公認会計士が徳島へのIターンに挑戦!初めての徳島ライフはうれしい驚きの連続だった(前編)
株式会社ときわ 矢野 琢磨さん
GLOCAL MISSION Times 編集部
2020/02/19 (水) - 08:00

徳島県に本社を置く「株式会社ときわ」で、戦略担当取締役として活躍している矢野琢磨さん。もともとの出身は埼玉県で、公認会計士として首都圏でバリバリ働いていた経歴も持っている。そんな矢野さんに、徳島を新天地に選んだ理由や、会計士から見た企業選びのポイントなどをインタビュー。徳島の暮らしやすさだけでなく、地方企業の意外な先進性や、地方での新たな働き方の可能性についても語ってくれた。

出向で初めて徳島へ。2年後には定住を選択

徳島は、四国の東端に位置する県だ。人口は約73万人。2019年10月時点のデータによると、全国47都道府県のなかで人口数は44位。つまり、下から4番目に人口が少ない県でもある。そんな徳島県が最近、「VS東京」というユニークなコンセプトで魅力発信に力を注いでいる。単に東京に対抗するということではなく、東京にない価値を見つけ、生み出し、アピールしていくことが狙いだとか。たしかに、よく調べてみると徳島県のポテンシャルはなかなかのもの。県の西部には、四国山地や美しい渓流など手付かずの自然がふんだんに残り、東部には紀伊水道が広がっている。山遊びもマリンレジャーも自由自在な立地に加え、高速道路が淡路島を経由して神戸と直結。関西への意外なアクセスのよさも誇る。光ブロードバンド環境も全国屈指だという。

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今回お話を伺った矢野琢磨さんがそんな徳島県にやってきたきっかけは、「出向」だった。
矢野さんは埼玉県出身。東京に拠点を置く大手監査法人に勤務していたが、ある日、徳島県内にあるベンチャー企業への出向(CFO派遣プログラム)に立候補したのだ。

もちろん最初は不安ばかり。しかし会社との約束だった出向期間の2年が終わる頃には、むしろ徳島を離れがたい気持ちになっていたという。

「出向の期間が終わり、東京へ戻るか?と考えたときに、どうしようかな?と悩んでしまいまして。それで妻に相談したら、『私は徳島にいたい』とはっきり言われたんです(笑)。お互いに徳島に居たいのなら、そうしようと決めました」

矢野さんが夫婦そろって徳島にほれ込んだ理由。
それはまず、徳島の「人」だった。

知らない人にも友達感覚で話す徳島県人

矢野さんが徳島で暮らし始めて、まずびっくりしたのが、人の距離感だったという。
矢野さんには、奥様と二人の子どもがいる。徳島へやってきたときは、上のお子さんが4歳、下が1歳と、まだまだ手がかかる時期だった。奥様にとっても全く未知の土地であり、家族がなじめるかがとても心配だったと振り返る。

「風習になじめるだろうか?村八分にされるんじゃないか?とか(苦笑)、来る前は1人でいろいろ考えていたんです。でも来てみれば、職場でも、地域でも、皆さんとてもよくしてくださいました。徳島の人ってこんなにやさしいんだ!と驚くくらい(笑)。よくよく聞いてみると、人の距離感がすごく近いんです。知らない人にも友達感覚で話す。それがたぶん、徳島県民のノリというか、接し方なんですね。知らない人にいきなり、『ねぇねぇ』と話しかけられたら、嫌な人は嫌なんだろうけど、私はそれが好き。自分を受け入れてくれているなというふうに感じるのでね」

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今回お話を伺った矢野琢磨さん

もう1つ驚いたのは、地域を行き来する中で必ずといっていいほど、お互いの挨拶があること。
「『おはようございます』『こんばんは』があるのとないのとでは、大きな違いだと思うんですよ。けっこう広い範囲で、みんな顔見知りというか、ちゃんと挨拶をしあえるというのが、今の世の中を考えるとすごくいいなぁと思って。近くの神社でもちっちゃなお祭りがあったり、ラジオ体操も自治会がやっていたり、コミュニティもちゃんと機能しているんです。子どもの通学路も当番制で立ってくれていたりね」

自分だけでなく、奥様がすんなり溶け込めたことも、うれしかった。
「そこも正直、心配だったんですよ。私の妻はかなりおっとりしていて、そんなにガツガツみんなと関係性を持って、というタイプではないので。でも新しく入った幼稚園で、皆さんがすごく仲良くして下さったんです。いい友達に巡り合えたっていうんですかね。それも移住の後押しになったと思います。私だけがいろんなコミュニティと繋がっているのだったら、たぶん妻は不安だったと思うんです。妻も私とは別のコミュニティで繋がっていたので、徳島で暮らそうと思えたんだと思います」

企業選びのポイントは、経営者

かくして、東京に戻るのではなく、徳島定住を選択した矢野さん。そこで次に課題になるのが、仕事探しだ。
矢野さんは会計士の資格を持っていたため、個人事務所を開くことも考えた。しかし悩んでいたときに徳島県のプロフェッショナル人材戦略拠点から、「数字に強い人材を求めている会社がある」という話を紹介された。それが、株式会社ときわだった。

株式会社ときわは、63年の歴史を誇る会社。ブライダルを中心とした衣裳のレンタル、結婚式場やレストランの運営、式場や海外挙式の紹介業などを展開している。

「もともとは長らく貸衣裳店をやっていたんですけれども、そこから多角化をめざして、現在は結婚式場を徳島で3つ、香川で1つ運営しています。また最近は少子化や結婚式を挙げない人も増えている中、ブライダルからちょっと抜け出てみようということで、沖縄に1棟貸し切りのオーベルジュも立ち上げました。ブライダルを中核にすえつつ、プラスアルファで新たな事業を広げている段階なんです。中核の事業についても、単にブライダルをやるんじゃなくて、伝統文化や、本物・本質を追求するよう努めています。例えば貸衣装にしても、織物の反物から着物を作るということを始めたり。徳島県の北部にある松茂というまちでは、大正期に建てられた登録有形文化財の樫野家邸を結婚式場にするなど、唯一のものを作ろうという社風があるんです」

だが、矢野さん自身が気に入ったのは、また別のポイントだった。

「私は会計士としていろんな企業とつきあってきましたが、会社を見る場合、事業そのものよりも、経営者の資質や人物像を重視してきました。特に中小企業の場合は、経営者の考え方がそのまま会社の考え方になるところがありますからね。この会社は男性の会長と女性の社長が2人で経営されているんですが、まず自分と波長が合うなと感じたんです。話をしていて壁を感じませんでしたし、相談しやすかった。この方々なら、仕事についても、新しいことを一緒に考えることができると感じました。最初の面接も2時間とって下さったんですよ。経営者にとってはすごく貴重な時間ですし、面接に2時間ってなかなかあり得ないこと。ありがたいと思いましたし、もっと自分のことを知ってほしいと思い、もう1度面談を希望したんです」

結果、経営トップとの面接は2回にわたって行われ、合計4時間にのぼったという。
その間に矢野さんは、ブライダルという未知の業界に、新たなやりがいも見いだしていた。

「個人事務所を自分で開業したとします。すると、対応できるお客様の数には限りがありますよね。でもこの会社であれば、徳島県に住む皆さんが対象。1人のお客様じゃなく、新郎新婦だけでもない。そのご家族、友人、同僚、いろんな人たちに幸せと感動を提供できる。そこが面白いなと思ったんですよ」

地方企業は首都圏でのすべての経験を求めている

一方、会社が矢野さんに期待したのは、数字の強さだった。売上や原価といった数字が、経営状況を推し量る重要な指標であることはいうまでもない。ところがそれまでの社内には、数字に苦手意識を持つ社員も多く、指標をうまく経営に活用することができていないという悩みがあったのだ。

矢野さんは入社と同時に、社長室長に任命。社長の補佐をしながら仕事を覚え、1年後には「戦略担当取締役」に抜擢された。
だが現在では、意外にも、本職であるはずの財務や経理にはあまりタッチしていないという。

「もちろんサポートはしているんですけれどね。でも大きな柱でやっているのは、新たな式場建設といった新規プロジェクトのとりまとめと、採用と人材の育成なんです」

といっても、業界経験が浅い矢野さんがブライダルのことを教えることはできない。そこで現在は、「働くとはどういうことなのか」といった心構えや、組織での考え方、動き方など、企業人としての全体観を教えているという。

「都市から地方に転職して、それまでのキャリアがどこまで活かせるのか?と心配な方も多いと思うんです。そこはすごく難しいところではあるんですけれど、都市圏で働いている方はいろんな経験をしていると思うんですよね。例えば私で言えば、ときわでは会計士の仕事はしていないんですが、東京で働いてきた経験や知識は活かすことができます。企業の規模に関わらず、その企業の文化があると思うんですよ。私たちの会社ではこうでしたよというのを、地方の会社に教えてあげることだけでも、大きな意義があるんです。地方の会社は、他がどうやっているのかというのをあまり知らないのでね。首都圏人材のあらゆる経験を、地方の会社はすごく求めていると思います」

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全社員、フレックス制。都会の企業より先進的

監査法人時代、会計士としてさまざまな企業を担当してきたが、ブライダル業界はほぼ初めて。矢野さん自身も、「今まで」との違いを感じている。

「私にとっては新しい業界ですし、企業文化も全く違います。社員の7割が女性というところも違うし、共感や共有がすごく大事にされていると感じています」

特に驚いたのは、働きやすさ。世間で働き方改革が叫ばれるようになって久しいが、ときわは時代にさきがけていち早く取り組んできた。例えば勤務時間は、コアタイムなしのフレックス制。しかも本社の社員だけでなく、結婚式場で勤務する社員も含めた全員が対象だ。結婚式が夜にしか入っていない日は、昼は出社しない、という働き方もできる。ひょっとしたら首都圏の企業よりも進んでいるかもしれない。

「私もそこはびっくりしていまして。サービス業でここまで整備されている企業、ホワイトな企業っていうのもなかなか珍しいんじゃないかなと実感しています。今思えば私自身も、そういう自由な働き方ができるという部分が、入社を決めたポイントの1つになりましたね」

また情報の透明化も推進されており、役員会の議事録なども全社員にオープンになっている。
「密室で決めるのではなく、会社の考えをみんなにわかってもらって、一丸となってやっていきましょうという姿勢なんです。月曜日に朝礼があるんですけれども、全員が会社の経営理念をそらで言える会社というのは、なかなかないと思いますね」

(2月20日配信の後編へと続きます。)

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