流体と粒子を計測するコア技術で あらゆる産業分野にソリューションを展開する精密計測機器メーカー
GLOCAL MISSION Times 編集部
2017/06/26 (月) - 17:00

日本初の風速計を開発。
「風速計の代名詞」といわれる製品は国内トップシェア(※)

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日本カノマックスは大阪府吹田市に本社を持つ精密計測機器メーカー。1934年に「加野研究所」として創業し、約80年の歴史がある。大阪本社を基点にアメリカ、中国にもグループ企業を有し、グローバルに事業を展開する企業である。

創業者が開発した日本初の風速計「アネモマスター風速計」と、さらに機能性を高めた「クリモマスター風速計」はいまや風速計の代名詞とまでいわれ、国内トップシェアを誇る。また、風速計のみならず、粉じん計、騒音・振動計、パーティクルカウンター(微粒子測定器)、流体研究計測機器など製品のラインアップは多岐にわたる。

しかし、元をたどれば同社の技術は流体と粒子を計測することに尽きる。風、空気、水などの流れと物質に含まれる微粒子を多様な視点で計測し、その結果を自動車、半導体、製薬・バイオ、食品、鉄鋼、医療、建築などあらゆる分野に役立てている。

80年の歴史の中で培ったコア技術を磨き、精密計測機器の中でもニッチな役割に徹しながら、国内はもちろんグローバルにも飛躍する同社の魅力を見てみよう。

※日本カノマックス株式会社公式サイトより

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日本カノマックス株式会社

気流や水流などの流れ(Fluid)と目に見えない微粒子(Particle)を精密に計測する技術を応用した製品やサービスで、最良の計測ソリューションを提供。環境、健康、エネルギーなどサスティナブル(持続可能な)社会に欠かせない分野をはじめ、自動車、航空宇宙、半導体、電子機器製造、重工業、鉄鋼、造船、製薬・バイオ、食品加工、医療、建築・土木など、あらゆる産業分野を対象としている。

本社住所
〒565-0805 大阪府吹田市清水2-1
創業
1934年3月(加野研究所として創業)
設立
1951年6月
資本金
97,500,000円
従業員数
144名(2016年6月現在)

1934年

加野五郎氏が、大阪市において「加野研究所」を創立。主として、京都大学各教室から委託を受け、研究用特殊精密電気計測装置の研究・製作を開始

1947年

アネモマスター風速計を開発

1951年

「加野研究所」を母体とし、精密電気計測装置の研究・開発・製造・販売を目的とした「日本科学工業株式会社」を設立。アネモマスター風速計などの量産体制を確立

1962年

気流計測分野にてアネモマスター風速計の品質が評価され、市場占有率第1位に成長

1966年

大阪府吹田市に移転

1972年

大気汚染公害などの環境測定器分野における高温用アネモマスター風速計およびピエゾバランス粉じん計の研究・開発に対し、通産局より技術改善費補助金を授与される

1973年

中小企業研究センター賞を受賞。全国で6社のみの受賞

1984年

営業部門を独立させ、「日本カノマックス株式会社」を設立

1985年

新技術開発事業団による開発委託で、日本初の2次元FLVを開発

1986年

日本初のクリーンルーム用CNCを開発

1988年

風速・温度・湿度の同時測定を可能にした、新製品クリモマスター風速計を発売

1990年

乾電池での測定を可能とした日本初のポータブルタイプのレーザーパーティクルカウンターを発売

1994年

ビル管理法に定められている空気環境測定の6項目(気流・浮遊粉じん・温度・湿度・CO濃度・CO2濃度)を1台で同時測定可能なオートビルセットを発売

1997年

風速計の代表機種を軽量化したアネモマスター風速計6112を発売

1998年

製造・販売・サービスを一体化させた「日本カノマックス株式会社」が始動

2001年

新型クリモマスター風速計を発売

2002年

NASA(米国航空宇宙局)にクリーンルームモニタリングシステムを納入。ハッブル望遠鏡のパーツ製作・組み立て用クリーンルームの清浄度監視に貢献

2004年

米国のAIRFLOW子会社を買収し、改組して新たにKANOMAX USA, INC.事務所を設立(ニュージャージー州)
グローバル経営統括機能を分離独立させ、KANOMAX HOLDINGS, INC.設立(ニューヨーク州)

2010年

中国の新工場が稼働開始

2012年

MSI.TOKYO株式会社(本社:東京)を買収し、カノマックスグループ子会社化
世界最小・最軽量のポータブル粒径分布測定器のPAMSを開発

2013年

世界最小・最軽量(発売当時)のポータブルパーティクルカウンター Model 3905を発売

2014年

高速応答性パーティクルカウンター ミキシングCPC Model 3650を発売
キャプチャーフード風量計 Model 6710を発売
新モデルとなるIAQモニター Model 2212を発売

2015年

小型風量計 TABmaster mini Model 6750を発売
ファシリティモニタリングプラットフォームのe-Scanを発売
米国Fluid Measurement Technologies社を買収し、Kanomax FMT, Inc.として子会社化
販売・サービス機能強化を目的に、加野儀器(上海)有限公司を設立
ナノサンプラーII Model 3182を発売

2016年

Aerosol Devices Inc.社エアロゾル捕集装置の取り扱いを開始
世界最小・最軽量ポータブル粒径分布測定器 PAMS Model 3310を発売
レーザドップラ流速計 Smart LDV IIIを発売
室内空気環境測定器 オートビルセットIII Model 2100を発売

オフィスなどの室内空気質を計測する風速計

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「流体」を測る技術とはどのようなものなのか。その問いに、田中康恵常務執行役員・先端計測事業本部長は身近な例を挙げた。「たとえば一定面積以上のオフィスなどは快適な空間を維持するために、空調設備の風の速さや温度などを測ることが義務付けられています。その計測に当社の製品が使われています。空調で空気を管理するためエアコンなども測定します」

国内トップシェアをとる「アネモマスター風速計」「クリモマスター風速計」のことである。オフィスにとどまらず、工場やクリーンルーム、冷蔵冷凍設備などさまざまな場所で使用されている。風速、風温、湿度をリアルタイムに測れる性能の良さに加え、ポータブル製品として持ち歩いても故障しにくい丈夫さが高評価の要因だ。

最近は海外メーカーも台頭してきているが、「おそらく国内では向かうところ敵なし」と田中氏は自社の製品に自信を見せる。計測器には同じ機種でデータを取り続けたいというユーザーニーズもあり、同社の風速計を一度手にしてもらえば、そのまま継続使用される強みもある。風速計ならカノマックスといわれるほど、同社の製品は計測市場に浸透している。

自動車から生物まで、幅広い計測対象

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流体を測る同社の技術は、空調のような環境計測だけでなく研究開発領域でも力を発揮する。たとえば自動車の車体にかかる空力抵抗。車体周りの空気の流れ方次第で自動車の燃費が変動することはよく知られているが、その流れを解明する時に同社の計測技術が使われている。

「最近ではカナブンの飛翔(ひしょう)を解明する研究にも携わっています」と田中氏は意外な例を紹介する。カナブンが飛ぶ際にできる空気の流れを解明するために、同社の非接触流体速度計装置が使われる。目的はドローンのような災害救助ロボットの開発。カナブンを模したロボットを飛ばす際に、カナブンがつくり出す空気の流れを再現する。そこに同社の技術が用いられる。

このように同社の計測対象は、自動車もあれば生物もありと実に幅広い。「流れるものなら何でも測ります」と田中氏が言うように分野を問わない。産業、医療、生物などあらゆる分野の研究者たちと研究開発を行っている。特に流体計測機器を総合的に扱うメーカーは世界に3社のみと言われており、同社は国内唯一の貴重な存在だ。

環境や健康に影響する粒子を計測する技術

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一方、「粒子」を測る技術はどのように使われるのだろうか。田中氏は一例としてブラックカーボンモニターを挙げる。ブラックカーボンは大気中に含まれる微粒子のひとつで、地球温暖化に最も影響を与えるといわれている。そのブラックカーボンの変動を同社の製品が北極や八方尾根でモニタリングしている。

また、大気汚染物質PM2.5の計測でも同社の製品が使われている。大気中の粒子を測る粉じん計やパーティクルカウンターなどである。粒子は気候変動や大気汚染の問題に深く関わっており、同社の製品は地球環境や人の健康にじかに貢献していると田中氏は自負している。

その一方で、「水と空気が混ざり合う混相流の分野になると、非常に計測が難しい」と課題を示す。流体計測の中でも気液二相流などを計測する技術を持つメーカーは少ない。エネルギー問題に関わる混相流の計測技術を上げていくことは、精密計測機器メーカーにとって今後の大きな課題だという。「だからこそチャレンジできるのがおもしろい」と、事業の意義とやりがいを田中氏は強調する。

ニューヨークの自宅兼事務所で海外事業を立ち上げる

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カノマックスグループを率いる加野稔代表取締役会長兼CEOは、2007年に代表取締役社長兼CEOに就任した(2011年より現職)。加野氏は創業者である加野五郎氏の孫にあたる。「創業家に生まれましたが、私は音楽家を志していたので、家業が自分のキャリアに関わってくるとは思っていませんでした」と語る。

幼少期からバイオリンの英才教育を受け、音大を経て、世界最高峰といわれるアメリカのジュリアード音楽院へ進学。20歳でニューヨークに移り住む。しかし、手を痛め、プロのバイオリニストの夢を断念することに。「ショックでしたが、アメリカはセカンドチャンスの国。敗者にも復活の機会が豊富にある」と一念発起。大学に入り直して経済学を学んだ。

そんな折、先代の社長だった父がカノマックスの米国進出を決め、ニューヨークに居を構える加野氏が海外事業の立ち上げを引き受けることになる。自宅アパートの一角を事務所にして、登記から経理、顧客開拓まで全てひとりで行った。その傍ら、日本から派遣されてきた技術者に教えを請い、自社の技術についても必死に学んだ。「会社がどのように生まれるのかを知り、人ひとりを雇う重みを実感したのがこの時です」。この経験が加野氏の経営哲学の礎になったという。

経営をめぐり先代社長に選択を迫る

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そんな日々を通じて、加野氏はカノマックスの技術と事業に限りない価値を見いだしていく。「目立たないが社会にとって価値のある技術。しかも学び続けることでしか提供できないソリューション。われわれは高い知力を使って社会貢献をしている」と強く感じた。

しかし、会社が秘める大きな可能性に懸けようとする加野氏の前に立ちはだかったのが、先代社長との方針の違い。「先代は会社が安定するとそれ以上のチャレンジをしないのです。カノマックスはこんなところにとどまっている会社じゃない。そんな葛藤がありました」

停滞感がまん延していたという会社をじりじりとした気持ちで見ていた加野氏は、ある日、社長に選択を迫る。「うちのような会社がチャレンジしないなどありえない。自分で陣頭指揮をとるか、私にやらせるか決めてくれ」と。「親子関係が壊れてもいい」と覚悟を決めた上での行動だった。

結果、加野氏は経営権を譲り受けることになり、新社長として存分に手腕を発揮することになる。技術者集団の色が強かった同社にマーケティングを重視したお客様本位の考え方を浸透させ、受け継いできたコア技術を新たなサービスへ展開させるイノベーションに力を注いだ。今もリーダーシップをフルに発揮してカノマックスグループを率いている。

先人から受け継いだ技術でグローバルニッチリーダーへ

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加野氏はCEOメッセージの中に「グローバルニッチリーダーを目指す」というビジョンを掲げる。「空調業界には様々な企業が参入していますが、当社のような精密計測機器メーカーが参入するのは、その中でもニッチな市場です」

同社はそのニッチ市場をあらゆる分野にできるだけ多くつくりたいという。「大手企業はカバーできないが、かといって、技術という参入障壁があるので誰でも入れるわけではない、そんな市場が確実にある。先人から受け継いだ流体計測の技術がダントツに優れていれば、そこから必ず世界に手が届くと考えています」

それが加野氏の掲げるグローバルニッチリーダーだ。加野氏は長く米国を拠点にしている経験から、その可能性を実感している。また、事業の成長性を示唆する例として、アメリカのアルゴンヌ国立研究所やローレンス・バークレー国立研究所など世界のトップクラスの研究機関と共同研究を行っていることも紹介する。イノベーションに富み、あらゆる産業を支える日本カノマックスの技術は着実に世界へ広がりつつある。

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日本カノマックス株式会社 代表取締役会長兼CEO

加野 稔

1968年生まれ。創業家に生まれ、幼少のころからバイオリンの英才教育を受け、20歳で米国のジュリアード音楽院に進学。その後、手を痛めて音楽家の夢を諦め、ニューヨーク大学で経済学を学ぶ。1996年、日本カノマックス入社、海外事業立ち上げに参画。米国法人役員、海外担当役員、本社専務取締役を経て、2007年に代表取締役社長兼CEOに就任。2010 年より代表取締役会長兼CEO。

家族のいる関西へUターン

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村上敏樹専務執行役員・Corporate-EVP兼環境計測事業本部長は、同社に転職して約4年。現在の仕事は人事、総務、経営企画、情報システムなどの経営管理全般と環境計測事業の本部長およびアジア担当。その幅広さに「4年どころか、もう20年以上この会社にいるのではないかと思うくらい充実した時間を過ごしてきました」と振り返る。

前職は人材総合サービス系企業で経営企画や教育ビジネスの立ち上げに携わっていた。拠点は東京。その間、中国などアジア事業に携わったこともある。転職の動機のひとつは関西へのUターン。前職では家族を関西に残し、8年間、東京で単身赴任をしていたからだ。

また、前職に携わっていた16年の間に新しい世界にチャレンジしてみたいという気持ちが生まれたことも転職を後押しした。「昔からメーカーに憧れがありましたし、自分が全体を見渡せるくらいのポジションで仕事をしたいとも思っていました」と、関西にある複数のメーカーを視野に入れた。

加野会長の情熱と経営方針に共感して入社

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日本カノマックスを選んだ理由は何だったのだろう。「決め手は会長である加野稔氏」と村上氏は言う。「面接での加野会長の話がすごくおもしろくて、この人のもとで働きたいと思ったんです」。加野氏の精密計測機器に対する情熱、知識の深さ、さらにこれからグローバル化を加速するという経営方針に刺激を受け、共感を覚えたという。

入社当時は経営企画部の一員としてスタート。最初は戸惑いもあった。「会社の人たちが製品を番号で呼ぶんです。どれがどの製品なのかさっぱりわかりませんでした」。今では笑い話だが、「まず、そこから面食らった」と村上氏は話す。

もうひとつ、不安だったのが原価管理。経営企画部として戦略的に原価を見る役割を与えられたが、メーカーには材料や在庫などがあり、前職の人材サービスの原価とは異なる点が多いことに戸惑った。「メーカーでの実務経験がないぶん、理解に時間がかかりました」

しかし、工業簿記の知識をもとに、現場と関わり合いながら事業や技術への理解を深めていく。そうして現在、経営企画の仕事と兼任で環境計測事業本部長として事業全般を見ていく立場に至る。

会社の将来を見据える立場で

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村上氏は同社の製品や技術が評価されている背景に、同社がこれまで培ってきた組織風土があると見る。「この会社には仕事を愚直にやり続けられる気持ちの強さと経験の積み重ねがある。たとえば5S活動(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)ひとつとっても、見えないところこそきれいにしている。そういう力が事業の成長につながっているのだと思います」

今後の取り組みについては、専務執行役員として「技術力の承継」を課題のひとつに挙げる。若手の技術者が減少傾向にある中で、どのように技術力を引き継いでいくのか。村上氏はまだ自分自身の考えにすぎないと前置きした上で、「大手企業での経験を持つ高年齢者の技術力を借りながら技術を維持向上させ、その一方でカノマックスのDNAを持つ若手技術者を育てていくのも一案ではないか」と語る。

入社後、「カノマックスの事業には物事を掘り下げていく情熱と継続して学ぶ努力が必要だ」と、自らを鼓舞し役割を遂行してきた村上氏。約4年が経過した今、転職時に重視した「全体を見渡せるポジション」に立ち、会社の将来をも見据える仕事に携わる。「この会社に入って、朝起きて仕事に行くのをいやだと思ったことがない」と言い切る様子に日々の充実ぶりがうかがえる。

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日本カノマックス株式会社 専務執行役員・Corporate-EVP兼環境計測事業本部長

村上 敏樹

総合人材サービス会社を経て現職。ビジネス・ブレークスルー大学大学院経営学修士修了。東京を拠点にしていたが、関西での勤務を求めて、2013年に日本カノマックス入社。

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