コミュニティを掘り起こし、古民家から経済をデザインする(前編)
GLOCAL MISSION Times 編集部
2022/02/22 (火) - 18:00

兵庫中東部に位置する山間部の町、丹波篠山(ささやま)市は、かつて旧丹波国として栄えていた歴史を持ち、京文化を彷彿とさせる美しい街並みが残る町です。ところが、市内には集落が残るものの、過疎化が進み空き家が増加。住民の高齢化も深刻な問題になっています。そんな町に命を吹き込み再生させる事業に取り組んでいるのが、株式会社NOTE(ノオト)です。12軒中7軒が空き家だったこの町に向き合い、いかにして活性化を実現してきたのか。株式会社NOTEの代表取締役、藤原岳史さんにお話をうかがいました。

「取引の98%は東京」。地方に行き届かないITサービスに疑問を抱く

藤原さんは篠山市で生まれ育ち、大学卒業後は大阪で外食産業に就職しました。その後、28歳でIT系のベンチャー企業へ入社。この企業が2007年に上場を果たしたとき、藤原さんは立ち止まって考えたのだといいます。

この企業の取引先は98%が東京や大阪の会社で、地方に向けたサービスをほとんど扱っていませんでした。このことに疑問を抱いた藤原さんは地方を中心の事業に取り組みたいと考えるようになったといいます。ちょうどそのタイミングで、知人から当時の篠山市副市長だった金野幸雄氏を紹介され、2009年、一般社団法人ノオトの創業期に参加することになりました。

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株式会社NOTE 代表取締役 藤原 岳史さん

藤原さんたちがまず目を向けたのが空き家でした。この町をどのように事業化したらよいか、そのヒントを得るために住民にヒアリングするなかで、「ここにあるのは空き家ぐらいや」というひと言から、「空き家を宿屋にする」といアイデアが生まれ、話が進んでいきました。

「はじめは、IT企業で培ったスキルを活かした事業をしたいと思っていましたが、ここは高齢者ばかりでITサービスは現実的ではありませんでした。宿屋であれば、ITスキルは必要ありませんし、ITを使った情報発信は私たちが担えばいいと思ったのです。」

かつては、夕暮れどきに子どもたちが帰ってくると、ポツポツと家々の明かりがついている哀愁漂う光景が広がっていましたが、今では空き家だらけで真っ暗。もう一度、夕暮れに浮かぶ家の明かりを見たいという住民たちの声を聞き、藤原さんは「宿泊客がその日の住民になって、明かりを灯してくれればいい」と考えたのだといいます。こうして、藤原さんたちの古民家再生事業が誕生したのです。

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「何もない」という体験を売る

丸山地区の限界集落(過疎化や少子高齢化により、人口の50%以上が65歳以上になった集落)は「集落丸山」と名付けられ2009年の11月にオープンしました。

「最初は3棟からのスタート。徐々に宿泊客が増えていきました。口コミを見ると、“絵に描いたような農村の暮らししかないのがいい”、“何もないけれど、『ある』”と。この事業は宿泊業ですが、田舎で暮らしているかのように過ごす一泊の“体験”を売っているのです。」

地域活性化は今、ここにあるものから

「少子高齢化は日本のどこにでもある問題です。国が解決できないのに、小さな集落で解決できるわけがありません。」と藤原さんはいいます。「地域活性化の目標を掲げたとき、現状の課題は何かを考えるところから始めるのが一般的な流れですが、それらを列挙して計画書を作成したところで何の事業にもつながりません。だとしたら、昔からここにあるものは何かを洗い出すところから始めたほうがいい。何かできるのではないかと前向きな気持ちになります。」

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藤原さんは、集落に行くと、まず自治会などのコミュニティに足を運び、住民にヒアリングをして事業のヒントを探すのだといいます。

「あなたが生まれ育った家がそのうちなくなりますよ」と住民に訴えてもなかなか響かないけれど、「集落を残しませんか?」とアプローチすると、集落全体の問題に意識が向き、「空き家を使うことがこの町のためになるのなら」とまちづくりに貢献しようという気持ちに変化します。

「人と対話しながらつくり上げていく過程は、IT業界でプログラムやシステムをつくり上げるのと同じフロー。空き家を使うことで村の文化を継承することに繋がることを丁寧に説明することで、住民たちも心を開き、空き家の持ち主の連絡先を教えてくれることもあります。」

収益事業を担う株式会社を設立

古民家をリノベーションし、宿泊施設や飲食店、ショップなどとして運営していくにはまとまった資金が必要になります。そこで藤原さんは、「古民家の空き家をリノベーションした場合」の価値をプレゼンテーションして回りました。長い時間の中で刻まれてきた暮らしや文化空間を活かし、1泊5万円で月100人のお客さまが宿泊すると、500万円の売り上げが期待できる不動産になること。そして、それは社会的な意義にもつながることを丁寧に説明すると、それまで知らん顔をしていた銀行が興味を示したのだといいます。

ひとつでも多く実績をつくっていって、金融機関や投資家に出資していただける形をつくりたい。そう考えていた藤原さんでしたが、当時の事業主体は一般社団法人ノオト。非営利団体のため、せっかく投資の話にまで話が進んでも資金集めの方法に制限がありました。そこで、藤原さんは融資や投資をしてくれる人のためにも株式会社NOTEを設立することを決意。社会的な側面は社団法人に、収益事業は株式会社でと機能の使い分けを図ることにしたのです。

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