ロボット教育で注目を浴びる教材トップメーカーの挑戦
GLOCAL MISSION Times 編集部
2017/04/27 (木) - 13:00

官民で注目を浴びるロボットプログラミング教材を開発

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生駒山地を東に望む製造業の一大集積地、大阪府八尾市。JR久宝寺駅にほど近い約3,300平方メートルの広大な土地に、株式会社アーテックの本社がある。近畿自動車道の八尾インターチェンジにも近い交通至便な立地だ。最新の物流機能を近くに併せ持ち、そこから日本全国約3,000社の教材販売店へ多種多様な教材が発送されていく。

1960年、図工・美術の学校教材専門メーカーとして創業。現在では保育園から大学までを対象に、知育玩具から図工・美術、理科、技術科などありとあらゆる分野の教材・教具を開発・販売する教材業界のトップメーカーだ。オリジナル開発商品の数は約9,000種類以上に及ぶ。

業界の常識にとらわれず変革に挑み続けながら、業容を拡大し続けてきた同社だが、2010年代に入り、これまで以上にドラスティックな変化を遂げている。科学技術教育の重要性をいち早く捉え、2014年には小学生でも学べるロボットプログラミングキットを開発。

公教育の枠を超え、民間教育の市場を切り開くと、2016年6月には文部科学省による小学校のプログラミング教育必修化の検討開始によって、一気に注目を浴びた。同社の挑戦は今、官民を巻き込んだ潮流となり広がり始めている。

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株式会社アーテック

1960年4月、図工・美術の学校教材専門メーカー・株式会社石井商会として設立。以来50年以上にわたって教育の一端を担ってきた。1980年代以降は積極的に新領域へと挑戦して業容を拡大し、1989年には株式会社アーテックへと社名を変更している。現在は、約500社の海外協力工場で商品を作り、全国約3,000社の代理店を通じて9,000種類以上のオリジナル開発教材や知育商品を販売する業界トップメーカーへと成長した。テクノロジー分野にも進出し、ロボットプログラミング教材の開発で、国内公教育のみならず民間教育市場や海外市場でも存在感を示し始めている。

所在地
〒581-0066 大阪府八尾市北亀井町3-2-21
設立
1960年4月5日
従業員数
220名
資本金
4,000万円

1960年

株式会社石井商会創立
学校教材販売開始

1983年

宇野泰正氏が代表取締役社長に就任
九州、東日本での販売開始

1987年

インドネシア、中国より輸入開始

1989年

株式会社アーテックへ社名変更

1991年

東京支社開設

1994年

大阪府八尾市に物流センター開設

1995年

法人事業部発足

1997年

大阪府八尾市に本社移転

2001年

自動物流システム導入

2004年

アートテクノ事業部発足

2007年

中国広東省に商品センター開設

2009年

大阪府八尾市北亀井町に本社社屋建設

2010年

創立50周年

2012年

国際事業部発足
アーテックブロック発売

2013年

藤原悦氏が代表取締役社長に就任

2014年

Studuino(スタディーノ)発売
アーテックロボ発売

2015年

アーテックエジソンアカデミー開講・FC事業開始

2016年

学研×アーテック「もののしくみ研究室」開講

簡単なプログラミング教材を足掛かりにロボット教育へ

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それは当初、ロボット教育まで視野に入れた開発ではなかった。車が前後左右に進むだけの簡単なプログラミング教材だ。中学技術科の選択単元であった「プログラムによる計測・制御」の必修化に対応して開発した。それがロボット教育の普及を目指す日本ロボット学会の目に留まり、「国内のロボット教育に関する課題を共有したい」と連絡を受けたのである。

海外、特にアメリカや韓国ではSTEM教育が盛んに行われている。科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、数学(Mathematics)を横断的に学ぶカリキュラムで、初等教育から高等教育まで幅広く導入されている。最適な材料とされるのが複合的な要素を含むロボットだ。

学会が訴えたのは、ねじを使わず小学生でも自由にロボットを組み立てられる教材の必要性だ。自由度の高い造形素材とプログラミングを組み合わせることで、子供たちの考える力を養い創造力を引き出すことが狙いだ。常識にとらわれない発想で市場を広げてきた同社にとって、新たな市場に先んじて切り込む好機だった。

STEM教育の重要性は認識していた。従来品の知育ブロックを売り込むために出展した海外の展示会で、海外メーカーの知育ブロックを見る機会があった。当時のSTEM教育では、数の理解や空間認識など、目的ごとに異なる形状のブロックが使われていた。それを見て開発したのが、それら全てを学べる知育ブロック「アーテックブロック」だ。

足し算の発想で開発したスタディーノとアーテックロボ

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「このブロックでロボットを組めれば、 日本ロボット学会が訴えるニーズに応えることができる」

小松哲也企画室開発チーム課長が振り返る。アーテックブロックは、縦・横・斜め全方向に接続可能で、既存のどんな知育ブロックよりも自由自在に組めるブロックだ。ただしそれをロボットプログラミング教材に生かせるスキルが社内にはなかった。

当時、アーテックが扱っていた理系教科の教材は、主に小中学校の理科の簡単な実験教材だった。電子基板やソフトウェア開発のスキルを持つ技術者は在籍せず、中学技術科のプログラミング教材は、製造を委託する中国の工場と何度もやりとりして時間をかけて完成させた。

同社の開発は足し算の発想で進められる。まずは自社で試行錯誤を重ね、できるものから作る。そこで完成したものが一定の評価を受けたら、新たに発生した要望に応えて発展させる。今回も同様の図式だった。

中学技術科のプログラミング教材で手ごたえを感じたことで、宇野泰正代表取締役会長からもこの分野に積極的に力を入れるべきとの号令がかかった。同分野を強化するためにハードウェアの技術者を採用。オープンソースを利用してロボットの制御基盤とその上で動くソフトウェアの開発に着手した。そして2014年に完成させたのがプログラミング教育用制御基板「Studuino (スタディーノ)」と、アーテックブロックをベースにしたロボットプログラミングキット「アーテックロボ」だった。

アーテックにしかできない教育をハブとしたものづくり

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最初に興味を示したのは民間の学習塾やパソコン教室だった。アーテックロボのコンセプトは「小学生でも学べる」ことだが、教科書準拠ではない。小学校にはロボット教育の受け皿となる教科がなく、教えられる教師がいなかった。

一方、塾やパソコン教室に紹介してみると、新しい顧客を獲得したい思惑と合致し予想以上の反響を得た。この反響を受けて小学生を対象とした民間向けカリキュラム開発に着手。2015年にスタートしたFC事業「Artecエジソンアカデミー」は瞬く間に全国へと広まった。2016年4月には、学研との協業で「もののしくみ研究室」をスタートさせている。

「この分野は日進月歩で、高性能化、低価格化が進行しています。その変化に迅速に対応できるよう社内体制を整備しています。一方、新しいことに取り組む際は、まず自分たちでやってみて、壁にぶつかりながら乗り越えるのがアーテックのものづくり。その基本を忘れず、当社にしかできない、教育をハブとしたものづくりを続けていきます」

公教育も動き出した。2016年6月、文部科学省が小学校でのプログラミング教育の必修化を検討し始めたのである。同年後半には総務省や文部科学省、各地の教育委員会などが主導する実証実験が始まり、同社の教材がいよいよ小学校でも使われ始めた。必修化が予定される2020年に向け、より現場に適したキットや学習法の模索が続いていく。

先代が確立した思想と地盤を引き継ぎ前向きにチャレンジ

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「不況知らずで、売り上げが落ちたことがない会社です。常に前向きにチャレンジし続けてきました」

藤原悦代表取締役社長がアーテックに入社したのは1994年。教材メーカーとしては後発組にあたる同社だが、後退する日本経済に逆行し、急成長を遂げていた。

1980年代初頭までは関西を中心に中学美術教材のみで年商数億円の事業規模だったが、当時社長だった宇野氏主導のもと、全国へ販売網を広げるとともに、小学校の図工教材領域に参入。図工・美術の領域で国内トップシェアを取るだけではなく、200億円規模の業界で、年商約20億円、中堅企業としてのポジションを確立しようとしていた。

商品開発の思想が他社とは一線を画していた。業界の主流は大量消費を前提とした大量生産型のビジネスモデル。その中でアーテックは教育現場の小さなニーズを拾い上げ、小ロットでも学校で使える金額で商品化すべく企画力を磨いていた。

「情報化と物流の高度化の時代。会長世代が思想をもって確立した地盤を継承する上でわれわれは恵まれた世代でした。現場でユーザーの声を聞くだけではなく、客観的なデータからニーズやウォンツを拾い上げ全社共有できる社内システムや、細かいオーダーにも即日対応できる最新物流システムが構築されていました」

図工・美術のトップメーカーの壁を打ち破り次世代へ

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図工・美術のトップメーカー。その壁を破ることが藤原氏の世代に課せられたミッションだ。小中学校の図工・美術領域はすでに飽和状態で新たに開拓する余地はなかった。より幅広い領域へ進出を図ったが、思うように進まない時期が続いた。

事態が動いたのは2004年だ。小学理科教材への参入に成功すると、運動会用品や幼稚園の知育玩具など隣接領域への進出が進んだ。このときに藤原氏が所属した営業部は中学校以上を対象とするアートテクノ事業部と小学校以下を対象とする教材事業部に分かれ、それぞれの市場に集中できる体制が築かれた。教材事業部の責任者として以後の業容拡大をけん引したのが藤原氏だ。

一方、アートテクノ事業部が目指したのは美術だけではなく、技術分野も含めたものづくり教育全般への貢献だった。しかし美術分野では中学から高校、専門学校、大学へと市場を拡大したものの、技術分野にはなかなか踏み込めずにいた。転機となったのは、文部科学省によるゆとり教育の見直しだった。その動きに対応すべく2008年、社内に開発チームを発足。中学技術科のプログラミング教材開発により、ロボット教育への足掛かりを得たのである。

そのころ、藤原氏は、宇野氏の側近として事業全体に関与。さらに2013年、代表取締役社長に就任すると、アーテックロボの開発や教育事業であるArtecエジソンアカデミーの陣頭指揮を執り、成功へと導いた。

エジソンアカデミーで日本一。次はアーテックロボで世界へ

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中学技術科においては、ロボットプログラミング教材のトップポジションが現実味を帯びてきた。2017年2月には、株式会社ソニー・グローバルエデュケーションとの共同開発でロボットプログラミング学習キットKOOVを発売。グッドデザイン金賞受賞のニュースも相まって注目が高まっている。

また、2015年にスタートしたArtecエジソンアカデミーは2年間で600教場を超え、2017年4月時点で教室数、生徒数ともにロボットプログラミング教室日本一の座を獲得している。

「子供たちの教育は文部科学省が作ったものに従う時代ではなくなりました。子供たちが学びを好きになってくれるような新しい教育をわれわれが率先して作っていく。そんな自負を持って事業に取り組んでいます。実際、文部科学省が小学校のプログラミング教育必修化の検討を始めた2016年6月以降、行政機関から頼られることも増えています」

見据えるのは国内だけではない。すでに世界55カ国でアーテックロボの商標登録を進めている。以前もグローバル展開に着手したが、海外では日本の教材販売店のような業界が形成されておらず苦労した経験がある。その経験を生かし、今後は物を動かすだけではなく、教材メーカーだからこそ持てるコンテンツとセットになった体験教材を開発し、世界に名がとどろく教育メーカーを目指していく。

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株式会社アーテック 代表取締役社長

藤原 悦

1970年生まれ、兵庫県出身。大学卒業後、1994年、新卒で株式会社アーテックに入社し、教材営業部に配属。2004年、事業部がアートテクノ事業部と教材事業部に分かれた際に、教材事業部の責任者となり、事業拡大をけん引。2013年、代表取締役社長に就任し、現在に至る。

顧客開拓と用途開発に積極的に取り組んだ前職時代

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坂野陽貴法人事業部営業課係長は、1986年生まれ、大阪市出身だ。滋賀大学4回生のとき、岐阜県内のコンサルティング会社に籍を置き、生産管理の研修事業に1年間携わった。そのままコンサルタントとして生きる道もあったが、生産現場に足を運び、メーカーの管理職と接点を持つなか、より企業に入り込んだ仕事をしたいと望むようになった。

新卒で入社したのは大阪市内の紙器メーカーだった。職種は営業職。企業間の物流で利用されるカートンや店舗什器(じゅうき)、イベント会場のディスプレーなど、企業のオーダーに応じて手配するという業務に3年間従事した。与えられたミッションはルート営業だが、アグレッシブに取り組んだのは新規開拓だった。顧客開拓にとどまらず、段ボールの用途開発にも力を注いだ。

「自身の働きが社内で認められている実感はありました。しかし業界の先行きに少なからず不安を覚えたのです」

デジタル化が進み、紙の需要は必然的に縮小しているのに、業界構造や商習慣はその流れに遅れとっているように思えた。段ボールの用途開発には、流通の枠を飛び越える難しさや限界も感じていた。

コンサルタント時代と前職を通じて、年配の役員層から息子のようにかわいがられた。その中の1人が坂野氏の働きを見て「もっと面白い仕事ができる会社がある」と紹介したのがアーテックだったのである。

革新的な商品とトップの情熱にひかれて入社を即決

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面接では、当時の社長だった宇野氏の話を聞いて「トップが夢を見る会社」という印象を持った。面接時はアーテックブロックの発売直前。製品にかける熱い思いが語られた。面接というよりもプレゼンテーションを受けている感覚。率直に「このブロックを売りたい」と思った。

「アーテックブロックは、他のブロック玩具にはない画期的な構造を持っています。ブロックを積むというより粘土をこねるイメージで、子供たちの思考や創造性を刺激します。そこに面白さを感じました」

夢を持っての入社。配属されたのは法人事業部だ。教材事業部が司る保育園・幼稚園・小学校とアートテクノ事業部が司る中学校・高校・専門学校・大学以外の全て、例えば書店や量販店といった一般流通、塾への教材販売、一般企業のノベルティーなどを担当する部署だ。新たな市場を作る重要な位置にある部署だが、収益構造に課題を抱えていた。

入社当時は、過去にSP事業部と呼ばれていた時代の名残があり、売り上げの大半がノベルティーグッズによるもので、安定した収益が見込みにくい状況だった。書店流通との取引はあったが、夏休みの工作キットなど期間限定のビジネスが主で、発売を控えていたブロック玩具のような通年商材のビジネスは磨かれていなかったのである。

ネット流通に活路。狩猟型から農耕型への転換に成功

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上司との二人三脚。目指したのは狩猟型から農耕型への転換だ。まず挑んだのは書店流通への定着だが、常に先行する有名輸入ブランドと比較された。同じ売り場、同じ棚で、同じ金額を稼ぐには知名度が不足した。加えて書店流通は委託が基本。委託期間が過ぎて返品の山が築かれることもあった。

活路はネット流通にあった。同社にはブロック玩具以外に約9,000点のオリジナル製品がある。アソート注文に対応する物流オペレーションも組まれていた。多品種品ぞろえ型のネット流通業者との相性は抜群に良かったのだ。

「ネット流通は商品データの作成など手間のかかる初動期を乗り切れば、自動的に売り上げが作れます。売り上げが安定すれば新しいチャレンジができる。そのような構図を作ることが狙いでした」

ネット流通の開拓により収益の軸を確立したことで攻める準備は整った。2015年にはロボットプログラミングのFC事業「Artecエジソンアカデミー」を立ち上げ、約2年で600教室以上を展開し第2の柱を打ち立てた。教室の開拓だけではなくカリキュラム作成やFCの仕組み作りにも関わった。

「アーテックにはオリジナル製品がまだたくさんあります。それらをコンテンツとして『エジソンアカデミー』を充実させ、独立した事業部へと発展させることが目標です」

入社5年目。大阪のチームを統括する立場となり、マネジャーとして模索する日々。道なき道に挑むスタイルは今後も変わらない。

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株式会社アーテック 法人事業部営業課係長

坂野 陽貴

1986年生まれ。大阪市出身。2007年滋賀大学へ編入。4回生のときに岐阜のコンサルティング会社に籍を置き、生産管理系のコンサルタントとして研修事業に携わる。2009年、大学卒業後、大阪市内の紙器メーカーに就職し、3年間営業に携わる。2012年11月、株式会社アーテックに入社し法人事業部営業課に配属。2017年より係長。

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