新教育は「地方」から生まれる ?破壊的イノベーション型の教育変革は既に始まっている
木下 斉
2019/09/20 (金) - 08:00

教育を取り巻く前提が大きく変化し、優位性を築くための「競争軸」もズレていこうとしています。そういう意味では、日本は戦前から存在した旧帝国大学系列を含めた競争軸において、その範囲がよりグローバルになるだけでなく、あらゆる分野に精通する一般教養を教育したり、課題解決を通じて経験値も共に積んでいく“知識と実践とを組み合わせたもの”の優位性が増していっています。
つまり、過去では劣位とされた地方が、諦める必要などなく、むしろ逆転する時代へと移行し始めています。

地方に続々と誕生しているグローバルな超人気校や研究機関

大学レベルでいえば、いくつもの地方大学が勢いを増して成果を上げています。いつも潰れそうな地方大学の問題が取り沙汰されますが、一方で得意性や先進性で注目される大学が誕生しているのも確かです。

立命館アジア太平洋大学は、別府において世界中からの学生を受け入れ、非常に特異なポジションを確率しています。別府市内には多国籍の学生たちが地域活動などにも参画するなど、別府市の都市構造を大きく変えるに至っています。別府市約12万人の市内に、5800人を超える在籍者がいるわけですから、インパクトが大きいのはわかります。そもそも立命館大学グループは、中高や大学の地方展開で大きく成果を上げた大学でもあり、今や日本大学、早稲田大学に次いで学生数の多い大学となり、慶応大学を上回っています。

また、少人数での高レベル教育で注目される秋田県の国際教養大学は、世界レベルの教育で評価を獲得しています。1学年あたりの定員数175名程の小規模大学ですが、全国、海外からの出願が殺到し、10倍もの倍率を超える超人気校となっています。厳しいカリキュラムを修学し、言語力も思考力も鍛えられ、自らの意思を持つ優秀な学生を獲得したいと考える企業が相次ぎ、2018年卒の学生200名ほどを求めて180社が就職課に集まったといいます。

さらにマグロ養殖などで知られる近畿大学は、独自の技術特許収入で稼ぐなど特徴ある経営により企業連携などを進め、成果を上げています。また、特殊な研究機関ではありますが、沖縄に所在する沖縄科学技術大学院大学も世界有数の研究環境として高い評価を得ています。

このように従来の同一の競争軸では収まらない、新たな教育の革新は地方から続々と起きています。

固定型キャンパスではなく、世界のフィールドを移動し共同生活をする

このような新教育の流れは海外でも活発に起きています。
今、アメリカで最も人気があり狭き門と称される大学は、ハーバード大学でもスタンフォード大学でもなく、毎年世界各地にキャンパスを移動しながら社会課題を解決していくという独自のスタイルを採用しているミネルヴァ大学です。
世界各地を移動するものの、学生寮で共同生活をしながら、一方で授業はオンライン参加形式という、リアルとネットの組み合わせの妙が見事に効いた学校経営となっています。当然ながら入学も単なるペーパー試験ではなく、面接などを通じて個々人の問題意識などが強く問われる内容となっているといいます。このように、先端的教育が注目され、世界中の企業が人材獲得に躍起になっているのです。

海外に門戸を開き注目された、箕面高校の挑戦

このような流れの中で、地方高校でも次々と変革が起きています。その一つが、大阪府立箕面高校です。同校は従来の偏差値教育でいえば、偏差値50、地域四番目という平凡な高校でした。しかしながら、前校長である日野田直彦校長が着任後に教育内容を大きく変更し、わずか4年目にあたる2017年度には、米難関校のウェズリアン大学や豪州のトップ大学群、先述の世界一狭き門と称されるミネルヴァ大学など、海外大学に36人もの合格者を輩出しました。

しかしこれらの実績だけみれば、従来の進学校と同じように思われがちですが、海外の諸外国は本当に世界を変えようとする人材を求めており、逆にいえば単にテストがいくらできようとも、自らの安泰だけを求め、挑戦をしないような人材を欲しません。本気で「世界を変えたい」と自ら考え、主体的に行動していく若者たちを集め、単にテストだけでは学ぶことができない経験や必要な教育を提供することで、箕面高校には積極性のある生徒が集まり、それらの生徒たちに「是非とも進学して欲しい」と望む大学が世界中から集まるようになったのです。

「失敗と書いて経験と読む」と、私は高校時代に関わった地域活動の中でいつも言われたのですが、まさに箕面高校では、積極的に内容を変えていくことを先生方が自ら率先されたわけです。挑戦する生徒を集めるためには、挑戦する大人たちが教育に携わらなくてはならないのです。

社会に出ていく教育で復活した、札幌新陽高校の挑戦

もう一つ札幌市に私立・札幌新陽高校という高校があります。こちらは、元ソフトバンクグループの社長室にいた荒井優氏の祖父が設立した高校で、そもそも地方の私立高校であり、さらに札幌の底辺校とまで言われていた状況の中、その状況を大きく変える覚悟をもって荒井氏が校長となり、改革に乗り出します。

テストは得意ではないけれども、決して悪い子たちではない、と荒井校長は子どもたちの可能性を見極め、さらに社会と接点を持ち学ぶ独自の「探求コース」を開設。学校の中ではなく、学校の外に出て行き、プロジェクトベースで学ぶ「Project based learning」が軸となっています。これにより、単に学校内にいて成績が振るわないことで、自分たちの可能性にも失望していた生徒たちが、積極的に課題解決に取り組み、そのプロセスを経て大きく成長すると共に、学ぶことの必要性も感じ、学習意欲も高まって行くという好循環を生み出します。

結果として進学実績も大きく改善していますが、荒井校長は単に進学実績を伸ばすというよりは、卒業後に自ら本気で起業するなり、挑戦を続けてくれることに重きを置いています。

そういった想いのもと、「本気で挑戦する人の母校」というのがミッション・ステートメントとなり、今や新陽高校に進学したいと多くの中学生が説明会に訪れています。定員割れをしていた同校は今や倍率も回復し、“入りたい学校”になったのです。

子どもたちに、従来の教育とは異なる選択肢を与えるという教育のあり方が、地方の新たな教育を作り出そうとしています。

このように教育の最前線では、技術的な面からカリキュラムなどの内容的な面におけるまで大きな変化が始まっており、それらは東京で起きているものではありません。今後、より一層地方における教育の進化が期待されます。

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