人手不足が変える地方における企業改革、自治体改革。流動化を始めた都市部人材の地方登用が始まった
木下 斉
2019/08/27 (火) - 08:00

人手不足は大きな経営へのストレスとなり、戦後形成された雇用モデルを変え、行政、民間企業双方が選ばれる職場にならなければならない時代になってきています。そして都市部でアクティブな人々は副業などが解禁されていく中で、地方のプロジェクトへの感心が高まっています。

都市部に固定化された人材が流動化し、これらの人々を地方が活用できるようになり、地方における民間企業、地方自治体は大きな改革の機会に繋がる可能性を秘めています。そして、すでにこの流れを掴み、変化を始めた地域が続々と生まれています。

熱海市の地元中小企業が行った副業人材に応募が殺到

熱海市内の中小企業が、昨年まとまった副業人材募集を実施されました。老舗ホテル・ホテルニューアカオ、自動車教習所企業・ジオネット熱海、インフラ企業・熱海瓦斯などです。各社が既存社員ではなかなか起案できないような、保有財産を活用した新規事業などを立案、実行していく業務を副業人材に求めたのです。そうしたところ、約300名ほどの応募者が集まり、各社のプロジェクトにすでに従事されています。

月に数度ほど現地に来訪するほかは、リモートワーク形式でプロジェクトを推進。既存社員も大いに刺激を受けて進捗好調とのことでした。従来であれば、今ある業務の人手不足を解消しようとばかりになりがちなところですが、実際にはそのような従来型の事業の人手不足を、単に補填することで解決しようとすればするほどに人が集まらないという罠もあります。というのは、地方企業の場合、既存の職場は従来事業の決められたことを決められた通り、地元の中だけで仕事をする形態が多いわけですが、そのような閉鎖的で単調な労働に将来性を感じず、離職する人もいるわけです。当然ながらそのような事業の収益率は低下傾向にあり、報酬面でも魅力的でないことも多くあります。

しかし今回のように、外部人材を登用し、手元にある資産を効果的に活用しつつ、地元以外の東京やその他都市部の企業、人材を巻き込んだプロジェクト推進は、新たな風を組織に吹き込む効果が大きいと言います。都市部とも繋がった新たな地元の仕事に、企業の将来に対しても明るい展望が描けるようになり、既存事業に従事する社員にも好影響があるという話を聞きます。ハイクラス人材を中心としている副業人材募集の実態をみても、応募者は過度な報酬を期待するというよりは、地方で自分の能力を発揮することや、既存事業以外でキャリア形成に感心のある方が多いというのも現代の傾向がわかります。

四條畷市、余市町の新たな行政採用が地域政策を変え始めた

民間企業だけでなく、新たな採用方法を採用する地方自治体も増えています。
大阪府四條畷市では2017年に民間副市長を公募したところ、1700人を集め、その中からリクルート社のスーモマガジン編集長を務めていた林有理さんを採用。私も存じている方だったので驚きました。その後の活躍はさらに驚くものですが、組織改革や業務改革を既存職員の方々とうまく進めていったほか、実際の職員中途採用面接においてもオンラインでリモート面接を可能にするなど、従来では行わなかった採用方法を推進し、応募が一気に増加。より良い職場で働きたい公務員・民間人の、四條畷市役所への転職を実現していきました。

さらに過去の実績などをベースにして魅力的なプロジェクトに関われる、ICTなどの5職種の一斉募集をオンラインで行ったところ、1000名を超える応募が集中。この8月から8名の方々が勤務を始めています。地方自治体の採用も難しい昨今、優秀な人材を集めるためには、積極的に改革を進め、成果をあげられる職場を実現することが重要なことがわかります。

また北海道余市町では、羽田空港などでの余市町のブランディング事業推進を進める北海道余市町戦略推進マネージャーの募集を7月に行いました。勤務条件は月14万円程度、基本はリモートワークで適宜余市にいくという副業形式です。そこに結果400名を超える応募が集まっています。

このように従来の採用方法とは異なるやり方、職場環境の改革を進めていくことによって、多様な人材を集め、業務をより良くしていくことができれば、自治体の競争力も大きく変わっていくでしょう。画一的でどこでも同じような採用をしている自治体には人は集まらず、流出してしまう。一方で、新たな時代に対応した採用方法、働き方を可能にすれば、官民含めて様々な人材が地域政策に従事しようと集まるでしょう。

変わる地域、変わらぬ地域の差は拡大する

人手不足に応じた新たな変化に関して、様子見をして変わらぬ地域と、積極的に試行錯誤を始める地域とでの差は、今後ますます拡大していくことが予想されます。変化においては“先行者利益”というものが常に存在するものです。先に始めれば、よりよい人を集め、その人達がさらにその地域の官民ともに変化を生み出せば、さらにいい人を集められるという好循環を生み出します。一方で、最後の最後まで過去に拘り、変化をしない官民が集まる地域には、ますますもって活躍する人材を集めることは困難になり、衰退が極まっていくでしょう。

人口などの数の競争ではなく、このような地域が抱える現状の壁を打開し、新たな時代に対応した魅力ある地域にするかしないかは、自分たち次第ということでもあります。今までの常識に拘らず、行政も変わり、民間も変われば、新たな時代における新たな繁栄のカタチを発見できるでしょう。その胎動は全国各地で今まさに強く感じられるようになりました。

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