「創造性」をアイデンティティに。“あり方”で“らしさ”を紡ぐ「福山ブランド」戦略
福山市都市ブランド戦略推進協議会・福山市市長公室 情報発信課
取材・文・撮影:NATIV.編集部
2018/11/29 (木) - 19:00

今、全国の地方都市で「地域ブランド」の確立・発展に向けた戦略策定が一斉に推進されている。通常、「地域ブランド」の目的として挙げられるのは、地域の特産品の消費拡大と観光地への誘客促進だ。これにより、景勝地や歴史的建造物などの観光資源、農水産物や伝統工芸などを活かした地場産業を充実させるなどして、地域経済を発展させることが期待されている。

そんな中、広島県東部に位置する人口47万人の都市・福山市が策定した「福山市都市ブランド戦略」は、特定の観光スポットや特産品のみをブランド化しようとするものではなく、人やサービス、モノや技術の「創造性」、言わば“あり方”もブランド化しようというもの。いわゆる「都市ブランド」の構築である。 福山市都市ブランド戦略の協議会事務局を務める福山市市長公室 情報発信課に詳細を伺った。

市民に誇りを持ってもらうために

広島県東部を指す備後地方に位置し、県下第2位の人口を擁する福山市。江戸時代に誕生した「備後絣(かすり)」から栄えた繊維業、北前船に積んだ木材を利用した下駄生産から発展した木工業のほか、昭和中期の企業誘致により誕生した日本最大級の鉄鋼コンビナートや機械工業、造船業など、多様な「ものづくり企業」を抱える中核都市だ。

このように、大規模な工業化により発展した町でたびたび囁かれるワードがある。
「この町には何もない」という、多少の自虐が混じった言葉である。

人口も多く土地もある。海もあり山もある。全国シェアNo.1を誇る大企業も数多い。新幹線のぞみ号・さくら号も停まる。車両保有率が高く、各大型ショッピングモールは連日賑わいを見せる。「暮らしやすい町」ではあるのだが、大規模な観光名所があるわけではなく、BtoBの企業がほとんどのため市民として直接的に恩恵を受けている感覚は少ない。それに十数年前にはあんなに賑やかだった駅前がどんどん寂しくなっていく……。そんな肌感覚が、市民に「ここには何もない」と言わせてしまうのだろう。

そんな福山市が2014年に設立したのが「福山ブランド認定・登録制度」だ。前述したように、これは特定の「地域ブランド」を拡大推進しようとする取り組みではなく、町全体を包含する「都市ブランド」を確立しようというシティプロモーション戦略である。

「縦割り行政」の壁を打破するという挑戦

福山市は、「『都市ブランド』の確立のためには、統一感と信頼性を持ったコンセプトが必要だ」という考えのもと、これまで個々の立場で事業を推進してきた産・学・民と行政を一体化させた「福山市都市ブランド戦略推進協議会」を2014年3月に設立。「ひとづくり・ものづくり・まちづくり・ブランド認定・発信」の「5つの戦略」を掲げ、人材育成や地域資源開発などに尽力している。

中でも特徴的な取り組みが、ブランド認定に該当する「福山ブランド認定・登録制度」だ。

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産学民と行政の18団体から成る「福山市都市ブランド戦略推進協議会」

全国に誇る『ものづくりの町』である福山市の創造性豊かな産品・サービスに注目し、その価値を再認識してもらうこと。独自の技術・素材の存在そのものを広く市民に知ってもらうこと。そして、地域でわき起こるあらゆる課題解決に取り組む団体に光を当て、彼らの思想や行動力を讃えること。既に町にあった価値をブランド認定という形で評価し、“当然”を“特別”に変換することで、自分の町あるいは自分たちの魅力に気づいてもらうこと。自分の市町を国内外に広く発信することももちろん重要だが、そのためにまず「実はこんなにある」市の魅力を発掘することを目的としたプロジェクトである。

ことの発端は2008年にさかのぼる。「福山市都市ブランド創出発信検討委員会」を発足させたのが始まりだ。いわゆる縦割りのお役所体制では、隣の課が何をしているのかもよく分からないというのが“普通”。「各課の範疇を超えた新たなアイデアが生まれず、“本当に必要な活動”に取り組めない」という課題を打破するために、縦割りが定石だった組織を横断する委員会の新設に乗り出した。市役所職員自らが、これまでの既成概念を壊す“お役所革命”を起こしたのだ。

「点」だった地域の魅力を同じ土俵で評価する

以降、組織横断的なプロジェクトチームを積極的に発足させ始めた福山市は、2013年、都市ブランド戦略推進のため「ふくやま魅力発信課」を新設。餅は餅屋という柔軟な姿勢で、地域・都市ブランド戦略の専門家である「本田屋本店(有)」の本田勝之助氏をアドバイザーに招き、「福山都市ブランド」の戦略づくりを始めた。まずは地域資源の再確認と明確化、地域のキーパーソンへのヒアリングと現状の把握、当プロジェクトのキャッチコピーづくりを1年かけて行うことを決めたのだ。

その活動の中で、一つの気づきが生まれる。地元のプレイヤーたちへのヒアリングを進める中で、行政の認識とは裏腹に、彼らの多くは「福山市には他の地域に誇る地域資源が数多くある」という発信者としての意識を持っていたのだ。

「『福山市都市ブランド戦略』を推進する目標の一つは市民一人ひとりの郷土愛を醸成することです。既に地元に深い愛着を持ち、地域課題を解決したい、伝統や文化、人々を守りたいと行動に移している人々こそ福山市が誇るブランド資源だったのです」と福山市情報発信課の澁谷歩美さん。「市にできることは、『ブランド』という一つの土俵をつくることで、これまで『点』だった個々を同じ輪の中に集めること」。その方針に上述した気づきを重ねた結果、有形無形に関わらず、地域産品やサービス、技術、素材、地域活動に至るまで、あらゆる価値に同様の評価を与える「福山ブランド」という認定制度を策定することになった。

そして、「ここには何もない」と呟く人々に対し「そんなことない!」という反論を込めて、また「地元には何でもある」と誇りを抱いている人たちの代弁をするために、当プロジェクトのキャッチコピーを「何もないとは言わせない!」に決めた。

大切なのは「よそ者目線」で評価すること

福山市は、「地域の商品や取り組みをフラットに評価するためには、地域の事情や個人的感情などにとらわれてはならない」という徹底した“平等評価”を図るため、審査委員会委員は“よそ者”かつ各分野の“トップランナー”であることを重視。委員会の構成は、本事業のアドバイザーでもある本田勝之助氏をはじめ、マガジンハウス社の人気雑誌『BRUTUS』の編集長・西田善太氏、コミュニティーデザイナーとして活躍する「(株)studio-L」の山崎 亮氏、雑誌『マリ・クレール』の編集長経験も持つファッションジャーナリストの生駒芳子氏の4名に決定。委員会による審査ののち、地元の産学民と行政の18団体からなる協議会の承認を得て、晴れて「福山ブランド」として認定・登録される。

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2018年、第4回を迎えた福山ブランド認定証・登録証授与式の様子

審査委員会メンバーの構成を決めた本田勝之助氏は、「地域の人々は、町の特性や魅力を当たり前のものとしてしまい、その素晴らしさに気付けていない場合がほとんどです。そこには“よそ者”だからこそ見出せる魅力が必ずある。地域の持続的な発展のために、まずは事業者やまちづくり団体などの当事者に自分たちの魅力を再認識してもらうことを優先させました」と話す。

そして2014年秋、遂に「第1回福山ブランド認定・登録制度」の公募を開始。「創造性」をキーワードに、3年以内に開発、改良された産品・サービスで、実用化され取引実績があることを条件とした「産品・サービス部門」、福山市の地域資源を活用した地域活性化や問題解決、町の魅力を高めるための取り組み・活動を対象とした「登録活動部門」を設けた。計180件もの応募のうち、産品・サービス部門では、特産品であるクワイや鯛を使った加工品など5件、登録活動部門では、歴史的建造物の保全や賑わいづくりを目的としたマルシェなど6件。計11件が初の「福山ブランド」として認定・登録された。

2回目となる2015年度からは「ものづくりの町」としての特性を活かし、福山市内で生産、製造、または加工された素材または開発された技術を対象とした「素材・技術部門」を新設。精密金属部品の製造・加工企業や、備後地域の特産品の一つであるデニム製造業などが認定・登録された。産品・サービス部門と素材・技術部門には「認定マーク」、登録活動部門には「登録マーク」を使用する権利が与えられる。

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福山の伝統食“うずみ”に六薬味(大葉、ごま、みょうが、生姜、ネギ、かいわれ)を加えてアレンジした和食厨房 如稲の「うずみ寿司」(2015年認定福山ブランド)

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マルコ水産有限会社が、希少な初摘み一番海苔に小豆島の醤油、鞆の味醂、香川の和三盆糖、清酒のみを加えてつくる「海苔師の生のり佃煮〈極〉」(2016年認定福山ブランド)

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お母さんたち5人のレシピ本制作から始まった、シンプルに美味しく作れる家庭料理を伝え・提供する地域コミュニティ「たんぽぽごはんの会」(2017年登録福山ブランド)

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禅宗の修行僧「雲水」が神勝寺で限られた日だけに食べる一番のご馳走「神勝寺うどん」(2017年認定福山ブランド)

認定・登録団体による「再申請」を目指して

「福山ブランド」として認定・登録された企業・団体は、ブランド認定・登録マークの使用許可、特設サイト(http://www.fukuyama-brand.jp/)や各メディアでのPR、総合プロデューサー本田勝之助氏との個別相談やフィードバックの機会、補助金の交付といったさまざまな支援を受けることができる。認定・登録者同士の交流から新たなサービスや取り組みが生まれることも少なくない。

しかし、一度認定・登録されたら永久保証とはしていないのも「福山ブランド」の大きな特徴だ。ブランドの認定期間は3年後の年度末までという期限を設けているため、そのままにしておけば3年経ったら自動的に「過去のブランド認定品」になってしまうのだ。

「協議会としての本当の目標は、一度ブランドとして認定された商品・活動の再申請を受け取ることです。審査を経て再認定されれば、再び『福山ブランド』を名乗ることができる」と、澁谷さん。更なる高みを目指し、挑戦し続ける姿勢こそを「ブランド」と捉えている。2015年度の受賞者の認定期間が終了するのが2019年3月末。その際に、いくつの団体からブランド再申請書が提出されるのかが楽しみだ。

このプロジェクトが継続する限り、「福山ブランド」に関わったことがあるという市民人口は増加し続ける。市民の間から、「福山市には色々ある!」という自慢気な言葉が聞ける日は、そう遠くないのかもしれない。
 

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