大手食品メーカーなどでキャリアを重ね、品質管理のプロフェッショナルとして第一線を走り続けてきた和田純一さん。60歳を過ぎキャリアの集大成の場として選んだのは、長野県飯田市にある食品メーカーでした。
「これまでの経験がすべて活かせると思ったんです」。そう語る和田さんの新たなミッションは、ゼロから品質管理体制を構築し、会社が自立するための礎を築くこと。困難な課題に直面しながらも、その表情は充実感に満ち溢れています。
なぜ和田さんは、変化に富んだキャリアの末に、地方の中小企業へと活躍の場を移したのでしょうか。この記事では、和田さんの移住・転職の経緯から、地方で働くことのリアルなやりがい、豊かな自然に囲まれた暮らしの魅力に迫ります。
豊富な経験が導いた長野への移住。キャリアの集大成に選んだ新たな舞台とは
―― はじめに、これまでのご経歴と、今回ケーアイフーズへ転職されるに至った経緯をお聞かせください。
大学院を卒業後、大手食品メーカーに入社して愛知県豊橋市でキャリアをスタートしました。コンビニエンスストアの台頭期には惣菜工場の立ち上げに抜擢され、埼玉へ出向したこともあります。当初は3年で戻る約束でしたが後任がおらず、結果的に10年以上、新商品の開発や品質管理の最前線にいましたね。
--まさに激動の時代ですね。その後、様々な企業をご経験されていますね。
はい。惣菜業界で手応えを感じ、「自分の実力が社会でどれだけ通用するのか試したい」という思いから、大手外食企業に転職。当時は狂牛病問題の真っ只中で、安全な牛肉を求めて大学教授に話を聞いて回ったり、会社のお金で1年間大学の研究員として学んだりと、貴重な経験ができました。その後も幾度か人生の転機を経て、惣菜メーカーやミネラルウォーターメーカーなどで品質管理の経験を積みました。
--輝かしいご経歴ですが、なぜキャリアの集大成として、地方の企業であるケーアイフーズを選ばれたのでしょうか?
前職を辞めるタイミングで、みらいワークスさんにご紹介いただいたのがきっかけです。一番の決め手は、これまでの経験がすべて活かせる仕事だと感じたことですね。さらに会社の平均年齢が33歳と非常に若く、活気がある点にも惹かれました。自分の知識や経験のすべてを、これからの会社を担う若い人たちに伝えていきたいという想いが強くあったんです。
--転職活動において、勤務地に関するご希望はあったのですか?
東京での満員電車通勤はもうこりごりだったので(笑)、自然が豊かな場所で働きたいという気持ちはありました。以前、大手食品メーカー時代に松本市に住んでいたこともあり、長野の緑豊かな環境には元々良いイメージを持っていました。ただあくまでも「会社ありき」で、働きたいと思える仕事がたまたま長野にあったという形です。入社を決意して埼玉の持ち家は5年契約で貸し出し、移住しましたね。
品質管理のプロが挑む、ゼロからの組織改革
--入社後はこれまでのご経験を存分に発揮されているかと思いますが、率直にいかがでしたか?
正直なところ、入社前後のギャップは大きかったですね。品質管理の体制が想像以上に発展途上にあり、「どこから手をつければいいんだ…」と頭を抱えました。実は地方の中小食品メーカーの場合、こうした課題は決して珍しくありません。前任者は外部向けの報告書などを作成していたものの、現場へのフィードバックが十分ではなく、長年の課題がそのままになっていました。
--まさにゼロからのスタートだったのですね。具体的にどのようなことから着手されたのでしょうか?
まずは衛生管理の基礎の再徹底と、従業員一人ひとりへの意識改革のための指導から取り組みました。同時に10年以上更新が止まっていたマニュアルを現状に合わせた最新の情報にアップデートしたり、製造現場を巡回して継続的な改善点を探したりと、今も地道な作業を積み重ねています。夏の工場内は厳しい環境でしたが、転職した2025年の夏は巡回で健康的に痩せましたよ(笑)。それでも自ら率先して現場を歩き、潜在的な問題点を見つけ出すよう心がけています。
--大変なご苦労があったかと思いますが、やりがいを感じるのはどのような瞬間ですか?
社員は若い方が多く、みんな素直なので教えたことを真摯に受け止めて行動に移してくれる姿に大きなやりがいを感じますね。これまで私はパートの方や外国人技能実習生など、様々なバックグラウンドを持つ人たちと働いてきました。その経験で培った「人を動かすための引き出し」をフル活用して、どう伝えれば彼らが動いてくれるかを考えて実践しています。幸い、当社が製造する大手小売店向けの商品は生産が追いつかないほどの人気で、会社のポテンシャルは非常に高い。だからこそ、基盤をしっかり固めることに大きな意義を感じています。
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オンオフのメリハリが叶う、充実の地方ライフ
--働き方は以前と比べて変わりましたか?
大きく変わりました。一番は交代勤務がなくなり、基本的に定時で帰れるようになったことです。若い頃は深夜まで働くことも日常茶飯事でしたが、今は心身ともに楽になりました。社員の働きやすさを考えて、1時間の昼休憩のほかに30分の休憩時間が設けられているのもありがたいですね。
--プライベートも充実しそうですね。
そうですね。ゴールデンウィークやお盆、年末年始は9連休などの長期休暇をしっかり取れるので、オンオフのメリハリをつけて働けています。2025年の夏は記録的な猛暑で体力を消耗しましたが、涼しくなってきたのを機に長野の暮らしをもっと楽しみたいと思っています。
--長野での暮らしはいかがですか?何かお気に入りの場所や過ごし方はありますか?
飯田市は「焼肉の街」として日本一とも言われていて、美味しいお店がたくさんあるようです。まだ開拓できていませんが、社員におすすめのお店を聞いて、これから巡るのが楽しみですね。お祭りや花火大会が頻繁に開催されるのも、この地域の魅力だと思います。たまたま自宅の窓から花火が見えるので、得した気分を味わっていますよ。

飯田市の観光名所である日本の名水百選「猿庫の泉」。北西、風越山の山麓に位置し、周辺の自然環境も素晴らしい
未来を見据えた後継者育成への想いと、地方移住のアドバイス
--今後の目標についてお聞かせください。
目下の最大の目標は、私の後継者となる人材を育成することです。現場には25歳の若手もいますが、数年後に私が退職した後の組織を考えると、経験を積んだ30~40代の中核を担う人材が不可欠です。自分の体力にも限りがありますから、私がこれまで培ってきたノウハウや考え方をしっかりと引き継いでくれる人を採用、育成することが当面の目標です。
--会社の未来を創る、重要なお仕事ですね。
はい。当社の社長は親会社の製造部門という立ち位置から脱却し、将来的に「自走できる会社」にしたいという強い思いを持っています。私の採用はその変革の第一歩で、まさに先駆者としての役割を期待されていると感じています。会社の期待に応えるためにも、まずは足元の品質を盤石なものにし、お客様に迷惑をかけない「事前の品質保証」の体制をしっかりと構築したいです。そしていつかは、「ケーアイフーズ」という社名を全面に打ち出した商品で、会社の売り上げの柱を育てていきたいですね。
--最後に、地方への移住や転職を考えているビジネスパーソンへメッセージをお願いします。
自然豊かな環境は確かに魅力的です。しかし地方での暮らしは、仕事以外での人付き合いが希薄になりがちだったり、自炊ができないと生活費がかさんだりと現実的な側面もあると思います。地方移住の良い面だけでなくリスクも承知の上で、移住を決めるのが良いでしょう。
環境の変化や厳しさも含めて私が一番大切だと思うのは、「会社を好きになれるかどうか」です。一日の大半を過ごす場所ですから、そこにやりがいや楽しさを見出せなければ、どんなに他の環境が良くても暮らしは長く続きません。
地方には、私のようなベテランの経験を必要としている企業がたくさんあります。若手だけでなく、経験を積んだミドルシニアの人材こそが、これからの地方企業を支えていくのだと信じています。もし、自分のスキルを活かせる、心から「ここで働きたい」と思える会社に出会えたなら、思い切って飛び込んでみる価値は十分にあると思いますよ。