収納用品からライフスタイルの創造へ。 「突っ張り棒」を進化させる家庭日用品メーカー
GLOCAL MISSION Times 編集部
2017/09/04 (月) - 13:00

家を傷つけずに収納場所をつくるアイデアがヒット

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大阪市に本社を持つ平安伸銅工業は家庭日用品の企画開発を行うメーカーである。1952年に創業し、アルミサッシの製造からスタートした。その後、1975年に日用品に事業転換。主力製品である「突っ張り棒」を発売することになる。

突っ張り棒は、アメリカなどで使われるシャワーカーテンをつり下げるポールから着想を得て生まれた製品だ。それを収納用品に転用したのが同社である。壁や床、天井を傷つけずに収納場所を増やすアイデアはヒットし、ホームセンターやGMS(総合スーパー)の増加を背景に、トップクラスのシェアをとるようになる。

同社は突っ張り棒の機能を基に、突っ張り棚、ランドリーラック、物干しなど数々の製品を開発。それらは収納の増設や家事をサポートする便利な生活用品として定着した。そして現在、その機能は暮らしを彩るためのDIYパーツ、新しいライフスタイルを演出するためのインテリアパーツへと進化している。

時代とともに製品は移り変わっても、込める思いは変わらない。「アイデアと技術で暮らしを豊かにする」という創業時からの理念を貫き通す平安伸銅工業のチャレンジを追う。

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平安伸銅工業株式会社

家庭日用品の企画開発メーカー。1952年、大阪市でアルミサッシの製造から始まる。後に日用品に事業転換し、突っ張り棒を発売。ねじやくぎを使わずに収納空間をつくる機能が評価され、トップクラスのシェアをとるようになる。最近では突っ張り棒の機能を用いたデザイン性の高い新ブランド「LABRICO(ラブリコ)」「DRAW A LINE(ドローアライン)」を発売。「アイデアと技術で暮らしを豊かにする」を理念に、時代に合わせた製品の提供と暮らしの提案を行っている。

本社所在地
〒550-0002 大阪府大阪市西区江戸堀1-22-17 西船場辰巳ビル4階
創業
1952年
設立
1977年
従業員数
35名
資本金
4,900万円

1952年

笹井達二氏が大阪市の十三で創業。日本で初めてアルミサッシの量産に成功

1975年

アルミサッシ事業を三菱商事と古河アルミ(現・古河スカイ)に売却。日用品に事業を転換し、突っ張り棒を発売

1982年

岐阜物流倉庫を設立

1989年

笹井達二氏が勲五等瑞宝章を受章

1990年

笹井達二氏が紺綬褒章を受章

1995年

防災用の家具固定突っ張り棒をリリース

1996年

笹井達二氏が退任し、笹井康雄氏が社長就任

1998年

タイのサプライヤーと業務提携

2003年

香港平安有限公司を設立

2007年

中国のサプライヤーと業務提携

2015年

竹内香予子氏(創業者孫)が社長に就任。竹内氏が女性起業家ビジネスプラン発表会「LED関西」(近畿経産局主催)でファイナリストに選出される。さらに竹内氏がベンチャー企業成長応援プロジェクト「Booming!」(大阪府主催)で一軍に選抜される

耐荷重を重視する突っ張り棒

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同社の主力製品は突っ張り棒と突っ張り棚。突っ張り棒には主にカーテンや衣類を掛け、突っ張り棚には生活雑貨等を収納する。また、突っ張り棒の機能を派生させた製品として、ランドリーラックや物干し、キッチン回りの収納、さらには家具転倒を防止する耐震ポールなどもラインアップされている。

サイズバリエーションも豊富だが、共通して求められるのが耐荷重。ねじやくぎで固定しない状態で、どれだけの重さに耐えられるかが製品の質を左右する。これまで同社の製品は耐荷重を重視して開発されてきた。製品の細部には安全性や強度の向上を求めて改良を積み重ねた結果が反映されている。

製品の多くはホームセンターを通じて販売され、突っ張り棒や突っ張り棚のシェアはトップクラス。インターネットのショッピングサイトで売れ筋商品にランクインする製品もある。同社の製品が評価される理由はなんだろうか。

平野路章管理部部長は「われわれの会社から生まれた製品ということもあり、ずっとノウハウが引き継がれてきました。だからシェアを維持できているのだと思います」と話す。シャワーカーテンのポールを収納用品へ転じた斬新なアイデア、技術力向上へのたゆまぬ努力と自信が伝承されているという。

開発と販売の壁を突破した新ブランドLABRICO(ラブリコ)

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近年、製品を取り巻く環境が変わり始めた。耐荷重を重視した機能性の改良は行き着くところまで行き着いた感覚があるという。開発はマイナーチェンジばかり。これまでの機能を落とさずにいかにコストを下げるかに終始し、他社との差別化が困難な状況に陥っていた。

一方、販売面にも課題があった。同社の主な販路はホームセンター。メーカーにとってホームセンターは棚取りビジネスだといわれる。棚を確保できれば自社製品を並べられるが、棚面積には限界があり、新製品が出ると既存製品の一部を引き上げなければならない。つまり、ユーザーに新製品を提供できてもメーカーの大幅な売り上げ向上にはつながりにくい。

そこで同社は新たな製品の開発に乗り出す。新ブランドの「LABRICO(ラブリコ)」である。男性向けだったDIYを女性でも気軽に楽しめるようにというコンセプトでつくられたパーツだ。工具不要なアジャスター、木材を簡単に接合できるジョイントなど、製品には突っ張り棒の機能と技術が生かされている。

市販の2×4材(ツーバイフォーざい:断面のサイズがおよそ2インチ×4インチの木材)をカットしてこれらのパーツにはめ込むことで容易に空間をコーディネートできる「LABRICO(ラブリコ)」は、室内を自分好みにアレンジしたいと望む女性層の間で人気が高まっている。また、そのコンセプトと意匠性の高さが評価され、2016年度の「グッドデザイン賞」を受賞した。

停滞していた製品開発の壁を突破し、DIY用品としてホームセンター内に新たな売り場を獲得できるブランドを開発した意義は大きい。

目指すは開発力の強化、そして海外市場

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2017年、同社はクリエイティブユニットとコラボレーションした新ブランド「DRAW A LINE(ドローアライン)」をリリースした。突っ張り棒を「一本の線からはじまる、新しい暮らし」と定義してライフスタイルを提案している。同社はこの製品を「平安伸銅工業という会社はこんなこともできる、とお客様に知っていただくための旗振り役のブランド」と位置づける。

これらのブランドを携えて今後はどのように進むのだろうか。平野氏は「開発力の強化」と方針を示す。「新しい製品を出さないと他社には勝てない。機能性からシフトしてデザイン性を重視した製品の開発に注力していきます」と語る平野氏。商品開発やプロダクトデザインを行う人材を積極的に採用し、新製品の投入アイテム数に目標値を定めて全社一丸となって取り組んでいる。

もうひとつ、目を向けているのが海外市場。収納としての突っ張り棒がまだ普及していないアジア地域の人口密集地をターゲットに販売していく計画だ。「海外は国内より伸びしろが大きい。今後は積極的に海外展開を図る」と平野氏。同社は国内外に広く発展のチャンスをつかもうとしている。

自分にしかできない仕事は家業を継ぐこと

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竹内香予子代表取締役は創業者の孫であり、突っ張り棒を普及させた二代目社長の娘である。大学卒業後は産経新聞の記者として働いていた。そんな竹内氏が家業を継ぐと決めたのは約7年前。その経緯を「めぐり合わせだった」と話す。

新聞記者だった竹内氏は転職を考えていた。「自分にしかできない仕事は何だろう」と模索していた竹内氏。そのころ、二代目社長である父が体調を崩す。「記者として同業に転職するべきか、家業をとるべきか」竹内氏は迷う。社会人になり、父が担う責任の重さに気づいた。社員たちに支えられながらも経営の相談ごとを打ち明けられる片腕がいないことも知っていた。

そんな時、父から声をかけられる。「もし転職を考えているのなら、うちの会社に入る選択肢もあるんじゃないか」。そこで初めて、自分にしかできない仕事は父を手伝うことかもしれないと思うようになった。父をサポートすることで自分自身のやりがいを見つけられるかもしれないとも感じた。

決断の基準はどちらにメリットがあるかではなく、どちらを選べば後悔しないか。竹内氏は「父の申し出を受けることが後悔しない選択だ」と2010年、入社を決める。それから5年の期間を経て、2015年に代表取締役に就任する。

アイデアが伝わらないもどかしさ

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竹内氏が手がけた取り組みはいくつかあるが、その中でも新ブランド「LABRICO(ラブリコ)」の開発は転機になった。LABRICO(ラブリコ)は竹内氏の発案によって始まったブランドである。女性層を中心に注目を集めて順調なスタートをきっているが、開発時には苦労があったという。「当初は私の体験からくる漠然としたコンセプトがあっただけ。それが技術者たちにうまく伝わらなかったのです」

形や構造を具体的に示せば技術者たちは製品に仕上げてくれる。しかし、竹内氏のリクエストは漠然としていた。技術者たちとは年齢のギャップや生活スタイルの違いもあり、ユーザーとしての体験もなかなか共有できない。開発を煮詰めていけない時期が約半年間続く。「焦りがありました。考えているものを製品にするためには組織としてどうすればいいのか悩みましたね」と振り返る。

その状況を打破したのがプロダクトデザイナーの採用だ。竹内氏のアイデアを絵に描き起こすことができる同世代のデザイナーの力を活用したのだ。「私の漠然としたコンセプトをプロダクトデザイナーが絵に描いてくれました。それを見て技術者たちもどのような製品をつくればいいのか理解してくれたのです」。そこから発売までは早かった。

「LABRICO(ラブリコ)」は同社がこれから進むべき新たな道を示す製品に成長している。「自分はマーケターの役割を担っただけ。デザイナーが絵を描き、技術者が構造や機能を形にし、スタッフ全員がプロモーションに力を注いでくれた。まさにリレーのバトンをつないでくれたのです」。竹内氏は全員の力が結集した成果だと実感している。

暮らしを豊かにする商品で新しいマーケットを

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竹内氏には「メーカーとして、ホームセンターと協力しながら商品を盛り上げていきたい」という思いがある。昨今のホームセンターの売り上げは横ばい傾向にあると言われている。その背景のひとつには低価格を売りにした家具店やライフスタイルショップの台頭があると竹内氏は感じている。

「日用品購入の窓口となっているホームセンターは、自分たちのテイストに合った家づくりをしたい人たちの受け皿になりきれていない」。そう危惧する竹内氏は、ホームセンターの商品を組み合わせて簡単に家づくりができるようなDIYパーツや日用品をもっと増やしたいと考えている。

「工事するほど大掛かりでなく、DIYのノウハウがなくても可能、それでいて個人のスタイルに合わせてカスタマイズできる商品で新しいマーケットを創出したい」。全国のホームセンターに多く販路を持つ同社だからこそ描けるビジョンである。

「それができれば家がいちばん心地よい場所になる。残業するなと言われなくても帰りたいと思うような家になる。家族との会話も増えますよね」。竹内氏が事業を通じて見据えるのはそんな豊かな暮らしである。

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平安伸銅工業株式会社
代表取締役 整理収納アドバイザー

竹内 香予子

1982年生まれ。2006年に株式会社産業経済新聞社に入社し、滋賀県で警察・行政取材を経験。2010年に平安伸銅工業入社、2015年に代表取締役就任。創業者である笹井達二氏の孫であり、二代目康雄氏の娘。2015年に女性起業家ビジネスプラン発表会「LED関西」(近畿経済産業局主催)でファイナリストに選出、ベンチャー企業成長応援プロジェクト「Booming!」(大阪府主催)で一軍に選抜されている。

製品のデザインから販売までのプロセスに携わる

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経営企画室広報グループの寺川紗希氏は大阪工業大学工学部の空間デザイン学科で建築・インテリア・プロダクトデザインを学んだ。その経験からメーカーで商品企画に携わりたいと思うようになる。新卒時に入った会社は大阪市内の生活用品メーカー。家電製品、自転車、アロマ雑貨などの幅広い生活用品を、デザイン性を重視して製品化する会社だった。

そこで営業職からスタート。2年目には商品企画部の立ち上げを任されることになる。先輩社員に教わる機会もないまま、製品のデザインから製造工場との交渉、コスト管理、販売まで一連の流れを担当することに。「全てが手探りでしたが、製品の生産プロセスに一から携わった経験は大きかった」と話す。

転職の動機は設計の仕事をやりたかったからだ。前職では製品設計は外部委託の工場が担っており、寺川氏は関わることができなかった。「こういう商品をつくってみたいと思ったときに、それが可能なのか自分では判断できなかったのです」。次は設計ができる会社に行ってみたい。寺川氏は、引き継いだ仕事を後輩たちがしっかり対応できるようになった姿を見届けて、新たなステージへと踏み出す。

ユーザーの目線に立った開発を学ぶ

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平安伸銅工業を転職先の候補にしたのは、人材紹介会社の担当者の「社長がおもしろいから行ってみたら」という言葉がきっかけだ。面接で出会った竹内氏は同性で、しかも若く、さまざまなことにチャレンジしていた。その人柄と話に共感し、会社の雰囲気が自分に合いそうだと感じる。また、同社は開発部署を持っており、熟練した技術者に設計の仕事を学べる環境があることも決め手になった。

入社後は開発部に所属し、物干しとキッチンの収納用品の開発を担当する。前職ではデザイン性を重視したおしゃれなものをつくるのがコンセプトだったが、同社では徹底的に機能性を追求する。「こんなところに力をいれるのか」と技術力の高さや開発の楽しさに感動したという。

いちばん心に残っているのは「世の中の商品が実際にどのように使われているかを知ること」という上司の教え。たとえばキッチンのつり戸棚にかける収納用品を開発するときは、実際に何ミリの厚さの板を使ったつり戸棚が市場に流通しているのかを自分の目で確かめることから始める。

寺川氏はホームセンターやショールームに何度も足を運び、持参したメジャーでいろいろなつり戸棚を測った。「自分たちの製品が実際に使えるものになるかどうか。当たり前のことですが、ユーザーの目線に立って開発することが大事なのだと教えてもらいました」

目指すのは会社に影響を与える、強い広報

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その後、広報の仕事を兼任するようになる。当初は新製品をメディアに知らせるくらいの業務しかなかったが、寺川氏は前職での営業の経験を生かして積極的にメディアに製品を売り込み始める。特に新ブランド「DRAW A LINE(ドローアライン)」の発売がメディア掲載の加速を促した。

同ブランドが男性受けするとわかると、寺川氏は書店に走り、男性向けの雑誌を片っ端からチェックして出版社に資料を送った。また、つてを頼ってテレビ局の担当者にもコンタクトをとった。取り上げられるのが難しいといわれる情報番組で紹介され、それを機に立て続けに他番組にも取り上げられた。寺川氏が携わって約半年で情報発信とメディアの掲載数は以前の数倍に増えたという。

今後の夢や目標を尋ねると「プライベートでは30歳までに出産して仕事に復帰すること。母であると同時にビジネスパーソンでもありたいですね」と即答。その働き方を軸に「この会社では強い広報を目指す」と話す。「広報の仕事はイベントや展示会を通じて最先端の世界にふれることができます。これから何が必要とされるのか、マーケティングから攻めていける広報になりたいですね」。さまざまな情報を収集、吟味し、業務にフィードバックして会社の方向性に影響を与える。それが寺川氏の目指す強い広報だ。

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平安伸銅工業株式
会社経営企画室広報グループ

寺川 紗希

1991年、東京都生まれ、京都府育ち。大阪工業大学工学部の空間デザイン学科で建築・インテリア・プロダクトデザインを学ぶ。前職は大阪の生活用品メーカーで営業と商品企画を担当。2016年9月に平安伸銅工業入社。開発部で製品開発と改良に携わる。その後広報を兼任し、2017年6月から広報担当専任。

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