【MISSION】信州発:アジアに日本式介護の真髄「心」のサービスを根付かせよ/海外事業統括マネージャー
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2017/07/12 (水) - 12:00

自身の不満をもとに介護事業に乗り出す

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長野県佐久市に本拠を置き、群馬、栃木、新潟、埼玉県内で老人ホーム、グループホーム、在宅サービスや福祉用具・介護用品などを取り扱っている「エフビー介護サービス株式会社」。会社自体は昭和62(1987)年に創業。創業者で現社長の栁澤秀樹氏は、もともとフランスベッドに勤務し、その販売代理店として独立したのが始まりです。

「独立してフランスベッドの代理店をやっていた頃、母親が要介護となったのですが、お願いした介護施設に満足できなかったのがこの世界に入るきっかけでした。ちょうど介護保険がスタートした平成12(2000)年のことです」

介護施設に入所したり、ショートステイを利用したりしたのですが、対応の面で不満を感じたと言います。そこで、「じゃあ俺がやってやる」と介護老人保健施設(老健)を立ち上げました。新規事業に盛り込んだのは、栁澤氏が満足できなかった部分や、当時他の介護施設がやっていなかったサービスです。

レンタルで「24時間365日対応」の先がけ

栁澤氏が介護事業を開始した当初、老健や特養ホームでは24時間サービスを行っていたものの、介護用品レンタルはそこまで対応していませんでした。
「介護施設はその性質上、24時間対応は当たり前です。しかしレンタルはそうではなかった。ならばやろうと始めたのです。夜中急に車いすが必要になったり、年末年始にベッドや車いすを引き上げにうかがったりしました。」

今でこそ他社も追随しているこの24時間365日体制は、ことレンタルの分野では画期的でした。その根底に、「介護はサービス業である」という栁澤氏の思いがあります。
「私たちの原点は『24時間365日すべては利用者さまのために』です。それまでは介護をしてあげているという考えが支配している業界でした。しかし、『介護をさせていただく』が本来です。困っている人たちのために行うのが介護サービスですから」

給料は会社から支払われるのではなく、利用者さまからいただくもの──この思いを抱いて仕事に携わってほしいと、従業員に繰り返しています。こうした栁澤氏の思いは、経営理念とビジョンなどにも色濃く反映されています。

理念を日々繰り返しつつ、徹底した介護サービスを

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企業理念や社員の行動規範などを明記した小冊子(クレド)を作り、常に携帯させておくという会社は数多く存在します。エフビー介護サービスでも、経営理念、ビジョン、介護方針などを記した手帳を全社員に配布しています。そして毎朝の朝礼で、すべての従業員が経営方針を唱和します。社長が召集する月3回の経営会議でも、やはり経営理念の唱和からスタート。グループ会社を合わせると1700人の従業員が在籍する同社。経営理念はこうして徹底されています。

「理念やビジョンは、上層部から中間管理職へきちんと伝授させることが大切です。そうすれば下へも広がっていきます」

徹底させるべき経営理念は、数年に1回程度、変わってきました。栁澤氏がその時々の現状を見直し、より響くように変化させています。一度理念を制定するとずっと変わらない企業が多い中、この見直しは企業をアップデートしていくことにつながります。

介護改革で必須なのは「心」

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「介護事業は、対人サービスです。技術はもちろん大切ですが、人と人とが触れ合う際には『心』という概念が介在します。スキルを否定するわけではないが、心、マインド、ハートが欠けているようではこの仕事は務まらないと思っています」

栁澤氏の思いは、経営理念とともに掲げられているビジョンでも、
「ひとりでも多くの人とふれあい、沢山の『笑顔』を励みに、感謝の『ありがとう』のために…」というフレーズで表されています。経営理念に「介護改革を実践」と謳われていますが、これは単にテクニカルな要素、例えばITの導入などではなく、笑顔と感謝といった言葉の上に成り立つもの。そして、現状のサービスを踏襲するのではなく、その時点で利用者が求めている内容へ変更していくことを「改革」と呼んでいます。例えば、毎年ルーティーンのイベントを繰り返すよりも、時代を採り入れた企画を発案して提供していくなどです。

また、国内の各施設にOT(作業療法士)やPT(理学療法士)、セラピストを派遣し、常にADL(Activities of Daily Living=日常生活動作)の維持・向上に務めるサービスを行っています。実は、これ自体に介護報酬が発生するわけではありません。利用する人々のためになる、新たな価値の提供です。ビジョンの通り、たくさんの笑顔が生まれているに違いありません。

こうやって大切にされている「笑顔と感謝」は、これからのエフビー介護サービスを語る上でも重要なキーワードとなってくるのです。

高齢化社会は、日本もアジアも同じ道のり

同社では2012年に、海外進出を宣言しました。その背景には、日本の介護マーケットが縮小傾向を示すだろうという読みがあります。栁澤氏いわく「あと20年は持つが、その後は先細り」との予測がなされています。また、同社が50年、100年後も企業として存続していくためには、日本だけにとどまって規模を漸減させていくわけにはいきません。海外進出の方針を打ち出してからは、従業員が海外にも目を向けるような施策を行っています。それが、「グローバル賞」。年に一度、特別に貢献度の高い優秀な従業員を表彰して、海外への視察研修に送り出しています。

「入社4?5年目の若い人たちが中心です。子会社のある台湾や、これから開発していく予定の中国を視察してきてもらっています」

少子高齢化は日本が際立っているように思われがちですが、アジアでも確実に進んでいます。経済の成長度合いと高齢化率はほぼ比例しているからです。日本の次にはシンガポール、そして台湾が続きます。また中国は一人っ子政策の影響があり、やはり高齢化が進んでいます。日本の何倍になるのかまだ予測もつかないマーケットが、アジアには広がっているのです。

目標は、アジアに日本式介護サービスを根付かせること

これだけ広大なアジアのマーケットを目の前にして、同業他社が黙っているわけはありません。大手の介護サービス企業は何社も、既に中国へ進出を果たしています。日本の介護サービスは医療と並んで非常に高水準であると捉えられていますから、その先進の介護が最大の売り物。そして中国の介護事情は日本より30年から40年遅れている。そこへ日本の高水準介護を持ち込めば、当然ニーズは高い──はずでした。しかし、同社が見るところ「どの会社も苦戦している」のが現状です。
「日本の介護方式をそのまま輸出するとなると、ターゲットは富裕層に絞られます。それが爆発的にヒットしているという声は聞こえてきません」と同社の幹部社員は語ります。
日本式の高度な介護技術や洗練されたシステムが中国の現状に合わないのかもしれませんが、少なくとも北京や上海では深く根付くところまでは行っていないのです。
しかし、エフビー介護サービスが持ち込もうとしているのも日本式介護サービス──確かにそうなのですが、ここでクローズアップすべきが先ほどの「笑顔と感謝」、そして「困っている人たちのために」という思いです。これも紛う方ない「日本式介護サービス」なのですから。

台湾、ベトナム、タイ、そして中国へ

同社が海外進出を宣言して以来、若い日本人スタッフをアジア視察へ送り出すのと併行して、中国人スタッフに自社の施設現場での研修・体験を通じて日本の介護を一から学んでもらいました。先行している大手介護サービスは、日本人を送り込んで現地のスタッフを指図するという図式ですが、同社は日本人とともに日本で高い教育を受けた中国人スタッフも一緒に行くわけです。日本語での意思疎通も完璧なので、コミュニケーションギャップがありません。

これまで、足がかりを築いてきた国々は──
台湾:実は一度進出して失敗したが、独自資本でレンタル事業を開始すべく準備中。
ベトナム:内閣官房が進める「アジア健康構想協議会」に参加。ベトナムからの技能実習生を受け入れ、日本の介護技術と共に弊社の施設に於ける接遇をしっかりと習得して頂き、その数年後にベトナムに施設を展開して卒業した実習生の就労先を提供する言わば育成した人材を還流する計画。

タイ:タイでの事業展開構想をJICAが採択し、マーケティング調査を進める。
他に、マレーシアにおいても構想が進められています。
そして満を持して中国への進出。西安、重慶と言った内陸部の都市で、富裕層ではなく一般層をターゲットとした介護事業をスタートする計画を進めています。

*アジア健康構想協議会:官民で日本の介護サービスを高齢化の進むアジアへ輸出するため、政府と企業や団体が連携した協議会。

南京の病院とコラボし、今までなかったサービスを

南京市は中国江蘇省の首都で、総人口は820万人余り。古い歴史に彩られた重要な都市です。エフビー介護サービスでは、この地にある国立系の総合病院とコラボレーションした介護施設をオープン予定です。最大の特徴は、医療と介護の機能が併設されている点。医師が3名常駐し、看護師の採用も25人以上を見込んでいます。医療に関する部分は南京の病院が、それ以外は同社が担当します。
「日本から進出した介護サービスで、この形式を採っているところは初めて」と栁澤氏は自信をのぞかせています。日本国内でも、医療法人が医療と介護の両機能を備えているケースはあるものの、両事業者のコラボはほとんど例がありません。

「合弁会社に入った利益は出資比率に応じて配分するよう考えています。当社の出資比率は51%ですから、マジョリティを取れています。」
利益を確保した上、介護に「困っている」一般層のために日本式介護を提供。理念通り「笑顔と感謝」を生み出すことができればと願っております。

成功例ができれば、中国人の気質として「うちでも」という声がかかることも期待しています。そのまま別の都市へ持って行けるビジネスモデルとして、有望です。実際、現地での合弁契約書調印式の模様が大々的にメディアに採りあげられました。

今は第三の柱、近い将来は第一の柱に

エフビー介護サービスが手がけている事業のうち、大きな柱は「介護施設運営」「介護用品レンタル」、そして「海外展開」の3つ。「近い将来、上場するのが夢」と栁澤氏が語るように、この海外展開が将来的に第一の柱に育つような青写真を描いています。
日本で大事にしてきた「資格よりもマインド」「困っている人たちのために」「24時間365日対応」は、アジアへも輸出できる「商品」です。
「最終的にはインド進出かな。その時私はもうこの世にいないでしょうが」と笑う栁澤氏。しかし、当面はまず中国での成功を実現させなければなりません。そのためには、このミッションに相応しい人材の確保が急務です。日本式介護、つまりエフビー介護サービスのマインドを海外でも根付かすことのできる人材──確保できれば同社にもその人材にとっても幸せな未来が開けてくるでしょう。

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エフビー介護サービス株式会社

有料老人ホーム、グループホーム、居宅介護支援、デイサービス、訪問介護、福祉用具事業等を経営。「24時間365日対応」「すべては利用者様のために」を謳い、オンリーワンのサービスを実施。介護改革を掲げてアジア各地へ事業展開予定。

住所
〒385-0021 長野県佐久市長土呂159-2
設立
昭和62(1987)年
従業員数
900名(グループ全体:1700名)
資本金
1,000万円

1987年

エフビー信州株式会社設立

2000年

介護事業開始

2002年

エフビー介護サービス株式会社に商号変更

2004年

有料老人ホーム開所

2014年

亞洲福祉諮詢股?有限公司(台湾)設立

2017年

中国大連にて小規模多機能型施設開所予定

スキルよりも心、介護は誰のためか、をぶらさずに

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エフビー介護サービスが掲げる「日本式介護」とは、先述のように「心」を最重要視するもの。笑顔を送り、笑顔が返ってくる。ありがとうをもらい、対価への感謝を返す。対人サービスの難しさは、機能面やビジネス面だけでは括ることができない点にあります。「介護は誰のためなのか」をしっかりと把握した人材でなければ、海外展開要員とはなり得ません。

「日本式介護サービスは、高いブランド価値を持っています。しかし、いろいろな事業者が進出して、成功もすれば失敗して撤退もして、淘汰されていくでしょうね」

そのとき残るのがエフビー介護サービスであってほしい、と栁澤氏は言外に語ります。海外、特にアジアでの介護サービスはまだ黎明期。ターニングポイントの今だからこそ、ぶれない気持ちに支えられた海外展開が重要です。

海外展開に対するモチベーションとは

日本式介護サービスをアジアに広め、浸透させるという事業には、まだ先人がいません。未知のフィールドへ踏み出して行くには、強い意思とモチベーションが必要です。先陣を切ること──まさにそれがやりがい。誰もやらなかったことをなし得るという、ある種のロマンを抱きながらコトを行っていくわけです。さらに、海外展開が軌道に乗り成功と言われるようになれば、そのときのポジションはスタート時よりさらに上位となるでしょう。会社の規模拡大にも寄与するのですから、自身のライフプランも達成しやすくなるはずです。将来的な社内でのポジションも視野に入ってくるかもしれません。

アグレッシブさとマインドを併せ持った人材がほしい

長野県佐久市というローカルからグローバルな展開を見据えているエフビー介護サービス。海外展開に際して栁澤社長から聞いた「こんな人材がほしい」という要件を列挙してみます。

アジアの最前線でアグレッシブに活動できる
ブランド価値の高い日本式介護サービスの中でも、エフビー介護サービスの価値をさらに高められるよう、アグレッシブな事業活動をしていかねばなりません。開拓者として力をふるい、リーダーとして先頭に立てる人物が求められています。

スピード感があり、有言実行のタイプ
アジア社会、特に中国においては、スピード感が重視されます。SNSなどを通じて情報伝達はまさに光速。その速さに対応するためには、まずやることを言葉に発し、自ら行動に移していくという強さも求められる人材の要件です。

野心を持ちつつも「困っている人のために」という目的を忘れない
「日本式介護サービスで成功したい」は「感謝されたい」と同義です。しかし、困っている人たちのために尽くすだけでは、単なる奉仕に過ぎません。感謝されながらも対価を頂戴することで、ビジネスモデルは成立します。そのバランス感をしっかりと保っていることが最重要ポイントです。

旧来の企業では、海外支社へ転勤する社員は「幹部候補生」と見なされていました。しかし、これから海外へ乗り出していく企業にとっては、最悪の場合失敗して撤退という未来が待っています。そんなリスクを負いながらも先陣を切って開拓していくことに、大きなやりがいを感じる方も多いでしょう。流した汗と出した知恵が海外での自己実現につながるとともに、アジア圏の高齢化社会を優しさで包む一助になるかもしれません。

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エフビー介護サービス株式会社 代表取締役社長

栁澤 秀樹

1949年生まれ。長野県佐久市出身。
1970年フランスベッド販売株式会社へ入社。その販売代理店として独立し、1987年にエフビー信州株式会社を設立。 2000年介護保険制度開始とともに同事業へ参入。福祉用具、訪問介護、居宅、の事業を手始めとする。 2002年に介護老人保健施設(老健)を立ち上げる。 2002年にエフビー介護サービス株式会社へ商号を変更し、関東・信越に業容を拡大。 現在、信州から海外展開を積極的に進めている。

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