東京から地方を支える。 四国の中小メーカーが高い発信力を誇る理由は?
IKEUCHI ORGANIC株式会社 牟田口 武志(むたぐち たけし)さん
取材・文・撮影:NATIV.編集部
2018/10/25 (木) - 17:00

タオルメーカーのイケウチオーガニック株式会社は、日本有数のタオル産地である愛媛県今治市の企業の中でも、“持続可能な社会”を目指す思想と、真摯なもの作りで異色の存在です。同時に、同社は地方のいち中小メーカーであるにも関わらず、発信力の高さやファンとのコミュニティー作りで他業種企業からも注目されています。同社の牟田口さんに、自身のキャリアやファン作りのノウハウについて聞きました。地方でもの作りをしている人や企業の担当者は必見です。

IKEUCHI ORGANIC 株式会社

全ての人を感じ、考えながら、安全と環境負荷に配慮し、オーガニックテキスタイルの企画・製造・販売を行う。(タオル、マフラー、ベッドリネン、インテリアファブリック、アパレル素材など)「今治タオル」のブランド力を持たずしても売れる商品作りに成功している今治のタオル製造者。
公式サイト

牟田口 武志(むたぐち たけし)さん

77年長崎県生まれ、埼玉県育ち。02年大学卒業後、映画製作会社に新卒入社。その後CCC、アマゾンジャパンを経て15年7月にイケウチオーガニック入社。好きなイケウチのタオルは「オーガニック120」。同社が19年前に初めて作ったオーガニックコットンのタオルで、「経年劣化しづらくて、最初に買いにきた方にはこれをお勧めしています」とのこと。

同僚も取引先も、信頼できる人しかいないという自負

―前職は誰もが知っている大企業とのことですが、そこからイケウチオーガニックに入社した経緯は?

15年7月に入社する前は、アマゾンジャパンでウェブプロデューサーをしていました。書籍のプロモーションプランを練るのが主な仕事でしたが、社歴が3年を過ぎた頃から、漠然と「今のままでいいのかな」と感じるようになったんです。長く外資系企業で働くことが全く想像できなかったのと、アマゾンでの経験を生かして、別の形で社会に貢献できるんじゃないかと思うようになりました。それが転職活動を始めた理由です。
同業他社も受けていましたが、それだとキャリアのスライドにしかならない。何年後かに、きっとまた転職を繰り返すことになる。それが本意だろうかと考えていた時に思い出したのが、イケウチオーガニックでした。イケウチのことは、以前偶然参加した鎌倉投信(※)の説明会で名前は聞いていました。その時は、「もの作りにこだわっていて、民事再生した時にファンから応援メールがたくさん届いた会社」というイケウチのエピソードに、とても驚いた記憶があります。それでイケウチが気になり始めました。会社を調べていくと、「やっぱり面白そう」と思うと同時に、細かな改善ポイントをたくさん見付けました。これは自分が入ることで何か変わるんじゃないか。そんな風に感じて、入社することにしたんです。

※もの作りや人材育成などの独自の基準で選定した日本の「いい会社」に投資する投資信託委託会社

―グローバルEC企業から地方の中小メーカーへというのは、大きな決断です。転職の際に基準にしていたことは何ですか?

もの作りの会社に憧れていました。アマゾンやその前に勤めていたCCCでは、マーケティング、バイヤーなどの立場から、色んな商品を見ていたのもありますし、商品をデザインや、素材から、作る人に至るまで多角的にモノを見ていた中で、イケウチのタオルは商品として完成されていると感じました。
3,4年前から質の高い日本製品を海外に向けてネット販売する越境ECがどんどん広がっていくのも見ていました。これからは安くて均質なものを大量に売るのではなく、本当にいいものをお客さんにきちんと届けることが重要になる。イケウチはそうした流れにも合致すると思ったんです。

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―入社から2年半が経ちましたが、前職や想像とのギャップは?

全く無いと言ったら嘘になりますが、カルチャーショックはそれほどありません。新卒で勤めたのが小規模な映画製作会社だったので、大体想像はついていました。アマゾンのときは机が今の3倍くらいの広さがあったから、狭いな、とは思いましたけどね(笑)
イケウチで働くようになってから、自分がいかに楽しめるか、好きなことができる環境にあるかを重視するようになりました。同僚も取引先も、僕は信頼できる人としか仕事をしていないという自負があります。その部分でストレスは全く無い。これはお金に替えられない価値です。

―今治は日本有数のタオル産地で、イケウチ以外にも多くのタオルメーカーがあります。他社にはないイケウチの特徴は何ですか?

うちはもの作りに本当にこだわっています。オーガニックコットン製のタオルと言っても、実は表面のパイル部分だけオーガニックコットンでできている商品も世の中にはあります。
でも、うちの商品はパイルの部分はもちろんですが、タオルについている、Iのタグまでオーガニックです。こだわり具合のエピソードとして、イケウチでは2073年の創業120周年までに、「食べられるタオルを作る」という指針を掲げています。創業から60年かけて、「赤ちゃんが口に入れても安全」という安全基準を取得して、次の60年でどうするかとなった時に、代表の池内が「口に入れても安全なタオルを超えて、赤ちゃんが食べられるタオルを作る」と言い出しました。最初は冗談だと思っていたんですが、通常は食品工場が取る厳しい安全規格を15年に取得した時から、徐々に「本気なんだ」と思い始めました。普通に考えたら反対ですよね。だって、安全規格を取るのにはすごく費用がかかるのに、売り上げに直結はしないですから。

―利益追求が第一ではなく、独自の哲学がある会社ですね。

池内は、物事を考える際の時間軸が長いんです。そこが一番すごいと思います。自分達だけが良ければいいではなく、次の世代のためにどうするべきか考えて実行に移している。前職を含め、外資企業は3ヶ月スパンで仕事に追われるのが当たり前で、長くても1年単位ですから、池内のブレない思考に惹かれました。

好きな相手と組むことがコラボの大前提

―具体的に、今の担当業務は?

入社当時はウェブマーケティング担当でしたが、16年11月から広報も兼務。17年10月からは営業統括も加わって、EC、実店舗、法人営業、海外営業も見ています。幅広いですが、自分が動ける範囲は限られるので、各チームメンバーがやりたいことを引き出して、それを仕組み化する立場だと思っています。今治が本社で京都や福岡にも直営店がありますが、僕の勤務地は東京が9割です。

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コラボ商品(宇宙兄弟とのコラボタオル)

―イケウチは地方企業とは思えない発信力があります。広報担当として工夫している点を教えてください。

池内が松下電器産業(現パナソニック)で営業企画として、広報にも携わっていたので、元々メディアに取り上げられるのは得意な会社でした。僕自身も情報発信を仕事の中で最重視しているので、今後も広報に一番時間を割いていきます。入社して、「もったいないな」と感じることがすごく多いんです。外から見ると当たり前じゃないのに、社内では当たり前だと思って見過ごしている技術やアイデアが多いので、「こんなにすごい技術があるなら、もっと前に出していきましょう」と伝えています。

たとえば、2色の糸の織り模様で細かい柄を表現したタオルがそれです。柄をプリントしたタオルはよくありますが、ジャガード織りという手法で柄を描いたタオルはあまり知られていません。でも、これはタオルメーカーからすると全く珍しくない、むしろ古い技術なんです。今年の5月に「温泉むすめ」というキャラクターとコラボレーションしてジャガード織りのキャラクタータオルを作ったら、海外の方が「こんなことができるのか」と驚いていました。タオル業界では当たり前の技術でも、世の中の人には全く知られていない。これを自分が新卒からずっと携わっていた、エンタメ業界に広げていけば可能性はもっと広がるはず。たとえば、ミュージシャンの写真をもとにタオルを作れば、従来のアーティストグッズとは全く別物の商品が生まれます。

―業界の枠を超えてコラボすることは、新たな需要を掘り起こすことになりますね。コラボしたいのはどんな相手ですか?

自分達が好きなアーティストや作品と組むことがコラボの大前提です。メーカー側に想い入れがないと、いいモノはできません。漫画の「宇宙兄弟」とコラボしたタオルを作ったことがありますが、24時間で1,666個が完売しました。単純に、僕がこの作品が好きというところから始まったコラボです。前職で、作家のエージェント会社を立ち上げた、コルクの佐渡島庸平社長と面識があって、話をしてみたらタイミングも合って、すぐに決まりました。作品のファンにも愛される商品を作りたいですし、僕らが商品を作ることで、ファンが商品を使う度に作品のことを思い出して、好きになる。そして僕らのようなメーカーを好きになってもらえる関係が理想です。
コラボは、自分がこの10数年の社会人生活の中で築いてきた人間関係の中で動くことがすごく多いです。キャリアの点が線に繋がっています。自信を持ってうちの商品を人に勧められるから、それが可能なんです。自分がちょっとでも商品の品質に疑問を持っていたら、信頼を失うのが怖くて、知人や友人とコラボはできません。

お客さん同士の交流が熱量を生む

―17年6月に、お客さんを招いて今治の工場見学ツアーを行ったと聞きました。目的や手応えは?

工場で仕事をしている職人さんとお客さんは普段触れ合うことがないので、そこの風通しを良くしたいと思ったんです。集まったのは全国から約40人。県内からの参加者はほぼおらず、皆さん飛行機代や参加費を払って参加してくださった、うちのことが大好きなお客さんです。イベントの最後に、お客さんに自分の好きなタオルについて語ってもらう時間を設けたんですが、職人は皆嬉しそうにしていました。こういう熱は、僕らがいくら伝えてもなかなか伝わりません。

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工場見学ツアーの様子

こうしたファンとのコミュニケーションは今の時代欠かせませんが、正直、精緻に設計しているわけではなく、自然に広がっている要素の方が強いです。全国にファンがいますが、中でも京都店のお客さんの熱狂が凄い。僕ら以上に商品のことが好きで、彼らが応援隊となって商品がどんどん広がっている。先月京都店のイベントで気付きましたが、京都店ではお客さん同士が交流をしています。店長が人と喋ることが好きなので、お客さんを紹介しあってそこからコミュニティーができている。それが熱量の源かもしれません。他の店舗やECにも取り入れたいと思っています。

―コミュニティー作りは、多くの企業がいま模索しているものです。イケウチでは、今後どんなやり方で進めていきますか?

構想中ですが、オンラインだけではいくら盛り上げてもコミュニティーはできないと気付きました。イベントを絡めて、そこからオンラインにも誘導してコンテンツを作っていきたい。オンラインとオフライン(実店舗、イベント)を包括的に繋げていくコミュニケーションが必要ですし、まさにそれを考える立場に自分はあります。
やりたいことは多いですが、人手が足りていません。でも、新規で大量に採用して、というのは会社の規模として現実的でない。ちょうど副業を認める企業も増えていますから、同じ思いを持った社外の人といかに仕事をしていくかが大切だと思っています。ありがたいことに、イケウチが好きで応援したいと思ってくださる方は多いので、そういう方達と組んでいく仕組みを作りたい。そういう人に恵まれていることがとてもありがたいです。

(写真提供:IKEUCHI ORGANIC株式会社)

IKEUCHI ORGANIC 株式会社 会社概要

住所
〒794-0084 愛媛県今治市延喜甲762番地(本社)
〒107-0062 東京都港区南青山6-2-13 2F(東京オフィス)
創業
1953年(昭和28年)2月11日
設立
1969年(昭和44年)2月12日
代表
池内 計司
代表取締役社長
阿部 哲也

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