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台日の地方間連携が拓く、人口減少社会を迎える東アジアの未来
木下 斉
2018/10/19 (金) - 08:00

地方創生元年を宣言した台湾政府

台湾政府は2019年を地方創生元年と位置づけて、地方振興策を協力に推進することを発表しています。それに伴って、様々な台湾政府関係団体や民間組織なども地方プロジェクトに関して動き出そうしています。先行して地方政策が進められてきた日本から学ぼうとされる傾向も強いため、私も様々な問い合わせをもらっています。しかし、改めて実態をみると、日本の地方政策の良い部分も悪い部分も正しく伝わらないために、誤った政策をそのまま台湾が導入してしまう懸念もあり、正しい政策議論、日本での政策/事業の実態を正しく伝えることが必要と思っています。

そのため先日、台湾現地のメディア企業や地域事業組織と連携して「台日創生会議」と銘打った集まりを開催しました。実際に登壇するのは台湾、日本両国の様々な実践家たち。彼らの話に耳を傾けてもらいました。やはり実際の政策、事業に携わるメンバーが建前ではなく、本音で語る機会をより多く持つことが、重要と考えての試みでした。日本同様に地方関連は無料セミナーが多いという中、完全に補助金なども使わない、有料企画として本会は開催。それでも200名ほどの方が参加されて大盛況でした。

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地方の未来は人口ではなく、経済に従う

日本の地方創生政策においても、日本全体における人口政策と地方活性化政策が混在して行われて成果がよくわからなくなっている側面があります。

地方から人がいなくなるから衰退するのではなく、人が地方より都市部に出てくる理由を原因としなくてはなりません。簡単に言えば、よりよい教育機会、よりよい雇用機会が地方よりも都市部にあるからこそ、人は流出し、地方から人はいなくなるわけです。地方の財政力が不足するのも経済・産業力が弱いからでもあります。マクロ政策が独自に地方自治体が打てない以上、むしろ民間手動で個別の強い企業を作り出すことに全力をあげるしかなく、また自治体が持ち得る公共資産も強い経済を生み出すための活用策に知恵を絞らなくてはならないわけです。何より、世界中で地方から都市への人口流入が急速に進むトレンドの中で、無理やり東京から地方に人を移すことは非常に困難です。だからこそ、人口規模だけに頼らない、持続可能な地方の経済構造と財政構造を樹立するのが地方創生の重要な焦点になります。

そういう意味で、地方創生とは「総所得/人口=平均所得の向上」にあります。
所得は労働所得、資本所得となることからも、地元で地域外から財を引き寄せる新たな生産活動を今以上に行うことが第一です。さらにその生産活動を通じて、労働所得を確保します。通常だと雇用創出と言われることですが、地域経営的にはこれは労働所得の分配です。さらに忘れてはならないことは、これらの事業がしっかり黒字になること、同時に生産に必要な事業投資資本は地元の中から投資・融資を行うことで、適切な金利や利子を地元の人達が受け取ることができるような資本所得を地域に生み出す構造にすることです。さらに支出においても完全自給は困難としても、可能な限り地域内で循環させて、生産活動に見合うレベルでの地域外への流出に留めること(適切な地域間貿易)も問われます。

こう考えれば、単に公共施設を整備するというのを税金で国からの補助金/交付金を使ってやるだけでは駄目です。公民連携によって民間が投資して施設全体を作り出し、その一部を公共機能として活用することで、民間施設は公共機能との共存による集客力を獲得し、一方で民間施設が併設されることで固定資産税などを自治体は得られます。さらにそれら民間施設ができることで地域は新たな労働所得を獲得できるだけでなく、これらの施設が地元の投資家や金融機関によって投資融資されることで資本所得が地元に落ちていくことになります。
この施設が魅力的であれば、広域から人を集めることになり、この生産活動は域外からの流入によって成立する素晴らしいモデルとなり、出店している民間施設部分のテナントが地元生産物である農作物などを販売したり、加工した飲食営業をすれば支出もまた制限され、利益の多くは地域に残ります。
岩手県紫波町のオガールプロジェクトが地方創生文脈で高く評価されるのは、施設開発のモデルではなく、このように地域平均所得向上に寄与するだけの広域経済力を公民連携で実現しているからと言えます。紫波町は同プロジェクトだけでなく、上下水道の広域組合化や、役場庁舎、火葬場などのPFI事業などを通じて、この15年ほどで岩手県内でも極めて悪い財政状況から抜け出て、上位の良好な財政自治体になっています。総人口は決して増えていないですが、産業、財政の構造を変えることで、地域の持続可能性は極めて高まったわけです。

また、今年私が訪問してきたフランス・シャンパーニュなども、シャンパーニュを軸として6400億円の産業を形成しており、その本社が集積するエペルネーは2.3万人ほどの人口です。しかも、300近くあるメゾンの多くは地元資本で経営されており、労働所得だけでなく、資本所得も豊かです。私が訪ねたメゾンの一つである、ゴッセは500年以上も3家族のファミリービジネスとして継続し、年間300万本のシャンパーニュを生産していると言います。このような地域産業が形成されていることで、結果として、平均所得ではフランス一番になるほどの豊かな地域となっているのです。

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その他でも、国内外の地方事例を見ていけば、地方活性化は人口から始まるのではなく、付加価値の高い経済が軸となり、人口はむしろその結果であると言えます。今後の人口減少社会においては、短期的な人口増加はもはや望めないわけで、むしろ少ない人口でもしっかりと稼げる産業、効率のよい行政構造を目指し、持続可能性を獲得することを目指す方が大切と思います。

台湾から学ぶべき地方都市の産業集積、個別事業も多数ある

さらに台湾の地方都市の方が実際には地域内経済が強く残っている側面もあります。さまざまなマーケットのような中小零細店舗集積や、既存建築を活用することで容積をむやみに大きくするだけではないリノベーション型のエリア再生方法が成立している事例も多くあります。台北、台中、台南などだけでなく、よりローカルな台湾東部の農業生産地域においても顕著な取り組みが出てきています。

今回の会議にも参加してくれた「茶籽堂」は日本にも大変参考になる好例でした。
http://www.chatzutang.com/

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もともと地域の石鹸メーカーであった中小企業の若き経営者が新規事業としてスタートした新ブランド「茶籽堂」。農業地域の天然素材を利用した商品であり、さらにしっかりとしたデザインなども好評で、台湾ではこの数年、誠品書店などの人気店舗などでも販売され、評価を高めています。規模よりも、質をしっかりと重要視した事業は、衰退する農業生産者との連携、クラウドファンディングや現地体験企画などの多くの購買者の心を掴む戦略がヒットし、しっかりと事業的成長も果たしています。地域の環境を活かしつつ、独自のものづくりを行うことで地方を支える新産業モデルとしても極めて学び多いものです。

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台湾においても予算型の大きな事業ばかりが注目されるのではなく、このようなローカルで若い世代が着実に成果をあげてきている事業を高く評価する必要があります。さらに、国を超えて地域産業の芽を育て、若い世代の挑戦を支える取り組みを我々は作り出さなくてはならないと言えます。そしてそれは、政府や首都ではなく、実際に事業を抱える地方の現場同士でのネットワークの形成が肝となると思います。

これから少子高齢化社会を順次迎える東アジアにおいて、現場レベルでの連携は極めて大切なテーマとなります。そういう意味でも、台湾と日本において、今後の具体的アクションにつなげたいと思いました。

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