
鳥取県湯梨浜町の山あいに位置する「渡辺のびのび農園」では、自然に近い環境で鶏を飼育し、平飼い卵「いのちのたまご」を生産・販売しています。現在約800羽の鶏を飼育し、地域の課題解決と持続可能な農業を目指して奮闘中の渡辺様に、副業・兼業人材の活用による資金調達と事業拡大のプロセスをうかがいました。
■まずは、渡辺のびのび農園について教えてください。
鳥取県湯梨浜町にある養鶏場で、現在約800羽の鶏を放し飼いで育てており、1日500個ほどの卵を生産しています。本格的にスタートしてから3年目を迎え、規模としてはまだ小さいですが、少しずつ拡大を目指しています。
■どんな想いで養鶏を始めたのですか?
私の出身である湯梨浜町の過疎化が進むなか「何とかしたい」という想いがあり、農業を志しました。ただ、私自身が農業未経験であったことや、土地の広さが限られていることもあり、試行錯誤している中、少スペースで始められる養鶏に注目しスタートしました。地域の耕作放棄地問題ともリンクさせながら、土地を守りつつ、自然に近い環境で鶏をのびのびと育てています。ストレスをかけない飼育方法にこだわり、健康的で美味しい卵作りを目指しています。
■副業・兼業人材を活用しようと思ったきっかけについて教えてください。
規模拡大に伴う鶏舎の増設に必要な資金調達がうまくいかず、悩んでいました。日本政策金融公庫から借り入れをしたものの計画通りにいかず、資金繰りに苦戦してしまい、新たな借入にも不安がありました。日々の鶏の世話もあり、金策が負担になっていました。そんなタイミングで、副業人材のことを知り、藁にもすがる想いで「相談できるパートナー」として力を借りることを決めたのが経緯です。
■副業・兼業人材の選考で印象的だったことは?
副業・兼業人材を募集したところ、6名の応募がありました。「世の中にはこんな方がいるのか」と非常に興味深かったですね。その中から3名と面接を行い、最終的に選んだ方は、商工会議所に関わる経験がありました。
人柄の良さはもちろん、個人事業主や小規模事業者の実情をよく理解していて、寄り添う姿勢が伝わってきました。加えて、補助金の知識が豊富で、信頼できると感じたのが決め手です。
実際、初回面談のあとすぐに「現地を見たい」と申し出てくださり、日程を調整して鶏舎まで訪問してくださいました。その日のうちに一緒に商工会にも出向き、驚くほどスピーディーに話が進んでいき、結果として、商工会を通じた資金調達の手続きに進むことができました。
必要書類や資金繰り表の準備はその方が中心となって進めていただき、ZoomやLINE、メールなどを使いながら着実に申請までこぎつけました。初期段階で方向性をしっかり定められたことで、その後の作業も非常にスムーズだったと感じています。
■副業・兼業人材との取り組みの成果は?
無事、融資を受けることができ、そこからはトントン拍子でした。地元のおばあさんがお持ちだったビニールハウスを活用できることになり、鶏舎を3棟分拡張できました。生産量は1日400~500個だったのが、700〜800個まで増え、事業の規模も目に見えて成長しています。思い描いた通りの事業プランになっており、次のビジョンも見えてきました。副業・兼業人材との出会いがなければ今の拡大はなかったと思います。
■今後の展望について教えてください。
今後は生産規模を倍に増やし、1日1,000個ほどの生産を目指しています。また、直売所を設け、6次産業化(生産・加工・流通販売までを一体的に行う)にも取り組み、この地域へ人が訪れるような流れをつくりたいと考えています。
■最後に、副業・兼業人材活用を検討している事業者さんへメッセージをお願いします。
農業者は生産に関してはプロですが、経営や資金調達には弱い部分があります。その中で、副業人材の力を借りるという選択は、自分の理想に近づくスピードを加速させるために有効だと思います。
最初は「本当にうまくいくだろうか」と不安もありましたが、それ以上に「自分のビジョンを実現するためには、きっと得られるものが多いはず」と感じていました。一人で悩むよりも、専門的なスキルを持った人の力を借りることで、道が開けることがあります。
自分の殻に閉じこもっていては、何も変わりません。少しの勇気を出して一歩踏み出したことで、副業・兼業人材との出会いがあり、価値あるものになりました。今では事業の拡大や法人化も視野に入れており、「挑戦してよかった」と実感しています。