大胆な戦略と伝統で注目の札幌観光バス
札幌観光バス株式会社
2017/10/04 (水) - 08:00
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札幌観光バス株式会社は、バスの新車への積極的な入れ替えや、子会社である株式会社クールスターと共同で取り組む高級チャーターリムジンサービスなどで、道内でも注目のバス会社となっている。2017年8月23日からはクールスター社運営による新しいサービス「クルーズキッチン」を開始した。大型バスを本格的なキッチンに改造し、出張レストランサービスなどを提供する。一方で全国的にパートタイム化しているバスガイドを、フルタイムで雇用して育成することにも取り組む。革新と伝統のハンドルを切る、両社の代表を兼務する福村泰司社長に聞いた。

国内最大級の移動式キッチンサービスを開始

お披露目されたクルーズキッチンは、洗練されたボディデザインが目を引く。ひとことで言って超クール。側面が往年のスーパーカーのガルウィングのように開閉するところなどは、当時を知る中高年にはたまらないフォルムになっている。かつてリクルートなどのブランディングを手掛けていた福村社長にとって、大きなこだわりだ。

「とにかく、こだわるだけこだわりました。構想だけで3年かかった。その後に開発期間が1年。大型バスのキッチンカーはあるかもしれませんが、本格的な厨房機器を搭載し、ここまで作りこんだ移動キッチンはないと思っています」。

車両の乗車定員はシェフなどを想定して数名だけ。このクルーズキッチンに乗客を乗せて運ぶわけではない。一流シェフの求める調理設備を、顧客の求める場所に届ける、移動式のレストラン並キッチンだ。

「大自然でフルコースを食べたい。そんな要望にこたえたいと思って作ったんです。私は知床アルパ(ネイチャーガイドツアー)や美瑛ファーマーズマーケット(レストランの運営や自社ブランドの肉製品・乳製品の製造・販売)を手掛けてきて、北海道の自然と食のたまらないマッチング感を感じていたんです」。

富良野でラベンダーを見ながら、帯広で名馬たちと触れ合いながら、函館で夜景に見とれながら、札幌で桜を愛でながら、オホーツクで流氷に気圧されながら……、そんなシチュエーションでの食事も夢ではないかもしれない。

「その地域ならではの食材を使い、観光資源化していくというのも目的です。駐車可能であれば、どこへでも行けますから、富裕層向けの、その日その時だけのプライベートレストラン、グランピングから、ガーデンウェディングまで、ニーズに合わせて対応していきたい。そのための移動式キッチンですからね」。

料金は提供される料理や数量によって異なる。画一的な料金設定をしていないのは、ニーズに応じたきめ細かいサービスを提供することがクルーズキッチンの目的であるためだ。同社では観光誘致型レストラン、結婚式、音楽フェス、食育イベントへの出店などを想定。他に災害時にも活用することを予定している。

「3年前に6~7名でのラグジュアリーな観光を想定したクールスターというリムジンサービス(乗車定員は9名)を開始しました。そこでの手ごたえも感じていて、ニーズに合わせたきめ細かいサービスの提供というのは弊社の得意分野になっていると思います。単なるインフラではなく、観光のソリューションを提供するバス会社でありたいと思っていますので、食を届けることのできるクルーズキッチンは私にとっても念願でした」。

新型バスの導入とバスガイドへのこだわり

リクルートなどを経て2012年に札幌観光バス副社長となった福村氏は、MBOにより自ら株式を取得して13年に社長に就任。以後、大胆な戦略で会社のイメージを一変させた。

「一番やらなくてはいけなかったのは、バスを積極的に新車に入れ替えること。札幌観光バスといえば、古いバスの代名詞みたいになっていたんですよ。何十年もの間、老朽化したバスを、結構な費用をかけてメンテナンスしながら乗ってきた。それでも故障で止まってしまうことがあり、その時は代わりのバスを走らせなければいけない。そうなると旅行会社からもバス代金はいただけなくなる。もちろん、修理代もかかる。燃費も悪いし、ドライバーやバスガイドのモチベーションも下がり、よくよく考えるとむこう何年も古いバスを使い続ける方が金がかかるのではないかと考えるようになりました」。

実際に入れ替えてみると、道内で一番新しいバスを抱える会社として、営業面で優位に立てた。顧客満足度も大幅に上がった。

「運転手やバスガイドからも、故障で止まる心配がないから安心できるし、以前より乗っていて疲れなくなったという声も出た。いろいろな人が満足してくれて、実際、設備投資としての費用が、古いバスのメンテナンス費用と比べてどうかといえば、それほどでもなかった。営業の優位性で十分にペイできるものでした。負のスパイラルからの大逆転だったと思います」。

一方で、会社の伝統を継承することも忘れなかった。話しながら指さしたのは、背後にある1枚の写真。湖のほとりに泊まった自社バスから降りた親子が、楽しそうに観光を楽しんでいる。昭和40~50年代と想像される。

「この写真、いいと思いませんか。倉庫に眠ってたんですよ。北海道の自然、バス、家族という観光の一場面が切り取られている。もったいないなと思って、全部、ひっくり返して探して、飾ったんです。この会社の歴史を伝える、いい写真がたくさんあったと思います」。

伝統の継承で、大きなものはバスガイドの育成だ。経費削減のため全国的にパートタイム化するバスガイドについて、札幌観光バスは新卒採用にこだわり連綿とつないできた。

「多くのバス会社がバスガイドについてはフルタイムとしては採用しなくなり、パートタイムで十分という判断をしている。そうなると、新しい人の育成がなかなか進まなくなって、経験者に頼ることになる。つまり、ガイドの平均年齢が上がっていき、バスガイドという仕事がなくなってしまうのです。これに対して弊社は、歴代経営者が若い世代をフルタイムで採用しバスガイドとして育成してきた。これまでは古いバスに覆い隠されていたのかもしれませんが、新しいバスにしたことで、若い世代のバスガイドがいることが注目されるようになりました。たとえば、修学旅行や遠足で利用する学生や生徒にしてみれば、自分たちと年齢が近いことで親近感が生まれることがありますから。他との違いを出せるという点で、歴代の経営者に感謝するところです」。

生き残りのために次々に打ち出す改革とともに、地域に根付いた自社の伝統の継承。この両輪とともに、地域観光のインフラとしての存在にとどまらず、ソリューションカンパニーとしても運行を続ける。目的地はどこにあるのか。

「北海道の地域活性化のカギを握っているのはバスしかないと思っています。この広大な大地をつないで発展させていくのはバス。さまざまなアイデアを積んだバスが北海道中を駆け巡り、観光客を運んでいる、そういうのが夢です。“Brighten up Hokkaido ~北海道を、輝かせよう~”を合言葉に、北海道全体を輝かせ、潤わせていきたいと考えています」。

 

札幌観光バス株式会社

「北海道の魅力にたくさん触れていただきたい」という想いのもと、創業から50年に渡り、貸切り観光バス会社として安全・安心を第一に、多くのお客様に北の大地の魅力を案内し続けている。多様化する貸切り観光バス会社へのニーズを常に先取りし、歴史ある貸切り観光バス事業を基盤とした旅行事業やアウトドア事業を立ち上げ、新しい北海道のツーリズムの市場を開拓。世界各国からのツーリストの皆様の期待に応えられるサービスの提供を目指す。また、2015年4月から「Brighten up Hokkaido~北海道を輝かせよう~」というビジョンを掲げ、北海道の強みである「食と観光」を戦略軸とした新たな事業を展開。まだ見たことのない、まだ体験したことのない、まだ出会ったことのない北海道の魅力を発掘し、多くのお客様に触れあっていただく機会を創造することをミッションとして掲げる。

住所
〒004-0811 札幌市清田区美しが丘1条9丁目1番1号
設立
1964年3月6日
従業員数
102名(事務スタッフ33名、運転士43名、バスガイド26名)※平成29年7月現在
資本金
5,550万円

 

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