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人生はつながっている。アパレル業界からキャンプ場スタッフへの転身
TINY GARDEN 蓼科 企画・地域コーディネーター 粟野 龍亮さん
(株)くらしさ 長谷川 浩史&梨紗
2019/08/28 (水) - 08:00

日本版DMOの立ち上げに一役買いたい

伊勢で地方暮らしの第一歩を踏んでみて、その感触に間違いはないと感じた粟野さん夫妻は、とある求人に目が留まる。

“長野県茅野市による、観光を活かしたまちづくりを推進する組織「茅野版DMO」の設立に伴うメンバー募集”

DMOとはDestination Management/Marketing Organizationの略称で、地域にある観光資源に精通し、地域と協同して観光地域作りを行う法人のこと。平成27年に観光庁が打ち出してから、まだ実際に本格的な成功事例がないのが実態で、全国に先駆けたモデルになろうと呼びかけたのだ。

人の価値観を変える体験を提供したいと考えていた粟野さんは即応募。もともと夫婦で抱いていた山の近くに住みたいという想いが捨てきれないのもあった。そして見事に合格。“地域おこし協力隊”としての制度を利用しての採用だったが、仕事内容と移住先に興味があったため、形態は問わなかった。

そこで粟野さんは地域資源を発掘することから始める。茅野市には八ヶ岳や蓼科、白樺湖、車山に代表される豊かな自然に加え、空気、水、歴史や文化、1万戸を数える別荘などがあり、観光資源には事欠かなかったが、中でも粟野さんが目を付けたのが「寒天」だった。

寒天とは、テングサやオゴノリなどの海藻類からできる、いわば植物性ゼリーの素のようなもので、長野県の諏訪地方が日本最大の産地を誇っている。カロリーがほとんどなく、食物繊維たっぷりで健康食品としても注目を浴びる寒天を核に、もっと地域おこしができないかと画策したのだ。

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普段、観光とは無縁の寒天の生産者を回りながら、関係性を構築。一般的にはなかなか見ることのできない寒天畑を巡り、お手軽な寒天料理の試食が付いた、見て、食べて、寒天を身近に感じてもらうためのツアーを企画した。参加者は延べ120名を超え、ニッチな産業でも固定ファンを構築していけば、可能性はあるということを実感していった。

さらには、子供の頃から寒天についてもっと知ってもらいたいと、「ばばばあちゃん」シリーズで有名な絵本作家さとうわきこさんとも協業。寒天にまつわる絵本をつくることにも成功した。こうして粟野さんは地域にどっぷり浸かりながら、地域の橋渡し役として活躍していったのだ。

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念願の山の近くでの暮らしもエンジョイしている。八ヶ岳は既にすべて登頂したという。時には娘も一緒に歩いたり担いだりしながらのトレッキング。雪の残る山道を歩く娘の姿からも、自然と調和しながらたくましく育っているようだ。

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運命的に古巣へ戻る選択を

2年間ほど地域おこしに邁進するも、稼ぎとしてはまだまだ発展途上と話す。

「地域の“稼ぐ力”を引き出すことがDMOの使命でもあったのですが、自分が新たにつくった稼ぎとしては年間で100万円ほど。まだまだ道半ばです」

地域資源に可能性を感じながらも、実際に稼ぎを生み出すことの大変さ。そんなジレンマの中にいた粟野さんの元に、ふと天からの声が舞い降りる。

突然、古巣(株)アーバンリサーチの副社長に呼び出され聞かされたのは、茅野市の蓼科湖畔の敷地を買い取り、キャンプ場をオープンするという計画。その運営の中核として戻ってきてくれないか、という話だった。

「驚きました。まさか自分の移住した先の茅野市での計画だなんて。はじめはさっと撤退も辞さないような事業計画なら引き受けないつもりだったのですが、地域と連携を図りながら、ちゃんと地に足付けていく意気込みを感じたんです。それなら自分がそれまで培ってきた茅野市のプレーヤーたちと繋げていくことで、相乗効果を生み出していくことができるかもしれない。そう思ったんです」

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キャンプ場を取り囲むようにCABINが立ち並ぶ

地域おこし協力隊の活動母体は行政であり、茅野版DMOとの連携を通じて、行政にできることと民間にできること、それぞれにできることがあると感じたことも、転身を決意した一つの理由だったという。また、ブランドと地域資源を掛け合わせることで、地域の稼ぐ力をもっと引き出すことができるのではないか、という実験もしてみたいと考えた。

もともと地域おこし協力隊の任期は1~3年。2年弱務めたことで地域で顔の知れた粟野さんが、キャンプ場の運営に回るということで、茅野市からも歓迎された。こうして晴れて2019年夏、キャンプ場のオープンに合わせて、茅野版DMOから古巣(株)アーバンリサーチへ移籍。キャンプ場『TINY GARDEN 蓼科(タイニーガーデン 蓼科)』にて地域連携を図り、事業の価値を高めていく地域コーディネーターとして就任した。

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4,800坪のフィールド内にはキャンプ、ロッジ、キャビンと、利用者のニーズに合わせた3種類の宿泊タイプを構え、温泉や地元食材で提供されるブッフェ形式のカフェ・レストランも併設。単体で見てもとても魅力的な施設だが、ここに地域資源をどう織り交ぜていけるか。粟野さんの活躍が期待される。

「快適なホテルに泊まってゆっくり過ごすのもいいですが、地元の風土を感じられるちょっとしたスパイスが加わると旅の思い出の質がぐっと上がるのではと思っています。アウトドアと共にある暮らしを実践、提案し、アーバンとローカルを結ぶHUBとなる場にしていけたらと思っています」

いつかは地方に自分たちの空間を持ちたいという想いが、既に半分実現できたような粟野さん。一見ばらばらのように見えるキャリアの変遷も、最終的にはつながっていくことに自身でも驚いているという。その底辺には、自身がタイのカレン族の村や日本の地方で感じたような「人の価値観に影響を与えるような体験を提供したい」、という共通の想いがあったからこそなのではないだろうか。場所や肩書きにとらわれず、自分の心の声に従ってしなやかに生きていく。そんな粟野さんの生き方は、きっとこれからもつながっていくに違いない。

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粟野 龍亮(あわの りょうすけ)さん

東京都大田区育ち。上智大学外国語学部ドイツ語学科卒業。3.11の年に大手アパレルブランドに就職し、翌年(株)アーバンリサーチの展開する「かぐれ」に転職。結婚・出産を機に、妻の実家近くの三重県伊勢市へ移住し、旅行業界へ転職。その後、日本版DMOの成功事例をつくるべく長野県茅野市へ移住・転職し、2019年8月より古巣(株)アーバンリサーチの運営するキャンプ場「TINY GARDEN 蓼科」の企画・地域コーディネーターに就任。

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