仕事観が変わると生き方も変わる。「本当の仕事」を創るということ
SELFTURN ONLINE編集部
2017/11/04 (土) - 08:00

ブランディングサイトを手掛けるクリエイターでもあり、コーチとしても活躍する阿部文彦さん。多岐に渡るフィールドの一つに、仕事や働き方を扱う「本当の仕事」の認定リーダーとしての顔があります。ワークショップを通じ、参加者が自らの存在意義を発見し新たな生き方を創造していく「本当の仕事」活動について聞きました。

榎本英剛氏の著書「本当の仕事」がベース

現在の仕事を続けていくことに疑問を感じる。このまま今の会社にいて、やりがいを感じられない。自分が何をやりたいのかわからない。やりたい仕事に意欲的に取り組みたい。――以前の私自身もそうでしたが、そんな声をよく耳にします。働き方改革が急務とされる現在の日本で、私たちが取り組む仕事と働き方を問う「本当の仕事」活動は、ますます求められているといって過言ではないと思います。
そもそも「本当の仕事」とは、「よく生きる研究所」代表・榎本英剛氏の著書のタイトルです。榎本さんは、1990年代に日本にコーアクティブ・コーチングを紹介した先駆者で、「そもそも働くとは?仕事って何なんだろう」というテーマを、人生を通じ一貫して探求実践している人です。株式会社CTIジャパン(のちに株式会社ウエイクアップへ社名変更)を設立し、日本にコーチングのムーブメントを起こしたり、持続可能な未来を創るための市民活動の世界的な2つのNPOを紹介したり。そして現在はこれまでの経験を広くシェアするために、「よく生きる研究所」を設立し、活動の場とされています。

そんな榎本さんが、「なぜ自分にこのような仕事ができたのか」ということを自ら振り返りまとめたのが、この「本当の仕事/自分に嘘をつかない生き方・働き方」という書籍です。もちろん読むだけでも十分なのですが、さらに理解を深めて実際に活かしていくためには、少々トレーニングが必要になってきます。新しい働き方のコンセプトに気づき、体験し、実践するためのワークショップを現在、我々認定リーダーが各地で開催しています。

ホームページ制作に関わったことが出会いと転機に

私が最初に榎本さんのことを知ったのは、2008年、彼がイギリスのフィンドホーンから帰国したばかりのタイミングで、日本に持ってこようとしている環境教育プログラム(チェンジザドリーム)を伝えるホームページの相談でした。
2010年に彼が経営していたCTIジャパンのホームページ制作でご一緒させてもらい、さらに彼が会社を手放したあと設立した「よく生きる研究所」のホームページ制作にも関わらせていただきました。そもそも私は自分自身で体験しないとホームページが作れない体質。会社のことをただ聞くだけでなく、榎本さんが主催していた「天職創造セミナー」にも参加し、実際にその学びを体験しました。このセミナーは榎本さんが20年位前からすでに始めていたもので、「本当の仕事」に書かれている働き方のコンセプトの根幹になったもの。セミナーで身についた仕事観がもっと広く普及して、社会全体の仕事に対する考え方、取り組み方が変わっていくといいなぁと思っていました。

現在榎本さんは日本での活動を手放し、中国でこの天職創造セミナーを開いています。日本では、このコンセプトを受け継ぎ、伝えていく活動をしたい人たちが集結。セミナーに出て本当の天職に辿り着いた素晴らしい体験をふまえ、「本当の仕事」という名称でセミナーやワークショップをやろうということになりました。

28人で運営。各地で様々なワークショップを展開中

現在の運営メンバーは28人。会社員の人もいるし、自分で起業している人もいるし、パラレルキャリアの持ち主の集合体です。これから任意団体にしていくことを目指したいと思っていますが、まだ今は同じコンセプトでやっているコミュニティという段階。所属するメンバーがチームごとに「本当の仕事」ワークショップを展開しています。会社の社内研修として、大学教授とコラボレーションする授業の一環として、全国各地で様々なスタイルで開催。しっかり集計はできていないのですが、数十回は実施しているでしょうか。

「本当の仕事(天職)は見つけるものではない、自分で創るもの」。そのために「自らの存在意義を探求し、表現すること」という基本コンセプトは、全ワークショップでしっかり統一しています。「存在意義」というのは、分かりやすい言葉に変換すれば“ミッション”や“生き甲斐”といったニュアンス。この「存在意義」を参加者自らが探求し、言葉に表現していく過程が重要で、このときの経験が、収入などの条件に捕らわれることのない天職を自ら創っていく軸となっていくのです。

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目からウロコ。固定観念からはずすべき「4つのメガネ」とは?

自分が本来持つ「存在意義」を見極める目を、曇らせてしまう4つの視点があり、我々は「4つのメガネ」という言い方をしています。
1つめは「仕事とは生計を立てる手段」。2つめは「仕事とはやりたくないことをやること」。3つめは「仕事とは自分を合わせるもの」。4つめは「仕事とは同時に一つしか持てないもの」。

――仕事は、我慢するもの。お金を貰うためには仕方がない。けれど、本当に収入だけで仕事をしていいのだろうか。育児に専念している女性や、お金にならないことをしている人は、仕事をしていないとみなされることに繋がってしまうが、それでいいのだろうか。

例えばワークショップでは、このような問いかけから各自の意識を紐解いていきます。「どんな仕事をするか」よりも、そもそも自分が「どんな仕事観を持っているか」が大切。仕事をどう見ているか、なぜ仕事をするのかという根幹部分をちゃんと解きほぐして、クリアにしていくことを目指します。これまで知らず知らずのうちにかけていた4つのメガネをはずすことで、凝り固まった固定観念を振り払っておかないと、結局こんがらがった状態のまま次の職種を選択してしまう。いつまでもうまくいかない悪循環から飛び出すことを、ワークを通じ体感してもらっています。
これからの時代、自分の能力を発揮できる仕事を自ら手繰り寄せ、みんなが好きなことを糧に生きていける社会になったらいいなと思います。

自然の中で意識を解き放つ2日間をファシリテーション

私自身、「YUKAFUMI」というWEB制作事業に携わっていますが、それだけでは、せっかく自分が生まれ持った命を表現できない。ほかにも、人と自然をつなげる仕事をしたいと思ったので、「株式会社 森へ」を仲間と一緒に運営し、自然体験プログラム「森のリトリート」を提供しています。

「本当の仕事」で私が直接関わり、ファシリテーターを務める企画では、自然を感じるリトリートでの2日間、宿泊型ワークショップを提案しています。この秋実施するのは、和歌山にある高野山の麓に位置する絶景の古民家が舞台。普通の都内の1日のセミナーに比べ、時間をかけ寝食を共にすることで、参加者との関係性をしっかり作れるのがメリットです。自然の中へ行くと、誰もが心身が解き放たれ、意識が変わるじゃないですか。澄んだ空気を深呼吸して、脳がクリアになったときにこそ、普段の思考パターンから開放され、あっと気づくようなインスピレーションが生まれる。そんなフィールドを、ワークショップにおいて私は特に重視しています。

今回行くのは、紀美野町というところ。和歌山の海南市から車で40分くらいで、宿から見晴らす景色が全部雲海みたいな別世界です。外灯が1つもなく、満天の星空に抱かれるような場所でこそ、本当の自分に気づくはず。得るものがより多くなると自信を持っておすすめします。

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「今の仕事の延長線上ではいられないな」と思っている人が対象

どういう方を対象としているかと言えば、大きく分けると2つの層があると思っています。

一つは、今の仕事の延長線でいられないと気づき始めている人や、このまま会社にいてキャリアを伸ばすことに違和感を覚え、転職を考えている人。在籍する会社に、わだかまりを持っている人。何かが違う、自分が生かしきれていないなあと思うなら、ぜひ参加してこれまでの自分の棚卸しをしていただきたいですね。仕事への意識が変わる絶好のチャンスです。

もう一つの層は、好きなことを仕事にしたものの、いつの間にか日常のことに埋没してしまっている人。例えば長年の念願が叶ってカフェを始めたもののオペレーションと、収支を合わせるのに四苦八苦。「どれだけやりたかったことができているんだろう」と、迷いが生じている人でしょうか。そういう人にも参加してもらえれば、現状を見つめ直すいい機会になるでしょうし、新たな人と人との繋がりもできます。単独で仕事を始めてしまうと、どうしても次第に横のつながりがなくなって、視野が狭くなる場合が多いですよね。そんなとき、ここでできた仲間っていうのが非常に大事になってくる。心の底からワクワクできる「本当の仕事」を望む者同士の出会いの場にもなりうるといった、二属性があってもいるのかなって思っています。

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仕事観が変わり、自分の軸に目覚め、ひいては独立する参加者も

実際のワークを少し説明すると、最初の1日目に心がけているのは、参加者同士の関係性づくりです。参加する方たちは、出会ったときは初対面同士。みんなが本当に変容したくて来ています。何かにスタックしていて、本当は何を願っているのかっていうことなどを、本音で安心して話せるまで、じっくり時間をかけています。

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また次の段階としては、一人で自然の中に入って時間を過ごしてもらいます。すごく思い詰めていても、大きな海や空を目の前にしたとたん、ちっぽけなことで悩んでいたなと思った経験は誰しもありますよね。自然の中でリフレッシュすると、目の前のことがどんどん始められる。そんなお膳立てを、セットアップさせてもらっています。
これらの段階を経た後に、参加者が自然に本音を語り始め出したら、もう何らかのイノベーションが起こり始めている証拠です。キャリアもポテンシャルも持っている人たち同士、人間対人間、真摯な対話を始めたら、非常に大きな相乗効果の波が起きてきます。

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実際に参加した方の中には、もともと大手の通信系のSEから、ワークショップで自分の軸が「子育てに関わりたい」と目覚めた人もいました。参加後は、“子育てをもっと楽できる社会を作りたい”との思いから、志と能力が発揮できるフィールドへ転職。今では幼児保育のNPOでのシステム設計に邁進しているといった好例もあります。例えばこんな風に、「本当の仕事」をうまく活用してくれている方が多数。自分はこういうことをしたかったと気づき、より能力を発揮するべく独立する人を多く輩出しているのです。

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仕事の視野を広げる活動は、今の時代に必要だから

私がなぜこの活動をしているかといえば、「この時代に必要だ」と思っているから。一番大事なことっておそらく、職種や作業をただチェンジすることでなく、仕事や生き方への意識そのものを変えること。平たい言い方をすると、視野が広がることが、一番大きいことだと考えています。
私自身もそうだったのですが、20代に6回ぐらい転職して、そのたびに変わるはずだと考えてきました。職種はオペレーターから、ディレクターになったけれど、結局は何一つ変えられなかったんですよね。それはなぜか。多分当時の私は、視野が狭かった。大きなプロジェクトに取り組めば、やりがいや充実感を味わえると思っていた。実際に、ポジションは上がり、年収も増えた。そこまで到達してみて、はじめてわかったんです。自分が望むものはそれじゃないっていうことに。すごく青臭いのですが、ミッションや志的なことこそが大切で、目の前の人にありがとうって言ってもらえることが、格別に有難いことだと気づいたんですね。そこを軸に仕事をやり始めたころから、生き方を含め何もかもすべてが変わり始めました。
視点を変え、仕事観を変えていくべく、みんなで話合いながら学びあう。そんな「本当の仕事」という場は、今のこの時代にこそ求められていると、日々実感しています。

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阿部 文彦さん

1975年生まれ。北海道出身。2000年からWebサイト制作業務に携わり、2007年に起業独立。現在、妻との制作ユニットYUKAFUMI共同経営者として、数々のブランディングサイトに携わる。独立と同時にコーチング&リーダーシップを学び2009年CTIリーダーシップ修了。翌年CPCC取得。講師・コーチ・ファシリテーターとして、オリジナルワークショップなども実施。2017年から、「本当の仕事」認定リーダーとしても活躍。ほかネイチャーガイドとして「森のリトリート」「葉山の自然から学ぶ」プログラムを主催提供する。神奈川県葉山町在住、2児の父。

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