観光産業を盛り上げていきませんか?Vo.6 ~観光地の復活力を高めるビジネスモデル創出を目指す~
DMC高野山 代表取締役 大田原博亮さん
GLOCAL MISSION Times 編集部
2022/11/01 (火) - 19:00

株式会社 地域経済活性化支援機構(REVIC)が観光庁の要請により組成した観光遺産産業化ファンド。そして最先端モデル作りのためにファンドから出資され設立された株式会社DMC高野山。政府や大手企業と密に連携し、豊かな高野山の文化観光資源を活用した経済活性化モデルの創出に取り組んでいます。今回は、REVICの執行役員・マネージメントディレクターで観光分野の責任者を務めるとともに、DMC高野山 代表取締役の大田原博亮さんに高野山の現状や課題、そして衰退した観光地の復活力を高めるモデルづくりについて、お話を伺いました。

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戦略コンサル・企業再生の世界から地域活性化の仕事へ

―はじめに大田原様ご自身のご経歴と、現職に就かれるまでのキャリアについてお聞かせください。

福岡県北九州市の八幡 出身です。大学卒業後、国際電信電話(現KDDI)に入社しましたが、自分がやってきたビジネスの世界をもっと体系的に学びたいと思い、当時世界2位の外資系コンサル会社PwCコンサルティング(後にIBMと統合しIBMビジネスコンサルティングサービス)に転職しました。そこでは、戦略コンサルティングメインでビジネスの世界を体系的に学び、その後、企業再生として女性向けファッションブランド会社などを代表取締役社長として再生したり、世界的精密機械メーカーの不祥事からの再生をプロジェクトリーダーとしてリードしてきました。

企業再生のゴールは、リスクを最小化し、利益を生むことであり極めて明快です。しかし、だんだんと方程式が見えてきてしまい、ここで語るのはおこがましいのですが、この仕事がつまらない、と思ってしまいました。

そんなときにREVICの方に「一緒に地域活性化モデルをつくろうよ」と声をかけられました。「地域活性化モデル」とは何か、ゴールは何なのか、それを解く方程式は何なのか、全く見当がつかなかったのですが、分からない問題を解く方が自分にとってはおもしろいと思い、REVICに入社することにしました。

私自身、子供時代に過ごした八幡が鉄冷えで衰退していく様子を間近に見てきており、地域活性化への想いが、今のREVICでの仕事とリンクしているように感じています。

消費額が上がるモデル作り推進へ「観光遺産産業化ファンド」組成

―大田原様のREVICでの具体的な取り組み内容や成果があればお伺いさせてください。

入社当時、連携協定を締結した観光庁の方にお願いして地域の観光地を巡ったときに感じたのが、観光地は通常の産業と異なり、プレーヤーが複雑だということです。

観光客に対しての情報発信やインフラを整備したりしているのは自治体としての「官」。一方、観光客にとってのディステネーションを管理しているのは宗教法人・社団法人をはじめとした「公」で、「民」がその周りで旅館や土産物屋などを運営しています。そこに「金」が資金を供給している。つまり、観光地は「官民公金」で構成されているのです。

官民公金それぞれに課題は抱えていますが、一番の問題は、この官民公金では、血縁、地縁等に縛られたり好き嫌いなどの感情が優先され、合理性では動きにくいので、まとめるのが極めて困難だということです。それでも、昔は地域を何とかしようと一肌脱ぐカリスマ経営者がいたので何とかまとまっていましたが、地域産業が衰退し、高齢化で後継者もいない状況で、地域のまとめ役が多くの観光地でいなくなってしまいました。

こうした状況で地域観光活性化のためのファンドが、地域で効果を上げていくためには、「官民公金」をまとめて地域観光戦略を練り、合意を形成しながら地域をまとめるHub(ハブ)役なり司令塔役としての観光まちづくり会社がいないと厳しい、と感じたのです。最初に手掛けたのが長野県の「WAKUWAKUやまのうち」という観光まちづくり会社で、そこから多くの地域で観光まちづくり会社に投資しハンズオンで支援してきました。合意形成のための失敗もしながら何とかまとめあげてきました。それが当時の政権にも先進事例として評価されていきました。

そこから、連携先の観光庁から、国として地方に訪日外国人旅行者を送り込み、観光消費額を上げるモデル作りを推進してほしい、と要請され、2019年6月に「観光遺産産業化ファンド」を組成しました。

これまでのファンドは、事業を推進できる剛腕をREVICとして雇い経営者として送り込めば何とかなるほどの小さめの観光地が多かったのですが、今回の新ファンドでは、観光庁はキャパシティの大きな観光地、文化庁は世界遺産や日本遺産、環境省は重点国立公園、でやってほしい、ということで、規模の大きな観光地が候補に挙がりました。こうした観光地で今までのやり方を踏襲すると失敗確率が上がると考えたので、大手企業のヒト・モノ・カネ・情報の経営資源も借りようと、それぞれの観光地でマネタイズの可能性が高い大手企業と連携することを考えました。

地域の伝統や文化を体感する文化複合施設「起点」に集客

―株式会社DMC高野山は、「観光遺産産業化ファンド」からの出資により設立されたと伺ってますが、高野山エリアにREVICが関与することになった背景についてお伺いさせてください。

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もともと高野山に入るきっかけは凸版印刷さんでした。大手企業の連携を深めようといくつかの大手企業を回っている時に、凸版印刷の文化事業推進本部とお話しする機会があったのですが、彼らは20年間ほど、文化財保護といった観点で文化財のデジタルアーカイブに取り組んでいました。この活用として、観光客向けのコンテンツを作り、特定地域でVRコンテンツの制作とVRシアターの支援を取り組まれていました。

凸版印刷さんはこうした取り組みをもっと拡大していきたいと考えられておられ、私どもと話している中で、地域の文化財のデジタルアーカイブから凸版印刷さんが作られたVRコンテンツを、VRシアターで上演すると同時に、VRシアターだけではなかなか集客ができないだろうから、カフェやショップなどを含めた文化複合施設を一緒に作ったら面白いですね、という話になりました。加えて、こうした文化複合施設は、地域の伝統や文化を体感して関心を深める場所になるだろう、そうすると、ここを起点に地域を周遊していくことにも繋がるだろう、と。そうした実験台として、このファンドを活用して頂ければ有難い、ということで、ファンドにも関与して頂くことになり、凸版印刷さんから高野山の金剛峯寺さんをご紹介頂いたところから全てが始まりました。

また、一方で、「高野山デジタルミュージアム」は、社長である私にとっては、DMC高野山と私自身が、口だけではなく実行力を伴う組織・人であることを示すための「ショールーム」と捉えています。そのためにも、山内の人が今まで見たこともないような空間で、観光客で溢れ、ここを起点に山内を周遊していく施設を作らなければなりません。それができれば、高野山の色んな人から相談が来るようになるだろう、と考えていましたし、今、実際にオープンして、そうした形で色んな相談が来るようになり、それに対応している状況です。

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日帰り観光客約150万人も消費額低迷で産業自体が縮小

―高野山では国内からの宿泊客が減少していると伺っているのですが、実際、どのような課題を地域として抱えていたのでしょうか。

高野山は、江戸時代から宿坊を中心とした一大宿泊地でした。一説によると、昔は地方のお寺から檀家さんや信者さんが団体で年間80万人くらい宿泊されていたそうです。しかし、現在は日本人で10万人、インバウンドも10万人にまで落ち込んでいます。

現在、日帰り観光客はおよそ150万人いますが、奥之院を見て壇上伽藍を見てランチして帰る、滞在時間が3,4時間で、あまりお金を落としてくれません。観光庁の統計調査によると、日帰りと宿泊の消費単価は3倍違います。しかし、高野山エリアは、昔の参拝宿泊客は、ご先祖供養や位牌にお金を落としたりと宗教行事に関連する消費をしていたそうですから、今の日帰り客との単価は5倍、10倍の違いがあるはずです。

それが結果的に、産業の縮小に繋がり、人口が減少し、閉めている商店や宿坊も多くなっている、それが高野山の構造課題だと考えています。

これまではインバウンドが多かったことで顕在化していませんでしたが、コロナ禍でインバウンドもいなくなって、ようやく構造課題が顕在化した、と考えています。

「宿坊の町」復活へ“売り”となる体験商品の一覧化と造成

DMC高野山の今後の展開、ロードマップのようなものはありますでしょうか。

高野山にある公的な集客施設の老朽化などいくつか相談が来ており、現在検討を進めています。また、これまでは金剛峯寺や宿坊などで、阿字観(瞑想)や写経や精進料理などを体験するには、リアルにそこに行って申し込むか、電話での予約が必要でした。要は、それぞれにクローズで分散していた、ということです。来訪した観光客がすぐに楽しめる体験商品が極めて少ない状況です。今、そうした体験商品を、ネットで一覧化し、ネットで予約ができたり、新たな企画商品を造成していく方向で検討も進めています。

先ほど申し上げた通り、高野山の活性化のためには宿坊、が鍵です。宿坊の宿泊者が増えて初めて経済活性化が軌道に乗ると考えています。ですので、体験商品を充実させ滞在時間を伸ばしていくこと。その先に宿坊への宿泊客の増大があると思っています。

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部下を動かした経験やコミュニケーション能力ある人材を育成

―更なる事業発展のためには人材が必要になりますが、どのようなマインド・スキルの方に来ていただきたいと思われますか?

私の地域経営の考え方の出発点は、「今の時代は、以前と比べてマクロ環境が激変している」ということです。コロナ、天候、戦争、為替、IT、新技術、などなど、ビジネスに大きく影響を与える事象がほぼ毎日なにかしら起こっています。商品ライフサイクルもどんどん短くなっており、消費者ニーズも多様化・高速化しています。経営者はこうした環境激変をアンテナ張って感じ逐一観察しながら、柔軟、且つ高速に、自社のヒト・モノ・カネ・情報の経営資源を適合していかなければなりません。戦略とは「環境適合」です。そういった意味で、今の経営者の必要能力、経営マネジメントスキルは昔より高度化していると思います。

一方、まちづくり会社では、経営マネジメントスキルに加えて、地域戦略を考え地域の合意を形成していくための地域マネジメントススキルが必要となります。が、経営マネジメントと地域マネジメントそれぞれのコミュニケーションのベクトルは真逆です。経営マネジメントは指示、命令という上からのコミュニケーションが主流ですが、地域マネジメントではそんなことはできません。横というよりどちらかというと下からのコミュニケーションが主体となります。

この2つのマネジメントスキルが必要となりますので、経営の経験が長すぎる人だとかえって難しいですね。地域とケンカしてしまいます。部下を動かした経験があり、コミュニケーション能力もある人材を、まちづくり会社の経営に対応するように育てるしかないと思っています。

そして、大切なのは、小さい頃から成人になるぐらいに、地域に対する強い想いに繋がる何か特別な経験をしているかです。この仕事は、地域の中で不合理なことにもいっぱい直面します。でもそうした地域への強い想いこそが、途中でくじけそうになるのをギリギリで支えてくれます。スキルだけでは限界があります。そして、環境変化に耐えられるように、失敗を多く経験した人のほうが良いと思いますね。

―大田原さまのライフスタイルについてもお伺いさせてください。DMC高野山の社長に就任され、高野山というエリアに住んでみていかがですか?

奥之院のさらに奥にアパートを借りて、週の半分くらいを過ごしています。私はREVICの観光全体の責任者でもありますので、他の地域も見なければなりませんから毎日いる訳ではありません。雪景色の高野山はとても幻想的ですが、冬はすさまじい寒さです。買い物は大変ですね。高野山に来る時にまとめてスーパーで買ってます。住んでいる皆さんはどうしているのだろうと思いますが、昔の三河屋さんのようなお店があって、電話1本でいろいろと届けてくれるようです。

子育て環境は悪くはないと思います。保育園から大学まで揃っています。学力的には高い地域だと思います。子供の頃から自分の内面を見つめる教育がされていて、自分を律することができる、しっかりとした考えを持っている方が驚くほど多いように感じています。

観光産業の活性化には、地域経営者の育成と観光資本の集約が重要

―大田原様はREVICの執行役員・観光チームの責任者として、地方の観光産業の変革を牽引されるお立場にあるかと思いますが、現状の観光産業についてはどう捉えていらっしゃいますか?

観光産業に限らずですが、今の日本には経営能力のある人材が圧倒的に不足しています。環境は激変しているし、ニーズも多様化、高速化しており、経営者にはより高い経営能力が求められていますが、あまりにもそうした人材が少ないし経営者教育自体が乏しいといえます。日本経済の凋落はそこにも根本的な理由があると私は思っています。大企業も、以前の固定的な環境に慣れてきた人が年功序列で社長になっても、環境の激変に自社の経営資源を柔軟かつ高速に適合させるなんて、できるはずがありません。少ない有能な経営人材は、ITなどの領域の、そして都心部にある企業に偏ってしまっており、地方の観光産業は、そうした有能な人材の流入がほとんどありません。

こうした流れに対して、地域観光産業を活性化させるためには、まずは分散している資本・資産の集約が必要だと考えています。どういうことかというと、高野山もそうですが、大体の観光地では、道の駅を自治体の第三セクターが運営していたり、観光協会が物販・飲食を兼ねるインフォメーションセンター持っていたり、宗教法人がお土産屋さんをやっていたり、なぜかまちづくり会社が複数あったり、よく見かけます。環境が激変していて有能な経営者が少ないのに、なんで組織体が分散していてそれぞれに経営者を置いているんだろう、しかもほとんど素人の経営者だから、失敗するに決まってるじゃん、ということです。こうした資本や資産を集約・統合し、大規模な収益が出るようにして、そのお金で有能な経営者を調達したりハードやソフトに再投資していくことで、競合観光地に勝てる観光地を作る必要があると思います。

国としても、インバウンドを呼び込むということはグローバル競争に勝っていく必要がある訳で、戦略的に地域を定めて、能力の高い経営者を投入し、その人たちがリードしていかなければなりません。そして、そのために資本をしっかり糾合していく。さもなければ、地域観光産業の復活は厳しいでしょう。

私は観光庁の有識者を長く務めさせて頂いていますが、私も関与した有識者会議が今年出した報告書(アフターコロナ時代における地域活性化と観光産業に関する検討会)では、初めて、「地域経営」、「観光地の面的再生」という踏み込んだ言葉を使っており、国としてもその方向になっていると感じています。

―最後に、読者となる地方に関心、興味を持っている都市部で働くビジネスパーソンに伝えたいこと、メッセージなどあればお伺いさせてください。

最近は、「年収」よりも「社会変革への関与」に関心を持つ人が増えています。経済的観点を含めた社会変革への関与は、地方や大きな観光地にこそ根深く、なかなか変えられない難易度が高いチャレンジングな変革が転がっています。

日本経済が衰退しているのは、全ての産業において経営能力を高める努力を怠ってきたからだと思います。志を持っている人は地方に目を向けてほしいし、自分で経営能力を高める努力を志向してほしいですね。地方にこそ試せる場はたくさんありますから。「あなたも即、経営者!」ですね。

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