金融と向き合うと、地域が変わる[ Vol.1 ]
木下 斉
2018/12/07 (金) - 08:00

今回から2回連続で「地域事業と金融」について整理したいと思います。

地域事業における支援方法には、従来からのアプローチとして、大きく分けて2つあります。事業に必要な専門的技術的な要素を支援するテクニカルサポートと、事業に必要な資金調達を支援するフィナンシャルサポートです。

特にフィナンシャルサポートは極めて重要なポイントです。地域活性化においては収益性を低下させる圧力となっていた補助金や交付金にあまりに偏っていた資金調達から、投資融資といった金融システムを通じた資金調達によって収益性を担保し、稼げる事業モデルへと転換する必要があります。これまで地域活性化、まちづくりといった分野で「金融」というとあまり馴染みがありませんでした。しかし今後はむしろ金融の仕組みによって事業モデルを固いものとし、収益性を担保しながら、地域に富を生み続けることが重要になっています。

従来はこのフィナンシャルサポートが補助金などに偏っていたことで、本来であれば地方の条件下で収益性を高めるはずの補助金が、足りないお金を単に補填するだけで、さらなる赤字を生み出す機能になってしまっていた問題があります。そのため、今後はまずは出資・融資を受けられる事業モデルをしっかりと固めるところからスタートし、しっかり黒字になる事業としていくことが、まずは重要になります。行政が自らの施設開発などを推進する際にも、民間資金活用を行う必要が多く出てくる時代になりましたが、過去のように公共発注の仕組みのまま単に民間資金を作るだけでは、PFIなどの意味もありません。しっかり稼げぬ床と稼げる床を組み合わせて、全体の収支を可能な限り合わせていくための努力が必要になります。そのうえで、国からの交付金や補助金などを組み合わせて地元負担を軽減できれば、地方公共施設でさえも従来のように赤字を単に垂れ流し、国からの支援が維持段階でほぼ帳消しになってしまうような事態も避けられます。

いずれにしても、地域事業において今後は「金融の」の知識は不可欠です。それは公務員でもNPOでも事業者でも同様となります。とはいえ、実際に地域活動を行っている人たちが「金融」の基礎知識があるかといえば、それほどはありません。基本中の基本から考えていきましょう。

「出資」と「融資」の違い

貸借対照表、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書・・・といった言葉を聞くと、その段階で意味不明となる場合もありますが、損益計算書は売上があり、そこから経費をひいて利益を計算している表です。貸借対照表は資金調達した構成と、その調達資金がどのような形で資産へと投資されているか、ということを示している表です。

資金調達は貸借対照表をみるとわかるわけですが、大きくわけて出資を受けた資金と、融資を受けた資金に分かれます。出資は簡単に言えば返さなくて良いお金ですが、儲かった利益から出資に応じて配当をすることが求められます。融資は逆に金利をつけて返さなくてはならないお金ですが、儲かっても元本と金利以上にお金を支払う必要はありません。

いずれもメリット/デメリットがありますが、何か地域で取り組みを始める際には、プロジェクトを推進するメンバーが持つ資金で投資したり融資(貸付)したり、投資家や金融機関と交渉して資金を投資、融資する必要が出てきます。このプロセスで投資家から配当を期待されたり、金融機関は確実な返済を気にすることになります。計画はどんどん変更してもいいから、実態に即して絶え間ぬ営業を行い、利益を生み出すことに徹底的に知恵を絞ることになります。

お金でリターンを期待されないお金(補助金や交付金)よりも、お金でリターンを期待されるお金(出資、融資)をまずはベースにしたほうが事業が鍛えられて、地域に稼ぎを生み出す原動力となります。お金に色はないという言葉がある一方で、資金の調達方法で事業と向き合う姿勢が大きくかわることから、補助金、交付金よりも先に金融と向き合うことが必要です。金融と向き合い、自分たちで出資したいと思えるもの、そして第三者から出資・融資をまずは受けられるレベルの事業計画にすることが出発点です。

地域経済循環の視点で必要な「地元資本」と「複利効果」

金融的視点を持つと、単に資金調達の地元の様々な事業の見え方が変わります。チェーンストアと地元資本のお店との違いも見えてきます。前述のとおり、稼ぎを作り出し始めると出資した資金、融資した資金双方で配当、金利という元々投じられた資金にプラスされたものが出資者・融資者に戻っていきます。もし地域外の人が出資者や融資者であれば、地域で生まれた事業で発生した利益の一部が地域外へと流出していくことになります。理想的なのは、地元の資金によって出資、融資が行われて、儲けも地元の資金を出した人や組織へと戻り、その資金が次なる地域の事業に再投資、再融資されていくという循環を作り出すことです。お金に関連する数字はすべて複利で動いていきますので、これを継続すればするほどに地域の資金はまわり、利益を大きくしていきます。

この構造を理解すれば、地域の平均所得を改善していくためには、2つの道があることがわかります。まずは稼ぐ事業を作り、労働所得を生み出し高めること。と同時に、肝心の地域事業への出資・融資を地元の人たちが行い、事業利益からの配当・金利という形で戻っていくようにすることです。できれば働く人が出資融資もして、労働所得と配当所得を得ていくというモデルができれば、自分の労働の対価とともに、お金を働かせてリスク応分の利益を得ていくことも可能になります。600農村を再生した二宮尊徳の報徳仕法においても、五常講という金融システムを地域に作ったり、報徳金というファンドを運用しています。江戸時代から地域の発展と人々の所得向上、地元の必要資金を地元の人達が出していく仕掛けは、地域再生において極めて重要な役割を果たしていたことが分かります。

このように金融の基礎を理解すれば、「もらうお金」だけでなく、「投資してもらうお金」や「融資してもらうお金」が事業モデルを強化したり、また支援者を増やしたり、はたまた儲けが出たときに地域全体にその利益を分配し、地域発展を後押ししていくことも可能になっていくのです。

ぜひとも今後、地域での事業を進めていく上で金融的な仕組みと向き合ってほしいと思います。
さて、次回12月21日配信のコラムでは、近年急成長するクラウドファンディングなどの仕組みと、地域事業の関係について整理していきます。

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