宮崎から、アオイフ゛ラント゛のさつまいもを世界へ。(前編)
2018/04/12 (木) - 08:00
岩崎 雅美

契約農家を大事にし、結ばれた強い絆。

宮崎県の最南端に位置する串間市。宮崎空港から車で約1時間半、サーフスポットとしても有名な海岸沿いを走り、山道を越えると「AOI FARM」のロゴが記されたが巨大な倉庫が目につきます。ここに、くしまアオイファームの本社がありました。

「くしまアオイファームは、青果用のさつまいもに特化した事業を展開する企業です。独自にブランディングしたさつまいもの生産から加工、販売を一貫して行っています。ここは特別なものはない片田舎ですが、実はさつまいもの生産やアジアへの輸出には適した地域なんですよ」

そう取材班を出迎えてくれたのは、取締役副社長の奈良迫洋介さん。2年前に転職し、東京から串間に移住しました。

株式会社くしまアオイファーム 取締役副社長

奈良迫 洋介

1982年生まれ、鹿児島県出身。高校卒業後、美容師見習いを経てワーキングホリデーでニュージーランドへ。帰国後、鹿児島大学に入学し2010年3月に卒業。同年4月からインドの現地企業で翻訳業務のプロジェクトマネージャーを務める。2012年7月からは東京の貿易商社にて経営管理および食品の輸出業務に従事。他部門への異動内示をきっかけに「さつまいも愛」から台湾で見つけたくしまアオイファームへの転職を決意。2016年1月入社、同年9月から2017年3月までは現地生産の可能性を探るためベトナムに駐在。帰国後は、金融機関や投資家を相手にさらなる成長のための資金調達に奮闘中。

くしまアオイファームは、さつまいもの生産を自社農園で行うとともに、約100ヶ所の農家と栽培契約を結んでいます。生産規模は、自社生産が20ha、契約農家は100haほどで、契約農家のエリアは、串間市内にとどまらず、鹿児島県志布志市、種子島の安納地区、熊本県大津町、大分県豊後大野市など広範囲に及んでいます。

「創業は1950年、でんぷん用さつまいもの栽培農家でした。池田社長の祖父が小規模の栽培を開始し、2013 年の法人化後、現在は 100 軒の契約農家まて゛広か゛っています」。

たった5年て゛、と゛のようにしてここまて゛拡大て゛きたのて゛しょうか。

「農家さんからの信頼を得るために大事にしていることは、時間や支払いの約束を忠実に守るといった、当たり前のことを当たり前にすることですね。契約に至っては、唐突にお願いしても断わられることも多いですし、粘り強く交渉を重ねて、時には他の農家さんから紹介してもらい理解を求めてきました」

そして彼らは、契約農家を対等なビジネスパートナーとして、共に成長するために、さまざまな取り組みをしています。

「何かがあればすぐに駆けつけますし、情報の共有も怠りません。また、農家さんを海外の展示会に連れて行くこともあります。生産現場だけでなく、自分たちが作ったさつまいもがどのように評価されているのかを、ダイレクトに知ってもらうためです。直接反応を知ることで、彼らのモチベーションにもつながります」

こういった関係づくりが、農家さんとの絆を強固にし、さつまいもの品質向上にもつながっていると言います。

あおいファーム最大のミッション「強い農業は、超えていく」

「私たちが掲げるビジョンは『強い農業は、超えていく』。”強い農業”とは、『安全・安心を前提に、さらにおいしい農産物を作り、安定的で高い収益性を生む農業』のことです」

そう語る奈良迫さん。日本全体の農業への危機感とその変革への思いが込められていると言います。

「日本全体で農業者が減少している負のスパイラルから抜け出す方法は、農業が儲かることです。いいものを作り、相応の対価を得ることができる仕組み作りなんです。そのため弊社では生産者と直接取引をすることで、販売価格は安く、生産者の利益は高くなることを実現させています」

しがらみや既成概念、自分自身も超えていくことで、農業に関わるすべての人が肥えて、豊かに幸せになっていく社会を作りたい。そこには、家業として、自らも農家として池田社長が味わってきたこれまでの様々な経験が礎となっています。

「先人の知恵を知り、学び、自分たちのものにする。今の時代に合わせて変えることが、新しい未来を切り拓くことだと思っています。それを、私たちは『温故拓新』と呼んでいます。将来農業を志す若者を増やしたいですし、農業を継がせたい仕事にしたいんです」

品種、貯蔵、販促。惜しみなくこだわり、とことん突き進む。
くしまアオイファームクオリティ。

ビジョンを具現化するためのくしまアオイファームの挑戦は、生産に留まらず、加工、流通、販売にまで多岐に渡ります。

「私たちの強みの一つは、さつまいもの多品種生産です。通常、徳島は『なると金時』、種子島なら『安納芋』と、ひとつの地区に1品種という生産地域が一般的ですが、私たちは、現在5品種を栽培しています。サイズや甘みの異なる多品種を生産することにより、例えばバイヤーはあちこち電話をかけなくても、アオイファームに注文すれば事足りますし、取引先が一本化できるというメリットがあります」

その5品種のさつまいもの年中出荷を可能にするのが、西日本最大級を誇る1,200t収容可能な貯蔵庫です。

「昨年新たに設けた貯蔵庫が、高品質なさつまいもを一年中出荷できる方法を可能にしています。さつまいもは通常8月から11月までが収穫期なのですが、収穫後に傷だらけになっているものも少なくないんです。それを貯蔵庫に入れることによって、適正な温度や湿度で管理することができ、傷も自然に治癒し活性化します。さらに長期保存も可能です。どの農家さんが育てたさつまいもか、管理もデジタル化することでトレーサビリティも徹底しています」

また、商品開発においては、6次化認定企業として消費者ニーズに合わせた積極的な商品開発を行うとともに、販売の領域でもきめ細やかな販促を実現しています。

「商品パッケージでは、生産者の顔を見せて、農場と売場をつなぐことで、安心感・信頼感を伝えています。売場棚も自ら提案し、店舗や客層に合わせたブランディングを行っています。少しアッパー層がターゲットとなるスーパーさんにはモダンなデザイン、大衆向けのスーパーさんには親しみやすいパッケージなど、売場に合わせた商品を店頭に並べています。現場毎に迅速に対応できる体制は、社内にデザイナーを抱えている弊社ならではの大きな強みでもあるんです」

さつまいも民間出荷量第一位。宮崎という立地から逆転の発想。
アオイを世界ブランドにするために海外へ。

こうした強みをいかんなく発揮しながら、急成長を続けるアオイファームは、国内のみならず海外向けのさつまいも輸出量が民間企業の中でナンバーワンに上り詰めています。
現在、シンガポール、台湾、タイ、マレーシア、香港、アメリカ、イギリス、オーストラリアなどに輸出しており、特にシンガポールにおいては海外輸出シェアの80%を占めます。

「宮崎という立地からの逆転の発想なんです。東京など首都圏の大消費地は遠く、近隣の千葉、茨城産にシェアを占められ、同じ土俵に立つメリットがないのが現状です。ならば別の土俵で勝負しようと、海外へと目が向きました。海外への輸出のウエイトはどんどん増え、販路拡大へ向けたビジョンもすでに描いています」

くしまアオイファームの年間輸出量は375t、輸出額14,426万円。前年度比480%という急速な勢いで上昇しています。

「2020年までには10ヵ国に輸出し、輸出量は2,000トンを見込んでいます。今は、日本から輸出されるさつまいもの5割のシェアを占めることが目標ですね。そのために、農産物の国際認証であるグローバルGAPやHCCP取得を視野に入れ、国内トップクラスのさつまいも選果場を建設しました」

また、流通面でも妥協を許しません。現状、シンガポールであればさつまいもを出荷するには15~20日ほどかかるため、通常の輸送では半分ほどが腐敗してしまうのですが、海外で売れる小ぶりのさつまいもを最低限のロス率で出荷することを実現させました。

「私たちはメーカーといっしょに専用の袋を開発して、コンテナやダンボールの改造にまで取り組み、腐敗率を下げることに成功しました。生産からお客様の手に届くまでを細かくチェックし、“さつまいものことなら、なんでもやる”のがアオイファームなんです」

串間市が日本を代表するさつまいもの輸出拠点となる日も、そう遠くはないのかもしれません。

社長の即決力と大胆な権限委譲が、会社を成長させる

これほどまで、多岐に渡り挑戦し変革を実現するくしまアオイファームの底力は、若さ溢れる社員と会社の社風にありました。 従業員は法人化時点は4人だったのが、2017年11月現在でパート・アルバイトを含めて70人まで増えています。

「スタッフの平均年齢は30歳。若手が多く、社長も社員と同じフロアに机を構え、社長室はありません。何事もスピードが早いですね。先手を打って勝負して、ダメだったら手を引くのも早い。社員の声も通りやすい社風で、口に出せば任せてもらえます。責任感とやりがいがある仕事ですね」

勢いあるくしまアオイファームで働くスタッフの実情と、今後会社が展開していくために求める人材、そして未来への展望とは。後半に続きます。

 

岩崎 雅美