鉄よりも強く軽い素材を用いた「CABOCON工法」で安全な橋を次代へつなぐ
GLOCAL MISSION Times 編集部
2017/07/18 (火) - 13:00

「補修・補強の見える化」で時代の要求に応える

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四国・徳島県東部の町、羽ノ浦町。ここは阿南平野(那賀川平野)の内にあり、豊かな自然と水に恵まれた県内屈指の稲作地である。そんな広々とした田園に臨む株式会社カボテックの白い本社屋が、すがすがしいコントラストを見せている。

徳島県は西日本第2位の高峰・剣山を筆頭に2,000m近い山々が連なる。谷あいから大小の川が無数に生まれ平野部を潤す。那賀川や海部川、隣の高知県から延びる吉野川などの大河をはじめ、同社のある羽ノ浦町から車で約40分の距離にある徳島市内にも多くの川が流れ、県都は別名「水都」とも呼ばれている。

当然、川があれば橋が架けられている。日々、多くの車や人が行き交い、また風雨にさらされて老朽化も進んでくる。そうした橋の補修・補強にCABOCON工法という独自工法で取り組んでいるのがカボテックだ。

CABOCON工法で使われるのは炭素繊維を素材とする炭素繊維集成板カボコン。幅50mm、厚さ1.2mmの板を施工箇所に合わせて加工し使用する。重さは施工しながらでも片手で楽に持ち上げられるほど軽く、同社のオリジナル製品で他にはない。全国からも多くの設計・見積依頼が寄せられ順次、受注へとつながっている。

2m以上の道路橋やトンネルなどのインフラに対して、5年に1回の頻度で、近接目視による点検を行うことが2014年7月に義務化された。そのため本体が見えるかたちでのメンテナンス「補修・補強の見える化」が必要になっている。

同社は「補修・補強の見える化」でもあるCABOCON工法をメーンに、鋼構造物の内部からサビを無力化するエポガードシステムや、塩害から橋を守るCSCシステム、コンクリートの耐久性を高めるアイゾールEXといった工法など橋の補修・補強の専門企業として飛躍を図っている。

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株式会社カボテック

2006年の設立からわずか10年。従業員9名の若い会社だが、その勢いは強く、本社屋を2015年に移転した。炭素繊維集成板カボコンを使った独自のCABOCON工法をメーンに橋の補修・補強の設計・施工・材料販売を手掛け、2016年度、補修・補強に携わった橋の数では県内シェアトップクラスの実績を誇る。環境意識が高まり定着するなか、スクラップ・アンド・ビルドの考え方が見直されている。工期短縮による人件費等のコスト削減を実現しながら、インフラの延命を図るメンテナンスにいち早く取り組んできた同社の新工法と技術力が橋の補修現場で注目を集めている。

住所
〒779-1101 徳島県阿南市羽ノ浦町中庄鴻ノ袖35-7
設立
2006年5月
従業員数
9名
資本金
800万円

2006年05月

資本金300万円で、大阪市港区に設立

2006年06月

徳島市昭和町へ移転

2007年06月

徳島県立工業技術センター内に移転

2011年11月

資本金800万円に増資

2015年05月

現住所に本社屋を移転

工期短縮・ローコストでスタートダッシュ

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創業したのは2006年。従業員2名での船出だったが、いきなり6,000万円もの売り上げがあり粗利で3,000万円ほどになった。それまでにない素材と独自の工法、CABOCON工法による工期短縮やコストダウンなどが評価されたためだった。

本工事では、航空機の構造材やゴルフクラブのシャフト、釣りざおなどにも使われる炭素繊維を用いた超軽量のCCFP-CABOCON(カボコン)を橋本体の補修・補強する部分である母材に接着するだけ。重機を使っての大がかりな作業等がなく、例えば鉄板を施工する従来の工事では2カ月かかるところが1週間ほどで完成した例もある。

さらに鉄板などの運搬や取り付け、溶接などの作業工程を省くことができ、少人数で行えることから、鉄に比べ素材自体の価格は上がるもののトータルでは大幅なコストダウンにつながった。もちろん引張強度は鉄の約10倍、しかも塩害にも強くさびることもない。こうした素材・工法の優位性と独自性からロケットスタートを切ることができたのだった。だが、好調は長くは続かなかった。翌年には売り上げは伸びず、赤字に転落したという。いったい何が起きていたのだろうか。

設計営業と現場管理の少数精鋭集団を目指す

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「営業ができていなかった」と語るのは、設計営業の吉佐由佳専務取締役。創業に至る直前まで、実は創業者である阿部茂且代表取締役がカボコンとCABOCON工法の営業を続けてきたのだった。詳しくは次のページ「EXECUTIVE」のコーナーで紹介するが、阿部氏がカボテック創業前に勤めていた会社の意向で立ち上げた「CABOCON工法研究会」のなかで、カボコンの開発と販路開拓を行っていたのだ。

「育った稲を刈り取るだけで、次の種まきができていなかった」と当時を振り返る。営業の大切さに気づいたとき、少人数でも売り上げを継続していくために、大きく設計営業と現場管理の2つの職種による体制を整えることにした。3年目は少し持ち直し、そこからは時代の流れも手伝って右肩上がりの経営を続け、徐々に従業員も増えてきた。

時代の流れとは、一つにはスクラップ・アンド・ビルドの考え方が見直され、環境に優しい補修・補強による橋などの構造物の延命がテーマになってきたことだ。1970年をピークに全国で建設された橋が、約50年の寿命を迎え始めているといわれる。これらの老朽化した部分には補修を、現在の交通量に照らして強度不足のものには補強を施すなど、橋の延命が求められている。

「補修・補強の見える化」が時代の要請

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時代の流れのもう一つは、安全の確保である。トンネルや橋のコンクリート材の落盤や剥落が老朽化に伴って発生しており、近年大きな事故につながったケースもある。こうしたなかで国土交通省は2014年7月、トンネルや2m以上の道路橋などについて、5年に1回の頻度で「近接目視」による点検を義務化した。ちなみに2m以上の橋は、全国に70万橋以上ある。内訳は以下のとおりだ。

 

 

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■道路管理者別の橋梁数
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高速道路会社:約2.3万橋
国:約3.8万橋
都道府県・政令市:約18.3万橋
市町村:約48万橋
合計:約73万橋
(出典)道路局調べ/2015年12月時点

もちろん、これらすべての橋に補修・補強が必要なわけではないが、この分野での市場規模は今後も拡大していくことが容易に想像できる。さらに同社の進めるCABOCON工法に有利に働くのは「近接目視」による点検の項目である。補修に際し、鉄板で覆ったり、同じ炭素繊維でも従来のシート材で包み込んだりする工法では、母材が見えなくなってしまう。

しかし、CABOCON工法では、幅50mmの板を、間隔を持たせて貼れることから、施工後に母材が隠れてしまうことがない。いわゆる「補修・補強の見える化」が可能なのだ。「競合するメーカーさんは3社あり、いずれも大企業。製品の厚みが違うなど、差別化はできるはず」と吉佐氏は語る。拡大する市場規模を見据え、設計営業、現場管理の人材強化に力を注ぐ。

炭素繊維との出合いが教えてくれたカボコンの可能性

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地元の阿南工業高等専門学校で土木の技術を学び、卒業後すぐ徳島県に本社のある鉄工所に入社。橋を中心に建設する会社で、19年勤めた。最初の10年は現場管理を経験し、あとの9年は営業職として多くの人との出会いがあったという。「営業の部署にいたころ、営業と同時に自社が携わる橋の建設に使える素材探しも職務の一つでした」と阿部氏。

「橋」「メンテナンス」の2つをキーワードに素材探しを続けるなかで出合ったのが炭素繊維だった。取引先の社長から相談を受けたのがきっかけだったという。だが「話を聞いた折には、あの重い橋の補修・補強ができるとは正直、思わなかった」と阿部氏。ただ同時に、素材として活用できたなら、他社と大きく差別化できる製品・工法になると期待を膨らませてもいた。

そこで企業内ベンチャーのようなかたちで社内で研究を始め、山口大学や摂南大学などの協力を得て実験を重ね、ついには全国から56社の企業参加を受けて大阪の地でCABOCON工法研究会の発足に携わった。「事務局長をやらせていただき、多くの社長や担当者から、貴重な意見をもらうことができました」。この間に、後に立ち上げることになる会社の現在の所在地である徳島県内での営業も行っていた。

そのかいあって創業後すぐに大きな売り上げを呼び寄せることにつながったのだ。だが2年数カ月で同研究会は解散することになる。その際、「複数の参加企業の方から技術の継続を勧められ、一念発起、独立を決意しました」という阿部氏は、この時すでにCABOCON工法の市場での将来性を確信していた。

展示イベントへの参加で知名度を上げ信用を高める

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創業からすぐにCABOCON工法研究会で培ったつながりから大きな成果をあげた同社だが、翌年には赤字に転落した。「少人数の会社が陥りやすい不振の典型です。受注工事をこなすばかりで営業ができず、結果として売り上げに大きな波ができる」。そこで継続した営業を行うために人材を育て、もう一つの柱として全国の展示イベントに積極的に参加しブース展示を続けてきた。その効果は次第に表れ、全国でCABOCON工法の認知が深まっている。

とある展示イベント会場でのこと。「うちのブースを訪ねてきた競合他社の営業担当の方が、炭素繊維集成板(カーボンプレート)が橋の補修に使える素材だと認知されるようになったのは、あなたの会社のおかげだと、声をかけてくれました」。その言葉が何よりの励みになっているという。

また、大型イベントに参加することで、設計コンサルタント会社の担当者からの信頼も高くなるようだ。2016年6月~2017年7月の同社の売り上げは3億1,000万円ほどになるという。このうちカボコン関連(設計・施工・材料販売)は約6,000万円。3年以内に2億円規模にしたいと阿部氏は考えている。拡大を続ける橋のメンテナンス市場でその可能性は高い。

あらゆるケースに応える橋の補修・補強の4本柱

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橋のメンテナンスを中心に、卓越した技術の集約によってインフラなどの社会資本を継承し、豊かで安全な未来を実現することを理念に据えた同社。こと橋の補修・補強においては、レベルの高い技術力をはぐくんでいる。

ところで橋の補修・補強と一口に言っても、老朽化をはじめ塩害等によるサビ、コンクリートのひび割れや剥がれなど、さまざまなケースへの対応がある。そこで同社では、主力であるCABOCON工法を中心に置きながら、ケース・バイ・ケースでの効果的な工法・技術も積極的に提案している。

その一つが、「エポガードシステム」。これは金属を劣化させる赤サビを、安定サビと呼ばれる黒サビに強制的に変化させることで、鋼構造物の内部からサビを無力化する技術である。また、やっかいな塩害から構造物を守る、「CSCシステム」という工法も受注が増え始めているという。そしてもう一つ、コンクリート製の構造物の表面に特殊な塗料を塗ることで対象物の耐久性を向上させる「アイゾールEX」工法。これも、塗料が透明で仕上がりが可視化できるという、一種の「補修・補強の見える化」を実現できることにより、これからの現場で活躍が期待されている。

同社では、CABOCON工法に、これら3つの工法・技術を加えた4本柱での提案に取り組んでいるというわけだ。「橋の補修・補強のご相談は年々増えています。一つ一つに向き合い、当社の持つ工法や技術で応えていくつもりです」と阿部氏は自信をのぞかせる。全国の橋が安全であり続けることを願う同社の歩みは止まらない。

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株式会社カボテック 代表取締役

阿部 茂且

阿南工業高等専門学校(土木工学科)を卒業後、1988年に徳島県に本社のある橋の建設を主軸とする鉄工所に入社。同社での営業開拓のなかで、炭素繊維集成板「CCFP-CABOCON」(カボコン)に出合い、2004年にCABOCON工法研究会を立ち上げる。同研究会の解散を機に2006年独立。カボテックを創業。

現場管理という未知の仕事に膨らむ期待

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橋の補修・補強に独自の素材と工法を用い、時代の要求に応えるカボテック。継続的な売り上げを確保するため、大きく設計営業と現場管理の2つの部門を設けた。現在の従業員数は9名。設計営業は2名。経験者でなければ設計ノウハウを習得するまでに5年以上かかるため、簡単にはいかないが人材の確保、育成は確実に行っていくという。

現場管理は6名が担当している。総数20名を目標に、できるだけ早い段階での達成を目指している。だがこちらも現場を一人で担当できるようになるためには2~3年はかかるそうだ。そんな現場管理部門からの再出発で、自らの可能性を探す堀川優氏は2016年5月に入社した。前職は機械製造会社の技術部でサービスエンジニアとして加工機械の修理や客先での設置業務に携わっていた。

「11年勤めるなかで多くの技術を学び、取引先でいろいろなご要望をうかがい、それに応える楽しさも実感させてもらいました」という堀川氏は、2016年2月に退社。未経験の職種である橋の補修・補強工事のカボテックへの入社までわずか3カ月だった。同社が取り組む将来性ある市場にやりがいを見つけたのだ。「職種はまったく様変わりしましたが、取引先での機械の設置作業などでは、協力会社の担当者と相談しながら進めていました。現場管理でも経験のなかで培ったコミュニケーション力を生かしたいと思います」

人材育成に時間も投資も惜しまない

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入社間もない堀川氏にとって、可能性を感じながらも目の前にあるのは未知の分野。日々の業務のなかで多くの技術を吸収するのに懸命だ。「先輩方に同行して、現場管理のノウハウを教わっています」。見て、聞いて、体験して学ぶわけだが、さらなる市場の拡大を視野に人材の育成に重点を置く同社では、工程ノウハウの整理を進め教育システムの構築を目指している。また塩害対策の専門フォーラムやメンテナンスの講習会などにも積極的に参加させる。

現場管理の作業項目は少なくない。工程管理と材料発注、進捗管理、図面作成、報告書作成など多岐にわたる。一人前になれば、1人で3カ所の現場を掛け持つこともある。新卒入社は1人で、残りの5人は電気や機械、福祉といった職種からの転職。土木や建設の専門知識は入社後に身につけた。「現場管理のノウハウを一日も早く習得したい」と意気込む堀川氏。工事の対象は橋。暮らしを支える仕事であることにも、やりがいを感じているようだ。

「まだ早いですが」と照れながらも、設計営業にも興味があると語る。「前職でも機械用CADの3次元図などを目にすることはありましたが、取り組むことはありませんでした。いつか製図の知識も習得したいという希望はあります」

躍進する会社に「やる気」で応える

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公共工事の下請けが主な仕事である。夏場などは定時終了、土日休みは確保できるが、繁忙期となる秋口から3月末にかけては残業も少なくない。現場管理では書類作成が多くなり、これが残業の原因になっている。そこで従業員の負担を軽減するため書類作成を自動化するシステムの導入を進めている。簡単な入力だけで定型の書類がプリントされるという。

「私より年下の先輩も畑違いの会社からの転職。すでに多くの技術を習得し、業務をこなしている姿は励みになります」と堀川氏。同社の社風についても、居心地の良さを感じているという。「先輩方には、手の空いているときであれば、こちらの質問にも気軽に答えてもらい、また先輩の方から教えてくれることも少なくありません」。人材を育成するための人的フォロー体制はすでに整っていることの証明だろう。こうした社風のなかで、まずは目の前の技術の習得に取り組む堀川氏。一歩一歩だが確実なステップアップを図っている。

CABOCON工法を主軸に橋の補修・補強の分野でさらなる躍進を図る同社。近接目視による定期点検の義務化や環境意識の高まりなど追い風が吹く。同社の成長の節目となりそうな時期での入社に、「仕事の内容の理解を少しでも早く深めて、大切な場面で代表取締役や先輩方の役に立ちたい」と熱がこもる。

橋の補修・補強という特異な分野だけに、転職でも新卒でも同社の人材育成は一からが基本である。そこでまず求められるのは「やる気」。これさえあれば、楽しい職場になるのは間違いない。

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株式会社カボテック 現場管理担当

堀川 優

2004年3月に小松島高等学校(普通科)を卒業後、1年制の徳島テクノスクール(電気科)に学び、2005年3月に小松島市内にある鉄工所に入社。技術部のサービスエンジニアとして加工機械の修理や客先での設置業務に従事。2016年2月に退社後の同5月、カボテックに入社。徳島県徳島市出身。30歳。

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