国家公務員×キャリアコンサルタントの「複業」に挑戦中
内閣官房国会専門官 佐野太南氏
浅賀 桃子
2019/03/01 (金) - 12:00

内閣官房内閣総務官室の国会専門官として平日忙しい日々を送る中、土曜日にキャリアコンサルタントとして大学で就職活動支援の業務に携わり、「複業」に挑戦している佐野太南(さのたかよし)さんにインタビューしました。複業への思い、なぜキャリアコンサルタントを新たな仕事に選んだのかについて伺いました。(2018年4月時点)

国家公務員になるまで

ーー国家公務員になりたいと思った理由について教えてください

僕はやりたいことがなかなか見つからず、就職活動を始めたのは25歳、大学院1年生のときでした。冬にたまたま参加した業務説明会で国家公務員の仕事に出合いました。「人の生命を守る」「人が傷つかない」「人が次の一歩に踏み出せる」といった社会をつくっていくことに真正面から向き合える仕事だと心に刺さって、国家公務員を志望しました。

しかし、大学院2年(2007年)に受けた公務員試験は面接で不合格となり、留年して再度挑戦することにしました。大学に入る前から人に対して心を閉ざしていたこともあり、大学・大学院時代の思い出がない自分を変えるべく様々な活動を始めました。アルバイト、官公庁へのインターンシップや、政策勉強会のサークルへの参加、院内のスポーツサークルの立ち上げなど、人と接する機会を増やしていきました。これらの活動と並行し、面接対策やエントリーシートの書き方などを独学で勉強しました。

その後、2008年夏に国家公務員として就職することが決定してからは、独学で学んできたことを活かし、大学院の後輩たちに対して就職活動の支援を行いました。

後輩たち自身が頑張った結果、希望の就職先に決まっていきました。就職活動は夢や目標を叶える第一歩であり、そこに立ち会えたというのはすごく嬉しかったです。これが後々キャリアコンサルタントになる原点になったと思います。

サムネイル

国家公務員としてのキャリアとキャリアコンサルタント

ーー国家公務員としてどのようなキャリアを積んできたのですか

2009年4月、総務省に入省し、2018年4月で国家公務員として10年目に入りました。消費者庁、内閣官房内閣人事局、経済産業省と役所を横断し、幅広く様々な政策に従事し、振り返ってみると、役所の“何でも屋”みたいだなと感じます(笑)。その中で、様々な人に出会いました。今は内閣官房内閣総務官室で国会専門官(国会に対する政府全体の窓口)として、総理大臣・官房長官への国会質問等に対応しています。

ーー国家公務員として働きながら、それ以外の活動をし始めようと思ったのは、いつからでしょうか

キャリアコンサルタントの勉強を始めたのは、社会人6年目の2014年11月で、今回複業に至りましたが、3年半の月日が経っています。ただ、最初勉強を始めたときは、複業を考えていたわけではありませんでした。

当時、国家公務員の人事行政制度を担っている内閣官房内閣人事局に所属していて、そこは、国家公務員の働き方改革やワークライフバランスの推進に取り組む部署でした。僕自身、社会人1年目から仕事一色で生きてきたところがあったので、こうした業務に触れるなかで自分自身を変えていかなくてはと思うようになりました。

ただ、プライベートの充実を考えたとき、昔から遊んだりすることが得意ではないので(笑)、国家公務員とは全く違う分野で土日に活動できないかなと思うようになりました。

ーーそこで、キャリアコンサルタントの勉強を選んだのは、なぜでしょうか

キャリアコンサルタントの勉強を思いついた理由は2点あります。

1つ目は、先述のとおり、大学院時代に後輩にエントリーシートの書き方や面接練習の支援を行い、後輩たちが夢の一歩を踏み出す瞬間に立ち会えたことを思い出し、そういう活動ができないのかなと思ったからです。

2つ目は、国家公務員として働くなかで、職場の同僚、後輩等から相談を受けることがあり、それはもちろん業務の相談もありましたが、国家公務員として今後どうしていったらいいのかなど、キャリアの相談もありました。人の話を聞くのはもともと好きなのですが、それだけではその人が次の一歩を踏み出せるところまでは支援できていないともどかしく、しっかりした知識・技術を磨く必要を感じていたからです。

サムネイル

ーー資格を取得された後、キャリアコンサルタントとしてどのような活動をしてきましたか

土日に学校に通い、2015年10月に「標準レベルのキャリア・コンサルタント」(民間資格)を取得しました(2016年10月に「キャリアコンサルタント」(国家資格)登録)。資格取得後も、知識・技術を磨くために、キャリアコンサルタントの有志が集まる勉強会に参加してきました。勉強会では、毎年冬に数回、ボランティアでの学生支援の実践の場もあります。2人1組で学生のエントリーシートの添削や模擬面接を行うのですが、メイン担当の方(企業の人事担当やハローワークなど学生支援のプロの方)の隣に座って勉強するところから始めました。学生支援の在り方としてこういう手法やアプローチがあるのだと学んできました。

ーーキャリアコンサルタントの勉強によって、通常の公務に影響や変化はありましたか?

キャリアコンサルタントの勉強が国家公務員の業務に活かされていると思うポイントは3点あります。

1つ目は、先述の職場の同僚、後輩等から様々な相談を受けるとき、学んだ知識・技術を活かすことができていると思えます。話を聴くときの姿勢が変わり、勉強する前は、相談内容に対して、「こうすればいいのに」とか思い浮かぶこともありましたが、勉強してからは、相手がいっていることを全部受け入れるところからスタートです。これによって、本人が次の一歩を踏み出せるようにお互いにアイデアを出しながら、次どう進んでいくかを相談していけるようになったと思います。

2つ目は、国家公務員の仕事は政策の企画立案・執行を行うことですが、多様な価値観、考え方、利害等がある中で、取り組んでいることをきちんと説明して御理解いただいたり、様々な意見を聞いて折り合いをつけたりすることが重要になります。日々のコミュニケーションが大事であり、この点で、キャリアコンサルタントとして学んだ傾聴のスキルは役に立っていると感じています。

3つ目は、キャリアコンサルタントの世界に飛び込み、多くのキャリアコンサルタントの方と関わりをもち、様々な話をし、また、僕自身がキャリアカウンセラー制度の1ユーザーとなるなかで、政策を客観的に見る視点が身についていると感じています。この点は公務員として働く上で役に立っていると思います。

2018年、複業開始

ーー2018年になって神奈川県の大学で複業務を開始されたということですが、なぜ始めようと思ったのですか?

ボランティアでの学生支援の実践の場は単発であったので、キャリアコンサルタントとして、継続して支援をしたいという想いが段々と湧き上がってきました。大学から出されている募集要項を拝見していて、土日だけという条件のところがなかなか見つからなかったのですが、今回、神奈川県の大学でたまたま形にすることができました。

ーー大学で複業の業務内容を教えてください

勤務は土曜日、月2、3回程度、期間は3月から7月までとなります。キャリアサポートセンターに来られた学生さんの相談を受けています。主に、自己理解や職業理解を深めたり、エントリーシートの書き方や面接練習を支援したりしています。 大学院の頃から含め、キャリアコンサルタントとして学んできたことだけではなく、社会人として10年間働いてきて、そこで学んできたこと、一組織人として苦労してきたことを踏まえて、学生さんの相談に向き合えていると思います。まだ始めたばかりですが、面談終了時に、「今日来て良かった」との一言が聞けたり、学生さんの表情が来たときよりも明るくなったりすると、嬉しく思います。

ーー複業を行ってどうでしたか

平日公務員としてバタバタななかで土曜日に仕事をしていて、正直、心身とも結構きつく、プライベートもほとんどない感じですが、いますごく充実しています。国家公務員として得られるやりがいと、キャリアコンサルタントとして得られるやりがい、その両方が得られているからかなと思います。国家公務員としては、政策の企画立案・執行を通じて多くの人の幸せをどう実現していくのか、どういう社会があるべきかを追求していけるやりがい。キャリアコンサルタントとしては、具体的に目の前にいる一人一人が夢や目標の第一歩に踏み出せるのかに向き合えるやりがい。これらを両方追求できるから充実感が得られるのだと思います。

サムネイル

これから複業を考えている方へ

ーー複業への思いを改めてお聞かせください

複業を行うことで、先述のとおり、両方の業務からやりがいを得ることができ、また、相乗効果もあります。特に、複業を行うからには、いかに相乗効果を生み出せるのかは意識しています。ただ、その前提は、両方の業務に支障を来たさないことだと思います。今回の複業に当たって、国家公務員としては、法令に基づく兼業許可を取るとともに、職場のメンバーへの説明を心掛けました。幸いにして、いまの複業に関する職場のメンバーは前向きな方が多く、「未知の取組だと思うけど頑張ってほしい」と後押しいただいています。一方、大学側にも、平日の公務をきちんと説明しており、「土曜日も月1回は休みましょう」と配慮いただいています。大変ありがたく、こうした皆さんに支えられているお陰で進められているのだと感謝しています。

ーー最後に、複業を考えている方へのアドバイスをお願いします

複業をすることによって、プライベートの時間が削られるなど失われるものもあると思いますが、それでもそれを上回るであろう「得たいもの」が何かを考える、明確化していくことが大切かなと思います。複業して大変だなと思う瞬間もあると思いますが、始める前にしっかりと考え、意思決定しておくことによって、「自分があのときしっかりと考え、決めたのだから」と後の自分自身を支える一助となると思います。

サムネイル

内閣官房内閣総務官室 国会専門官

佐野 太南(さの たかよし)さん

愛媛県新居浜市出身。京都大学公共政策大学院修了後、2009年総務省入省。消費者庁、内閣官房内閣人事局、経済産業省を経て、2017年7月より現職。また、キャリアコンサルタント(国家資格)を取得し、2018年3月より、神奈川県の大学で就職活動支援の業務を始め複業に挑戦中。

このインタビュー記事は、2018年5月7日、SelfTURN ONLINE にて公開された記事を転載しています。

Glocal Mission Jobsこの記事に関連する地方求人

同じカテゴリーの記事

同じエリアの記事

気になるエリアの記事を検索