒暖差は激しいですが、そこは住居選びをどうするかを考えればいいことです。たとえば、家を建てるときにどういう住宅性能にするか、でカバーできることですから。

いままでの仕事、そして山形の「技術」継承の急務

――東京では、どのような仕事の仕方をされてきたんですか?

IT開発の現場ではⅤ字モデルという考え方があります。経営層からプログラミングの仕事まで全てを円滑に進めるためのマネジメント手法だと思ってください。建設業であれば、発注者から現場監督、設計、大工さんまでの関係のようなものです。東京ではIT開発を中心に、経営層から現場層まで、それぞれの立場の仕事をすべてやってきました。

こうした経験から、当社がお客さまを支援するときには、直接現場に訪問し、みせてもらっています。逆に、机上だけでは経営は絶対にわからない。V字モデルのように業務の流れを円滑にするためには、実際に業務をやっているところを見ないとわからないのです。そのため、経営から現場の業務全体まで、一連の「業務執行」をサポートすることを大事に経営しています。当社は経営コンサルタント業に分類されますが、この考え方を大切にしているので、当社のサービスは他社とは違うことをやっていると考えています。

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――すでに多くの企業さんを手掛けているようですが、皆さんどこからCBE-Aさんを知るのですか?

すべて、口コミです。いまはそれ以外、ありませんね。まだスタートして間もない会社なので、営業活動に力を入れられないことも要因としてはありますが。

――それは素晴らしいですね! きっと、受けた企業さんがあきらかに変わるから、他社さんへと伝わるんでしょうね! ちなみに、もし山形に来なくても、独立起業していましたか?

どこかのタイミングではやっていたでしょうね。いまと同じ仕事内容とは限らないですが。
いまやっていることは、たまたま山形で潜在的に求められていたことなんです。表面的には、「コンサルなんていらない」って皆さんいうんですけど、色々見てまわって、「本当は何らかの支援を必要としているな」と感じたんです。

独立することだけを考えれば、自分はコンサル業じゃなくても良かったんです。いままでやっていたシステム開発の力を活かしてクラウドサービスをつくり、それを全国、全世界に向けて使って下さいっていうような商売もできたわけです。でも、なぜいま「業務執行をサポートする仕事」をやっているかというと、“時間がない” からなんです。

――時間がない、というのは高齢化で働き手がいなくなるという意味ですか? それとも別の意味?

まったく別の意味ですね。
山形は先ほど「食の総合力」とお話しましたけど、それ以外にも工業製品にも非常に魅力的な製品がたくさんあるわけですね。世界的に有名なのは、オリンピックの卓球で使用された天童木工など挙げられますが、有名な企業だけに限らず、“食”と“工業”という2つの業態には非常に色んな技術が脈々と育ってきた。山形はそういう土地柄なわけです。

この“食”と“工業”の「技術」を持っている人って誰ですか?ということを着目してみると、この方々が高齢化しているんです。この技術が絶えてしまうと、山形の産業は一気にしぼんでしまいます。これは単純な高齢化ということではなく、技術がなくなることを意味しています。

山形の主力産業である食と工業だけではなく、他も同じ状況なのです。
たとえば、商店街で商売している人たちにも、たくさんの技術があります。商品の知識とか、トラブルに対する対処であったりとか、接客技術であったりとか、そういう何十年と積み重ねてきた「技術」があるんです。この技術は、東京や大型商業施設の小売ではなかなか持てない技術なんです。大型商業施設ではモノを選ぶために顧客は足を運び、商店街では相談したくて足を運ぶ、ということが実際には起きているわけです。

自分の困りごと、悩みごとを語って、色々と共感をして提案してくれる…その技術力に乏しい大型量販店が地方に進出してきたときに、商店街は同じような土台で競争をしてしまった。その結果、この「売る」っていう技術が途絶えようとしているんです。この貴重な技術を残していかないといけない。

自分が魅力を感じてこの地に来たのに、たくさんの技術が無くなると、ここに来た意味が無くなってしまうわけです。だから、「時間がない」んですよ(笑)。

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山形をはじめ、地方の可能性とは?

――千葉さんの考える、山形をはじめ、地方の可能性は何でしょうか?

UIターンを検討している人も含めて、地方には仕事がないってみんな勝手に思ってますよね。 じゃあ本当に、あなたの望む仕事は東京にはあるんですか? と逆に聞いてみたい。

仕事って、「事(こと)」に「仕える(つかえる)」と書きますよね。
自分が、仕えてもいいと思えるだけの仕事が、東京に本当にそんなにあるのか? と思うわけです。東京はお金も人も集まっていますが、その分細分化された仕事を一人が担う形になっています。そのときに、

相手ありきの仕事をしていますか? お金っていうものを見ていて、相手を見れていないんじゃないですか?

って思うことがあるわけです。だからこそ、

それって、仕事っていわなくないですか? 「東京は仕事がある」という何か幻想に包まれていないですか?

と問いかけたい。本当は、もっと仕事の意味づけであったり、志であったりが大事だと思うのです。お金をまわすことだけではなく。

今後、何かの役割分担として与えられた事をこなすだけの仕事はAIによって徐々に無くなっていくわけですが、「誰かに仕える仕事」は、地方にこそたくさんあるんだと思うのです。それは山形も、もちろん全国にとっても。

あとは、地元の人たちが自分たちの地域の良さに気づいて、もっと他県や世界中の人を惹きつける力をもち、できるだけ県外の外貨、『県外貨』を得るということを各企業がやっていく。そうすれば仕事はたくさん産み出せるわけですし、人も自然と集まってくる。これを積み重ねていけば、山形の技術も残るんじゃないかなと思います。そして、“惹きつける力づくり”をやるんだ!と思えば、別にいますぐUIターンしたって仕事は沢山ありますから。

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――これからUIターンや起業を検討中の方へ、メッセージをいただけますか?

これは、当社のお客さまにもお伝えしているんですけど…

『人が嬉しくて、自分が嬉しいこと』

を想像してください。そして、あなたにとって、その姿って何ですか? ということを形にしてください。これがキャリアを考える第一歩なんだと思います。

会社経営だと必ず「人が喜ぶ」商品・サービスがないとお金が得られないので、「人が喜ぶ」を最初に考えていきますが、自身のキャリアを考えるときにはまず「自分が嬉しい」姿って何だろう? が先だと思います。そこに気づけないと「人が喜んで自分が嬉しいな」ってとこにはたどりつけない。

私の場合はロードバイクであり、スキーであり、食であり…だったわけですね。
ここ山形は “自分にとっての嬉しい姿” だった。
そして、それを一人でやっても仕方ないので、家族で一緒にいられる、共有できる時間をしっかり取れるかどうかが、自分にとってはポイントだったというところですね。

これは人によって違うので、「自分の好きなこと、嬉しいことって何か?」を見ていくことが大事かと思います。
そして、人も自分も、両方を考えて、それぞれができるところを探す。
それさえできればあとは、どこに住むか、どこで働くか、何をして食べていくか、を考えていけばよいわけです。

――なんだか今日は、地元の魅力を再認識しました。貴重なお話をありがとうございました。
 

千葉氏の仕事のスタンスは、いかに相手の立場にたって、自分のスキルをフルに活用するか――
それは、完全に無駄をはぶいた上に成り立つ妥当な取捨選択であり、“根拠と想いやり”をもった提案。 地域のニーズに沿った、誰にもマネのできない “唯一無二の経営コンサル” なのではないでしょうか。

人生の価値を “お金” という対価だけ最優先しない千葉氏の生き方そのものに、この地域の人は 思わず惹きつけられてしまうのかもしれません。

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CBE-A株式会社 代表取締役

千葉 亮(ちば りょう)氏

1980年岩手県水沢市(現・奥州市)生まれ、東京育ち。早稲田大学大学院人間科学研究科修士課程修了。TIS(システム開発会社)にて2年間勤務し、数百億円規模のプロジェクトリーダーを担う。IBCS、日本IBMにて業務改革コンサルティングに5年間従事。数億円~数十億円規模の先進的な業務改革(Fintech等)をリードし、異例のスピードで役員職(アカウントコンサルタント)に就任。ソニー生命保険株式会社にて、事業戦略策定、業務改革、経営管理の仕組み化(ITガバナンス)に3年半従事。一方、後進育成のために週1回の勉強会を開催し、価値創造に必要なスキルを伝授。
妻との結婚を機に山形に来訪することが多くなり、山形のたくさんの魅力に取りつかれる。2016年8月、移住を決意し、独立。

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