※この記事は2019年2月に掲載された記事の再掲となります。
EC(電子商取引)システム構築を手がける株式会社アラタナは、宮崎生まれ。これまでに手掛けたECサイトは800件以上にのぼり、2015年にはファッション通販サイト「ZOZOTOWN」を運営するZOZOグループへの参画も果たした。地方企業がいかにしてここまでの成長を遂げたのか。今回は、前回に引き続き、同社のCEO濵渦伸次さんに、同社の企業理念や今後の展望についてうかがった。
地方と東京の地域差はたいしたことがない
株式会社アラタナのCEO、濱渦さんは、東京から宮崎への日帰り出張では携帯と財布だけを持って飛行機に乗ることがあるという。「ZOZOの前澤社長もよく日帰りで出張をしますし、そのスケール感で一緒に動いていると、宮崎と東京の地域差って、本当にたいしたことないと感じます。」
地方にはものすごくチャンスが溢れているが、それを隔てているのが、「地方対東京」という目線だ。濱渦さんは、そこのハードルを取り払うためにも、もっと目線を上げるべきだなという。
「宮崎で会社を経営している人からすると、東京に行くのはすごくハードルが高いと感じるものです。逆に、東京の人も地方で暮らすのはハードルが高いと思っているでしょう?でも、ZOZOグループに入って、前澤社長をはじめ、さまざまな経営者の方と話していると、そんなことはどうでもよくなってくるんです。明日「インドへ行け」といわれれば行きますしね。」
アラタナでは宮崎出身の社員が東京に転勤になることもあるという。最初はみんな嫌がっても、行ってみれば東京も楽しいし、宮崎がもっと大好きになっていいことばかりだ。
「人は、働く場所、住む場所が変わると価値観も変わり、成長もできます。東京一極集中をなくすということより、住む場所を変えることに対してハードルを下げることのほうが大事かなと思っています。」
そのハードルを下げるためには、宮崎を東京と同じ水準にしたいと、濱渦さんはいいます。「給料も同じで、楽しい仕事もできる。そういう構造を実現できなければ、本当の意味での地域活性にはならないと思っています。」
ハッピートライアングルを地方に
アラタナは企業理念として、消費者・社員・クライアント企業の「ハッピートライアングル」を掲げている。
「本当の成長は、会社が儲かって、メンバーの給料も高くて、クライアントも満足していて、売り上げが上がっているというサイクルがあること。しかし、地方で会社を運営していると、どれかが欠けがちなんです。」
それが、唯一できているのはZOZOだと思っている。経営者も楽しそうだし、会社も儲かって、働く人たちも本当に楽しそうだ。
「ZOZOTOWNはアパレルでは圧倒的ナンバー1のサイトになって、まさに“ハッピートライアングル”を体現できている会社だと思います。僕にとっては、ZOZOがロールモデルなんです。」という濱渦さん。ビジネスは東京をメインに展開していくが、この先も、アラタナが東京に本社を置く気はないという。
資本は人。だから、採用活動には力を入れている
濱渦さんは、採用活動にも力を入れている。それは、「会社の資本は人」という信念があるからだ。
「東京だとなかなか差別化をするのは難しい。“ランチェスター戦略”といって、局地戦でナンバー1になるという地方ならではの戦い方があります。宮崎へのUターンを希望している人は一定数いるので、その職場選びの最初の選択肢になるための戦略は持っていなければいけません。そこについては、宮崎でテレビCMを流すなど意識してやってきました。」
実際にアラタナには、自社のホームページ経由で社員への応募が多い。比率としては、宮崎出身のUターンの方が3割ぐらい、宮崎の地元の方が3割ぐらい。全く関係ないIターンの方が3割ぐらいだ。
ホームページで、自分たちの働き方を発信するようになってから、そのライフスタイルに憧れて応募してくるケースも増えている。「単純に僕らがやっているビジネスをやりたいと思ってきてくれる方がIターンでは多いです。ZOZOグループのなかで唯一、BtoBのサービスを行っている会社なので、魅力を感じて来てくれる方もいらっしゃいますね。」
現在、アラタナの社員は約120名。子会社になった3年前とほとんど変わっていない。労働集約型からシフトしていったため、売り上げはかなり大きくなっている。ただこれからは、規模を拡大して人数も増やしていく予定だという。
ビジネスツールはスマホだけ
これだけ、アクティブに動いている濱渦さんだが、ビジネスツールはなんと、スマホだけだという。
「今はテレビ会議システムも浸透しています。ZOZOグループは海外にも拠点がありますが、テレビ会議システムを使えば対面での会議同様にスムーズに進行できます。パソコンで仕事をすることもなくなり、ビジネスツールはスマホだけです。資料なども全てスマホで作成しています。」と濱渦さん。
この3年間、様々な事業を削ってきた。付加価値を生むためには、シンプルなビジネスモデルでなければならないと考えているからだ。地方はコストがかからないので、いろんなことをやれてしまう。しかし、1つの事業だけに集中していかないと、企業の付加価値は生みだしにくくなる。
「1つの事業に集中することで、働き方が柔軟になり、優秀な人材が採用できるという、良いサイクルが生まれるし、地方の良さも出るのかなと思っています。」
ZOZOグループが持っているビッグデータや資産をもっと有効活用できる動きをしていきたいという濱渦さん。「うまく自分たちのECや、手がけるブランドさんの自社ECに活かしていければいいなと思います。逆に僕らの資産もZOZOグループのために活かしていきたいと思っています。」
「ZOZOの新しい可能性を宮崎のアラタナが開拓していきたい」と、濱渦さんは意欲を燃やして、実に楽しそうだ。今後のアラタナの成長と発展がますます楽しみである。