課題先進地のイノベーション拠点づくり/地域活性機構 リレーコラム
GLOCAL MISSION Times 編集部
2018/03/16 (金) - 08:00

豊かな自然環境を活かした観光産業だけではなく、環境を活かしたビジネスの場づくりにも独創性がある米国ハワイ島に、官民が力を合わせ、戦略的に作られた新しい産業振興の場があります。ハワイ島らしく滋味豊かな土壌と太陽が降り注ぐようなイノベーションマネジャーの支援や課題解決のためのマッチングなどソフト・ハード両面の産業育成が展開されています。

クリエーターに特化したビジネス拠点

2018年2月、米国ハワイ州ハワイ島を訪ねました。目的は映像制作をテーマにした複合型産業支援施設ホヌアスタジオ(HONUA STUDIOS)を訪問するためです。
ホヌアスタジオは、産業振興の取り組みとして、ハワイ州、ハワイ郡と民間による官民連携でスタートしたイノベーション拠点です。この施設では、高速(10Gbit/s)のインターネット回線や映像コンテンツ・クリエータのためのワークスペースの提供やプロダクション、編集、CG制作など視覚効果サービスを行なう会社が10社入居してサポートしています。
設備も映像クリエーターの利便性に特化充実しており、例えばダイナミックなクロマキー合成ができる縦12m横18mのグリーンスクリーン大型ステージやクライアントのためのプレビュー・セッションに便利な階段型の会議室、ミーティング、そして制作活動に欠かせないパーティーのスペースなどを備えています。またクリエーターのためのワークスペースも木調のロフトで、創造の場として快適な環境を整えています。

サムネイル

ソフト面のサービスも手厚く、マネジャーのデリク・ホールさんをはじめ常駐のスタッフが、産業振興政策の一環として組成されたファンドや支援チームの専門家たちと連携を取って入居者の課題を解決します。
彼らスタッフは、官民連携運営のホヌアスタジオに所属すると同時に地元の起業家・メンター・投資家・ファンドなどの活動に参画し、民間のバーチャルスタジオ運営会社の社員でもあります。マルチタスクにする工夫は、新事業が成長するとき必ず生起する多様な課題を解決するうえで、大変有効と考えられます。この施設でのデリクさんたちの働きは、まさにイノベーションマネジャーといえるでしょう。

離島振興法でイノベーティブな産業振興を!

わが国においても、法令を整備し離島の産業振興に取り組んでいます。1953年に「離島振興法」が時限立法として制定されました。国土の保全等において重要な役割を有しているものの、産業基盤及び生活環境の整備等が他の地域に比較して低位にあることから、その地理的及び自然的特性を生かした振興を図ることを目的としています。6度の改正を重ねながら今日も効力を有しています。この法律に規定されていない島々の中にも小笠原諸島など特別措置法により振興が図られています。
離島振興計画の策定に際しては、国が基本方針を示すことになっており、その方針の基本的な方向として産業振興等の推進のため、「自立的発展の促進」の観点が挙げられています。さらに基本的事項の(2)③地域資源等の活用による産業振興等のなかに「生産性の向上、産業の振興に寄与する人材の育成及び確保、起業を希望する者に対する支援、先端的な技術の導入」の推進が盛り込まれています。担い手としてUIJターン人材も含まれています。
この基本方針を受けて、都道府県が地元市町村の意向を踏まえて離島振興計画を策定することになっています。
火山島である三宅島や八丈島など伊豆諸島がある東京都の計画を見てみましょう。対象は大島町、八丈町をはじめ2町6村、9島です。

東京都の離島振興計画では「定住促進と持続的発展による伊豆諸島の再生」を基本理念として、産業・就業面では農水産振興・観光振興・就業促進策、振興を進める体制づくりでは移住者向けのワンストップ窓口の設置が盛り込まれています。地域の産業やコミュニティーの活性化の必要性を認識したものとなっていますが、まずは農業・漁業の強化を図り「産業の6次化」を活性化策の例示としています。一般的に6次化も産業間連携のイノベーションといえますが、計画の中で新産業創出への言及はほとんどありません。また、計画からは地域や地元企業の存在が感じにくく、「負のスパイラル」という記述もあるごとく、現状の難しさを映しているようです。

サムネイル

伊豆諸島の中でも各島で特徴が異なるため、島別の計画も策定されています。例えば三宅島は「火山とともに生きる、新たな島づくり」をテーマに、ジオ観光による観光振興やアシタバなど新規農産物開発など。他の島も体験型観光の推進を挙げて、産業振興を図る計画です。
伊豆諸島は、一見するとハワイ島と共通する強みと弱み、ポテンシャルを持っていますが、ハワイ島が手つかずの自然環境をディスティネーションとして観光産業を振興するのみならず、ホヌアスタジオのように独特の自然環境からクリエーターがインスピレーションを受けやすい場所として、映像や音楽などのクリエーティブ産業を創出する戦略までには及んでないようです。離島振興法の下、離島振興対策を行なう75地域254の有人離島のどこも、まだその域には達していないと思われますが、離島、半島、その他の条件不利地、すなわち課題先進地において、新たな産業振興戦略を立案するときの貴重なヒントとなるのではないでしょうか。

サムネイル サムネイル

最後にホヌアスタジオに入居してドキュメンタリー映像を制作しているマイケル・リーナウさんとの出会いについて紹介します。20代から映像制作に携わってきた同氏はアメリカ西海岸の火山の撮影取材中、突然の噴火に遭遇したことがあるそうです。命からがら危機から脱出しますが、その時たくさんの人が亡くなりました。その経験から彼は環太平洋火山帯の活発な活動とそれに伴い降りかかる噴火・災害リスクに目覚め、啓発と警鐘を鳴らすことを使命とするようになりました。今は、環太平洋火山帯と同じく太平洋プレートに起因するハワイ島の火山活動をテーマにハワイ島のホヌアスタジオを制作活動の拠点にしています。
フレンドリーなリーナウさんは、同じ環太平洋火山帯にある日本からの訪問を歓迎してくれ、これまでの足跡を話してくれたわけです。
彼はホヌアスタジオがあるおかげで、ストレスなく制作活動ができると言っています。彼の活動は、同時にハワイ島を世に知らしめ、Iターン移住を誘発し、新産業が生まれることを意味しています。
ハワイ島における産業振興施策のイノベーション。リチャード・フロリダが提唱するクリエーティブクラスの呼び込みがヒントの一つになりそうです。

イノベーションは、アントレプレナーシップ(起業家精神&行動)とオープンイノベーション環境の掛け算で生まれるといわれます。ホヌアスタジオは、オープンハートで熱い起業家たちに、仕事の利便性が高くて人が集いやすい“場”が掛け合わさって、クリエーティブな積が湧き上がっています。東京都計画のリーダー人材の育成も軌を一にしたものですし、特化した人づくりと場づくりで、課題先進地が産業先進地に変わるチャンスを広げることができるのです。

Glocal Mission Jobsこの記事に関連する地方求人

同じカテゴリーの記事

同じエリアの記事

気になるエリアの記事を検索