地域経済の活性化を託された中核企業が参集
「地域未来牽引企業サミットin会津若松」レポート
GLOCAL MISSION Times 編集部
2018/05/29 (火) - 08:00

地域の特性を生かして高い付加価値を創出し、地域の事業者等に対する経済波及効果を及ぼすことで、地域の成長発展を牽引する事業。経済産業省では2017年12月、こうした事業を展開し地域の担い手候補と目される「地域未来牽引企業」2,148社を全国から選定。その企業らが参集する初めてのサミットが開催された。 (2018年4月14日開催)

地域経済発展の先陣を切る460社が集結

福島県会津若松市の多目的ホール・會津風雅堂で開催された「地域未来牽引企業サミットin会津若松」。全国の選定企業のうち約460社のトップほか、産業支援機関、商工団体、自治体や行政機関関係者を合わせ、およそ1,100人の参加者が会場を埋めた。
選定企業同士の相互交流を図り、新たなビジネスの契機とすることがサミットの大きな目的だが、同時に、2017年7月31日に施行された「地域未来投資促進法」について広く周知し、地域の自律的な経済発展を促したいという狙いもある。企業収益・雇用が好調な一方で、地域では製造業・非製造業ともに設備投資が鈍く、経済の好循環が実感しづらいといわれる。そうしたなか、それぞれの地域の強みを生かし、成長発展の基盤強化に結びつく事業に対して、多方面の政策的な支援を行っていくというのが同法の趣旨。その先陣を切るのが、今回集まった地域未来牽引企業というわけだ。

地域から地域を盛り上げるための〝えこひいき〟

「〝えこひいき〟してやっていきたい」。開会挨拶に立った世耕弘成経済産業大臣は、こう話した。今回のサミット開催の発端となった地域未来投資促進法は、制定までに多くの議論を戦わせた難産の法律だったという。日本の地域経済の活性化。議論のテーマは明確だったが、特定の企業を、法の名のもとにいわば優先的に支援することに対する賛否もあった。しかし、たとえば大手企業の工場誘致など、既存の取り組みだけでは今後、地域の活性化は見込めない。AIが産業を変えるとされる第四次産業革命。未知の環境変化のなかで、地域経済をどう促進していくか。「地域に眠っているポテンシャルを、地域の側から盛り上げることで経済効果をもたらしていく」。それが、論壇風発の末にまとまった法律の基本となる考え方だった。

地域の未来を引っ張って行くと目される事業に対して、予算・税制・金融そして規制緩和などの施策を含めて全面的にサポート。地域のなかで多くの企業などと取引を行い、人の流れ、資金の流れなどの中核にいる企業をコネクターハブと呼び、その支援を行うことで波及効果をもたらそうというのだ。
「同法の精神を理解していただくために、経済産業省が中心となって選ばせていただいたのが地域未来牽引企業。今日は、金融機関や研究所、商工関連団体などのほか、各地の経済産業局長も集まっている。お互いの情報交換とともに、支援政策に対する意見などもぶつけてほしい」。初のサミットの開催地を会津若松市としたのは、東日本大震災にともなう福島第一原発事故から7年が過ぎても続く、地域の風評を払拭する一助にしたい、という思いからだという。世耕経産大臣肝入りの会場選択に、地域経済発展への並々ならぬ熱意もうかがえた。

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風評を乗り越え、未来のまちづくりを目指す

来賓祝辞に立った内堀雅雄福島県知事は、世耕大臣の思いに謝辞を述べた後、インフラの復旧、帰還困難地域の復興・再生、県内観光地の賑わいの復活など、県内に明るい光が戻りつつあることを説明。「復興をさらに前へと進めるためには経済、産業の再生が不可欠。既存産業の再生、活性化にしっかり取り組んでいきたい」と話した。具体的には、産学官の連携によるネットワークの構築、技術開発の促進、国内外への県産品の販路拡大、人材育成などを通して「再生可能エネルギーやロボット、医療関連産業をはじめとする成長産業の育成・集積を積極的に進め、魅力ある産業の創出を目指す」とのこと。福島県から地域未来牽引企業に選定されたのは52社。「県内各地域の牽引役として活躍されるとともに、地域や分野を超えたネットワークの構築に期待する」とエールを送った。

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また、室井照平会津若松市長は、いまだに風評被害は残っているものの、キャラバン隊を結成して首都圏をはじめ全国で農産物などの安全性のPRや販売促進活動などに務めてきていることを報告。「会津の風土と、今も息づく有形無形の歴史的な財産に光を当てつつ、ICT技術をはじめとする新たな考え方や方法を積極的に取り入れながら、未来へのまちづくりを進めていく」と話した。

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地域未来牽引企業、その定義とは?

資金の流れ、人の流れ、取引の流れの中核にいる、「コネクターハブ」と呼ばれる企業。それが、今回選定された地域未来牽引企業なのだという。少々わかりにくい、この視点について、地域未来牽引企業の選定に係る有識者委員会委員長を務めた東京大学大学院工学研究科の坂田一郎教授による基調講演が、来賓祝辞に続いて行われた。
コネクターハブ企業というのは、坂田教授が提唱する概念で、地域経済への貢献が高い企業をいう。成長性、技術力など企業単体の力だけだけでなく地域内でその企業が果たしている役割に着目している。「〝ハブ〟というのは地域のなかで多くの企業と取引を行っており、そのシェアが高い企業を指します」。言い換えれば、地域内で親密な信頼関係に基づくネットワークをもっている企業。新たな製品開発などを行う際に、こうしたネットワークは非常に大切になるのだという。

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新たな〝地方の時代〟がやってくる

「もう一つの〝コネクター〟は、離れた地域をつないでいる、あるいは異なる産業間を横断している企業」。そうした役割を持ちつつ、地域内で需要な位置を占める企業がコネクターハブ企業だ。このコネクターハブ企業を中心に、圏域単位では無数の取引ネットワークが築かれている。「信頼関係に基づく取引のなかで、さまざまな情報や知恵が流通している。他の地域では簡単には得られないようなリソース、そしてパートナーが存在し、それがグローバルネットワークのなかでもハブとして機能を果たす」。構成企業もネットワークの構造も地域によって異なるが、そこに着目し、地域の特色として捉えることが、未来を開拓するために重要だという。従前とは違った意味での〝地方の時代〟がやってきている、とも言えそうだ。

既存の壁をリープする産業形態

第四次産業革命で産業構造のパラダイムシフトが起こるとされるなか、「既存の概念で捉えられているものとは異なる産業形態が生まれていくのではないかと考えている」と坂田教授。実際に、これまでの産業やドメインには当てはまらないものが次々と実用化されてきている。
たとえば、IoTを活用した農産物の生産。スマートファームなどと呼ばれる。事業の目的は農業(第一次産業)だが、実際の生産を支えているのは管理された工場(第二次産業)。そこに情報分析などのソフト分野が加わり、効率的な生産を行っている。「第四次産業革命のなかで、こうして既存の壁をリープ(飛び越える)して新たなアイデアを考え、育てていくことも、これからの地域に託された役割だろうと考える」と坂田教授は述べる。コネクターハブ企業のネットワークが、その原動力となる、ということだろう。

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データ+推薦で選んだ2,148社

今回の地域未来牽引企業の選定は、二つの方法を組み合わせて行われた。一つは信用調査会社が持つデータベースによるもの。高い付加価値を創造していること等の定量的な指標から分析した。もう一つが事業の特徴、独創性、地域社会への貢献度などを基準にした、自治体や商工団体、金融機関等からの推薦。それらを重ね合わせて2148社を選び出したという。
ものづくりから第四次産業革命関連、農林水産・地域商社、観光・スポーツ・文化・まちづくりなど多様な業種・業態の企業・組織が名を連ねている。「全社の売上高を合わせると約15.6兆円。こだけの企業が活発に動けば、日本経済にもインパクトが生まれる」。そして、選定された企業のコミュニティを通して地域を超えた交流を深め「予見できないような新しいビジネスが生まれていくことに期待する」として、講演を結んだ。

地域への熱い思いが交流したサミット

この後、地域未来牽引企業のロゴマークを制作した株式会社Takramの田川欣哉社長が登壇し、デザインコンセプトなどを説明。経済・知識・人の循環、新たな波、多様性をテーマとした波紋のようなイメージのこのロゴマークは、すでに1,000社近くが使用しているといい、関心の高さが伺える。

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世耕経産大臣による地域未来牽引企業の選定証授与式、金融・企業基盤整備・技術研究・貿易の四つの産業支援機関による施策説明を経て閉会となった今回のサミット。地域未来投資促進法には、予算、税制、金融、情報による支援と、事業環境を整えるための規制の特例措置などが盛り込まれているが、それが企業単位ではなく、地域経済活性化のための〝えこひいき〟であることが特徴だ。選定企業の代表者の表情に、誇らしさとともに、地域における革新的な役割を担うことへの熱意が伺えたことが印象的だった。

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会場の外では福島県の物産品販売コーナーと産業支援機関の相談ブースが設置され、各地の企業同士の〝交流〟もすでに始まっていた。同日午後6からは、市内の旅館・大川荘で世耕経産大臣を囲んでの交流会。満開の桜のもと、地域に対する熱い思いも咲き誇っていた。

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■地域未来投資促進法(地域経済牽引事業の促進による地域の成長発展の基盤強化に関する法律)

地域の特性を活用した事業が生み出す経済波及効果を最大化しようとする地方公共団体の取組を支援する法律。具体的には、国が策定する基本方針に基づいて市町村および都道府県が基本計画を策定。対象区域、推進したい分野、事業環境整備の内容などを盛り込んだこの基本計画について国が同意し、それに基づいて事業者(企業など)が地域経済牽引事業計画を策定。都道府県知事の承認を経て、予算、税制、金融、情報、規制緩和などの支援が行われる。事業者が策定する地域経済牽引事業は、①地域の特性を生かして、②高い付加価値を創出し、③地域の事業者に対する相当の経済効果を及ぼす事業が対象。地域の成長発展を促すため、地域の強み・特性を顕在化させることが、同法の趣旨といえる。

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