FILE.01/信州からイノベーションを。ものづくりベンチャーの未来
信州100年企業創出プログラム事務局(信州大学 学術研究・産学官連携推進機構)
2019/04/17 (水) - 08:00

国立大学法人信州大学など4法人によるコンソーシアムは、中小企業庁のモデル事業として、長野県の次代を担う「100年企業」創出を目指す新しい地域活性事業「信州100年企業創出プログラム」を2018年6月から実施した。
コンソーシアムには信州大学のほか、政府系人材サービス会社の株式会社日本人材機構、地域活性学会における成果の社会還元を担う一般社団法人Lamphi(ランフィ)、信州地区を代表するシンクタンクである特定非営利法人SCOPが名を連ねる。
首都圏などで高度な専門性を持って活躍している人材を、信州大学の「リサーチ・フェロー(客員研究員)」として受入れ、受入企業の課題解決と持続的成長のシナリオ作成に挑戦する本プロジェクト。
今回、この取り組みに参画した企業7社およびリサーチ・フェロー7名に、約半年間に渡る研究・実践活動の成果について伺った。

受入企業

株式会社ウイングビジョン
代表取締役 河原 盛人さん

マーケティングの課題解消に向け、求めたのは泥臭くともに歩める人材

弊社は特許をもつ画像検査技術「メッシュマッチング」を搭載した外観検査用画像検査装置の製造および関連ソフトウェアの開発・製造・販売を行っています。画像検査装置とは、プリント基板等を製造工程で写真撮影し、その画像を元に欠陥を判断する装置。既存装置は高価格・高機能で操作に専門スキルが必要なうえ、設定に時間がかかるため、少量多品種の生産現場では敬遠されがちでしたが、弊社では製品は機能をシンプルにし、処理をソフトウェア主体にすることで低価格と使いやすさを両立しています。

元になる技術を、私は 2 4 年間勤めた前職・ソニーイーエムシーエス株式会社 長野テック(現VAIO 株式会社)時代に開発しました。装置は本社からも注目され、全国の事業所で使われるように。それを機にこの技術を広く日本のものづくりの現場で活用させたい思いが生まれ、2015 年に合同会社として独立しました。

2018 年には営業力強化と事業拡大に向けた資金調達のために株式会社に移行。これらの過程で、特に財務やマーケティングのスキルがないことが弊社の課題だと痛感していた時、取引先の銀行から当プログラムを聞き、興味を持ちました。ただ、まだ数名の社員しかいない弊社が求めていたのは、知識の提供だけではなく一緒に実践し、泥まみれになってくれる人材。上から目線のアドバイザーであれば歓迎はしませんでしたが、窓口である日本人材機構の資料から興味を持ったSさんにお会いした際、キャリアも十分で私たちと同じ目線で歩んでくれそうな直感がありました。

互いの理解を深めた良好な関係の構築で何でも話せるよきパートナーに

小規模の弊社でSさんに期待していたのは、マルチプレーヤーとして活躍するなかで、数年後の株式上場という目標を見越した財務戦略や資金調達等を担う存在になってくれること。また、弊社では今後、より低価格で気軽に購入できる製品構成も予定しており、その宣伝も含めたマーケティングでの活躍も期待していました。一方で、半年間限定のプログラムであることから、その間にどれだけ社内に溶け込んでもらえるか、また、経営者としては月々30 万円を負担する価値があるかという不安もありました。不安解消の後押しになったのは、お酒の席も含めたコミュニケーションの場を多く設け、人となりや仕事に対するスタンスを十分に知れたこと。Sさんはベンチャー企業での役員経験や株式投資等、広い見識から情報を提供してくれ、私たちの足りない点や新たなアイデアも率先して提言し、かつ、それを実践する基礎をつくってくれました。特許や商標登録のアドバイスも非常に役立っています。常に背中合わせの席に座り、随時相談ができる点も功を奏しているようです。また、仕事を理解していただくために何度も顧客の現場に同行していただきましたが、ものづくりの現場でのコミュニケーションも全く問題ありません。弊社は自然の豊かな信州で新技術に取り組んでいることもひとつの売りですが、その点もSさんが考えるマーケティングと一致しており、とてもよかったと思っています。

今は製品展開の基礎になる1 年、今後も長い目で見た取り組みを

現在の弊社に何より必要なのは、製品が世に受け入れられ、売上が伸びていくこと。現在、さまざまな仕掛けがうまくいき、徐々に事業が軌道に乗っている実感があります。そうしたなかでSさんには、まずプログラム終了の3月までに中期経営計画を一緒に考えていただき、その先も長く働いていただきたい。今は条件面で話を進めており、移住を踏まえた検討もしていただいています。

大切なのは求める人材の明確化と人間同士のコミュニケーション

一緒に泥臭く働いてもらえるSさんのような人材は、どの企業にも必要ではないでしょうか。その点、当プログラムは半年間限定ながら、週 4日じっくり業務に取り組んでもらえる点が魅力です。そうしたなかでマッチングでは求める機能や能力を明確に伝え、人間同士きちんと腹を割った会話ができる方を選ぶことが大事です。また私自身、信州の山に惹かれて移住をしたこともあり、豊かな自然やさまざまな食文化、個性的な人材も信州の魅力だと感じています。そこでリサーチ・フェローの皆さんは、信州の暮らしを楽しむ姿勢も大切でしょう。


リサーチ・フェロー(客員研究員)

Sさん

東京都出身、神奈川県横浜市在住。中央大学理工学部卒業。住友スリーエム(現スリーエムジャパン)株式会社で営業・マーケティングを12年間担当後、社内公募によりeビジネスに7年間従事。2008年、危機管理情報を配信するベンチャー企業に転職し、マーケティング部長や営業部長を歴任。会社が経営危機に陥った2010年、社長の交代により取締役に就任。同時に営業とマーケティング部門を管掌し、会社を2年で黒字に転換、依頼連続黒字を続けている。2018年、退職。

新たな地方での生活は人生の「ボーナスステージ」

米国化学メーカーの日本法人である住友スリーエム(現スリーエムジャパン)株式会社で営業・マーケティングとe ビジネスに従事し、その後、危機管理情報を配信するベンチャー企業でマーケティング部長や営業部長を歴任しました。取締役も5 年経験しました。そして、次は何をしようかと考えている時、Facebookの広告で今回のプログラムを目にしたことが応募のきっかけです。もともと信州はスリーエム時代に営業を担当して馴染みがあり好印象でした。当プログラムは地方に出ることで自分のキャリアを役立てられ、企業を活性化しながら今の日本にきっと必要な地方創生に自分も参加できる、ということにも興味を感じました。そして、東京の満員電車に揺られる毎日から飛び出したら、もっと違うライフスタイルがあるのではないか。そう考える一方で、横浜の自宅に妻子と高齢の両親を残し、 2 拠点生活を始めることには少なからず不安もありました。結局妻と両親が「面白そうだから行ってみたら?」と勧めてくれたことが後押しになりました。

窓口である日本人材機構を通じて興味を覚えたのがウイングビジョンです。立ち上げ期のベンチャーなら私の経験を生かし、速度を上げたビジネスができるのではと考えましたし、観光地の安曇野でこうした事業に取り組む点も面白いと感じました。また、社長の出身であるSONYとスリーエムはイノベーションに挑戦する企業風土が似ていると思っていたので、私が同社で働くことにあまり違和感を感じないだろうと思いました。結果的にマッチングは社長との 1 回の面接であっという間に決まった印象です。

ベースを整えて中期事業計画を作成し今後は新製品のマーケティングへ

私のミッションは中期経営計画の作成でしたが、まずはその前に今あるベースを見定めようと、手始めに弁護士や会計士といった外的サポートを整理し、会社の知財権や資金繰りに関しリスクになり得る部分を取り払う施策をいくつか講じました。そして、今は会社のビジョンを社長やほかの社員と話ながら提案しています。とはいえ、私の本当にコアな経験はまだ仕事に至っておらず、今後、新製品リリースの際にはマーケティングやプロモーションで初めて私のキャリアが生かせると感じています。乞うご期待というところです(笑)。

今のフェーズは、会社立ち上げ期特有の雑用と見える仕事も多くあります。今まで社長や社員で何とかしなければならなかった不慣れな仕事をどんどん解決し、事業に集中できる環境づくりをすることも大事です。私のキャリアや「信州100年企業創出プログラム」のミッションからすると違う仕事かもしれませんが、未経験な仕事にチャレンジしていくことも有意義だと考えています。

職場や大学での新たな学びとのびのびとした田舎暮らし

現在は週4日勤務し、金曜は大学でゼミを受け、月に1~2回横浜に帰っています。歴史ある街・松本での暮らしは、新興住宅街で育った私には、すぐに国宝・松本城が目に入ってくる、ジョギング中に給水したくなればあちこちで湧水が湧いているので困らない、など、日々新たな気付きを与えてくれます。1 時間に1 本の電車も意外と困らないですね。車内ではもれなく座れます(笑)。電車で数分の遅れにイライラしていた今までの自分は何だったんだろう。都会でわざわざ消耗しなくてもいいのだという、これも新たな気付きでしたね。

今後の展望は中期事業計画の作成です。そして、プログラム終了後も勤務を続けるべく、今はちょうど話し合い中ですが、ホームページのリニューアルなどWeb環境の整備の準備を進めています。

こうした経験から今後のリサーチ・フェロー応募者に伝えたいのは「深く考えず飛び込んでみては」ということ。「やらない・行かない理由」はいくらでもつくれます。もちろん家庭の事情等はありますが、人生は一回しかありません。皆さんの経験や社会人人生を、今の会社だけで終わらせてしまうのはもったいない。もっと社会に生かせるはずですし、欲している人たちはたくさんいるのではないかと思います。そして、豊かなライフスタイルを同時に得ることもできるはずです。興味がある方はぜひ挑戦してみてはいかがでしょうか。


[ 従業員の方から ]

取締役 前田 明さん
Sさんの経歴から最初は堅い方かと感じましたが、話すと非常に穏やかな印象で、初めて会う人ではないような感覚を覚えました。社内になじむ速さにも驚きましたし、仕事面では弊社の製品やシステムを理解するよう努めてくれ、仕事のスピード感も非常に優れた印象です。また、Facebookを拝見すると仕事以上に広いフィールドで活躍されており、外に目を向ける感性や攻めの姿勢など、学ぶ部分が多くあって刺激を受けています。今後、Sさんに期待するのは製品やシステムに対する鋭い視点での客観的なアドバイスです。慣れ親しむと感覚が鈍ってしまうため、私たちにはない意見をいただけたらと思っています。


[ 受入企業 紹介 ]

業種/製造業・ソフトウェア開発
株式会社ウイングビジョン(安曇野市)

元大手電機メーカー出身の技術者が2018 年 6月に株式会社化。特許をもつ画像検査技術「メッシュマッチング」を搭載したプリント基板等の外観検査用画像処理装置製造および関連ソフトウェアの開発・製造・販売を行なっている。


リサーチ・フェローのミッション

企業戦略(事業戦略・資本戦略・財務戦略等)の策定と実行。
特に財務面の強化は経営安定化に向けた喫緊の課題。

現状分析

「まだまだ成果は実感していません。ベースづくりを経て、今後、私のコアなキャリアが生かせると感じています。」(Sさん)
立ち上げ当初のベンチャー企業の実務も、地方都市での生活も経験がなく不安はありましたが、会社の規模や時期・場所に関係なく、課題を見つけて解決することは変わらないと感じています。半年間という短期間で会社が変わった実感はまだ持てませんが、ベンチャー企業はスピード感が大切なのに対し、立ち上げ時はどうしても社長に業務が集中し、社長の負担が大きくなってスピードが落ちがちです。多少なりとも社長の負担を軽減し、事業への集中に向けた取り組みを私が手助けできているのではないかと思っています。


近い将来の未来ビジョン

・株式会社化するにあたり、中長期的な財務計画・戦略策定を整理
・大事にしてきたものづくりの魂をお客様と共有し、ものづくりの改善提案ができる企業へ
・自然豊かな安曇野で最先端の技術を使ったものづくりをしている価値の創造
・新製品のマーケティングとWebの活用

未来シナリオ

創業半年と立ち上がったばかりのウイングビジョンは、「100年企業」になるのはまだまだ先の話です。しかし、同社は SONY や VAIO の生産を管理する仕事に長年携わった社長と、当時の仲間が集まってできた組織のため、精密機械の生産と品質管理に関する強いこだわりを持っています。

今後製品の販売を通じて、お客様とものづくりへの共感を持つことで、単に画像検査装置を販売する会社でなく、取引先から『ものづくりの改善提案を期待されるような会社』になれると感じています。

「ものづくりへの思い」は、特に古くから精密機械工業が盛んだった長野において、100 年以上続くマインドであり、今後も大事にしなければならないことだと思います。

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