首都圏から副業人材を受入れ、事業成長のボトルネック解消に挑む岩手県の水産ベンチャー
株式会社ひろの屋 代表取締役社長 下苧坪之典さん
GLOCAL MISSION Times 編集部
2018/08/20 (月) - 08:00

地方創生を目的として2015年に創設された株式会社日本人材機構は、 地方の企業に対し、さらなる発展に必要な人材ソリューションを提供し、地域経済の活性化を目指しています。 本コーナーでは代表取締役社長の小城武彦が、岩手県洋野町に2010年に創設された“水産ベンチャー”を38歳で率いる株式会社ひろの屋の下苧坪之典(したうつぼ・ゆきのり)社長をお迎えし、成長のための人材像を聞きました。

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下苧坪之典(したうつぼ・ゆきのり)

1980年生まれ。岩手県洋野町(旧種市町)出身。八戸学院大卒業後、カーディーラー、保険会社などを経て、2010年に株式会社ひろの屋を設立した。同社代表取締役。昨年はTBS系列の人気テレビ番組「林先生が驚く初耳学!」にも取り上げられるなど、メディア出演も多数。通称 「北三陸の海男児」 。

成長のために必要な人材像とは?

小城:ひろの屋さんは創業から8年を迎えようとしている会社ですが、成長のために必要な「人材」に対してどのような考えをお持ちだったのでしょうか。

下苧坪:これまで、この地域の水産業には人材が「いた」と思うんです。

小城:「いた」とは?

下苧坪:この土地ではずっと水産業で食べてきていた人々がいたわけです。ほとんどが歴史的にもずっと兼業漁師だったと思いますが、彼らは漁に出る以外にも工夫したビジネスをやってきていたと思うのです。

小城:その人材が「いなくなった」のはどうしてでしょう。

下苧坪:皆が進学するようになって、大学で東京に出たら戻って来なくなる。僕らのような若い層が、地元でのこの仕事を選ばなくなってしまったのです。

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小城武彦(おぎ・たけひこ)

1961年生まれ。東京都出身。東京大学卒業後、通商産業省(現経済産業省)入省。 97年カルチュア・コンビニエンス・クラブ入社。代表取締役常務などを経て2004 年株式会社産業再生機構入社、カネボウ株式会社執行役社長(出向)。07年丸善株式会社(現丸善CHIホールディングス)代表取締役社長を経て、15年より現職

小城 :そんな中でこの度、首都圏からの人材を受け入れられたわけですが、そのあたりの経緯をお聞かせください。

下苧坪 若者が戻ってくるようにするには、面白い会社、面白い仕事がないといけないと思っています。そのためにはまず、 自分の会社を成長させなければいけない。

小城:その成長のためにどのような課題を持ち、解決していこうと思われているのでしょうか。因数分解をしていただければ。

下苧坪:漁場としての三陸はよく知られていると思いますが、南三陸は石巻から北三陸の八戸まで約300キロもあるんです。水産業への取り組みは当然変わってきます。リアス式海岸をイメージされるかもしれませんが、それは南三陸のことです。 北三陸は入江が少なく外洋に直接面していて養殖には不向き。 漁の成果に依存することになります。当社の場合、5~8月のウニ漁の時期は非常に忙しく、終われば閑散期になってしまう。そうなると安定雇用もできませんし、ビジネス上のボトルネックになっていました。 加工場を年間通して使うためには、商品の開発が必要になる。そのために新しい人材が必要だと思ったのです。

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右腕人材を副業という形で受入れてみての成果とは?

小城:新しい人材を迎えてどうでしたか。

下苧坪:来ていただいたのは東京で水産会社の社長もやられていた方で、私よりも年上。当初は月5日ということで来ていただいて、今は東京と現場で対応し、自然と日数が増えています。商品開発や生産工程の改善などをお願いする一方、経営者としても先輩にあたるので、いろいろと相談に乗っていただける存在です。

小城成果のようなものはありますか。

下苧坪:昨年6月から来ていただいて、ディスカッションしながら、商品開発を進めま した。2月に行われたコンテストで、新規開発商品が県知事賞をいただきました。

小城:それは素晴らしい。おめでとうございます。副業・兼業というスタイルでの働き方になりますが、そのあたりは受け入れ企業としていかがでしょうか。

下苧坪:先ほども言ったように、漁師はほとんどが兼業ですし、地方にはもともとそういう文化があると思っています。それに、「外部の目」であることはすごく重要なことであると思っています。

小城:具体的にどういうところでしょう。

下苧坪:2010年に創業し、第2フェーズに入ったと考えています。会社の成長に合わせて自分たちには見えない、足りないところが出てくるだろうし、従業員同士ではなかなか指摘しづらいところもある。そのあたりは第三者的な見方のできる人の方がよく分かると思うのです。少なくとも僕にはその目はないですから(笑)。

小城:確かに第三者的な目で意見ができる人は、とても必要だと思います。

下苧坪:「第三者ということなら地域のコンサルタントでもいいのでは」ということもあるかもしれませんが、我々にとっては東京の最前線でやっていた人の目というのが大きい。我々がターゲットとする首都圏について、業界のことを熟知されていますし、消費者としての目を持っている。飲食店の経営の経験もあって幅が広い。学ぶべきところが多いのです。

小城:自分たちに足りない部分について、新しいビジネスのために必要な知見を持った人を必要な頻度で、しかも首都圏から入れる。外部人材採用のモデルとして素晴らしいと思います。都会で働く人材にメッ セージをいただけますか。

下苧坪:地方でのビジネスは、欠けているところがたくさんあります。でも、だからこそ、チャレンジできる部分は都会よりたくさんあります。「欠けているから面白い」 のが地方だと思います。

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天然自生わかめ炊き込みご飯が岩手県知事賞を受賞

岩手県内の優れた復興水産加工品が一堂に展示されるコンクール「平成29年度復興シーフードショーIWATE」が2月2日、岩手県盛岡市内で開催され、株式会社ひろの屋が出品した「北三陸ファクトリーキッチン 天然自生わかめ炊き込みご飯のもと」が県知事賞を受賞しました。わかめの国内流通量のうちわずか3パーセントしかないという希少の天然わかめを使用。炊き込みの際にわかめが水分を吸収しすぎて、柔らかくなりすぎるのを寒天でコーティングして防ぐなどの工夫が評価されました。 同コンクールには、県内の水産加工事業者33社から118品の水産加工品が出品されました。

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株式会社ひろの屋

2010年(平成22年)創業。洋野町産天然うに・北三陸の天然わかめ・蝦夷あわび・鮮魚、北三陸ファクトリー製品の開発および販売を事業内容とする。企業理念は「北三陸から日本、そして世界へと価値のある地域ブランドを創造する」。日本国内での展開はもちろんのこと、台湾、ハワイ、香港、アメリカへ北三陸食材を輸出するなど海外展開も積極的に行う。

設立
2010/5/18
代表者名
下苧坪之典
従業員数
20名(うち正社員12名)
資本金
300万円
事業内容
(1)岩手県洋野町の「うに牧場?」でとれた北紫ウニの加工と販売
(2)海藻・魚介類の加工と販売 (わかめ・蝦夷アワビ・ホヤなど)
(3)地域資源のブランド化商品「北三陸ファクトリー」の製造販売
業種
水産加工業(食品製造業)
WEB
http://www.hirono-ya.com/
住所
岩手県九戸郡洋野町種市22-131-18

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