地方移住や転職の推進に期待される「レビキャリ」第4回 都市部大企業人材の活用で地方創生へ
Glocal Mission Jobs編集長 高橋 寛 / 亀和田 俊明
2022/03/07 (月) - 17:00

金融庁では令和2年度より「地域企業経営人材マッチング促進事業」を開始しており、地域金融機関の人材仲介機能を強化するとともに、転籍や兼業・副業、出向といったさまざまな形を通じ大企業から中堅・中小企業へのひとの流れを創出し、大企業で経験を積まれた人材の各地域における活躍を後押ししています。地域企業の経営人材の確保を支援することで、企業の経営革新や生産性向上を図り、地域経済を活性化することが期待されますが、今回は同事業を推進する金融庁の伊藤総括審議官に同事業策定の背景や目的などをお話しいただきました。

地域企業の経営人材支援と地域金融機関が担う役割

―「地方への新しいひとの流れ」の創出に向けた取り組みの一環として「地域企業経営人材マッチング促進事業」がスタートしていますが、先ず本事業の策定の背景や目的などにつきましてお聞きしたいと思います。

「地方への新しい人の流れ」の創出に向けて、総務省や中小企業庁、金融庁といった政府、そして地方自治体において、さまざまな取り組みが行われています。それぞれのニーズから生まれた事業をまとめてコンセプトをつくると「地方への新しい人の流れ」という形になっている面もありますし、こうしたコンセプトから出発して各事業があるという面の両方があります。金融庁の取り組みは、こうした流れの中で各省庁の関連施策と連携しながら実施しています。特に、内閣府の「先導的人材マッチング事業」や「プロフェッショナル人材事業」とは深く連携しています。

金融庁は、地域企業の経営課題の解決に向けた、地域金融機関の取り組みをサポートするため、金融機関業務の規制緩和を進めており、2018年には、取引先に対する人材紹介業務を行えることを明確化しました。お客さんである中小企業・中堅企業の経営課題の中でも、人材の話、特に経営人材の話は非常に大きいテーマですので、金融庁としても、金融機関が取引先の抱える課題にしっかり対応できるよう、人材紹介について、積極的な取り組みを促してきました。

人材紹介会社には多様な人材データベースがありますが、地方への人材の供給側をもう少し拡充する必要があるとの問題意識があります。せっかく地域金融機関が人材ニーズを汲み上げ、人材を探しても、供給が乏しければ成約に至らないこととなります。供給側の人材データベースをより充実していくことで、マッチングをさらに進めたいと考えています。

本来は民間だけで行われれば一番良いのかもしれませんが、地方への人材供給のマーケットは未だ十分ではなく、これからかと思いますので、政府・金融庁としてイニシアチブを取ってもいいのではないかと考えて、本事業を始めた訳です。地域の中堅・中小企業の人材ニーズに対し、それらを地域金融機関が上手く掘り起こし、そこへ人材を円滑に供給していく、このようなサイクルが回るようにしていきたいと考えています。

人材を仲介する地域金融機関にとっても、人材マッチングが上手く進んでいくことで、お客さんにも感謝されますし、地域企業に行った方からも感謝されますし、出し元の大企業ともビジネスができるかもしれません。大企業人材を雇う中堅・中小企業、仲介をする地域金融機関、働くメインプレイヤー、出し元の大企業、このマッチングが上手くいけば4者がウィンウィンになります。取り組む意義が非常に分かりやすいですし、その意義を感じられるプロジェクトかと思っています。

―このような事業を何故、金融庁やREVIC(地域経済活性化推進機構)が推進されていらっしゃるのか、経緯も合わせてお聞かせください。

image002.jpg (377 KB)

現在、私は出し元の大企業の人事担当の役員の方を訪ねていますが、必ず最初に「どうして金融庁さんですか」と聞かれます。地域金融機関は本件の重要なプレーヤーであり、金融庁は地域金融機関にこの人材マッチングを一生懸命進めて欲しいと応援する立場、目的を持っています。地域金融機関には、できるだけ良いマッチングがたくさんできるようにと思います。また、事業を共に進めているREVICは、元々地域金融機関と一緒に仕事をしており、政府と一体となって進めるのにふさわしい組織と感じています。REVICが取り組んでいる事業再生においても、人の話は非常に重要です。このようなご説明をすると、皆さん、なるほどと納得してくださいます。

―政府が昨年、発表した骨太の方針の中でも、「地方への新たな人の流れの促進」というテーマが掲げられていますが、こうした基本方針における本事業の位置づけはどのようにお考えでしょうか。

各地域の各企業に、優秀な方が入っていって、働いていただかないと日本経済はやっていけません。地方には、いいビジネスのタネがたくさんあり、今後、これらをデジタルやリモートなどを活用しながら伸ばしていく中で、やはり人材が最も重要です。

皆がハッピーになってもらう、というのが行政の大きな役割だと思います。たとえば、大企業にお勤めの方にとっては、大企業だけが職場ではありませんし、そういった方にさまざまな選択肢を示していけるようになったほうが良いと考えます。今は大企業にいるかもしれませんが、将来的にさまざまな選択肢を考えている方にプロジェクトを知っていただき、使っていただきたいと思っています。

―コロナ禍でみらいワークスの調査でも首都圏の大企業で働いている方たちが、地方への転職に約5割の方が関心を持っているというデータがあり、今後そうした流れが進むことが感じられますが、如何でしょうか。

まさにコロナ禍で、デジタルやリモートなどが、加速度的に進展しています。特に兼業・副業の世界では、大企業にお勤めの方や東京の方が、リモートでいろいろな支援を地方の企業に対して行っているのは既に現実の動きとしてあります。こうした動きはコロナが終わっても止まることはないと思います。コロナ以前よりも相当、地方の企業での兼業・副業を通して地方創生に貢献するといったことがやりやすくなっています。

―2020年から始まった本事業ですが、1年が経過しています。最終的なゴールのイメージはどうお考えでしょうか。

民間の世界で政府が関与せずとも、大企業にお勤めの方や東京の方が地方の中堅・中小企業に行く、仲介ビジネスが純粋にビジネスベースで補助金などいらない状態で成り立つ、というのがプロジェクトの最終ゴールです。大企業に在籍しながら中堅・中小企業を手伝っている方もいれば、中堅・中小企業に転職される方、リモートで地域の会社を支援している方などもいます。大企業に就職して定年まで勤めあげる、といった働き方はだいぶ崩れていますし、若い方はあまり考えていないでしょう。もう少し上の年代の方も会社の枠にとらわれず自分の能力をいろいろなところで生かしていく、こういったことを多くの人が「面白い。自分にもできるかな。」と思うようになると良いと思います。

―実際に都市部の大企業で働いている方で、地方に関心を持っていらっしゃる方たちも大企業で経験したキャリアとかスキルを生かしたいと思っているようですが、如何でしょうか。

もちろん、上手くいく話ばかりではないと思います。大企業から来た方が、その地域企業で、どう社長さんや社員の方々とタッグを組んでいくか、働いてきた環境や経験の違うメンバーが協働し、モチベーションを上げて成果をあげる、というのはかなりハードルの高いことだと思います。一方で、地域企業には、手触り感のあるプロジェクトは多いでしょうし、自身の成果も見えやすいということがあり、外部からの経営人材が貢献する方法は工夫の余地がたくさんある世界だと思っています。

私も地方の企業を訪ねていますが、受入れ側の社長さんが開明的である必要があるかもしれません。外部から人材を呼び込んで事業を大きく発展させた会社、第二創業のような形で新規事業を始めている会社は既に多くあります。コロナ禍で事業転換をしていかなければ上手くいかないと考えている社長さんや従業員の方もたくさんいます。アフターコロナに向かう今こそが、事業を大きく転換する好機であり、外部経営人材を呼び込む好機なのではないでしょうか。

―今回の「レビキャリ」についてですが、民間の人材マッチング事業との違いはどのようなところにありますでしょうか。

地方の中堅・中小企業で働きたい人をターゲットにした人材データベースというのは、現状においてそれほど充実していないのではないかと思います。もちろん、人材紹介会社に登録している方の中には、地方への転身を検討されている方も数多くいると思いますが、潜在的にはもう少しそういった方はいらっしゃると思うので、その掘り起こしのお役に立てればと考えています。

相手企業のスクリーニングと人材の定着支援で安心感

―地域金融機関がマッチング主体となることが特徴のポイントかと思いますが、改めて地域金融機関が仲介役を担う意味、特徴についてお聞かせください。

image003.jpg (405 KB)

人材のマッチングを行うのは大変だと思いますが、地域金融機関にとって非常にポテンシャルがある領域だと思っています。地域金融機関は、普段お金を貸しているわけですが、今後お金を貸すだけでは商売になりません。取引先の経営課題を一緒になって考え、その経営課題に対処していくことが、地域金融機関に求められています。地域を活性化するためには、地域の事業者やそこで働いている方が元気にならないといけませんので、これを後押しする地域金融機関の取組みが重要であると感じます。

取引先の社長さんの経営課題を一緒に把握し、対処するのが地域金融機関の仕事ですが、経営人材の話はその最たるものです。社長さんとじっくり話をして、どういう人材が必要なのかという議論をした上で、はじめて求人票が出来ます。こうしたことを地域金融機関は一番行いやすい立場にあると思います。法人営業担当の若い方でも、社長さんにすぐに会えるわけです。その意味で、地域金融機関は、求人を掘り起こすということにおいては得意分野でもありますし、有利な立場でもありますし、また、こうした役割を求められる立場でもあります。

人材のマッチングをしたのち、その方の定着支援を行うという局面においても、地域金融機関は良いポジションにあります。その企業に入っていった方をどのように応援したらいいか、地域のことを把握する地域金融機関はわかりますし、人材が地域の外から転居して来られた場合でも、早く溶け込めるように様々なサポートを行うことができます。このように、人材ニーズの掘り起こしと定着支援の場面で、地域金融機関は他のプレーヤーにない、役割と機能を備えています。

私が大企業の人事担当の方に「地域金融機関が仲介役を担います」という説明をすると、「それは安心です」と言っていただけます。会社が変な会社ではないということは、地域金融機関が仲介しているというだけで、ある程度わかります。就職をする側、人を送り出す側にとっても、地域金融機関が積極的にこのマッチングに関与していることは、非常に安心感があると思います。

大企業の人事部の方も、これまでセカンドキャリア支援をしてきていますが、送り出しても行った先の社長さんと相性が合わないとか、周りの人に冷たくされて帰ってきてしまう方も結構いらっしゃるようです。地銀が間に入ったからといって、絶対そうはならないとは言えませんが、地元でその会社のことをよく知っている地域金融機関の存在は、会社のスクリーニングや定着支援という意味で大きな安心感があります。このお話をすると人事担当の方にも大きくうなずいていただけます。

(後編は次回に続きます)

■伊藤 豊(いとう ゆたか)
東京大学法学部卒業後、大蔵省に入省。米国コーネル大学留学を経て銀行局課長補佐。金融監督庁監督部銀行監督第二課課長補佐、産業再生機構企画調整室上席企画官、東京証券取引所上席審議役、財務省主税局税制第二課長。2015年から財務省大臣官房秘書課長。2019年から金融庁監督局審議官、現在は金融庁総括審議官。

Glocal Mission Jobsこの記事に関連する地方求人

同じカテゴリーの記事

同じエリアの記事

気になるエリアの記事を検索