大学生が企画した廃校の見本市。「廃校利活用フェア inたんばCITY」
BizReach Regional
2018/04/18 (水) - 08:00

少子高齢化や都会への人口集中により、地方では閉鎖される学校が増えています。その後の活用方法が全国的な課題となっているなか、平成30年3月2日、兵庫県丹波市で注目のイベント「廃校利活用フェア2018 inたんばCITY」が開催されました。廃校を抱える複数の自治体と、廃校利用に興味を持つ事業者が一堂に会し、新たなマッチングの道を探っていこうというこの企画。発案したのはなんと大学生たちだったとか。廃校利用の推進に新たな一石を投じたイベントの模様をレポートします。

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廃校を「負の遺産」にしないために

丹波市は、兵庫県中部の山あいにある人口約6万5000人のまちです。同市でも平成29年3月末に3つの小学校が閉校。残された校舎や敷地をどう活用していくかが課題となっていたと行政経営課の徳岡泰課長は話します。「学校は長い間、地域コミュニティの中心だった場所です。住民の思い入れも強く、簡単に取り壊すわけにはいきません。ところが地域住民ではなかなか活用しきれないというのが現状なのです」。そのまま放置していても、建物の老朽化は進み、維持管理のコストはかかり続けるだけ。自治体にとって、使われない廃校の増加は、「負の遺産」の増加に直結する、頭の痛い問題なのです。

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イベント発案のきっかけは、インターンシップ

そんななか、昨年8月に丹波市で実施されたのが、ソフトバンクの「地方創生インターンシップ」でした。地方が抱える課題の解決に大学生が本気で取り組んでみるというこのプロジェクトに、全国から集まった大学生は30名。そのうちの6名が「廃校の未来づくりチーム」を結成し、今回のイベントを発案。丹波市職員とともに、企画の実現に取り組んできたのです。リーダーの田中悠貴さん(大阪大学大学院)はその経緯をこう振り返ります。「初めて廃校に足を訪れたときに、なんてもったいない!と思ったんです。建物はまだまだ使えるし、なにより、地域の皆さんの思いがたくさん詰まった場所。調べれば調べるほど、廃校のポテンシャルを感じました」。ところがなかなか利用が進まないのは、なぜか。その原因を探っているうちに、自治体同士のつながりの少なさに気づいたといいます。「それぞれのノウハウが共有・蓄積されていない状況だということ。また自治体が抱えている廃校が少数の場合、単独ではPRしにくく、事業者側もニーズに合わないことが多い、という課題も見えてきました。ならばその橋渡しを、学生の僕たちならできるんじゃないか?と考えたんです」。田中さんらは今回のイベントを企画すると同時に、SNSや各メディアを駆使して全国に情報を発信。自らも自治体や企業を回り、イベントへの参加を呼びかけたといいます。

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北海道から沖縄まで、52の事業者が参加

そして迎えた、開催日当日。会場となった「旧丹波市立遠阪小学校」には、兵庫県と京都府にある7つの自治体(丹波市、豊岡市、養父市、淡路市、南丹市、宮津市、福知山市)が集合しました。持ち寄られた廃校情報はなんと合計26校。まさに廃校の「見本市」です。
一方、事業者側も、52の企業や個人店舗などが集まりました。関西一円はもとより、北海道や沖縄からも申し込みがあったことが、廃校利用に関する全国的な関心の高さを物語っています。

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会場は、廃校の校舎をフル活用。子どもたちが学んでいた教室は、各自治体のPRブース兼商談スペースとなり、家庭科室は食事会場、図書室はカフェに変身!1年前から閉鎖されていた校舎に久しぶりのにぎわいが戻り、手伝いにかけつけた住民たちもうれしそうです。

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さらに視聴覚室では、「事例発表」と銘打った3つの講演会が企画されました。実際に廃校を利用している企業や、誘致に成功した自治体担当者の貴重な体験談を聞けるとあって、どの講演会も大盛況。その内容もご紹介します。

事例発表①「日の出通商の考える廃校舎の有効利用」

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発表者は、「日の出通商株式会社食品カンパニー但馬醸造所」の大友進工場長。「日の出みりん」で知られる同社は、平成20年から兵庫県養父市の廃校を工場として使っている、いわば廃校利用のパイオニア的存在です。体育館に発酵・貯蔵タンクや瓶詰設備、理科室に分析室などを設置し、酢を中心とした商品を製造。年間約2億円を売り上げています。「きっかけは、他社がやらないような面白い新規事業ができる場所を探していたこと。体育館は背が高いし、広いし、ちょっとした改造ですぐ工場に化けました」と大友さん。賃借料は年間150万円で、水道費などの補助も自治体から受けているとか。また、「廃校を利用することで、会社の知名度が上がってくることも大きなメリット」と話します。一方、デメリットは、「施設の維持管理費が意外とかかること。うちが使っている学校の場合、ちょっと建物が傷んできてるんですね。例えば突然、雨漏りしたり(苦笑)。それらを自前で直していると、年間でけっこうお金がかかるんです」。

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また大友さんは、地域住民との信頼関係づくりの重要性も強調しました。「我々が外から入ってくることに対して、反対する人もいました。臭いがする、トラックの出入りが多い、といったクレームもありました。だからこそ当社では年に1回、地域交流会を開くなどして、皆さんとのふれあいを大切にしているんです」。家庭科室を使った料理教室なども開催しているほか、地元の農家や企業と連携した商品開発にも注力。地域の活性化に大きな役割を果たしています。「いくら初期投資が安いといっても、自社の利益だけを考えていては、長続きしないと思います。実際、すぐに撤退する例も少なくなくありません。地域に入るなら、大きな志を持って入ってほしい。その地域を良くしていく、という志です。地方が元気にならないと、国力はなくなっていきますから。地方を元気にしていくのも、企業の役目だと我々は思っています」。

事例発表②「佐用町の学校跡地活用について」

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佐用町は、兵庫県西部にある人口1万7000人ほどのまち。平成22年からの人口減少率が県内最大のまちでもあります。学校の統廃合が検討され、平成29年4月からは、中学校1校、小学校4校、保育園5園が、一気に閉鎖されることになることになりました。そこで、その後の利活用問題を担当することになったのが、発表者の久保正彦さん(企画防災課)でした。「といっても、自治体が勝手に利活用方法を決めるわけにはいきません。地域住民にとって学校は、文化や学びを育んできたコミュニティの中心ですから」。まずは各地域で住民説明会を実施。しかしほとんどの地域で「自分たちには使えない」という結論にいたったといいます。「ならば、どうにかして民間企業に使ってもらわないといけない」。そう考えた末に久保さんらが、議会に提案したのが、「10年間、無償で貸す」という支援策だったといいます。

この条件で事業者を募集したところ、久保さんらも「びっくりした」というほど、応募が殺到。現在では8つの跡地が、以下のような多彩な事業者に活用されています。
・次世代型プラントでトマトを栽培している農園
・ドローンスクール
・日本語学校
・サービス付き高齢者住宅
・障がい者就労支援施設(みつまた加工作業所)
・昆虫資源研究施設(えさ用コオロギの研究・飼育)
・レザー製品縫製工場
・小規模多機能居宅介護事業所

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最後に、無償で貸与するデメリットを質問してみると、「使わなくなった学校は、置いているだけでマイナス。光熱費や維持管理費がかかるのでね。自治体からすれば、貸すだけでプラスなんです」と久保さん。「しかも、貸すということにも意味があります。売ってしまうと、住民は不安になるんですよ。あくまでも町が所有し、貸すことで、皆さんも安心してくれるんです」。

事例発表③「廃校活用の可能性 ドローン操縦者養成による地域活性化」

最後の発表者は、佐用町の廃校に進出した「JUAVACドローンエキスパートアカデミー兵庫校」の校長・前田稔朗さん。当初は本部のある兵庫県赤穂市での開校を考えていたそうですが、ドローンは、1平方キロメートルあたり4000人以上の場所「DID地区」では自由に飛ばすことができません。人口の多い赤穂市を諦め、隣接する自治体を検討しましたが、今度は借地代が有料と聞いて進出を躊躇。「そんなときに、佐用町の廃校は無料で利用できると知って、すぐに電話しました」と前田さんは振り返ります。

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まずは、佐用町役場で事業計画をプレゼン。その後、町議会で正式な承認を得るまでに3か月かかったそうですが、最も重要だったのは、地域の合意だったと前田さんはいいます。地域で開催した説明会には、約60軒の住民のうち、40軒ほどが参加。さまざまな意見や質問が出されましたが、最終的には多数決で承認されたのだとか。さらにその後も前田さんたちは住民を1軒1軒訪ね、開校のあいさつをして回ったそうです。「1人暮らしのお年寄りが僕の手を握って、『よく来てくれた。待っていたよ』と喜んでくださったことが今も心に残っています。地域の理解や役場の協力があって初めて今の学校があると思っています」と前田さん。 

廃校の使い心地にも満足しているそうです。「ドローンスクールにとっては、過疎であることが、最高の条件なんです。しかも私どもが使わせていただいているグラウンドは3000坪もあります。ここで思う存分、実技ができますし、天気が悪い日は体育館でも飛ばすことができます。授業に使える教室もふんだんにありますし、これだけの施設を無料で使わせていただいて、本当に助かっています。ですから、物品を買うのも佐用町、採用するのも佐用町と、できるだけ地元に貢献したいと思っているんです」。現在、5名の社員のうち、2名は地元の出身者。また開校して半年余りで48名が入学していますが、その多くは町外からの受講生だとか。廃校を拠点に、地元と企業のWin-Winの関係が着実に根を張りつつある様子がうかがえました。

参加者の評価も上々。商談が具体的に進む自治体も

各教室に設けられたブースでも、自治体職員と事業者が熱心に話し込む姿がたくさん見られました。
地元のコミュニティFMから来たという男性は、「これまでFMが入らなかった地域の方々にどうしたら聴いてもらえるかが、当社の課題。学校はそうした地域の真ん中にあるし、3階建てなので、中継局にぴったりなんです。今日はいい物件を見つけましたし、前向きに検討するつもりです」と感想を聞かせてくれました。
またはるばる沖縄県の宮古島から来たという男性は、「このイベントのことはネットで知りました。僕の地元にも廃校があって、介護施設に使えないかと思っているんです。おじいやおばあが、幼い頃に学んだ場所で、人生の最後の時間を過ごすのもいいんじゃないかと思って。今日は貴重な経験談を聞くことができて、すごくためになったし、モチベーションが上がりました」。

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その他、宿泊施設、カフェ、雑貨店、製造業など、多彩な事業者から、「知りたかった情報が聞けた」「廃校利用のイメージがわいた」「新しい発想をもらえた」といった声がよせられました。
一方、参加した自治体の職員たちも、「具体的な商談ができて非常によかった」「予想以上の人が集まってくれた。廃校に興味を持っている人がこれだけいるということがわかっただけでも収穫」「他の自治体の取り組みを知ることができて参考になった」とコメント。アンケート結果でも、8割の参加者が「満足」と回答したそうです。

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気になる「その後」ですが、丹波市ではすでに、現地を案内したケースが2件もあるとか。「その他にも検討中の企業がありますし、次の展開につながっていく期待感があります。これからも民間の力を借りながら廃校の可能性を探り、地域の活性化につなげていきたいですね」と行政経営課の徳岡課長は手ごたえを語ります。

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今回の取材で見えてきたのは、廃校にビジネスチャンスを感じている事業者は想像以上に多いということ。にもかかわらず、廃校情報と出会うチャンスが非常に乏しいという現状です。一方、地方では今後も学校の統廃合が進み、廃校はますます増えていくと予想されています。そんな廃校をめぐるマーケットに、新たな「出会いの場」を提示した今回のイベント。今後、同様の取り組みが全国各地で拡大していく可能性も大いにありそうです。

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