都会の大企業と地方中小企業の差も、人に頼らず自ら手を動かすことで乗り越えられる
GLOCAL MISSION Times 編集部
2021/09/30 (木) - 13:00

大学卒業後、転職なしで38年間に亘って大手企業を勤め上げ、石川県にUターンを決めた西永博文さん。現在、鋼管加工をドメイン事業とする扶桑チューブパーツ株式会社で取締役品質管理部長として、忙しい日々を送っています。

西永さんが生まれ育ったのは石川県金沢市。移住するまでは、関東の大手自動車部品メーカーで管理職として品質管理に関わってきました。もともとUターンを意識してきたという西永さんですが、大企業から地方中小企業へ移動した直後はとまどうことも多かったと言います。Uターンに向けて、西永さんはどのように考え、どのような準備をしてきたのでしょうか。地方移住への心構えや必要なこと、実際に感じた大企業と地方中小企業とのギャップについて、西永さんにお話をうかがいました。

定年を期に金沢へUターン。自然の流れに逆らわずに…

−まず、西永さんのご経歴についてお聞かせください。

西永さん(以下、敬称略):石川県の金沢で生まれ育ち、18歳までここで過ごしました。その後、横浜の工業系の大学に進学し、卒業後すぐに大手の自動車部品メーカーに就職しました。入社後は技術系で働いていましたが、30代後半に管理職になりまして、40歳頃に品質保証の業務に移りました。転勤が多かったため転職する余裕もなく38年間勤めることに。定年を期に妻と石川へ戻ってきました。

―定年になったら、金沢に戻られるおつもりだったのですか?

西永:両親からは戻るように強く言われていました。定年になる前に両親が亡くなり、実家が空き家になってしまったので、誰かが入らないといけないということもありました。

前職では65歳までの雇用延長の話もあったのですが、制度を利用している人たちは、やる気を失い、なんとなく働いているように見えました。役職を外れ仕事の内容も責任のないものに変わりますし、この制度が「とりあえず65歳まで雇用しなさい」という企業の義務的なものに思えてならず、魅力を感じませんでした。

―現職の扶桑チューブパーツさんとはどのような出会いがあったのですか?

西永:定年前の58歳のときからいしかわ就職・定住総合サポートセンター(ILAC)に登録していました。定年後にいい仕事はないかということでお願いしていたのですが、いい条件の求人があるので、定年前ですがいかがですかと、ときどき求人企業をご紹介いただいていたのです。冷やかしは好きではないので、しばらくは断っていたのですが、59歳のときに「そろそろかな」というタイミングで紹介された1社目が扶桑チューブパーツでした。10分ほど社長とお話をして、すぐに内定をいただいてしまったのです。私が定年になるまで待つとおっしゃっていただいたので、素直にここに決めました。私の場合、前職でも1社目で内定が決まったので、運命に逆らわずに生きています。こうなるべきだったのだろうなと。定年後、1ヵ月のブランクを経て扶桑チューブパーツにお世話になりました。

「もうけっこうです!」というほど現場と関われる

―大企業の品質管理、マネジメントに長く携わってこられた中で、地方の中小企業とのギャップはありませんでしたか?

西永:従業員数でみると、前職の会社は、国内は4000人、海外を含めると2~3万人規模でしたが、扶桑チューブパーツは50名ほどの小さな会社です。

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扶桑チューブパーツのシリンダー
小型から大型まで、土木工事や建設産業機械などに使用される鋼管部品の加工している。

前職では現場から離れて本部、本社にいたものですから、現場に関わる仕事がしたいと思っていました。そういう意味では、ここでは「もうけっこうです!」といいたくなるほど、現場に関わっています。管理だけで済む仕事はほとんどなく、書類も自分で書いて、お客様のところに自分で説明に行っています。

―2年半前にUターンされたということですが、直後はどのような苦労がありましたか。

西永:業界が違うので、未だに常識が違うところがあります。前職が長かったものですから、そこで普通だと思っていたことが、ここでは普通ではないことに気づき、文化の違いを感じています。また、ここは個性のある人が多く、なかには感情をぶつけてくる人もいるので、そこも戸惑いのひとつです。今思うと、前の会社は穏やかな人が多かったですね。

―2年半たって、今はどのように感じていらっしゃいますか?

西永:面白いです。飽きないですね。ここは、明文化されていないゾーンが広く、改善の余地が多いと思います。

以前は自動車部品メーカーにいたので、計画を立て準備をして、同じ製品を2年、もしくは4年間ずっと作り続けていくスタイルだったのですが、こちらは少量多品種で、準備期間もほとんどなく、製造してから改善しようとしてもそれで終わり。この連続なのでなんとも大変です。

多種多様なニーズに応える
扶桑チューブパーツの最新鋭設備
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複合加工機
INTEGREX e-500H / MAZAK
チャック径:18吋/φ457mm
芯間:3000mm

指示をするだけでなく、自分の手を動かしできることを増やす

―地方に就職するために、心掛けておいた方がよいことはありますか?

西永:今にして思えば、ちょっとしたことも、自分でできるようにしておいたことが良かったと思います。標準書のラミネート加工も自分でやっていますよ。

以前、この会社にも大企業から転職された方が何人かいたのですが、力を発揮できずに辞めていったと聞いています。前職で部下に指示だけをしてきた人ですと、ここで働くのは厳しいと思います。

―大企業で管理職ともなれば、雑務のようなことは自分ではしなくなると思いますが、西永さんの場合は、自分でやってこられたからこそ、今の仕事に順応しやすかったのですね。

西永:いずれは金沢に戻るという方針がありましたし、管理側が長くなったとき、現場の仕事がしたいという希望もあったので、少しずつ、人に頼らず自分でやれることをやってみようと思っていました。そういうことが苦ではないのです。

それに、ここでは品質管理の人材が不足していると思います。品質の基本的なところをご存じない方も多いし、理論が分かっても実務がすぐにできるものでもありません。自分が実際に模範を示して教えることもありますが、いつの間にか自分でやってしまっています。

技術系は競争が激しいですし、少しの違いが大きい古い知識は使えないところがあり、皆さん困っています。そういう意味では品質管理のスキルは強いと思います。それに扶桑チューブパーツの顧客には大手企業が多いのです。しかし、ここでは大手で使う品質用語が理解できないケースが良くあります。私は大手のクライアントが要求していることが普通に理解できるので、それを通訳できます。大企業を知っているからこそできることですし、ここでは一番喜ばれています。

本当は品質管理をやりたかった訳ではないのですが、今ではやっていて良かったと思っています。

林修先生がおっしゃっていたのですが、「自分がやりたいこと」を仕事にすると失敗するらしいのです。「自分ができることで、人ができると認めてくれること」を仕事にするとよいのだそうですよ。

大手のやり方を浸透させようとせず理解してもらえることを要求する

―首都圏から来たことで、社内でやりにくいことはありませんでしたか?

西永:弊社の品質管理部長は、歴代、外部から来ていたようですし、そこはあまり気にせず、自分のペースでできています。

―首都圏から地方の中小企業に入る方のなかには、「東京者が来たぞ」のように思われ苦労されることが多いようです。

西永:大手のやり方を浸透させようとすれば厳しいと思います。

ここでは大手のような「組織」というものができていませんし、大手では一般的なことも場合によっては理解してもらえません。理解してもらえるレベルにかみ砕いて要求することを心掛けています。

―西永さんから見て、大企業から地方の中小企業へ移ることに悩んでいる方にどんなアドバイスがありますか?

西永:大きな会社から小さな会社への移動はリスキーだと思います。はまれば楽しいのですが、はまらない人も少なくないでしょう。積極的におすすめはしませんが、もし、どうしても今のお仕事を辞めざるを得ない、もしくは楽しくないのであれば、挑戦してみるのもよいのではないでしょうか。ただ、薔薇色ではないということです。私はラッキーでした。面白い会社ですし、社長も豪快な方なので。

―暮らしの変化の部分ではいかがでしたか?奥様は移住に対して何かおっしゃっていましたか?

西永:移住については、前々から妻に話していたので、抵抗はされませんでしたが、引っ越しをした直後は、友達がいないとブツブツ言っていました。今は友達もできて楽しくやっているようです。

Uターン前は神奈川の相模原市に住んでいたのですが、賃貸マンションと実家の一軒家とでは違いが大きいですね。こちらの方が休みにやることが多く忙しいですよ。

―最後になりますが、地方の中小企業への転職を考えている読者に向けてメッセージをお願いします。

西永:指示するだけでなく、自分の手を動かして、自分でやって見せて、何をお願いしたいのか示すことが重要です。人にやらせて、それを見て指導してやり直させる…というやり方は、ここではあり得ません。そして、自ら動くことを楽しめるといいですね。やることがいっぱいで面白いですよ。

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