害虫防除業界で革新的ビジネスモデルを創出する。差別化戦略を打ち出す高収益コンサルティング商社
2017/10/16 (月) - 13:00
GLOCAL MISSION Times 編集部

昆虫学の専門家チームがソリューションを提案

大阪府高槻市にある環境機器。1969年に防疫農業用噴霧器の製造販売会社として創業した。その後、害虫駆除、防虫専門のコンサルティング商社として、直近では13期連続増収増益、民間調査機関格付けでは上位1%以内に入るなど着実に成長している。

事業の中心は害虫防除に使われる業務用防虫資材の販売。メーカーから仕入れた薬剤や散布用機材、捕獲器などを害虫防除専門業者に卸し、国内ではトップのシェアを誇るニッチトップ企業だ(2017年時点でシェア約40%)。

同社がプロフェッショナルといわれる理由はシェアだけではない。社内に昆虫学を専門とするチームを設け、虫の生態と現場の状況に応じた最も適切な防除方法を提案するからだ。その方法はセミナーやコンサルティング、オリジナル商品の開発、人工知能(AI)を活用したリモートモニタリングシステムの開発などを通じて展開されている。

一方、同社は全国の優良害虫防除専門業者を中心に組合を組織化し、シロアリ駆除を入口とした住宅メンテナンス事業にも乗り出した。その仕組みは業界の多角化を図る新たなビジネスモデルになっている。業界が抱える課題をあぶり出し、数々のソリューションを打ち出す環境機器の戦略に迫る。

環境機器株式会社

害虫駆除、防虫専門のコンサルティング商社。害虫防除のための業務用薬剤、機器、物販業務をコア事業に据え、大学や関連企業と連携して同社オリジナルの製品も開発している。また、害虫防除専門業者へのセミナー・社内研修、食品工場や精密部品工場への異物混入防虫コンサルティングを実施している。社会貢献活動にも積極的に取り組み、2011年の東日本大震災後の大規模な害虫防除活動や翌年タイで発生した洪水後のデング熱媒介蚊対策支援などを行っている。社長の片山氏は、公益社団法人日本国際民間協力会の副理事長を務める。

本社所在地
〒569-1133 大阪府高槻市川西町1-26-5
創業
1969年6月1日
設立
1973年11月1日
従業員数
45名
資本金
1,000万円 株主資本11億6,533万円(2016年12月現在)

害虫防除の業務用資材販売で業績を伸ばす

木造家屋に被害を与えるシロアリ。飲食店に潜むゴキブリやネズミ。場所を選ばず飛び回るハエや蚊。生活に悪影響を及ぼす害虫や害獣を駆除するために使用する殺虫剤や捕獲器などの業務用資材を幅広く取りそろえ、害虫防除専門業者に販売して業績を伸ばしている環境機器。

業績は13期連続で増収増益。2016年までの約10年間で売上は約2倍、利益は約4.6倍になり、2016年度の経常利益率は8.5%と、成長性と高収益性が目を引く。自己資本比率も74%という高水準だ。その要因は何だろう。営業開発部シニア技術コンサルタントの菅野格朗氏は事業の特徴を挙げる。

まず、同社には昆虫学を専門とする社員がいること。博士号や修士号を持った虫の専門家7名と薬剤師1名がチームを組み、さらに専門の知識を持つ4名の顧問を含めた専門家集団が害虫の生態と防除方法の研究をしている。菅野氏もメンバーの一人だ。「大手上場企業も含めてこの業界で、昆虫学と薬学をバックグラウンドに持つ人材がこれだけいるのはめずらしいと思います」

この専門家チームが中心となり、どの商品をどのように使えば最も効果的に害虫防除ができるのか、現場で実際に防除を行う専門業者にノウハウを伝授している。

年間100回以上の無料セミナーを展開

ノウハウを伝える方法のひとつはセミナーだ。同社は主に害虫防除専門業者を対象に全国各地でセミナーを開催している。その数は年間100回以上。内容は害虫防除の基礎知識から応用まで。最近では、大きな話題になっているヒアリの生態と対策商品を紹介する特別セミナーを企画し、あっという間に申込者が定員に達した。

「害虫防除には虫や薬剤の専門知識が求められるにもかかわらず、専門の教育を受けられる機会が少ないのが現状です」と菅野氏はセミナー開催の背景にふれる。これまで経験の積み重ねでノウハウをつないできた害虫防除専門業者にとって、同社のセミナーは専門知識を広く深く、しかもタイムリーに学べる機会になっている。「昆虫学・薬学の基礎知識がある専門のメンバーが商品の使用方法について解説することで専門業者の疑問を解決し、新たなビジネスを生み出すのです」

セミナーは全て無料で開催される。業界のレベルアップを願い、豊富な知識と有益な情報を惜しみなく提供するこの取り組みによって、同社の名前は業界に知れ渡った。商品を買うなら環境機器から。そう思う顧客が増えるのも自然な成り行きだろう。

菅野氏は「害虫防除は地味な仕事だが衛生面を管理する重要なもの。いわば縁の下の力持ち」と話す。最近は海外からの人や物の流入に伴い、デング熱など蚊が媒介する感染症の侵入やヒアリなどの危険な外来昆虫や生物が国内で見つかっている。「より精度の高い防除方法や新しい防除資材の開発と普及を目指したい」と抱負を述べる。

高付加価値なオリジナル商品の開発も

事業のもうひとつの特徴は新商品の開発。同社はメーカー製品の販売だけでなく、オリジナルの害虫防除用品を開発している。その手法はオープンイノベーション方式。要素技術を持つ企業や大学と連携しながら、現場をよく知る同社が商品企画、現場実験、販売までの一連のプロセスを担い、付加価値の高い商品を生み出している。

たとえば「フライヘル」という商品がある。葉先の鋭い観葉植物に見えるこの商品は、エッジがあるところにとまりやすい飛翔性の昆虫の習性を利用した捕虫器だ。飛翔昆虫は葉を模した部分にとまり、殺虫剤を体に取り込んで粘着シートに落下する。昆虫の当たり前の行動を利用した新しい発想の商品だ。

開発にあたった菅野氏は、現場実験のために試作品を害虫防除専門業者と共にスーパーマーケットに持ち込み、設置を依頼した。開発期間は約3年。人の健康面にも安全で、粘着シートを取り換えるだけで約半年間使えるコストパフォーマンスに優れた商品が完成した。購入した顧客から「考えていた以上に虫が捕まる」と驚きの声が届くという。

現在開発中の商品もある。「Pest-Vision(ペストビジョン)」という人工知能を活用したリモートモニタリングシステムだ。現場のどこにどのような虫がどのくらい潜んでいるのか、人工知能を使ったクラウド型監視ソフトが24時間365日リアルタイムに遠隔監視する。赤外線カメラと動画解析ソフトがネズミの活動を監視することも可能で、目視や捕獲器設置などのアナログな手法で行われているやり方をがらりと変える画期的な防虫管理のシステムだ。

同社はこの商品のプロトタイプを2017年秋にリリースする。「これまで人に頼らざるを得なかった作業の時間と労力を減らし、付加価値の高い防除サービスを考えることができる。このシステムは害虫・害獣駆除の従来の考え方を変えてしまうでしょう」と菅野氏は新商品の可能性を示す。

父が創業した会社を継ぐ

害虫防除というニッチな市場で戦略的なビジネスを仕掛けるのが片山淳一郎代表取締役社長である。同社の業績が目に見えて伸び始めたのは、2000年に片山氏が社長に就任してからだ。

片山氏は京都大学法学部を卒業。在学中は外交官を目指していたが、就職活動で進路変更し、株式会社日本興業銀行(現・株式会社みずほ銀行)に就職した。その後、銀行を辞め、奨学金を利用してイギリスのケンブリッジ大学に入学。途上国の開発経済について学び、経済学修士号を取得して帰国する。

当時の環境機器は、創業者である片山氏の父の急逝に伴い、母が経営を担っていた。片山氏は噴霧器のことも殺虫剤のことも知らなかったが、「大企業での勤務や海外でのアカデミックな経験をさせてもらったので、今度は中小企業の経営に挑戦してみよう」と当時零細企業だった家業を継ぐ決意をする。入社後は海外業務の担当を経て、34歳の時にいきなり代表取締役社長になった。

「当時の会社は町の零細工場のようなもの。真面目に手堅くはやっていたのですがこのままでは会社は成長しないと思い、やり方を変えていきました」と片山氏。「ニーズを教えてもらうためにはまず自ら発信しなければならない」と考え、同社の顧客である害虫防除専門業者を集め手探りで勉強会を始めた。それが年間100回以上の無料セミナーへと発展していく。

「差別化」と「回収」で組み立てられた戦略

片山氏は同社のビジネスモデルの仕組みを「差別化」と「回収」という言葉を使って説明する。「無料セミナーは害虫防除専門業者さんがなかなかアクセスできない最先端の技術情報や経営戦略の紹介など、高度で分かりやすい内容となっており、参加者からはとても感謝されています。当社が扱っている商品の大半はメーカー品なので競合商社からでも購入できますが、業者さんは無料で有用な研修を行っている当社を主な購買元として選んでくれる。つまり一見赤字と思えるセミナーで“差別化”して、商品の販売で効率的に収益を“回収”しているのです」

片山氏はこの仕組みを他の事業にも応用している。2011年、同社が中心になって「日本長期住宅メンテナンス有限責任事業組合」を設立した。顧客でもあるシロアリ防除業者を施工業者としてネットワーク化し、組合という組織にして、大手不動産会社や工務店、また大手流通業者から木造一戸建ての住宅メンテナンスを請け負う事業だ。

「もともとシロアリ駆除は家のメンテナンスのひとつ。床下にもぐるなら、ついでに断熱材や防水、塗装の点検もできるんじゃないかと思ったのです」と設立動機を語る片山氏の念頭には、この取り組みで顧客であるシロアリ防除業者の事業多角化を支援するビジネスモデルがあった。

同社はこの組合の運営事務局となり、住宅点検業務の標準化、サービススキームの開発、住宅履歴書データソフトの開発、研修会の実施、大手企業への導入提案などを行っている。このような仕組みづくりを通じてシロアリ防除業者の経営課題である事業多角化、技術力の向上、信用力強化をバックアップしているのだ。

ビジネスの中核を担う存在でありながら、この事業で同社は収益を期待していない。組合費や手数料を低く抑え、シロアリ防除業者の利益を優先して協力が得られる仕組みにしている。「組合員が多角化できれば請け負う仕事も増える。現場で使うために購入する資材も増えるでしょう。それらを当社から買ってもらえれば十分収益化はできるのです」。IT産業によくみられるフリーミアムに近いビジネスモデルのB2B版とも言える組合事業で「差別化」し商品の販売で収益を「回収」する、それが片山氏の基本的な戦略だ。

事業は常に利他の精神で

戦略性に富む片山氏の経営哲学は「利他経営」だ。常に俯瞰的に全体を捉え、顧客を含めた周辺の各プレーヤーに利益が行き渡るように仕組みを考え、かつ自社が共に繁栄することを目指す。片山氏が仕掛けるビジネスの根底には、いつも利他の精神が流れている。「事業に関わる全員がWIN-WINになる仕組みをつくることが、遠回りに見えて中小企業にとって最適最短の戦略なんです」。利他の精神と自社の収益性、かつ社員の物心両面の充実は全て同時に成り立つと片山氏は語る。

利他経営を示す一例として社会貢献活動もある。2011年の東日本大震災後には、同社の専門性を生かした復興支援を行った。被災した水産加工場から大量のハエが発生したため、同社が中心になって害虫防除業者の社員を動員し、害虫駆除を行ったのだ。延べ6,000人が東北の沿岸部約400キロメートルをカバーする大プロジェクト。同社がリーダーとなり、立案、技術的な判断、行政や住民との調整など、実務的な本部機能を担った。この支援は東北の人々から感謝され、大臣表彰を受け、海外での学会でも稀有な成功例として発表されただけでなく、参加した害虫防除業者たちの誇りにもつながった。そしてもちろんその副産物として、同社に対する顧客の信用が増すことになった。

片山氏は「将来的にやりたいのはアフリカなど途上国におけるマラリアなどの感染症防止。そのため、蚊などの媒介昆虫の画期的な防除方法を開発したい」と展望を語る。もともと同社は環境衛生のための薬剤を施工する噴霧器の製造販売からスタートした。片山氏の父は噴霧器の輸出のために中東やアフリカを駆け巡っていたという。片山氏はそんな父の姿を見て外交官を目指し、イギリスでは途上国の開発経済学を修めた。自分のやりたかった夢と同社の専門性が交わる仕事、途上国支援が片山氏のライフワークだ。

環境機器株式会社
代表取締役社長

片山 淳一郎

大阪府立茨木高校在学中に水球部で国体、インターハイに出場。1990年に京都大学法学部を卒業後、株式会社日本興業銀行(現・株式会社みずほ銀行)に入行。同行を退職後、アジア経済研究所開発スクールに入学。同研究所から奨学金を得て、ケンブリッジ大学経済学部に入学。同大学から経済学修士号(開発経済学)を取得して帰国。1995年、環境機器に入社。2000年、34歳で同社代表取締役社長に就任し現在に至る。海外援助関連の公益社団法人日本国際民間協力会(NICCO)の副理事長を務め、社会貢献活動にも力を入れている。

キャリアアップを見据えた地元での転職活動

経営企画部の松井真吾マネージャーは同社に転職して3年。前職は人材ビジネスに携わり、人材派遣・紹介の営業、採用、マネジメントを担当していた。勤務地は東京だったが、大阪に転勤になったことをきっかけに転職を考え始めたという。

「希望としては、事業の仕組みづくりから携われること。また、長男なのでこのまま地元に住み続けたいとも思いました」。松井氏は兵庫県の尼崎市出身。キャリアアップできる仕事内容と関西で働くという条件を重視して転職活動を始めた。ある時、求人サイトで環境機器の記事を見つける。事業開発という仕事内容に興味を持ち、また同社のビジネスモデルや財務状況を示す情報を調べ、その評点の高さにも驚いた。

足を運んだ会社説明会で松井氏はさらに驚く。片山氏の事業戦略の説明が3時間半にも及んだからだ。「事業のフィールドと市場規模、どのように他社と差別化して右肩上がりの業績を出してきたのか、今後どのように事業をつくっていくのか。実績と事実に基づいて理路整然と語られる内容に聞き入りました」。これが入社の決め手となった。

事業を作る人に

入社後、松井氏は日本長期住宅メンテナンス有限責任事業組合の仕組みづくりに携わる。その仕事内容は多岐に渡り、顧客となる企業への新規事業提案、手数料交渉や契約締結の手続き、スキームの構築、実際に作業を依頼する害虫防除業者への案件の落とし込み、稼働後の販売促進など事業のプロセスの全てを担当している。大企業であれば通常複数の部署で担当するような業務を一人で行うことも多い。「一気通貫で事業の立ち上げ・運営に携われるため、自分の考えがダイレクトに反映されますし、やりがいは非常に大きいです」

また、前職で培った人材ビジネスのノウハウを生かして自発的に動いた。「害虫防除の業界は3Kの要素が強く採用に困っている。慢性的な人手不足が課題であることにすぐに気づきました」と松井氏。大学の採用課に働きかけ、農学部で虫について学ぶ学生たちと取引先である害虫防除業者のマッチングのための業界説明会を開催したのだ。この取り組みは大学側からも評価され、既に3年連続で実施。説明会を通じて採用された学生も出てきている。「虫についてアカデミックな研究をしている学生達は、その知識を生かした就職の出口を知らないことも多い。一方、害虫防除業者も専門知識のある学生の採用に苦慮している。ここにチャンスがありました」。害虫防除業界の負の解消、これも差別化戦略の一つだ。

自由度の高い仕事のやりがいとプレッシャー

同社の仕事の進め方はユニークだ。定例会議がなく稟議書もない。報告と情報発信はほとんどWeb上でリアルタイムに行われ、全員が共有してコメントやアドバイスを送り合う。基本的に各人がプレーヤーでありプロジェクトマネージャーだ。事業の方針は示されるが、日常業務の進め方を細かく指図されることはない。自分で自由に仕事を組み立てられる。

「事業の推進に必要であれば、出張や必要なセミナーへの参加、取引先との会食なども自分の裁量で行えます。とても恵まれています」。ビジネスを成功させるための投資は惜しまない、社員に最高の環境を与える、それが片山氏の方針だ。「だからこそ言い訳ができない」と松井氏は苦笑しながらも「会社が社員に最高の環境を与えてくれるから、社員も素直に会社のために頑張りたいと思う。良いサイクルが生まれていて理想的な環境で働けています」と語る。日々、やりがいと責任の両面を感じ業務にあたっている。

環境機器株式会社
経営企画部マネージャー

松井 真吾

1982年生まれ、兵庫県尼崎市出身。2005年に関西学院大学経済学部を卒業後、大手クレジットカード会社に入社。2006年、第二新卒にてリクルートスタッフィングに転職し、約8年間、人材ビジネスに携わる。2014年に環境機器に入社。経営企画部にて組合事業の立ち上げ、運営業務を中心にマネージャーとしてプロジェクトを推進している。

GLOCAL MISSION Times 編集部