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日本におけるキャリア形成の変遷と、今後の展望/「私らしい働き方」を皆が選ぶ時代
月刊事業構想 編集部
2018/12/06 (木) - 19:00

人生100年時代や少子高齢化社会を迎え、日本人の生き方と働き方は、これからどう変わっていくのか。人生100年時代の到来や第四次産業革命によって、今後10年で、日本人の働き方は大きく変わるはずだ。職業寿命は長くなり、ミドル・シニアの転職は当たり前に。副業・兼業を含むパラレルキャリアや、時間と場所にとらわれない働き方も普及するだろう。本シリーズでは、有識者や第一線のビジネスパーソンに「未来の働き方」を予言してもらった。第1弾は、リクルートワークス研究所・主任研究員の中村天江博士(商学)が解説する。

働き方が個別化する大転換期が訪れている

ポスト平成の働き方とは何か。一言で言えば、終身雇用が当たり前ではなくなりつつある中で、転職や副業などのオプションを使いながら、「私らしく働く」方法を、各々がライフステージに合わせて見つけていくということである。

かつては多くの日本人にとって、人生を1社で勤務し続けるという働き方がスタンダードであった。辞令が下りれば好む好まざるとに関わらず転勤や出向をするし、50歳や55歳で役職定年を迎えてから給与が減額されても定年まで頑張ることが普通だった。

しかしこの30年間で、日本的雇用システムは大きく変容してきた。その要因は大きく2つ。「人口減少および高齢化」、「労働市場の流動化」だ。人口減少と高齢化については詳しく説明するまでもないだろう。2010年の1億2,806万人をピークに日本は人口減少に突入。2030年には1億1,600万人あまりに減少すると見られている(国立社会保障・人口問題研究所の推計)。一方、65歳以上の高齢者は人口減少にも関わらず増え続け、高齢者を支える生産年齢人口の割合は減っていく。

人口増加局面では、社会の課題はいかに雇用を創出するか、であった。人口減少局面では、仕事の数に対して労働者が足りなくなるため、どうやって社会全体で人材を最適配置するかが課題になる。

また、労働市場の流動化も進んできた。日本は終身雇用社会と言われてきたが、この30年間で転職はずいぶん一般化してきた。1985年に187万人だった転職者数は、2015年には308万人に増えている(厚生労働省「雇用動向調査」)。中でも35歳以上の転職者数は77万人から171万人へと、2倍以上に拡大しており、「転職35歳限界説」はもはや崩れ去っている。

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中高年の転職というオプションだけではなく、自営業やフリーランスなど正社員以外の方法で働くというオプションも普及してきた。さらに、昨今では副業というオプションも広がっている。実際、日本では本業をフリーランスとして働いている人が約300万人いるのに対して、本業の傍ら副業でフリーランスとして働く人も約140万人いると考えられる(「全国就業実態パネル調査」(2018)を用いてリクルートワークス研究所が試算)。

企業も人手不足に対応するために人材ポートフォリオの組み換えを進めざるを得なくなっている。週5日勤務×8時間労働という、企業が希望するフルスペック人材はもはや簡単には手に入らない。その対策として、出産・育児で職場を離れる30~40代女性の活用や、高齢者の活用、外国人の活用などと並んで、短時間労働や週1~4日勤務の受け入れが有効と考えられる。副業人材やフリーランスが活躍する土壌が整ってきている。顧問契約についても従来は士業やコンサルティング系が中心だったが、最近では技術・ITや新規事業開発といった分野にも広がってきている。

人生100年時代には、人によっては70歳や75歳まで働くことが当たり前になる。特に、キャリアの中盤である40歳から次のステージに、自分らしくどう働くかが重要になっている。そのオプションも転職、副業、自営業など具体的に出揃ってきた。さぁ、あなたはどうしますか、と全てのビジネスパーソンがまさに今、問われているのだ。

自分の価値を客観視するには

会社任せで受け身にキャリアを形成する時代はもう終わった。これからは、主体的にキャリアを築く時代にいよいよ大転換していく。つまり、働き方が個別化するということだ。正社員だった人がフリーランスになる、雇用契約と業務委託契約を両方持っている、などのケースがどんどん増えていくはずだ。

個別化とは、言い換えれば、個人差が大きくなるということ。交渉力やプレゼンテーション能力があったり、自己実現のために人を巻き込むことができる人は、当然、やりがいが大きく充実した仕事ができるようになる。一方、それらを持たない人は非常に大きなリスクを抱えることになる。より良く働くための準備や知識武装が、特に正社員の人ほど求められるだろう。

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(転職だけでなくフリーランスや副業など、働き方のオプションは多様化している)

例えば、自身の「雇用契約」についてどれだけの正社員が理解しているだろうか。雇用契約書の締結率は、「有期・契約」、「有期・派遣」では8-9割と高いが、「無期」つまり正社員では7割程度まで落ちる(人材サービス産業協議会・2017年「雇用区分求職者調査」)。自分らしく働くということは、自分らしい労働条件を会社とすり合わせ、契約することと同じ意味である。これまでの正社員は一度会社に入ってしまえば働き続けることがある程度保証されていたため、雇用契約を結んだかどうかさえ忘れている人も多い。しかし、これからの時代は「知らない」では済まされないし、正社員ほど危うい。

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今の会社に残らず、外に出てキャリアを築くために必要な準備は、知識武装だけにとどまらない。大事なことは、まず「自分に何ができるか、どんな市場価値があるのかを客観視すること」。
そのうえで「これからどんな仕事をしたいか未来の展望を描くこと」である。時には不足する技能やスキルを新たに身につけることも必要だろう。

ただ、自分の能力を客観視することは非常に難しい。リクルートワークス研究所が実施した「ワーキングパーソン調査2012」では、定年を迎える55-59歳の正社員のうち、「自分の知識や技術が高く評価されている」あるいは「第一人者として社会的に認められている」と60%以上が回答した。しかし、率直に言って、社外との認知ギャップがあるのではと感じる。自己評価と他者評価は全く別のものだ。現在の会社、現在の部署、現在の仕事でどれだけ同僚から評価が高くても、そのまま他の会社に行けるか、あるいは行った先で同じパフォーマンスが発揮できるかは別問題である。

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「脱会社人間」が何よりも大切

自分のキャリアを棚卸しし、社会のニーズに合致しているかを客観視するにはどうすれば良いか。人材会社などでキャリアカウンセリングを受けることが典型だが、私が有効だと考えるのは副業やプロボノだ。自分のスキルやコミュニケーション能力がどれくらい社外で通用するのか、社外の人間と働くときには何が大事なのかを、学ぶことができる。自分が本当に好きなことや、意外な適性も見つかるかもしれない。いきなり清水の舞台から飛び降りるように転職するのではなく、ステップを踏むことが、これからの時代には求められるだろう。

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未来を描く時に一番大切なことは、今の会社に閉じこもらないことだと思う。これはデータでも示されている。「ボランティア・NPO」「社外ネットワーク」「スクール・講座・大学」「違う職場の学び仲間」といったコミュニティに所属している人ほど、キャリア展望スコアが高く、逆に「同じ部署の同僚」「同期入社仲間」への所属が中心ではキャリア展望スコアが低いのだ(リクルートワークス研究所・2018年「人生100年時代のライフキャリア」)。

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(会社以外のコミュニティに参加している人ほど、キャリア展望が良好である)

副業に限らず、ボランティアやスクールなど直接仕事に関係がないコミュニティからも、「こんな仕事がある」「プロジェクトを手伝ってくれないか」といった相談は生まれやすい。
人生100年時代に豊かなライフキャリアを築くためには、専門性やマネジメント能力以上に、どんな人達と関わっているかという人的ネットワークが、キャリア形成の基盤として効いてくる。「脱会社人間」は視野とキャリアを広げることに繋がるのだ。

セカンドキャリアの舞台としての「地方」

最後に、地方で働くことのチャンスにも触れたい。

東京一極集中が進む中で、地方でいま最も足りない資源が「人材」である。とくに事業を維持・拡大していくためには、十分なビジネス経験を有し、地方の良さを理解し、そこにコミットできる人材が必要とされている。

U・Iターン人材は、地元に住み続けている人材に比べ、業績への貢献度が高く、進取の気性に富むという調査データがある(リクルートワークス研究所・2015年「UターンIターンと就労に関する調査」47ページ参照)。また、外部視点を持つため、地域の産物や資源などの魅力を再発見しやすいとも指摘されている。

セカンドキャリアとして都会の大企業から地方の中堅・中小企業に移るという選択は十分あり得るだろう。また、地方に住みながらクラウドソーシングなどで都会の仕事に携わるというスタイルや、地方と都会の2拠点で居住・兼業するというスタイルも珍しくはなくなってきた。地方移住も、自分らしく働くための有効なオプションのひとつと言える。

長寿化に伴い、働く時間は50-60年と長くなっていく。一方、市場の成熟化やテクノロジーの進化に伴い、仕事や会社の寿命は短くなっていく。これからの時代は、誰もが自分のキャリアと向き合い、学びを繰り返しながら、ライフステージに合わせて自分らしい働き方を選択していかなければならない。そのための準備を一刻も早く始めるべきだ。(談)

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