地方創生シリーズ02main
人・物・金がないなら“知恵”を出す
富士市産業支援センター「f-Biz」センター長 小出 宗昭さん
GLOCAL MISSION Times 編集部
2017/10/23 (月) - 08:00

全国から注目を集める「富士市産業支援センターf-Biz(エフビズ)」。シリーズ第1回ではセンター長・小出宗昭さんに、自身のキャリアの転機や、f-Bizの創成期についてお伝えした。第2回では、中小企業支援を成功させるために求められる人材について、具体的な成功事例をご自身の熱い想いを交えて語っていただいた。

<地方創生シリーズ01>出向を転機に中小企業支援の道へ

<地方創生シリーズ03>暖簾分けスタイルで全国に広がるエフビズモデル

人も物も金もない中小企業支援の難しさ

東京も地方も同じだと思うのですが、中小企業の支援に関して全般的に甘く見られているんじゃないかと思います。
僕自身は銀行で7年半、M&Aのアドバイザーをしていました。まさに大企業向けのコンサルティング業務、というものを経験してこの世界に入ったわけです。
そこで、中小企業や小規模事業者向けのコンサルティングは想像以上に難しいということに気づきました。
日本のコンサルティングマーケットは、ある意味とてもわかりやすいですよね。優秀なコンサルティング会社や優秀なコンサルタントは、当然、多額のコンサルティングフィーを支払える大企業を担当しています。それってどこかといえば、日本企業の99.7%を占める中小企業を除いた0.3%の大企業だけがクライアントになる市場だということになります。
大手コンサルティング会社のコンサルティングフィーは一件あたり数千万円から億単位にのぼります。日本企業の99.7%の中小企業では、そんなにコンサルティングフィーが払えないわけですから、大手コンサルティング会社の優秀なコンサルタントが入ってくることはないわけです。
そんな市場でなんとかしようとすると、たとえば、3〜4万円のセミナーを繰り返し開催し、そんな中でコンサルティングフィーが払える中堅企業相手にコンサルティングするようなビジネスモデルしか成り立たないわけです。しかも、そういった費用さえ払えない企業が大半なんです。

中小企業支援に必要なのは知恵を出せる人

地方にも、ある程度コンサルティングフィーを払える中堅企業はあります。地方にいる結果を出せる力を持ったコンサルタントは、そういった企業と顧問契約などをしているケースが多いんです。
そういったコンサルティング費用を払えない企業の支援を受け持つのが公の産業支援になります。公の産業支援では、専門家が無料で企業の相談を受けています。
ですが、大企業と異なり、人も物も金も弱点をかかえた中小企業ですから、その中でどうにかするには、知恵を出すことが必要なんです。一方、公の産業支援の仕組みの中でやっている専門家には、残念ながらあまりそんな人はいないんです。財務分析やSWOT分析などの経営分析をして、ここが問題ですねってアドバイスをしている。
中小企業・小規模事業者は分析して問題点を指摘されても具体的に変化がない。流れを変えるのは知恵なんです。知恵を出せる人が必要とされているんです。そして、知恵が出せればいいわけではなく、中小企業・小規模事業者を支援することに対して大きな価値を見い出せる人でないとダメなんです。

重要なのはビジネスセンスとコミュニケーション能力と情熱

僕たちの取り組みの特色の1つは、金融機関から多数の研修生を受け入れていることです。これまで福井銀行、琉球銀行、巣鴨信金、城南信金、朝日信金、岡崎信金、金沢信金などから計30人以上の金融マンが、3~6か月間、コンサルティングノウハウ習得を目的にf-Bizに派遣されてきました。実はその中で成果を出せる人というのは、ごく一部です。それは資質が高いだけでなく、上司にだってはっきり意見を言える、明確に自分の意思を持っている人達でした。そういった研修の成果を上げられる人はf-Bizスタイルのコンサルタントの適性があるということです。
他の企業においてもと同じだと思いますが、明確に自分の意思を持っていて成果をあげられる人材には、必要な適性要素が3つあります。ビジネスセンスが高く、コミュニケーション能力が高く、情熱を持っていること。こういった人なら、トレーニングをすれば中小企業に対してイノベーションを起こせる人材になりうると思っています。
しかしながら、当然、各企業の中で大活躍しているので、私たちのような公的支援の中には絶対に出てこないですよね。ビジネスセンスが高く、サムシング・ニューがバーンと出せる、新しい知恵やアイデアが出せる人はなかなか転職市場にだって少ない、というのが実情です。

経営の流れを変えた、真のセールスポイント見つける知恵

お金をかけずに知恵だけで、私たちが経営の流れを変えた事例をご紹介しましょう。金属加工業の司技研です。この会社は、2008年の8月に中川さんという社長さんが相談に来られました。1989年に創業し、バブル期をピークに長らく低迷している状態でした。

私たちはものづくりのこと全然知らないので、初回のミーティングの際に、まずいろいろと聞かせてもらいました。そこでわかったのが、「司技研は優秀な機械を導入していて、本来鋳型を作らなければできない複雑な形状のものも削りで作れる」ということ。つまり技術力が高いという意味ですね。でも仕事が来ない。さらに話を聞いていると、
「事業としては売上の95%以上が金属加工で金属部品を作っているが、時々頼まれて試作部品とかを作っている。厳しい状況なので、来た仕事はどんな仕事でも引き受けるよう努めていて、急いでいるといわれたら電話注文から3日で納品している」
といったお話でした。

社長自身は気づいていなかったのですが、僕らは、「試作部品を3日という短期間で作れることはすばらしいのではないか? スピーディにフレキシブルに作れるなんて、求める顧客がたくさんいると思いますよ。」、と指摘し、その場で「明日から新サービスを開始しましょう」と提案しました。「試作特急サービス3DAY」と命名し、「簡単なチラシやHP告知などして、すぐ営業開始してください」 とお話したんです。そうしたら、社長の目の色が変わりました。何故ならば金もかけずにすぐにチャレンジできることだったからです。

その結果、3ヶ月後には、新規の取引先を50社獲得。依頼する側から見れば、試作品は早い方がいいに決まっている。なのに、本人たちはそれがセールスポイントだと全く気づいていなかったんですね。更に驚くのは、半年後、彼らのwebサイトをみて、今まで一度も取引のなかったある自動車メーカーから直接連絡がありました。電気自動車の試作の仕事でした。今やその自動車メーカーとの取引額は売上の3分の1を占めています。さらにその3ヶ月後の2009年夏には、別の自動車メーカーからもレーシングカーの特殊部品を受注。こちらも売上の3分の1程になっています。
現在司技研は上場企業3社とのみ取引をしています。倒産寸前だった会社が、いまでは業績がV字回復し絶好調に。相談に来られた当時は後継者がいなかったのですが、会社が上向きになると従業員のやる気も高まり、事業を引き継いでやっていきたいという社員が数人現れました。去年、営業担当の女性に事業承継したそうです。後継者問題も解決しました。
司技研をV字回復させたこの動き、当初の段階では設備はそのまま、人員もそのまま。つまりお金をかけずに流れが変わりました。その一方で大切なものを使った。知恵です。真のセールスポイントを見つけそれを生かすという知恵を出しただけなのです。この知恵を出したのが僕たちなんです。こういった知恵を出せることがビジネスセンスが高い、ということだと思います。

知恵とビジネスセンスを活かして、弱みを強みへ変える

こんなケースもあります。2012年に廃業の相談にきたレトルト食品製造業のマルミヤ食品。「設備が古く、小ロットしか生産できないから廃業するしかない。来月廃業したい」という相談でした。
そこでまず、「レトルトを作りたいという相談に来られる会社さんが結構いますよ」と伝えました。
社長は若干懐疑的だったのですが、「地元で流行っている洋食屋さんがカレーやスープをレトルトを作りたいという話や、農家がコーンスープを作りたいといった話があるんだけれど、既存のレトルト製造業者に依頼した場合は最小ロットで5,000個〜1万個からと言われるから断念しているんだよ」と話すと少し納得した様子。そこで、「あなたの会社は何個から作れるのか」と聞くと、100個から作れると言うわけです。
「それすごいじゃないですか」、と褒めると、廃業の相談に来ていたはずの社長が、「うちは長い業歴があるからたくさんレシピがあって、どんな素材だってレトルトにできるんだ」と誇らしげに言うのです。
そこで飲食店や農林水産事業者をターゲットとした、レトルト食品の開発製造の受託サービスを提案。「レトルトクリエーション」と命名しました。
すぐ問合せがきたのがホテルチェーン。ホテルで朝食に出すカレーのレトルト化を考えていたのだけれど、量が少ないから受けてもらえるところがなくて困っていた。すぐに大量受注が決まりました。
また、地元のかんぴょうメーカーが廃業してしまい、そこの主力商品のかんぴょうのレトルトを使っていた取引先からも発注がきました。この2つの仕事だけで年商3000万円。V字回復を果たし、廃業においこまれた会社が5年を超え生き残っています。

ターゲットを絞ることで商品価値を向上

もう一つのケースは、椿油の会社 「サトウ椿」。伊豆大島から椿油の原料を持ってきて、熱海の自分の工場で椿油を作っている。化粧品用と食用を作っていました。化粧品用はどうにかやれているけれど、食用が全然だめ。どうしたらいいかと2012年11月に相談来られました。
初回のミーティングの際に、「とはいえ食用で買ってくれてるところもあるんでしょ、一番買ってくれるところはどこですか?」と聞いたところ、「リッツカールトンホテルクラスの外資系の超高級ホテルのてんぷら屋」とのこと。すごいと思ったのですが、社長はただ多く買ってくれるお客さん、としか思っていなかった。さらに、他の顧客について聞くと、有名な高級てんぷら店も買ってくれていると言うんです。
そこで、今までは「食用の椿油」として売っていたどの商品を「てんぷら専用」にしてしまおうと提案しました。社長は「売上が下がるのでは」、と心配したのですが、最高級の外資系のホテルの天ぷら屋が使用している“裏付け”が有るのだから大丈夫だと説得しました。ミシュランの三ツ星と同じことだと説明しました。そして、最高級の外資系ホテルがてんぷら油として使用していることを前面に押し出したんです。ちなみに当時、椿油でてんぷら専用の油を製造しているのはここだけでした。
結果、ピークでは売り上げが30倍となりました。
最近では銀座の新しくできたてんぷら屋さんが「サトウ椿の油を使ってます」ということを売りにしてお店を出すぐらいになっています。このケースもかかったのは、商品に貼るステッカー代ぐらい。これが知恵なんです。
僕がなにか特別だからこういった知恵を出せるのではありません。ビジネスセンスとコミュニケーション能力が高く、情熱を持っている人。そんな人をうまくトレーニングすれば、知恵を出せるようになる。そういったことをやっているのがf-Bizのモデルなんです。

小出氏02

セールスポイントは腑に落ちないとだめ

企業のセールスポイント見つけるには、まず対話することからです。中小企業の経営者の方と話をすると、たいてい皆さん「うちの会社は何もない」と言います。そこから、対話を通じて見つけ出せるか、ということが重要なんです。倒産寸前の厳しい状況下で、セールスポイントを見つけ出せるかということ。それがビジネスセンスだと思っています。
自分たちのことって、中にいると距離が近すぎて客観的に見れないですよね。業界の常識に縛られる部分もあります。そこに対して、きちんとした気づきを起こさせる。本人たちに気づかせ、そして腑に落ちさせなければならないんです。中小企業や小規模事業者の場合、経営者が腑に落ちないとすぐに動きませんから。なので、ただの思いつきではダメ。ビジネス的な裏付けがないとダメなんです。

ビジネスセンスは日常の中で磨かれる

ビジネスセンスの高い人材を育てる基本はOJTです。イノベーションを起こせる人材育成に答えなんてない。MBA的なイノベーションの起こし方、みたいなものはあるかもしれないですが、実際にはそんな風にうまくいかない。だからといって、ひらめきが重要というわけではないんです。僕たちは、現場の相談を見せながらディスカッションをし、徹底的にノウハウを吸収させることをしています。
僕は何冊か本を出版してます。それらを読むとさらっとできてしまうように感じてしまうけれど、実際にはそうならないんです。OJTを通じて、実際のセールスポイントの見出し方や、分解の仕方などを、ディスカッションを交えて学んでいかないとできないと思います。

ビジネスセンスが高い人に共通するものは、情報のアンテナや感度が高く、圧倒的な情報量を持っていることだと私は考えます。例えば、CMを見れば新商品の開発の考え方とか、ターゲットの絞り方、トレンドの変化などを読み取ることができる。そういう感性で見ることができる人です。

そういった人は、例えば、清涼飲料水やお菓子の分析においては、コンビニエンスストアを日本の市場を制する場、新商品をヒット商品にしてしまう研究の場と捕らえています。新商品で「何これ?」という商品に目をつけ、情報のアンテナを引っ張り出し、WEBサイトで調べる。私だったら、その商品がどれぐらい売れるかを考え、動向をシュミレーションしたりもします。自分も買うのか、自分が買わないとしたら誰が買うのか。さらに商品サイトを見て自分の予測の答え合わせをし、経過を見ていく。そこで掴んだ情報を自分で研究することによって、生きた知識に転換されるというわけです。今の世の中は多様化してしまって、消費トレンドを掴むのは非常に困難。日常の中でこういった目線を持ち、自主トレーニングを行うことが、何よりもビジネスセンスの高さに繋がると思います。

ちなみに、ビジネス書は全く読んでいません。マーケティングの本もゼロ。ブランディングの本も読んでないですね。だから良い意味で影響を受けていない。常に自分で考えています。
商品開発とか新規事業を行うにあたっては、事業計画書をきちっと作るのが重要とかよくいうじゃないですか。だけど、事業計画書をきちっと作る大企業が、膨大な人員とお金をかけて新商品開発をしても簡単にこけたりしてしまう。消費者ニーズをつかむのは本当に難しいから、結局、やってみないとわからないんです。
さらに、中小企業や小規模事業者は、予算を投じた事業に失敗した場合、大変なダメージを受けてしまう。3~4年沈んでしまう。だから我々はお金をかけず、知恵を出してやってみる。お金をかけずにやってみたことは、ダメだったとしても失敗にはならないんです。

小さなイノベーションの連鎖が大きな力になる

中小企業の経営者を教育しようとか、指導しようとか、そんな気はまったくないですね。彼らの相談を受けた時点で、彼らの人生を預かっているんです。我々のミッションは、中小企業・小規模事業者の流れを全力で変えることなんです。その結果として、彼らが「俺たちにもできる」って思えるようになる。できるとふにおちた瞬間、倒産しかかっていた人でさえ、スイッチが入りその瞬間から人が変わったようになるんです。私たちは、そういった結果を次から次へと生むことによって、「あいつもできるんだったら、俺にもできる、お前も頑張れ」というような流れを起こしたい。私たちがきちんとサポートをすることで、彼らの人生を、従業員や従業員の家族を含めて変えることができると思うんです。Bizモデルとしてやっているのはそういうこと。彼らの人生を変えたい。ハッピーにしたい。それが連鎖的に起きたらうれしいですよ。

例えば、私たちが使う新聞などのパブリシティで記事になって、会社や製品の写真などが出ると、家族もみんな喜ぶ。そして従業員のモチベーションも上がる。そんなことが、地域おこしになる。小さなイノベーションがたくさん起きることが、大きな力になるんじゃないかと考えています。前述の司技研がもし倒産していたら13人の雇用がなくなったわけですよ。それが、逆に雇用増になる。それってすごいことじゃないですか。我々の取組みの中では、1社で100人の雇用を生むことは難しいけど、1人の雇用を生むことはできる。それが100社になれば100人の雇用になる。我々のやっていることはそういうことなんです。

<地方創生シリーズ01>出向を転機に中小企業支援の道へ

<地方創生シリーズ03>暖簾分けスタイルで全国に広がるエフビズモデル

小出宗昭氏

富士市産業支援センター「f-Biz」 センター長

小出 宗昭さん

59年生まれ。法政大学経営学部卒業後(株)静岡銀行に入行。M&A担当などを経て、01年 創業支援施設SOHOしずおかへ出向、インキュベーションマネージャーに就任。起業家の創出と地域産業活性化に向けた支援活動が高く評価され、Japan Venture Award 2005(主催:中小企業庁)経済産業大臣表彰を受賞した。08年 静岡銀行を退職し(株)イドムを創業。富士市産業支援センターf-Biz(エフビズ)の運営を受託、センター長に就任し現在に至る。静岡県内でも産業構造の違う3都市で計4か所の産業支援施設の開設と運営に携わり、これまでに1,300件以上の新規ビジネス立ち上げを手掛けた。そうした実績と支援ノウハウをベースに運営しているエフビズは、国の産業支援拠点「よろず支援拠点」や愛知県岡崎市のOKa-Biz、広島県福山市のFuku-Biz、熊本県天草市のAma-biZなど各地の地方自治体が展開する○○-Bizの原点となるモデルでもある。

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