【地方転職・起業の先駆者】ITとマーケティングで市場創出
月刊事業構想 別冊「ポスト平成の働き方」/監修 (株)日本人材機構
月刊事業構想 編集部
2019/02/07 (木) - 08:00

一次産業は地域経済の根幹であり、最も課題が山積している産業である。この領域に若き感性と新しいスキルで挑み、成功をおさめている地域企業がある。地域資源の宝庫である一次産業には、無限の成長チャンスがあるはずだ。
※トップ写真:生鮮食品デリバリーサービス「VEGERY」

「魚の離乳食」で6次化成功
 仕掛人は移住人材

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魚のベビーフード「mogcoo(k モグック)」

三重県紀北町でウェブや広告物の製作を手掛ける企業が開発した異色のベビーフード「mogcook(モグック)」。昔ながらの漁師町で「魚まち」とも呼ばれる紀北町で水揚げされた魚を地元で加工したベビーフードが、首都圏を中心に母親の支持を集めている。

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首都圏の母親達に支持され、売上が急伸

製造販売を手掛けるのは、紀北町に拠点を置くディーグリーン(東城代表取締役)。なぜ、まったく畑違いの事業をスタートさせたのだろうか?
 
モグックの担当者で取締役の立花圭氏は、岩手県釜石市生まれ。アメリカ留学中に紀北町の民宿でインターンシップを経験し、この町の美しさに惚れ込み、ディーグリーンに入社を決めた。
 
立花氏は言う。「2013年に東京で子育てをしている男性から相談を受けたのがきっかけです。子どもに栄養豊富な魚を食べさせたいのに、東京は魚の種類が少なく、産地もバラバラで安心安全に気を遣うということで、紀北町の魚を使ったベビーフードを作っては?と提案してくれました」

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立花圭 ディーグリーン取締役

もともとディーグリーンは地元に密着した事業を行っており、地元の生産者や水産加工業者もクライアント。「彼らとのコミュニケーションから、水揚げも売り上げも減少しているという話を聞いていました。弊社が10年後、20年後も生き残るためにも地元を活気づけたいという想いがあり、未知の分野に挑戦しました」
 
地元の管理栄養士や水産加工業者と試行錯誤を重ね、魚の皮と骨を取った白身魚の切り身を離乳食化。試作品を実際に食べてもらうために、母親向けのメディアに掲載したバナー広告とフェイスブック広告を併用してなんとか300名を集め、14年2月から発送を開始した。このモニターからのリアクションが、事業化への手応えとなった。「旬の魚、地元の魚を加工して送っていたので、『見たことのない魚が届いて楽しい』という意見や、『魚がこんなに簡単に離乳食にできて嬉しい』という意見が多かったんです」
 
14年7月、ディーグリーンはモグックの専用サイトを立ち上げ、定期購入をベースにオンライン販売を開始した。その半年後には、料理家・栗原はるみさんの娘で、自身も料理家として活躍する栗原友さんがアドバイザーに就任。栗原さんの存在は都心部でモグックの存在を広めることにつながった。東京や大阪で料理教室を開くと毎回盛況になり、SNSを中心にモグックの情報が拡散。その効果もあり、15年は前年比80%増、16年は前年比50%増と売り上げは大きく伸びている。
 
現在、モグックは紀北町とその両隣に位置する尾鷲市、大紀町の加工業者と連携。工場では地元女性が多数活躍するなど、雇用創出を実現している。

日本初の生鮮食品デリバリー
東京と宮崎を股にかけ活躍

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宮崎と九州のオーガニック野菜を届ける

日本初の生鮮食品デリバリーサービスとして2017年1月にローンチされた「VEGERY(ベジリー)」。取り扱うのは主に九州で作られたオーガニック野菜で、東京都心であれば注文から最短1時間で玄関先に野菜や肉が届けられる。農家から直接野菜を仕入れ、配送も自社スタッフで行うビジネスモデルで、新鮮な野菜を安価に販売することを可能にした。
 
忙しい女性たちにサービスは支持され、月間売上高は1年で15倍以上に拡大。大手流通が続々と生鮮食品デリバリーサービスに参入し競争が激化する中でも、成長を続けている。
 
このサービスを手掛けるのは、宮崎県に本社を置くベジオベジコ。代表取締役の平林聡一朗氏はまだ20代だ。

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平林聡一朗 ベジオベジコ代表取締役

平林氏は宮崎県出身のUターン人材。東京の大学に進学した平林氏は、東日本大震災をきっかけに故郷に目を向けるようになった。「復興ボランティアを経験し、地域の抱える課題を意識するようになりました。当時は地元の宮崎も口蹄疫や鳥インフルエンザに苦しんでおり、宮崎の農業を盛り上げるために何かしたいと考えたのです」
 
平林氏は、宮崎発のITベンチャーのアラタナに学生インターンとして参加。子会社で宮崎産農産物のECを手がける「あらたな村」の経営に関わった。2013年にスムージー用青果セットのECサービスを開始すると、モデルや芸能人に愛好され大ヒットに。
 
スムージーセットの成功から、特に東京都心の働く女性のオーガニック野菜需要が大きいことを掴んだ平林氏。そこから生まれたのが、生鮮食品のデリバリーサービス「VEGERY」だ。
 
ユーザーの90%が女性で、30-40歳代の仕事や子育てで忙しい年代が中心。食品ECのリピート率は20%あれば上出来と言われるが、VEGERYは55%と極めて高い。「美味しさと便利さが認められている証拠」と平林氏は胸を張る。
 
VEGERYのリリースと同時期に、東京・根津に八百屋「ベジオベジコ根津」をオープンした。狙いは、VEGERYの認知度と信頼性の向上だ。「聞いたことのないIT企業から野菜を買うのは心理的ハードルが高いですが、リアル店舗を持っていれば安心感も生まれます」。平林氏は宮崎と東京を往復しながら経営を牽引し、八百屋の店頭に立つことも多い。
 
新たな展開として2018年1月、農業法人「VEGERY FARM」を立ち上げた。農家などから遊休農地や耕作放棄地を借り、VEGERYの販売データを参考に売れる野菜を自社栽培する。栽培にはVEGERY FARMスタッフだけでなく農家も加わり、収入を得られる仕組みだ。第一弾として宮崎県綾町で葉物野菜の栽培を始めた。
 
2社に共通しているのは、ITやマーケティングツールをフル活用し、首都圏市場に戦略的にアプローチする姿勢。そして地域に深く入り込み、地元事業者とパートナーシップを組みながら、共に課題解決や雇用創出に挑もうという姿勢だ。マーケターやITエンジニアが一次産業に挑戦しイノベーションを起こすケースは、これからどんどん増えていくだろう。

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